ニュース
日産フォーミュラEチームの西川直志氏に最新マシン「GEN3 Evo」について聞く
2025年5月17日 08:00
- 2025年5月17日~18日 開催
東京・有明で5月17日~18日に開催される「フォーミュラE」シーズン11(2024/25)の東京大会「Tokyo E-Prix」(第8戦/第9戦)。その前日となる5月16日、母国レースとなる日産フォーミュラEチームはガレージを報道陣に公開し、2024年度までチーフパワートレインエンジニアを務めた西川直志氏がGEN3 Evoマシンなどについて説明を行なった。
日産は日本の自動車メーカーとして初めてフォーミュラEにシーズン5(2018/19シーズン)から参戦。現在でも日本で唯一の参戦自動車メーカーであり、2030年までフォーミュラEへの参戦を表明した最初のメーカーでもある。
そのフォーミュラEでは現在、旧型マシン「GEN3」をベースに改良された「GEN3 Evo」が2024年12月7日に開幕した2024/25シーズンより導入されている。GEN3 Evoの最大出力は350kW(470馬力)で、フロントモーター50kW、リアモーター300kWというスペック。最高速は322km/h(公称値)、0-100km/h加速は1.86秒という現行のF1マシンよりも30%速い加速性能を誇り、GEN3より約2%の性能向上を実現したことでモナコサーキットの予選ラップを約2秒短縮するなど、最高レベルのFIA公認シングルシーターレースカーとなっている。
装着タイヤはハンコックの全天候型タイヤ「iON」で、35%のリサイクル素材と持続可能な素材を使用し(GEN3と比較して9%アップ)、また5~10%グリップ力が向上している。新型ボディキットはより強靭でより空力性能に優れるほか、フォーミュラEのレーシングカーとしては初めて予選デュエル、レーススタート、アタックモード時に四輪駆動機能が利用可能となった。
ウイリアムズ製のバッテリサイズは47kWhとなるが、レースごとに使えるエネルギーをFIAがその都度決める仕組みになっている。Tokyo E-Prixで定められている使用可能なエネルギーは32kWhとのことで、これは実際にレースをご覧になったことがある方はご存じかもしれないが、レース終盤になるとエネルギー残量が減って0%に近い形(または0%)になるが、これは47kWhをすべて使い切っているわけではなく、FIAがレースごとに定めるエネルギー量に対するパーセンテージになるという。ただしシステム上、使っていいエネルギーが0%になるとパワーをシャットダウンしなければいけないルールになっているそうだ。
ではGEN3 Evoで共通する部品、競争分野の部品はどこかと言うと、バッテリ、シャシー、ボディ、ダンパー、スプリング、そしてフロントのパワートレーン(モーター、インバーター、ギヤボックス)が共通部品となる。リアのモーターに関しては各参戦マシンで異なる部分となり、そのため前後モーターの回生バランスといったエネルギーマネジメントにも深くかかわってくるという。
そのほかブレーキについては、フロントはディスクブレーキが付き、リアはエマージェンシーブレーキのみといい、西川氏は「基本的にブレーキするときはエネルギーを回生したいのでモーターのブレーキを使いますが、『やっぱりフロントにもっとブレーキをかけたい』というときはディスクブレーキを掴みにいく。そうすると何が起こるかというと、エネルギーの回収という点で不利になるので、このときは車両の挙動を優先してフロントでいっぱいブレーキをかけるのか、やっぱりエネルギーを貯めたいから車両の挙動よりもリアで回生する方法を優先するのか、というのを刻々と考えながら運転するというのがフォーミュラE」と、そのドライブの難易度の高さについて語った。
ちなみにモーターの最大電力回生量は600kWとのことで、現時点のバランスはフロントが250kW、リアが350kW(前後バランスは変更可能)。効率にすぐれるのはリアモーターのため、リアで回生すればするほど戻ってくるエネルギー量が多くなる。一方で車両姿勢という点で言うとリアだけでのブレーキだと不安定になるため、そのバランス取りを常に考えなければならないという。Tokyo E-Prixでは実際にレースで使っているエネルギーのうち、約45%が回生で得られたエネルギーになるとのこと。
なお、2026年~2027年に開催されるシーズン13から2029年~2030年のシーズン16では、第4世代となる「GEN4」マシンが導入される。GEN4マシンには最先端の技術が採用され、エネルギー効率はさらに向上し、回生量は最大700kW、最大出力は600kWに達する見込みだ。
日産が5月13日に発表した2024年度通期決算、経営再建計画「Re:Nissan」の説明会で明かされたとおり、2024年度は当期純利益が-6709億円となり、今後固定費と変動費を計5000億円削減すること、人員を2万人削減すること、日本を含め車両生産工場を17から10へ削減するといった厳しい対策を実施していく。こうした状況の中、フォーミュラEに出場する理由として西川氏は「フォーミュラEが転戦する各地にディーラーを持つので、ファンの皆さまの前で電動化の重要さを見せたい。またEVならではのエキサイティングでワクワクするようなドライビングを見せたい。あと、やはりフォーミュラEで培われたテクノロジーというのをいかに市販車に活かし、お客さまに喜んでいただけるクルマを作っていくかというところにつなげていくのも重要だと思っています」と説明する。
今季、日産フォーミュラEチームは7戦中3勝という結果を出しており、ドライバーランキングでオリバー・ローランド選手が首位、チームランキングで2位につけている。この週末の「Tokyo E-Prix」でも引き続き強さを見せ、すばらしい結果が聞けることを期待したい。