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ハーマンインターナショナル、短い開発時間で車内体験を向上させる次世代エンタメプラットフォーム「Ready(レディ)」とは?
2025年4月28日 10:00
- 2025年4月23日開催
ハーマンインターナショナルは4月23日、クルマでの車内体験価値を最大化するための次世代製品「Ready(レディ)」に関する説明会を開催した。
ハーマンインターナショナルでは、自動車産業は現在かつてない変革期を迎えて、自動車への期待は性能や信頼性といった要求にとどまらず、日ごろ使用しているスマートデバイスと同様に統合され、パーソナライズされた体験を自動車に求めていると定義している。
そこで変革時代をリードするため、CES2025で革新的な自動車インテリジェンス技術を先行発表。日本市場でもソフトウェア定義車両 (SDVs) の未来を切り拓くため、OEMでの採用実績がある「Ready」製品ラインアップに新製品を投入するという。
なお、ハーマンは世界中の自動車メーカー、ユーザー向けにオーディオおよびビジュアル製品、コネクテッドカーシステムなどの設計やエンジニアリングを行なっている企業で、2017年3月には韓国のサムスン電子の完全子会社化となっている。
説明会は桑原拓磨氏によるハーマンインターナショナルの紹介から始まった。桑原氏によると、ハーマンインターナショナルとは人々のあらゆる瞬間において、技術的にも感情的にもコネクテッドエクスペリエンスを創造、提供するパワーハウスとしてのミッションを持っているという。
理念としては、日々の生活体験をより豊かにすること、そしてビジョンに関しては、テクノロジーのリーダーとして、最も満足度の高いカスタマーエクスペリエンスをあらゆる場所で提供することを目指している。そしてミッションは、グローバル規模のコミュニティで、人を中心とした技術とデザインで唯一無二の価値を創造すること。
一般ユーザーとしては、「ハーマン」と聞くと真っ先に思い浮かぶのはスピーカーブランド「ハーマン・カードン」が挙げられるが、最近では携帯端末で音楽を聴く人が増えているので、持ち運びができ、カスタマイズ可能なものも用意しているという。さらにエンドユーザーだけでなくコンサート会場やスタジアム用のスピーカーなども手掛けている。ちなみに音楽好きな人にはおなじみの「JBL」はハーマンインターナショナルのブランドであり、こちらもユーザー向けだけでなく、映画館などと一緒によりよい音響環境を作っていくようなパートナーシップも手掛けているそうだ。
今回の説明会の中心である「Ready」は、2023年に発表されたもので、こちらは自動車メーカー向けの製品となる。
概要としてはオーディオなど扱う自動車製品事業部のハーマンオートモーティブが、プラットフォームとなる製品や技術を用意して、それを自動車メーカーのクルマ作りに使ってもらうもの。サプライヤーが自動車メーカーに製品や技術を納めるのは従来からあるものだが、この「Ready」は従来のやり方とは違うのが特徴。
これまでは自動車メーカーから仕様書と呼ばれる製品の元になるものを受け取り、それに従って作り込んでいくのが主流だったが、そうした開発の進め方だと5年とか長い時間が必要だった。
自動車としての安全、安心、信頼性を保つことを考えればこの時間は必要なものではあるが、近年はあらゆる面でも技術進化が早い。身近なところではスマートフォンなどはどんどん新製品がでてきて、処理速度や通信に関する技術だけでなく、ディスプレイも綺麗になっている。
そしてクルマも針を使ったアナログメーターから、どんどんディスプレイに切り替わっているが、現在のクルマの開発サイクルでは開発中に設計したり企画したものでは、クルマが発売されるころになると、1世代前の製品となっている場合が多々ある。
そのほかにも、例えば自動車での移動中、助手席の人や2列目シートに座っている家族が、車内ディスプレイで映像コンテンツを楽しむといった時間の使い方は普通になっているが、新車にも関わらず手元のスマホのほうが映像が綺麗といった状況に陥ってしまうわけだ。
また、BEV(バッテリ電気自動車)は新たな自動車メーカーがどんどん参入しているが、こうした新進気鋭の自動車メーカーのクルマ作りは、従来の自動車メーカーと比べて、新しいモデルを投入するサイクルが短い傾向となっているなど、自動車業界全体としてものづくりの進め方に大きな変化が訪れている。
そうした状況に対して有効となるのが「Ready」である。メーターなどに使うディスプレイでは自動車メーカーが1から考えるのではなく、ハーマンとサムソンとで作り出すITテクノロジーを使用したパッケージを用意。自動車メーカーはそれを使用することで開発時間を大幅に短縮でき、さらには開発コストを下げることにもつながる。
しかし、ここで気になるのが“車種ごとの個性はどうなるか?”というもの。特ににメーターまわりはメーカーやクルマごとに個性を表現している場所だけに、ユーザーのクルマ選びにも大きな要因となる。しかし、そこに使うアイテムがどのメーカーも同じものになってしまったとすると、ユーザーとしては正直つまらないともいえるだろう。
そんな心配を持ってしまうが、Readyでは最適なハードや開発用のツールなどは用意するが、そこに表示するためのアイデアやアプリは自動車メーカーが開発をするという方式。そのため運転席に座ったときに目にする光景が画一的になることはないとしている。
ハーマンといえばオーディオのイメージが強いが、今回の会場にはBMW「X5」を使った最新コクピット、オーディオのデモも行なわれた。
シート位置ごとに音量を含めた最適な視聴環境を作る技術などを体験できたが、その機能の1つとして先進ドライバー/乗員モニタリングシステムと組み合わせることで、ドライバーの精神状態に合わせた映像や音楽を提供するというサービスも可能としている。
システムの元はReadyを使い、そこに何を載せるかは自動車メーカーが独自で行なうもので、ここで1つ思い浮かぶのがドライバーモニタリング装置との連動。
例えば交通事情によりドライバーが疲れているときに、ヒーリング系の音楽を流してリラックス効果を狙うという機能を持たせることも可能。また、その際に使用する曲は既存の曲ではなく自動車メーカーが独自にアーティストに依頼して作ったものとなれば車内のエンターテインメントの幅が広がることになる。こういった展開になるとクルマの中の環境が大きく変わっていくのではないだろうか。
また、Readyを使うことで開発の時間が短縮できると書いたが、単に短くしていくだけではなく、余裕ができた時間を使って他のことを進めることも可能になる。するとこれまで開発時間などの都合で実現できなかったアイデアなどがReadyを使うことで製品化されるのかもしれない。そうなればいま以上にクルマの車内空間は、クルマごとに個性のある場になっていくだろう。