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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第20回:2023年シーズンもいよいよ最終戦、23人の頂点に立つのは……

2023年11月26日 開催

KYOJO CUPの2023年シリーズ最終戦が開催されました

年々レベルの上がるKYOJO CUP。最終戦は抜きつ抜かれつのバトルとなった

 11月26日に富士スピードウェイで「KYOJO CUP 第4戦」が開催された。今季最終戦となる今回は23台がエントリー。わがチームは木曜日のスポーツ走行枠を走行するため、朝6時のゲートオープンとともにサーキット入り。

 それというのも、KYOJO CUPを含む富士チャンピオンレースシリーズ第6戦ではインタープロトシリーズの「ジェントルマンクラス」および「プロフェッショナルクラス」「FCR-VITA」「AIMレジェンドクラブカップ」「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZカップ」や「ヤリスカップ」といったレースが併催されるということで、総勢290台ものマシンが富士スピードウェイに集結していた。

 参加型モータースポーツがこれほどまでに盛り上がりをみせていることは、クルマファンとしてうれしいところではあるが、走る立場として考えると、祭日だったこともあってスポーツ走行枠の走行券の購入は長蛇の列に。また、コース上でクリアラップをとることは難しそうなものの、久しぶりの走行にマシンと身体を慣らすところからスタートした。

KYOJO CUPはVITA CLUB製「VITA-01」のワンメイクレース。ボディサイズは3712×1600×1070mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2200mm、トヨタの1NZ-FCエンジンを搭載し、Vitz RSに搭載されていた5速MTが組み合わせられる。タイヤは2020年からダンロップのVITA専用タイヤのワンメイクとなっている

 ところが、朝の路面のコンディションはセミウエット。昨夜のうちに降った雨が冷えた路面に残り、7時台からの走行では乾ききらなかった。滑りやすいことは想定内ではあったものの、コースで停車した車両が出てしまったり、挙げ句の果てにダンロップコーナーの立ち上がりで白鳥が立ち入っているのに遭遇し、あぜん。この走行枠だけで赤旗が4回も出る事態に……。改めてこうしたコンディションで起こりうるリスクに対して、心構えをしておくことの重要性を考えさせられた。

9月24日の第3戦と比べると気温が一気に下がり、また滑りやすい路面状況に苦しめられた

 金曜日のスポーツ走行では30分枠を2本走らせてもらった。朝の気温は10℃。9月に開催された第3戦は温かく、20℃ほどの気温だったが、今回はそこから一気に下がったことで、これまでと同じセットで臨むと車体の挙動がかなり違っているように感じた。

 タイヤの温め具合や摩耗状態によっても異なるが、前回走ったイメージで臨んでも、1コーナーのブレーキ時の挙動が落ち着かず、タイムを縮められない。そこでKYOJO CUPなどで使われているレース専用マシン「VITA-01」は、ブレーキの前後バランスを調整できる仕組みになっているので、ブレーキの感触をみながらスイッチを回転させてフロント寄りに調整してみたり、逆にリア寄りに少し戻してみたりと試行錯誤。

ステアリングの右奥にある緑のレバーが、ブレーキの前後バランスを調整するスイッチ。左に回せばリア寄りに、右に回せばフロント寄りに調整できる

 ブレーキでモタついて車体の向きがうまく変わらず、向きが変わらないから余計にステアリングを切りこんでいくと、今度はクルマが暴れてしまう。アンダーステアにオーバーステア。戸惑う状況から抜け出せず、残念ながらタイムを縮めるにいたらずに走行枠は終わってしまった。

 レースで成果を出すためには、自分のドライビングでやるべきこと、何らかのセッティングの変更が必要なことが挙げられるが、メカニックに率直な印象を共有したところ、コースに出るアウトラップで、まずはドライバーがやるべきことを整理して着実にこなすことが大前提という話に。本番から逆算してやるべき目標を立てきれずに走ってしまったことは反省すべき点と言えた。

前日までの練習走行では、本番から逆算してやるべき目標を立てきれずに走ってしまったことを反省

 そして、いよいよ最終戦当日がやってきた。朝の外気温は5℃を示し、今シーズンイチの冷え込みですっかり冬の朝らしくなってきた。気づけばサーキットを見守る富士山の姿はすっかり雪化粧をしていた。朝7時50分にスタートする予選はニュータイヤで走行。冬の冷え込んだ路面温度を考慮して、いつもより5分長い25分間の計測とされている。2分前にピットレーンに並び、いよいよコースイン。

 タイヤを温めることを意識し、グリップ感を確かめながらペースを上げていく。まだアタックするには温まりきっていないと思う一方で、プッシュしていかないとタイムは縮まない。数台で並んで走り、私は11番手を走行していたが、途中で前を走る車両から引き離されてしまい、18番手に落ちた。7LAP目に15番手に上がり、8周目にベストタイムを更新。

