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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート
第16回:最終戦はすべてを出し切り8位でチェッカー、ポイント獲得
2022年12月27日 09:15
- 2022年12月11日 開催
10月・11月・12月と短期間で連続開催となった後半戦
2022年12月11日、富士チャンピオンレースシリーズ第7戦でKYOJO CUP(キョウジョ カップ)Round 4が開催された。今シーズンは全4戦中、後半の3戦は約1か月ごとの間隔でコンスタントに開催されるスケジュールとなった。富士スピードウェイで頻繁に練習ができないことを考えると、前戦までの走行感覚が残っているうちに次のレースに臨めることは、スキルアップを狙う上でメリットが得られそうだ。
いよいよ今回のレースで今季の最終戦を迎える。わがチームは木曜日からスポーツ走行を行なう計画だが、私は本番までにこなさなければならない仕事が入っていたため、自宅とサーキットを行き来する毎日。みんなが走っている時間に走れないもどかしさがないといえば嘘なのだが、そのぶん、限られた時間の使いかたを見直したり、課題に集中して取り組んだ点で勉強になることも多々あった。
KYOJO CUPが始まって以来、私自身は6年間、すべてのレースに参戦してきたが、今シーズンに初めてデビューしたドライバーたちは随分と成長を見せていた。カート時代から培った経験を4輪で開花すべく、勢いのある若い子もいるし、参戦2年目以降でマシンの扱いに慣れてきたところで実力を高め、上位に食い込んできているドライバーも。また、レース経験豊富なベテラン勢に至っても、若手のドライバーの成長に刺激を受けて着実に速くなってきている。ドライバー同士はライバルではあるが、同じ境遇に立たされているだけに共感できることも多い。女性らしくコミュニケーションをとり合う場面も見られたし、コース上で信頼関係を築きながら、共に強くなってきている印象だ。
もちろん、これは勝負の世界。かくいう私もオチオチしてはいられない。車両規定上はホイール、サスペンション、ダンパー、ブレーキパッドなどのパーツに選択の自由は与えられているが、基本的にはドライバーを含めた最低重量、タイヤなど、与えられた条件は同じ。速いドライバーたちと私では何が違うのか。自問自答しながら答えを探しにいく作業の繰り返しだ。
幸いにも、レースウィークは冬晴れに恵まれて、当日の天候は晴れ、コースはドライコンディション。さすがに12月も2週目となれば朝は0℃付近まで冷え込んでいるだけに、8時台に行なわれる予選をどう走らせようかと思考を巡らす。富士スピードウェイの計らいで、タイヤが温まらない状況を踏まえて、予選時間はいつもより5分長く設定された。コースインすると、前方には数台のマシンが少し間隔を開けた状態で走行している。
ニュータイヤを履かせると、練習で使っていたタイヤと感触が異なり、タイヤのグリップを生かせるように意識して走らせないとロスにつながることもある。私はタイヤを温めてからアタックに入るとき、前走車に追いつくこともない絶妙な距離感をキープして走れたこともあって、4LAP目に2分1秒847を計測。その後、終盤にかけてタイムを伸ばすに至らず、13番グリッドからのスタートが決まった。
また、予選を終えた時点で、開幕戦から3戦連続でポールトゥウィンを決め、最終戦でもポールポジションを獲得した時点で、37号車 KeePer VITAを操る翁長実希選手の年間チャンピオンが決定した。
決勝までの合間、パドックでは特設ステージで2回に分けてKYOJOドライバーたちによるトークショーが行なわれた。海外からは香港在住のデニス選手が2度目の来日。彼女が地元で参戦していたレースはコロナ禍で開催中止となり、今回の富士が3年ぶりのレース参戦となったそうだ。VITA-01を使ったレースは東南アジアなどでも行なわれているので、今後は海外のドライバーとの交流が拡がっていくことにも期待したい。各ドライバーは予選を終えた感想や決勝にかける意気込みなどについてコメント。ライブ配信も行なわれていたが、現地に足を運んでくれたファンと対面しながら、語りかけられる場にいられることをうれしく思った。
いよいよ最終戦の決勝レースがスタートする
