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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第19回:2023年シーズンも後半戦に突入。「No try, No Chance!」の精神で挑む

2023年9月24日 開催

KYOJO CUPの2023年シリーズ第3戦に参戦してきました!

本番レース前日の「FCR-VITA」にも参戦して体を慣らす

 9月24日、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)にて「KYOJO CUP」の第3戦が開催された。全4戦で構成されるシリーズ戦となるだけに、今回の大会で早くも折り返し地点を迎える。今季初めて参戦したドライバーたちもマシンに乗り慣れてくるころだけに、21人の女性ドライバーたちのせめぎ合いはいっそう激しくなりそうだ。

 私はこれまで、日曜日に開催されるKYOJO CUPに参戦してきたが、今回は土曜日に開催される「FCR-VITA」と日曜日のKYOJO CUPの2レースに参戦させてもらうことになった。第2戦のあとは練習に来られなかったこともあり、木曜からサーキット入りしてスポーツ走行を開始した。

2023年のKYOJO CUPシリーズに参戦しているドライバーのみなさん

 季節は記録的な猛暑日が続いてきた暑さから、ようやく秋の空気に変わろうとしているところだが、そのぶん天候は不安定で、久しぶりに走る練習走行の時間帯は曇りのち雨の予報。走り始めはドライだったが、やがて雨が降り注ぎ、雨の走らせ方に変えていく。

「ドライだったら、こう走ろう」とイメージトレーニングを重ねてきたものの、ウエット路面になると、途端にコースの様相やマシンの挙動が変化して、気持ちの切り替えが難しい。ピットに戻るとメカニックに「タイヤが温まっていないぞ」と厳しい指摘を受けた。天候が変化したとしても、どのドライバーもイコールコンディションで走る。走らせ方を工夫して、トラクションが稼げる状態に持ち込むこともドライバーの役割だと考えれば、チャレンジすべきことはたくさんある。ヘビーウエットになった午後の枠ではタイヤの空気圧を変更したりして、挙動の変化やトラクションのかかり方の違いを体感した。その後のセッションも路面がセミウエットだったり、周回を重ねるうちに乾いてきたりして、状況は目まぐるしく変化して、じつにバリエーションに富んだ路面で走行できた。

 土曜日の決勝レースは、雨の中で走る厳しいコンディションになった。雨が降る量に応じて機転を利かせて走らせ方をスイッチしたり、常にチャレンジし続ける強い気持ちがないとそう簡単にタイムを削りとれないもどかしさ。前走車が巻き上げたウォータースクリーンで視界は不良、あれやこれやと失敗をして意気消沈する場面もあったが、どうにか最後までコースにとどまりチェッカーを受けた。晴れでも雨でも行なわれるレース。路面やマシンの状況をくみ取って走り、マシンを操る技量が問われ、頭を使い、度胸も試される……。改めてモータースポーツの難しさを思い知らされた。

晴天に恵まれたKYOJO CUP第3戦。狙うはシングルフィニッシュ

日曜日の天候は晴れ。富士山の姿も見られた

 そして訪れたKYOJO CUPのレース当日。前夜の雨は上がり、予報通り天候は晴れ。今週末としては初めて、まだ夏の装いの富士山が姿を現した。朝の空気はカラリと心地よく、ようやくレース日和になってくれたことをうれしく思った。

 ドライバーズブリーフィングを終え、8時25分になると予選のコースインが開始された。20分間の計測となるが、ニュータイヤを装着したマシンとともに、ここまでやってきたベストを尽くせるように集中して臨む。同じピットにはわずか16歳で国内限定Aライセンスを取得して今季から参戦している女子高生レーサーがいたので、彼女の後ろに続いてコースイン。

予選がスタート
結果は21台中11番手を獲得

 まずはタイヤを温めて、ペースアップしていく。計測1周目は2分2秒台、その後コンディションが徐々に高まって2分1秒台に入ったが、目標は2分0秒台。8周目に1秒124まで縮まったので、「あと少し!」と意気込むものの、ペースの遅い車両に引っかかってしまいそのラップではアタックを断念。予選結果は21台中11番手。決勝はシングルフィニッシュを目指していきたいところ。

 朝の天候に恵まれたこと、サーキット内の別のエリアで複数のイベントが重なったこともあり、いつもより多いの観客が訪れているようだった。ここ最近、KYOJO CUPのドライバーズトークショーはレース終了後に行なわれることが多かったが、今回は予選と決勝の間にパドックの特設ステージで2組に分かれて実施。

予選と決勝の間には恒例のトークショーが行なわれた

 ファンのみんなが見守る中、予選の感想や決勝レースへの意気込みなど、選手たちがファンに向けて直接伝えられる機会となった。トークショーの模様は予選、決勝と同様にDRIVING ATHLETEのYouTubeでライブ配信が行なわれていて、現地に来られなかった人たちもリモートで応援してくれていた。