 終盤は後方にいた車両に抜かれて18番手に落ち、あえなく更新できずに終わった。ポールポジションは17号車 Team M VITAを操る三浦愛選手。2番手は114号車 RSS VITAの翁長実希選手で、まさに一騎打ちでチャンピオン争いをしている2台が先頭に並んだ。

ポールポジションは17号車 Team M VITAを操る三浦愛選手。2番手は114号車 RSS VITAの翁長実希選手と、年間チャンピオン争いをしている2人が先頭に

 決勝前、パドックの特設ステージでは、23人のKYOJOドライバーを2組に分けてトークショーが行なわれた。それぞれのドライバーたちは今季のレースを振り返り、印象に残った話や最終戦の意気込みなどについて語り、今季も多くのファンのみなさんが見守ってくれていたのだなと感じてうれしかった。レースは予選や決勝だけでなく、こうしたトークショーもYouTubeでライブ配信されている。運営サイドはサーキットに足を運べなかった人たちに対してもKYOJO CUPの魅力を知ってもらう取り組みを続けている。

決勝前にはパドックで2組に分かれてトークショーが行なわれた
トークショーでは今季の振り返りや最終戦への意気込みを語っていた
KYOJO CUPのプロデューサーである関谷正徳氏を始め、大勢のレジェンドドライバーが大会をサポートしてくれている
パドックではさまざまなイベントが催されていた。気がつけば富士山も雪化粧していた

 決勝は他のレースが遅れた影響で12時35分にコースインを開始。グリッドウォークと各マシンと選手紹介が行なわれ、3分前の表示とともに観客たちが退去。その後、フォーメーションラップが開始された。

緊張感の走る決勝前のグリッド

 全車が再びグリッドにつくと、レッドシグナルが1つずつ点灯。5灯のうち、4灯だけ点灯して瞬時に消灯した。思いがけず早い消灯にあっけにとられているうちにレースはスタート。私の1グリッド後ろにいた34号車 ミハラ自動車エムクラフトVITAの井下沙霧選手の勢いがよく、1コーナーの立ち上がりで抜かれてしまった。とはいえ、まだ集団は混み合いながらコカ・コーラになだれ込んでいくところ。

いよいよ2023年最終戦の決勝がスタート

 私はボトムスピードを落としすぎないように注意を払いながら前の車両を追っていくと、ヘアピンで追いつき、ブレーキングでパスに成功。その勢いのまま、300Rで前を走る109号車 KYOJO TOKEN DREAM VITAの保井舞選手のイン側ラインを狙ったものの、インをうまく締められてしまい、ダンロップコーナー手前で2台のラインが交錯している隙に34号車の井下選手が2台の前に滑り込んだ。

 2LAP目に入る最終コーナーの進入では、攻め込もうとしたつもりが立ち上がりで遅れ、前方の2台との距離が離れてしまった。VITA-01はストレートなどで前の車両に近づくほどにスリップストリームが効いてスピードが増すが、離れてしまってはそう簡単に追いつけない。

わずかなミスでもあっという間に迫られるので一瞬たりとも気が抜けない

 それでも、どこかでチャンスはあるハズだと前へ進んでいくと、ヘアピンのブレーキングで近づく。それでも追いつけずにいると、300Rの先にあるダンロップコーナーの立ち上がりでさらに前方を走っていた37号車 KeePer VITAの金本きれい選手がスピン。

 前にいた集団がペースを落としたところで、再び109号車の保井選手の背後に迫れた。前方には3台が並び、グループの後方から私のマシンが追う。前の車両がせめぎ合う中、立ち上がり重視のラインをたどってチャンスをうかがう。スリップが効き始める距離まで徐々に近づいてはいるものの、抜くほどにはいたらない。

 コーナーのブレーキングでさらにじわじわと距離を縮めていき、私を含めた3台がスリップを使い合いながら3ワイドで1コーナーに進入。一旦は1台を抜いたが、34号車 井下選手がイン側の斜め後方の死角に重なったため、1台分の隙間を残したら抜かれてしまった。

 その後はヘアピンのターンインから立ち上がりにかけて、前を走るクルマよりアクセルを少し早く開ける姿勢で立ち上がったつもりでも、抜けるほど近づけずに苦しむ。4LAP目に突入したコカ・コーラコーナーでは、今週末で最もボトムスピードを上げた状態で進入し、その先の100Rで追いついた。最終コーナーの進入で号車34の井下選手の前に出たが、スリップストリームであっさりと抜き返されてしまう。そんな状況が何周も続いていた。