さぁ、最終戦はシーズンの集大成。獲得ポイントは通常の1.5倍となるだけに、シリーズランキングが入れ替わる影響も大きい。勝ちたい気持ちをぶつけ合うライバルたちに囲まれていることを思うと、今季最大の緊張感を感じざるを得ない。フォーメーションラップを終えて、赤シグナルが消灯。今季最後の戦いがスタートした。エンジン回転を高めてクラッチをつなぎ、2速に入れて一斉に加速。
すると、ホームストレート上で前方にいた2台が接触し、逃げ場を失った4台のマシンが絡むクラッシュが発生。散らばったパーツを避けながら先に進むが、オープニングラップでレース中断を示す赤旗が提示された。マシンの復帰は難しい状況となってしまったが、幸いにも4名のドライバーは歩いてコース外に待避。無事であることが確認された。
クラッシュを逃れたクルマたちは再び元のグリッドにつき、セーフティカーによって再スタートが切られると告げられた。1分前のボードが出されてエンジン始動。いくつかのグリッドが空いた状態で1台ずつ動きだしていく。各車は冷えたタイヤを温めながら、前走車に追従。2周するとグリーンシグナルが点灯して、レースが再開した。前を走る15号車 恒志堂レーシング レブニーズVITAで走るRINA ITO選手のマシンと間隔が開かないようについていったつもりが、セーフティカーが去った後、一気にペースを上げた先頭集団に前方の2台が牽引されていくように勢いを増し、周回を重ねるごとに車間が離れて単独走行の状況に。
私の後方にいた7号車 小倉クラッチワコーズAFC★VITAのおぎねぇ選手は少し離れていたものの、少しでもミスをすれば近づかれてしまうリスクはある。持てる力を出し切るつもりで周回を重ねていったが、前の集団に近づくことは難しく、8位でチェッカーを受けた。
優勝は38号車 LHG Racing VITAの猪爪杏奈選手、2位は337号車 D.D.R. VITA-01の斎藤愛未選手、3位は86号車 Dr.DRY VITAの永井歩夢選手が初表彰台を獲得した。
ポジションアップすることはそう簡単ではないことを痛いほど感じてきた1年。それでも、自分はやれると信じて、地道に取り組んだ2022年のシーズンだった。コロナ禍からウィズコロナの動きに変わり、サーキットにファンの姿が戻りはじめたところで、多くの人たちの応援に力をもらった。今季もKYOJO CUPを見守っていただいたファンのみなさん、プロデューサーの関谷正徳氏、事務局のサポートに感謝の気持ちをお伝えしたい。
年間チャンピオンに輝いた翁長実希選手にインタビュー
──4年目にして年間チャンピオン獲得。おめでとうございます。
翁長選手:本当に感無量です。予選でポールポジションを獲得してチャンピオンが決まりましたが、最後に優勝して、フルポイントで勝ちたい気持ちが強かったので、最後まで気を緩めずにチャレンジしたつもりでした。シリーズチャンピオンのポディウムに立ったときに実感がヒシヒシと湧いてきて、本当にずっとこれを待っていたのだなと思いました。チームのみなさん、ファンのみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。
──翁長さんがSNSで発信してきたコメントを見ても、同じドライバーとして、どうしたらそんなに強くいられるのだろうと思いました。自分の中で葛藤はありましたか?
翁長選手:今シーズンは速さだけを求めて、拠点も沖縄から御殿場に移しました。ドライバーとしてインストラクター業などをやらせていただきながら、集中的に身体作りやトレーニングを行ない、そうしたことに取り組むことで自信につながりました。それもあって、今季は圧倒的な強さでここまで来ることができました。みんなよりもいろんなものを犠牲にしてきたので、絶対に自分はいけるという思いがあったのだと思います。
今回の最終戦についても、自分はできるという自信を持っていたのですが、それが自信だったのか、おごりだったのか……。自分が集中できていなかったため、スタート違反のミスを誘発してしまいました。私の夢はSUPER GTのGT300クラスでレギュラードライバーとして走ること。自分を戦力として見てもらいたいと思ったときに、こういう初歩的なミスや危険なレースはしないようにとやってきたにも関わらず、最後にこういう結果になってしまって残念です。チームに恩返しをしたかったのですが、こういう形で終わってしまって悔しいです。
──現在のSUPER GTには女性ドライバーがいないので、夢が実現することを願っています。今日の翁長さんはインタープロトのレースでもジェントルマンクラスで優勝を飾る活躍を見せていました。今週末はインタープロト、FCR-VITA、KYOJO CUPとトリプルエントリーとなりましたが、マシンの特性が違うと、切り替えが難しかったのでは?
