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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第17回:2023年シーズン開幕、参加者も増えてさらに激しいバトルに

2023年5月14日 開催

KYOJO CUPの2023年シリーズがいよいよ開幕した

7年目のKYOJO CUP開幕戦は、7人の新顔が加わり総勢22人がエントリー

 2023年5月14日、富士チャンピオンレースシリーズ第2戦にて、KYOJO CUP(キョウジョ カップ)開幕戦が富士スピードウェイで開催された。

 今季で7年目を迎える女性ドライバーたちが競い合うKYOJO CUP。すでに昨年から1シーズンに渡ってエントリーを行なうシリーズエントリー制が導入されており、開幕戦の参戦台数は22台。7名のニューフェイスが挑むことになる。

 とはいえ、彼女たちは他のカテゴリーを経験しているメンバーもいて、オーディションを受けて今季のレースに初参戦するドライバーもいるし、幼い頃からカートで腕を磨き、将来的にプロを目指すステップとしてKYOJO CUPに参戦するケースもある。そのうちの1人が全日本カート選手権で活躍し、日本の女性ドライバーとして初めて国内限定Aライセンスを取得した富下季央菜選手。KYOJOドライバーとして最年少の16歳でデビューすることでも注目を集めている。

古参から新参まで、開幕戦には22名がエントリーした

 昨年から参戦し始めたドライバーにいたっても、一戦一戦のレースで着実に経験を積み重ねてきていて、さらなるスキルアップを目指して取り組む様子もうかがえる。レースが始まれば負けたくはないライバルではあるが、初年度から参戦している様子を肌で感じてきた私としては、同じ環境で苦労も喜びも分かち合うドライバー同士が相互にコミュニケーションを取り合いながら、KYOJOの輪が拡がってきていることを感じている。

開幕戦の前に「KYOJOミーティング」が開催されKYOJO CUP事務局やプロデューサー関谷正徳氏からレースを安全かつフェアに行なう重要性についての話があった

 金曜日には毎回レースウィークに行なわれている「KYOJOミーティング」が開催された。KYOJO CUP事務局やプロデューサーの関谷正徳氏によるレースを安全かつフェアに行なう重要性について話があった。さらに、昨年チャンピオンを獲得した翁長実希選手、山本龍選手らが発起人となり、KYOJO選手会を結成。女性ドライバーがレースに参戦するための環境を、よりよいものにしていくための草案を提議し、多くのドライバーたちが賛同。その場でKYOJO選手会の発足が宣言された。

今シーズンからタイヤのコンパウンドが変更に

 5月の2週目の陽気は晴れれば気温が20℃以上に上がるものの、不安定になりがちな状況といえた。レースウィークは金曜日から走行できる環境となったが、気温は上昇気味。少し前にテスト走行した時のベストタイムは出せない状況で、週末の本番に向けて調整を行なっていく。

 今季のVITA-01のレースに携わるチームにとっての最大の関心事は、レースで装着義務があるダンロップのVITA-01専用タイヤのコンパウンドが変更されたことだろう。我がチームは新しいタイヤで殆どテストを行なえない状況で本番に臨むことになるが、天候が不安定になれば、なおさらその状況が読めない。

タイヤはダンロップのVITA-01専用タイヤのワンメイクとなる

 ちなみに、私がハンドルを握る「24号車 ENEOS☆MOMO☆BBS VITA」は、ブレーキパッドの材質を変更した。以前よりも少し効きがマイルドなものに変えてみたが、ブレーキング後にリリースしながらコーナーにターンインしていく際、路面にタイヤが沿う感触が掴みやすく、姿勢が作りやすい印象を得た。タイヤのグリップが上がっていることも関係しているが、ブレーキは車速を落とす役割だけでなく、その後の姿勢変化にも影響をおよぼすものだけに、コントロールしやすい方向に向かってきているのはありがたい。

 そこでダンロップのモータースポーツ部 安岡生人氏に、今季のタイヤはどんな点が変わっているのかを伺ってみた。

住友ゴム工業株式会社 モータースポーツ部 安岡生人氏

藤島:今季のタイヤはどんな点が変わっているのでしょうか?

安岡氏:去年までのタイヤと比べてウエット性能を上げています。ウエットグリップが上がると、それに伴ってドライ路面で走行する際のグリップも上がります。

藤島:トレッドパターンは変わっていないようですね。

トレッドパターンは同じまま

安岡氏:VITA-01の軽量な車重に合わせて設計したタイヤですが、昨年のレースで使われていたものと構造自体は変わっておらず、ゴムのコンパウンドの特性が変わっています。

藤島:レース参加者の声を反映して変更したのでしょうか?