34号車 井下選手との抜きつ抜かれつのバトルが続いた

 そして、終盤に差し掛かる9LAP目。最終コーナーでブレーキング後に隙を狙って前へ。例のごとくストレートで抜き返されてしまったが、それまでの数周よりも勢いを保って立ち上がれている。1コーナーを通過してコカ・コーラコーナーにサイドバイサイドで飛び込む。上り坂を駆け上がるセクター3でプレッシャーをかけ、最終コーナーの立ち上がりで背後についた。また追い抜けないのかと思った矢先、ホームストレートの真ん中あたりでスリップが効いて前に出ることに成功した。

 とはいえ、わずかなミスでもあっという間に迫られる油断できない状況が続いている。逃げ切りたい一心で走っていると、前方を走る4台のグループとの距離が近づいてきた。まだスリップストリームは効かない距離とはいえ、1コーナー、ダンロップ、スープラコーナーのブレーキングをこなすごとに競い合っている4台に近づいていく。

 ファイナルラップに入ろうとする最終コーナーのブレーキングでは、「よし!スリップの射程圏内に入ったぞ」と意気込んで飛び込み、立ち上がろうとしたが、その矢先にアクセルペダルをわずかに多く踏みすぎたせいで、リアの挙動を乱してしまった。カウンターを当てて立て直したものの、遅れをとっている隙に7号車 小倉クラッチ・ワコーズ・AFC VITAのおぎねぇ選手に抜かれてしまう。

 そのままファイナルラップに突入。2台は1コーナー立ち上がりから並んでコカ・コーラコーナーに進入し、おぎねぇ選手がリードした状態で300Rに進んだ。残るはセクター3と最終コーナーの立ち上がりしか勝負はできない。ダンロップのブレーキングを確実にこなすことに集中し、セクター3ではスープラコーナーで背後に迫り、最終コーナーの立ち上がりでスリップについてアクセルを踏みきる。すると、チェッカーを受ける直前で前に出られた。今季最後のレースは17位に終わった。

 トップ争いは17号車 三浦愛選手がポールポジションからスタート後、114号車 翁長実希選手と激しい争いを繰り広げ、6LAP目で114号車 翁長選手が前に出ると17号車 三浦選手を引き離して優勝を勝ち取った。最終戦を終えた時点のポイントは17号車 三浦愛選手がトップに上りつめ、2023年のKYOJO CUPのチャンピオンに輝く結果となった。

3周目ですでに後続を引き離しながら激しいバトルを繰り広げていた17号車 三浦愛選手と114号車 翁長実希選手
最終戦の3位は337号車 D.D.R Vita 01 斎藤愛未選手。年間シリーズでも3位を獲得

KYOJO CUP 2023 チャンピオンを獲得した17号車 Team M VITA 三浦愛選手インタビュー

藤島:2023年のチャンピオン獲得、おめでとうございます。今季は翁長選手と競り合いながらチャンピオン争いを見せてくれましたが、三浦選手は2020年にチャンピオンになって以来、2度目の獲得となりましたね。

2023年シリーズチャンピオンを獲得した17号車 Team M VITA 三浦愛選手

三浦選手:翁長選手に追いかけられていることにプレッシャーを感じましたが、それが自分を高めていく刺激にもなりました。KYOJOドライバーたちのレベルが上がってきて、色んなことを経験させてもらった1年でした。

藤島:三浦選手がKYOJO CUPにフル参戦するのは2020年以来でしたが、そのころと比べて、KYOJOドライバーたちの様子に何か変化を感じましたか?

三浦選手:まず、参加台数が増え、若いドライバーも増えました。上位のレベルはそんなに変わっていませんが、全体のレベルが底上げされていると感じました。10番手くらいまで2分1秒台のところで混戦しているし、速い女性ドライバーの数が確実に増えていますね。

藤島:私も毎年参戦してきた中で、ドライバー同士が互いに切磋琢磨しながら速くなってきていると実感しています。今季、三浦選手は自らが代表を務めるTeam Mを立ち上げて参戦されていますが、これには、どのような狙いがあるのでしょうか?