翁長選手:第3大会で初めてインタープロトに乗らせてもらいましたが、クルマの動かしかたはVITA-01に似ていると感じました。インタープロトはVITAよりも重たくて、速くて、タイヤのグリップも高いのですが、ミッドシップのワンメイク車両という点は一緒なので、すんなりと運転することができました。
──翁長さんはスーパー耐久ではヤリスで参戦されていますし、FIA-F4にも参戦。今季はいろんな挑戦ができた1年でしたね。
翁長選手:そうした経験がKYOJO CUPの走りにつながったと思います。急にインタープロトに乗ることになっても柔軟に対応できることが分かったので、それまでの経験が生かせたことに感謝しています。SUPER GTを考えると、箱車メインで経験を積みたいところですが、インタープロトシリーズにはプロが出場しているので、自分のドライビングとの比較対照になりますし、今後の道を切り拓いてくれると思います。できることなら、来年も乗りたいです。
──KYOJO CUPで活躍するドライバーは周囲から注目されますし、初代チャンピオンを獲得した小山美姫選手はヨーロッパのWシリーズに出場するチャンスにつなげました。翁長さんの目にはKYOJO CUPはどんなレースに映っていますか?
翁長選手:KYOJO CUPもインタープロトもファンのみなさんと近いレースで、身近になって応援する人が多いレースです。スポンサー企業の場合、結果が出なかったり、業績が悪いと、つながりが途切れてしまうこともありますが、ファンのみなさんは、どんなにレースの結果が悪くても、ずっと応援してくれる。だから、ファンのみなさんは大事にしたいですし、これまで助けてもらったこともありました。レースで恩返しをしたい思いが芽生えたのもKYOJO CUPに出場してからです。
KYOJO CUPに出場してきた4年間、もの凄い悔しい思いをたくさん経験しました。今回は集大成かなと思ったけれど、ミスをして、「まだまだお前は……」と言われているような気がして。戦う上ではKYOJO CUPなりの難しさもありますし、参戦する価値のあるレースだと思います。
──自分を追い込み、夢に近づくためのステップを着実に踏み、チャンピオンを獲得した翁長選手。今後どのようなストーリーを描いて目標に近づいていくのか、注目しています。
最終戦でトークン号をドライブした岡村英莉選手をインタビュー
2022年シーズンは、国内モータースポーツ業界初の試みとして、ファントークンを採り入れたKYOJO CUP。発行されたトークンの販売売上で得た資金でTEAM TOKENを発足し、トークン保有者と共に1台のマシンを創り上げるプロジェクトを実施。カラーリングを施したマシンには投票で選ばれた女性ドライバーがレースに参戦するという夢のあるプロジェクトだ。前戦では2020年にチャンピオンを獲得した三浦愛選手がステアリングを握ったが、今回の最終戦では岡村英莉選手が乗ることになった。
──最終戦のレースウィークは109号車 KYOJO TOKEN DREAM VITAで、土曜日のFCR-VITAのレースと日曜日のKYOJO CUPにダブルエントリーされたそうですね。
岡村選手:FCR-VITAのレースは荒れた展開になりましたが、KYOJOドライバーもたくさん出ていたので、「KYOJO CUPは安全マージンでいくのかな?」と予想していたのですが、実際は真逆の激しい争いで(笑)。やっぱり最終戦ってこうなんだなという空気を味わいました。
──岡村さんは前戦まで977号車のマシンで参戦していましたね。VITA-01はパーツ選びやセッティングで走りが違ってくるマシンですが、トークン号に乗ってみていかがでしたか?
岡村選手:マシンによって個性が豊かだなというのが第一印象です。これまで3台のVITA-01に乗ったことがありますが、初めてレースに出場した3年前は「VITAってどんなクルマなんだろう?」というところから始めて、2戦だけ出場しました。レーシングカーの経験でいうと、アルファロメオの147やマツダ ロードスター、ホンダ N-ONEに乗ったことはありましたが、VITA-01のようなレース専用車両に乗るのは初めてのことでした。「カートに似ているよ」と言われましたが、旋回していく感覚はカートに近いにしても、VITA-01は車体が重たいし、普通の市販車と比べると目線や速度感が違う。それに慣れるのが最初は大変でした。
──このクルマの特性をつかむには、乗り慣れていかないと難しいところがありますね。
岡村選手:正直、よくみんな乗れているなと。自分が自己ベストを出したと思っていても、それよりも遙かに速い人がいる。どうやってタイムを出すのかと不思議でなりませんでした。同じマシンのハズなのに違う。どこが違うのだろう。ついていこうとしても遠くにいってしまう。周りのクルマの走りを見ながら、勉強させてもらっています。
私は性格上、ここはどうするのって周りに聞けないところもあって、もどかしいところもあります。来年、もし参戦できるとしたら、他のドライバーと仲良くなるまではいかないとしても、言い合える環境にしたいなと思っています。
──レースではどんな展開を迎えましたか?