安岡氏:VITAクラブなどから聞こえてきた話としては、ドライ性能が評価されていた一方で、ウエット性能をもっと上げて欲しいという声があったため、改良を行ないました。新しいタイヤは雨のコースで安心して走れるようにしています。

藤島:VITAはスキルアップを目指すビギナーから、腕をならしたベテランまで、いろんなレベルのドライバーが走らせているレース専用車両。最低重量はドライバーと装備品を含めて615kg。マシンはABSやトラクションコントロールといった電子制御もついていません。そうした特性にあわせて、専用タイヤはどのような性能を目標にして開発されたのでしょうか?

KYOJO CUPはVITA CLUB製「VITA-01」のワンメイクレース。ボディサイズは3712×1600×1070mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2200mm、トヨタの1NZ-FCエンジンを搭載し、Vitz RSに搭載されていた5速MTが組み合わせられる。タイヤは2020年からダンロップのVITA専用タイヤのワンメイクとなっている
エンジンやタイヤは同じだが、フロントカウルは3タイプのフェイスから選択できるのと、カラーリングで各マシンは個性を出している。車両価格はタイヤとホイールのない状態で395万円(税別)

安岡氏:かつて、VITA-01のレースでは量産車用のラジアルタイヤが指定されていた時期がありましたが、コーナーを走らせる時にグリップが高すぎて、全開に近い状況で走れてしまっていたようです。数年前にVITA-01専用の「DUNLOP DIREZZA V01」を手掛けたときには、なるだけグリップを抑えて走れるタイヤを目指して設計を行ないました。グリップが高すぎると、コーナーを曲がる時にあまり減速せずに走れてしまうため、トップスピードが高くなってリスクが高まります。それに、誰しもが簡単に走れてしまうと、レースとして成立しなくなってしまうので、グリップはほどほどに抑えながら、走る、止まれるタイヤを目指しました。また、低温の季節は走りはじめのリスクも減らしているので、VITAの走りを楽しんでもらえたらと思います。

ドライバーが安心して安全に走れるように設計しているタイヤだと分かった

藤島:タイヤの性能を使い切って競い合うレースの世界。運転スキルを磨いていけるタイヤのコンセプトはこのレースの意義にマッチしますね。

KYOJO CUPもコロナ前のようなレースウィークを取り戻してきた

 いよいよ、KYOJO CUP開幕戦の朝がやってきた。前日の雨からくもりに変わったものの、8時からスタートする予選はセミウエットのコンディションで各車がコースインしていった。

 ところどころ湿っている様子が窺える微妙なコースコンディション。前日行われたFCR-VITAのレースを走ったドライバーは、新しいタイヤでウエット路面の感触を得ているのかも知れないが、私は路面の濡れ具合によってグリップがどう変わるのかも分からない。とりあえず、おろしたてのニュータイヤとブレーキを温めるようにして周回を重ねていく。

予選の路面コンディションはセミウェット

 最初は「滑るだろうな」と予測しながらアクセルを開けていったが、序盤の100Rで踏み込み過ぎたせいでリアタイヤがグリップせずに盛大にスピン。エンジンを再始動してコースに復帰したが、その後はペースが遅いマシンに引っかかり、挙げ句の果てにイエローフラッグが出て追い越せなかったりと、抜くか離れるかの判断が遅れてしまった。

 また、アクセルが開けられるラインを意識して走ろうとしたものの、逆に肩に力が入り過ぎてしまい15番手のタイムに留まった。ポールポジションは16歳のルーキーとして初参戦した「225号車 KTMS VITA」を操る富下季央奈選手が獲得した。

予選トップは16歳のルーキー、225号車 KTMS VITAの富下季央奈選手

 新型コロナウィルスにまつわる規制がなくなったことで、KYOJOファンの方との会話やサインを求めるシーンも見られ、ようやくレースウィークの日常を取り戻していた。パドックではジャガーの試乗コンテンツをはじめ、ヒストリックカーやレース専用車「GR Supra GT4 EVO」などが展示されていて、記念撮影や担当者に話を聞いている姿も見られた。

 トークショーはレース後に開催されるスケジュールだったので、予選から決勝までの時間がゆっくりと流れていき、不安定な空を仰ぎながら、正午に始まるレースのスタートを待っていた。グリッドにマシンを並べると、空は今にも雨が降り出しそうな様相になっていた。