最終戦では114号車 翁長実希選手と激しいバトルを繰り広げていた三浦選手

三浦選手:今年立ち上げたばかりのチームなので、現段階のレース活動内容としては、私自身がKYOJO CUPに参戦しているものになります。私はこれまでファンの方や周りに支えてもらってレースを続けられてきました。そこに少しでも恩返しをしたいという思いがあって、カートイベントを開催したり、モータースポーツの裾野を広げていくような活動をしていきたいと考えています。それにプラスして、私はレースの世界でずっとトップを目指してきたので、トップカテゴリーを走れるチームにこれから成長させていきたい。その二本柱のどちらかに傾くのではなく、自分の好きなレースだから、1人でも多くの人にその魅力を伝えたいし、感じてもらいたい。走るだけじゃなくて、クルマを触る人もそうだし、見る人も、それ以外のスタッフも全部含めてみんなでレースを盛り上げていきたいと思ってこのチームを立ち上げました。

ゴール後にお互いの健闘をたたえ合うドライバー

藤島:Team Mが主催したカートイベントでは、VITA-01のマシンでデモランを行なっていましたね。

三浦選手:もっとレースを身近に感じてもらいたいと思って走らせました。私は父親が整備工場をやっていたので、常にクルマが近くにあったけれど、サッカーや野球のように子供たちがレースを身近に感じてレースの世界を目指してもらったり、この世界に憧れをもってもらえるような活動をしたいと思っています。

藤島:いまは世界のモータースポーツシーンでも女性の活躍が目覚ましい時代になってきています。そうした中、女性ドライバー自身がチームを立ち上げるのはまだ珍しいことですね。

三浦選手は114号車 翁長実希選手との大接戦の末、最終戦は2位でチェッカーを受けた

三浦選手:ドライバーでトップを目指したかった。子供のころは何も考えずに「F1ドライバーになりたい」なんてやっていましたけれど、F3まで乗らせてもらって、いま自分の年齢でそれよりも上を目指すのは難しい。だけど、上を目指したい気持ちは変わらなくて、じゃあ、どうやってこの世界で頂点を目指せるかと考えたときに、チームとしてトップを目指して、色んな人にチャンスを与えられるのかなと。そんなに偉そうなことは言えないけれど、今後は限られた人だけでなく、好きで取り組んでいる人にチャンスを与えられたらと思っています。

藤島:裾野を広げ、多くの人にモータースポーツの楽しさに気づいてもらえたら、そこから色んな方向にすごいエネルギーが生まれていきそうですね。

三浦選手:KYOJO CUPに参加したことで、女性のパワーって本当にすごいなと思いましたし、ファンの人も多いですから。男性と対等にやることは今すぐには無理だとしても、みなさんと一緒にうまくやりながら、女性のチームを確立していけたらいいなと思います。

見事2023年シリーズチャンピオンを獲得した三浦選手

藤島:三浦選手が未来のモータースポーツに向けてそうした一歩を踏み出したことは同じレースを戦った私自身も誇らしく思いますし、新しい世界を切り開いてくれるのではないかという期待を抱いています。

三浦選手:ありがとうございます。女性同士が競い合うKYOJO CUPがあってよかったと思います。私自身がそれまで他のカテゴリーではシリーズで2位までたどり着いてもチャンピオンを獲得できなかったことを思うと、いまこうして女性ドライバーが活躍できる場があることはありがたいことですし、この場をもっと盛り上げていきたいと思います。



2023年シーズンKYOJO CUPランキング(トップ6)


順位号車ドライバーFLPP第1戦FLPP第2戦FLPP第3戦FLPP第4戦合計
117三浦 愛1-20-220--16-32486
2114翁長 実希--121-161-20--3080
3337斎藤 愛未--10--10--8--1846
486永井 歩夢--16-----121.5-1544.5
544平川 真子--4--12-210--634
6225富下 李央菜-2---8--4--923

FL:ファステストラップ、PP:ポールポジション

最終戦は獲得ポイントが増えるので最後まで逆転するチャンスも残される

藤島:シリーズチャンピオンを獲得した今は、どんな気持ちでしょうか?

三浦選手:ホッとしました。正直、開幕戦の予選は10番手スタートから優勝できてよかったのですが、第3戦はペナルティを受けてしまいました。速さだけだと、なかなか一筋縄ではいきません。今日もクルマにトラブルが出てしまって、最後まで走りきれるか分からない状況だったので、チェッカーを受けられてよかったです。チーム代表という肩書きはあるけれど、正直に言うとみんなに支えてもらってばかりだったから、本当にチームに感謝しているし、ありがとうの気持ちしかありません。

三浦選手は2020年にもシリーズチャンピオンを獲得しているので今年で2度目となる

藤島:来年もチャレンジする予定ですか?

三浦選手:私がドライバーで走るかどうかはまだ分からないのですが、「走ってほしい」という声もたくさんいただいていて、自分の腕が落ちない限り、走りたい気持ちはもちろんあります。でも、若い子たちはもちろん、年齢は関係なく、やる気のある人たちに自分が持っている経験やノウハウを伝えていきたいから、自分としては誰か新しいドライバーを乗せることを目指したいと考えています。

藤島:Team Mの今後の展開に注目しています。そして、改めてチャンピオン獲得、おめでとうございます!

KYOJO CUP Rd.4 決勝(12:20~)(1時間9分54秒)