スターティンググリッドにマシンを並べると緊張感が高まってくる

 そんな和気あいあいとした時間も束の間。13時をまわると各ドライバーたちはマシンに乗り込み、ダミーグリッドにマシンを並べた。昼にかけて強い日差しに照らされたことで、コース上で待機しているうちにアスファルトの熱がマシンの底に伝わるほどまで気温は上がってきているのが分かる。フォーメーションラップを終えてグリッドに着くと、全灯したレッドシグナルが消灯。レースがスタートした。

いよいよ第3戦がスタート

 走り出しはエンジンの回転数がいい感じにまとまり、前にいるマシンを抜くことに成功したが、各車がなだれ込んでいく1コーナーでアウト側から何台かの後続車両に抜かれて順位を落としてしまった。しかし、ここで黙っているわけにはいかない。ヘアピンのイン側の隙間をついて1台をパス。予選タイムが私よりも速いマシンが後方から迫りくる。接近戦で競り合っていると、相手がサイドミラーの死角に隠れて見えなくなるので、マシンの気配を察しながら前に進んでいかなければならない。

 富士スピードウェイは世界的に見てもひときわ長いホームストレートをもつことで知られているが、最終コーナーを立ち上がって直後に着かれると、後続車両はスリップストリームが効いて、前の車両に引き込まれるようにして速度が増す。まさにこのコースならではのパッシングポイントで観客的には見応えがありそうだが、ドライバーたちは必死で、抜かれまいとインを締める前走車に対し、後続車のドライバーは「ここは抜きどころ」とチャンスと狙ってくる。

富士スピードウェイでは長いストレートや1コーナーが抜きどころとなる
少しでも甘いラインを通れば、すかさずイン側に入られてしまう

 1コーナーに差し掛かると、抜きつ抜かれつと順位が入れ替わり、これ以上抜かれまいと粘って走っていたつもりが、競っている間にコーナーの立ち上がりで2台のマシンに抜かれてしまった。追いつこうとアクセルを開けていったが、エンジン回転が下がってしまっていたせいか、抜かれた2台についていけず、差が開いてしまった。

 気がつけば12周のレースもあと3周。わずかなミスをすれば、すかさず後続車が迫ってきてしまうだろう。単独走行になっていた私はどうにかその位置をキープした状態でチェッカーフラッグを迎えた。抜かれた順位を取り戻すことは難しく、結果は13位となった。

レース終盤は単独走行となった
最後は13位でフィニッシュ

 暫定結果により、表彰台にはポールポジションからスタートした#17 Team M VITAを操る三浦愛選手、#114 RSS VITAの翁長実希選手、#86 Dr.Dry VITAの永井歩夢選手の順に上っていたが、レース終了後に三浦選手が翁長選手に接触したと判定されたことで、三浦選手に5秒の加算ペナルティが課された。正式結果は昨年のチャンピオンである#114 RSS VITA 翁長実希選手が優勝、ランキングトップを走っていた#17三浦選手は2位で幕を閉じた。

優勝は昨年のシリーズチャンピオンである#114 RSS VITA 翁長実希選手
2位の#17三浦選手

 今回の私自身のレースを振り返ってみると、予選タイムは徐々に縮まってはきているものの、終わってみたら、いつもとあまり変わらない結果になってしまっていたことがとても悔しかった。自分の気持ちの弱さがこうした結果を導いたのだと反省するばかり。このレースウィークは土曜日のレースに参戦するチャンスをくれたチームメイトの見崎清志さんがアドバイスしてくれていたが、彼がいつも口にしている「No try, No Chance!」という精神を頭に刻んで、最終戦に挑みたいと思う。

チームメイトの見崎清志さんからアドバイスをいただいたが結果につなげられず悔しい

KYOJO CUPに経験豊富なプロドライバー目線でサポートを行なう黒澤琢弥氏に話を伺う

 世界初の女性プロレースシリーズとして発展してきた「KYOJO CUP」は、2023年の第2戦より、予選や決勝中にアクシデントが起こった際に競技長や審査員を補佐する立場として、プロレーシングドライバーの黒澤琢弥氏が就任した。レース中のアクシデントはそれぞれのドライバーの主観で言い分が異なったりして、判定が難しいことがあるが、今回の第3戦においても、接触や4輪脱輪の行為について、レースのマナーが厳しく問われる判定が下された。

藤島:黒澤さんはどんな経緯でKYOJO CUPをサポートすることになったのでしょうか?

黒澤氏:KYOJO CUPの発起人である関谷正徳さんに「ドライバーの経験から、レースの安全面を向上させるために協力してくれないか」と頼まれたことがキッカケでした。私自身はチームオーナーとして、併催されているインタープロトのチームを初年度から8年務めてきましたし、一緒に開催されているKYOJO CUPの始まりも見てきました。実はそれ以外の場でも、経験の浅いカート上がりのドライバーにレクチャーしています。アベレージスピードが高い富士スピードウェイはスキルがないと多重事故の原因になることも考えられるので、基本的な乗り方についてアドバイスをします。経験が豊富な女性ドライバーもいれば、練習があまりできない人、経験が浅い人など、タイムもポジションにも差があったりします。

予選や決勝中にアクシデントが起こった際に、競技長や審査員を補佐する立場に就任したプロレーシングドライバーの黒澤琢弥氏

藤島:黒澤さんの目にはKYOJO CUPはどのようなレースに見えていますか?