岡村選手:今回の最終戦では12位から15位の争いとして、32号車 助川ちひろ選手、620号車 織戸茉彩選手、115号車 デニス選手と私の4台でバトルをしていました。私たちが絡み合っている状況の中、ドライビングスルーペナルティを消化して、後方から追い上げてきた37号車 翁長実希選手が私たちをあっさりと抜いていき……。やはり、優勝する人たちは凄いレベルにあるのだなと思い知らされました。順位が入れ替わり立ち替わりするバトルは走っている私たちもかなり楽しめたし、見ている人たちも楽しんで貰えたかなと思いました。
──トークン保有者のみなさんの投票で選ばれて、トークン号に乗る気持ちはいかがでしたか?
岡村選手:最初は投票で1位を獲得した三浦愛選手が1人だけ出場するものだと思っていましたが、最終戦は彼女が都合で出られないということで、2位だった私に「出てみないか?」と声をかけていただきました。最初は凄くうれしかったけれど、三浦選手は凄く速かったから、その後に乗る私はどういう見られかたをするのだろうというプレッシャーがありました。でも、投票してくださった人は、「愛ちゃんは愛ちゃんだし、岡エリちゃんは岡エリちゃんだから、自分らしく楽しく走ってくれたら僕たちもうれしい」と言ってくれて、うれしかったですね。
愛ちゃんとは積み重ねてきたキャリアが違いますが、私のようなドライバーが乗ったことで、普通の人が乗ったら、こういう風に成長していけるのだなというところを見せられたのではないかと思っています。
──VITA-01は成長過程のドライバーも楽しめますし、プロが走ることもある。キャリアが違うお2人が同じクルマで出場してくれたことで、盛り上がりました。
岡村選手:KYOJOのトークン号に乗ることが決まった後になって、別のクルマで出ませんかというお話をいただいいて、第2戦、第3戦に出るキッカケに。まさに「トークンドリームだな」と。トークン号のドライバーに名乗り出るまでは、出場していたN-ONEオーナーズカップの参戦に集中して頑張りたいという思いもあったし、声を大にしてKYOJO CUPに出たいと言わずにきました。以前、KYOJO CUPに参戦したときはクラッシュして休止した事実もあって、怖くて戻ってこられなかった。今回のトークンプロジェクトがなかったら、戻っていなかったと思うので、改めてトークン号に乗せていただいたことに感謝しています。来年以降もトークン号は続くと思うので、夢を持ってトークン号に乗ることができたり、それによって成長するドライバーも出てくると思います。
挑戦したいという気持ちで先ずは踏み出していいと思います。「私はこうだから遠慮しておこうかな」ではなく、ちょっとでも可能性があるかなと思うくらいで、一歩踏み出してみてもいいと思います。初心者で未経験でも、先ずは門を叩き、キッカケとしてチャンスをつかんで、成長の場にして欲しいと思います。
KYOJO CUPのシリーズ戦は2023年も開催予定
KYOJO CUPではトークン号以外にも、新規参戦を希望するドライバーとチームをつなげる合同オーディションを2023年1月23日に実施する。応募締め切りは2023年1月8日。一次審査は書類選考で行なわれ、二次の実技審査は2023年1月23日に富士スピードウェイで行なわれる。
「KYOJO CUPに興味はあるけれど、まだマシン(VITA)に乗ったことがない」「KYOJO CUPに参戦したいけれど、乗れるチームが見つからない」と思っているドライバーはこの機会に是非チャレンジしてみて欲しい。
合同オーディション開催概要
参加条件:四輪普通自動車運転免許証を所持し、JAF国内A級ライセンスを所持または取得予定の女性(年齢不問)
一次審査:書類選考
応募締切:2023年1月8日
二次審査:富士スピードウェイ(P7)にて実技審査
二次審査実施日:2023年1月23日
応募方法:オーディション参加希望選手は【エントリーフォーム】より応募可能。