レース専用車「GR Supra GT4 EVO」が展示されていました
ジャガーは試乗コンテンツを実施
懐かしいクルマやヒストリックカーもたくさん並んでいました
当日は「母の日」だったのでNEXCO中日本さんが新東名高速道路の開通予定のお知らせと合わせてお花を配っていました
道路公団ごっこができるアトラクションもありました
クルマの死角を体感するコーナーも設置されていました
ネイルサロンなど来場者が楽しめるコンテンツも多数用意されています

決勝レースは粘りの走りで2つポジションを上げて13位でチェッカー

少しずつ雨脚が強くなるなか、スターティンググリッドへと向かう各車
グリッドに着くころには雨は本降りに

 フォーメーションラップを終えてグリッドに着くころにはいよいよ雨は本降りに。レッドシグナルが全灯して、消灯。2023年の開幕戦がスタートした。一気に雨量が増した雨でホイールスピン。後続車両にドッと抜かれてしまいながら1コーナーを目指すが、前走車が巻き上げるウォータースクリーンでコーナーの状況が把握できない。それでも、出遅れれば離されてしまう。できる限りの勇気を振り絞ってアクセルを開けていく。

静寂に包まれる緊張のスタートシーン
最初に1コーナーに飛び込んだのは予選2番手の114号車 RSS VITAの翁長実希選手。さすが昨年度のシリーズチャンピオン

 1コーナーでスピンしていく車両を横目に、インに避けて前を目指す。追突だけは避けなければと少しだけラインをずらして前走車を追いかけるが、300Rで私を追い越していったマシンがダンロップのブレーキングで止まりきれず、さらに前方にいたマシンに追突!

 コースに散らばるパーツを踏まないように避けながら、セクター3の上りセクションに差し掛かる。1周が4km以上におよぶ富士スピードウェイはエリアによって雨量が異なり、路面コンディションは安定せず、ヘルメットバイザーにダイレクトに水しぶきが打ちつける。最終コーナーを立ち上がり、精一杯アクセルを踏み込んでいると、ストレートで1台をパスすることに成功。ペースが上がってきた2LAP目は、単独で走るも雨量が増し、レコードラインをたどって攻めようとすると姿勢を崩しかねない状況に。

 さすがにレースを継続するのはリスクがあると判断され、セーフティカーが入った。依然、雨が落ち着く気配はないが、周回を重ね、雨に慣れたかと思われる8LAPしたところでセーフティカーが退去し、レースが再開された。

 今度こそと意気込んで1コーナーに飛び込むも、止まりきれずにオーバーラン。少しはみ出してコースに戻る。グリップするかどうかを探りながら、コーナーの立ち上がりでアクセルペダルを踏み増していくが、マシンがズリズリと揺られてロスする場面も。

レース序盤、雨が激しくなりセーフティカーが入る

 スープラコーナーの先で3台のマシンが絡んで止まっている。路面は水が溜まって鏡のように黒光りしている。一時は9番手あたりまで順位を上げたものの、スピンして後退したマシンが追い上げてくる。気持ちは前へと意気込むも、水に足をとられ、前走車に離されてしまうのがもどかしい。

 11LAP、12LAP目には、1台、また1台とスリップストリームにつかれて抜かれてしまい、ファイナルラップのスープラコーナーで大きく姿勢を崩してスピンモードに入ったが、停車したら後続に抜かれて終わると意地で立て直し、13位でチェッカーフラッグを受けた。

雨のため思い通りのラインを通れない

 見事、優勝したのは、10番グリッドから怒濤のスタートダッシュを決めた17号車 Team M VITAの三浦愛選手。2位は86号車 Dr.DRY VITAの永井歩夢選手。3位は114号車 RSS VITAの翁長実希選手が獲得した。

 コースに留まることさえ難しい雨の洗礼。開幕戦から波乱に満ちた幕開けとなった。次戦は7月23日に開催予定。今回のレースを振り返り、前を目指して臨みたいと思う。

優勝は17号車 Team M VITAの三浦愛選手
2位は86号車 Dr.DRY VITAの永井歩夢選手、3位は114号車 RSS VITAの翁長実希選手
優勝、17号車 Team M VITAの三浦愛選手
2位、86号車 Dr.DRY VITAの永井歩夢選手
3位、114号車 RSS VITAの翁長実希選手

 また、レース後はクリスタルルームで22位~12位、11位~1位のメンバーが2チームに分かれてトークショーが行なわれた。継続参戦しているメンバーはKYOJOのお馴染みの顔としてレースの内容に触れ、初参戦のメンバーはKYOJO CUPに挑んだ経緯を語る様子が初々しかった。アメリカでYouTubeを見てこのレースを知り、参戦したいと来日した選手もいたりと、トークにも花が咲いた。