黒澤氏:女性ドライバーが同じマシンで競い合うワンメイクレースとしては、ヨーロッパで開催されていたWシリーズよりも先にスタートしていました。体格が異なる男性と女性が一緒にレースをするには筋力に差が出ますが、土曜日に富士スピードウェイで開催されているFCR-VITAのレースを見ると、タイムに男女の差はそれほどないところまできている。クルマの特性からしても、VITA-01は女性のワンメイクレースに向いていると思います。いろんなところで接近戦やバトルが繰り広げられている一方で、モニタールームで全コーナー、全方向の映像を観察していると、まだ危なげな場面が見受けられます。

藤島:危うげな行為がまかり通ってしまうことは、そこで競い合うドライバーの1人としてもリスクを感じることがあるというのが本音です。

黒澤氏:レースは前を走る人が優先。後ろから迫るドライバーが前方を走るマシンのインを刺すとき、一か八かで飛び込むことにはリスクがある。そこで接触が起こってしまったとき、たいていのドライバーは「前を走るドライバーが被せてきた」という。しかし、後ろから飛び込む側はしっかり止めて曲がれるテクニックがない限り、前を走る人に優先権があるのです。後ろからインを刺すドライバーはオーバースピードで車体の姿勢を乱すことになれば、他車を巻き込む事故につながることがある。つまり、インを刺すなら、前を走る人を邪魔せずに飛び込める状態でなければならない。当たって他の人に迷惑をかけるような行為はもはやスポーツとはいえません。

 モニタールームで確認しているポイントとしては、当てたマシンがどの向きで衝突したのか。マシンがコーナーの出口を向いている状態で接触したならばレーシングアクシデント。真っ直ぐの状態からハンドルを切り出したところで“ドンッ”と当てている場合は後方車両のオーバースピードによって起こった接触と見る。つまり後続車によるプッシングになるため、レーシングインシデントということになります。

 それが原因でスピンしたり、多重事故になったとしたら、簡単な事故では済まされません。実際にアクシデントが起こしたドライバーと話をすると、素直に聞く場合とそうでない場合がありますが、素直に聞く子は結果的に伸びていきます。

藤島:判定がどうかという以前に、安全を優先させるべきですね。

黒澤氏:私自身のキャリアを振り返ると、骨折してしまったりと、痛い思いをしてきました。怪我をせずに気持ちよく、精神的にも肉体的にもスポーツをする立場として笑顔でレースを終えてほしい。なので、言わなくていいことも、あえて小言として口に出すようにしています。

KYOJO CUPの発起人である関谷正徳さん。スタート前には参加者を激励してくれます

藤島:今回の第3戦では、決勝中に2つのペナルティが課されました。こうした判定について、どんな思いを抱かれましたか?

黒澤氏:KYOJO CUPは女性ドライバーだけでレースが成り立っていますが、今後いろんな人たちが挑戦するフィールドであり続けるためには、それぞれが成長していかなければなりません。ドライバーたちの腕が上がってアベレージスピードが速くなると、アクシデントが起こった際のリスクが高まってしまいます。ドライバーと話をする際は、何か起きたことに対して、どうして危険なのかを噛み砕いて説明をするようにしています。

 上昇志向でうまくなってきているときこそ、気をつけないとアクシデントが起こりがちです。基本的なことですが、レースのルールが記載されているH項に目を通して、キチンとルールを把握しておかないといけません。レースをするうえでどちらに優先権があるのか。そのあたりは国内のトップカテゴリーにおいても事故が起きているのが現状です。マシンは昔と比べて丈夫になってきているものの、できれば事故にならないでほしい。

藤島:黒澤さんは400km/hのインディカーレースなど、トップカテゴリーのレースも経験されています。さまざまな苦しい場面を目の当たりにしてこられたのでしょうね。

黒澤:そうした経験をもとに伝えられることがあると思っています。例えば、接触してしまった相手には謝るなど、相手の立場に立って考えたほうが気持ちのいい関係でいられます。コース上で抜くとき、抜かれるときに自分ならどう思うのか。接触して順位を落とせば、それまでの準備が台無しになってしまいます。

 今回のペナルティについても、競っている2人がここまで接触してもいいとなると、わるい方向にいくかもしれない。ここまでやってはいけないというボーダーラインを作り、マナーとしてこういう抜き方をしてはいけないと認識することが必要です。このレースは誰か1人のためのカテゴリーじゃない。多くの女性が羽ばたける場を作るうえでは、ギクシャクしないほうがいい。レースの結果が1位であっても、10位であっても、クリーンにレースをして、全体のレベルが上がっていくことを願っています。

藤島:1人の失敗も自分事として振り返ることで、レースの安全やスポーツマンシップに基づくマナーの向上に結び付いていきそうですね。ドライバーたちがこの舞台で戦えることを誇りに思えるようなレースに成長していくことを願っています。

11月26日の最終戦に向け、しっかり準備をしていきたい