レース後にはトークショーも開催。ファンとの交流も楽しんだ

16歳のルーキー! 225号車 KTMS VITA 富下季央奈選手インタビュー

 日本で活躍する女性ドライバーとして初めて、普通免許が取得できる18歳以下で国内限定Aライセンスを獲得してKYOJO CUPに参戦することになった16歳の富下季央菜選手。レースを終えた後にお話を伺わせていただいた。

225号車 KTMS VITAの富下季央奈選手は、若干16歳のルーキー

藤島:富下さんは今季が四輪のレースデビュー。これまではレーシングカートで経験を積まれてきたそうですね。

富下選手:小学4年生から去年までずっとカートだけやってきました。今季はカートとVITAのレースの両方に参戦しますが、4輪のレースをメインに活動していく予定です。

藤島:カートを始めたキッカケは何だったのですか?

富下選手:元々は両親が弟を走らせるつもりでカート場に連れて行ってくれたのですが、遠くから見ていたら、面白そうだなと思って私も乗ってみることに。実際に走ってみたら面白くて、レースに出ることになりました。最終的にプロドライバーになれたらいいなとカートを続けてきて、昨年は全日本選手権のFP3に出て、シリーズランキング2位に。国内限定Aライセンスを手にすることができました。

藤島:男性ドライバーと一緒に走るレースで好成績をおさめ、本来は18歳以上で普通免許を取得しないと獲得できない4輪のレースに参戦できる権利を手にしたということですね。ちなみに、VITA-01のレースに出る前に他のカテゴリーのマシンは試してみたのですか?

富下選手:スーパーFJの体験会でマシンに乗ってみたことはありますが、本格的にレースに出るのはVITAのレースが初めてです。

藤島:カートと比べると、4輪のマシンはサスペンションがついていたり、VITA-01の場合はHパターンのマニュアルトランスミッションだったりと違いがあると思います。特性の違いに戸惑うことはなかったのでしょうか?

富下選手:クルマの荷重の動きとか、カートとは全く違っていて、滑っているのか、荷重が動いているのか分からなくて怖いところもあります。

藤島:そうはいいつつも、セミウエットの予選では見事にポールポジションを獲得されましたね。

富下選手:セミウエットの予選では、路面が徐々に結構乾いてきていたので、晴れた時の走り方に戻していったら、意外とタイムが出ている気がしました。前を走るクルマのスリップストリームを上手く使えて、いい感じにまとまったので、3番手とか5番手くらいだろうと思って戻ってきたら、ポールポジションを獲得できていたので驚きました。

藤島:その後、決勝レースは雨。どんな気持ちで臨みましたか?

富下選手:晴れの走行は感触をつかめてそこそこ走れるようになってきていますが、雨は土曜のレースで走ったものの、タイムがあまりよくなかったです。最初は10秒くらい遅かったのですが、夕方のスポーツ走行と今日の決勝で少しずつタイムを詰めてきています。でも、あと少し頑張らないといけません。

藤島:女性同士のレースはどうですか?

富下選手:みんな気が強い感じがしますね(笑)。後ろで争う様子を見ていても、YouTubeの中継を見てみても激しいバトルが繰り広げられています。

225号車 KTMS VITA 富下季央奈選手

藤島:レースを終えてみて、自分にとっての課題や手応えをつかめたことなど、成果は得られましたか?

富下選手:今回で3度目の走行となりましたが、回数を重ねるにつれて、クルマの動きの感触もつかめてきました。こんな感じで乗ればいいと、分かり始めてきた感じがします。スープラコーナーとか、ちょっとずつ曲がりながらブレーキを掛けるといった場面では、まだクルマの挙動が分かっていない感じがします。あとは雨の練習も必要ですね。カートのレインタイヤと比べると、VITA用のタイヤはグリップが低く、かなり滑るので、ドキドキしながら走っています。あとは、レースのやり方も分かっていないので、集団に混じってレースをしたいです。

藤島:経験を重ねるごとにつかめるようになるといいですね。最後に応援してくれているみなさんにメッセージをお願いします。

富下選手:ファンのみなさんには、SNSなどを通じて応援していますというメッセージをいただきました。レースを頑張ろうという気持ちになりますし、声を掛けてもらえることは嬉しいです。

藤島:今季のレースはまだ始まったばかり。次戦もよろしくお願いします。

KYOJO CUPの第2戦は、7月23日に同じく富士スピードウェイで開催される予定