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Arm、AIデファインド・ビークルに向けたIPデザイン群「Zena CSS」発表 AI定義の自動車開発に備えるAIプラットフォーム

2025年6月4日 発表
アーム株式会社 代表取締役社長 横山崇幸氏

 ソフトバンク・グループの子会社で、CPUやGPUのIPデザイン(設計図のようなもの)を半導体メーカーに提供しているArmは、6月4日(米国時間)に報道発表を行ない、新しい自動車向け半導体のIPデザインとなる「Zena CSS(Arm Zena Compute Subsystems)」を発表した。

 Armは5月に、AI時代に向けた新しいブランドネーミングルールを発表しており、インフラストラクチャ向け「Neoverse(ネオバース)」、PC向け「Niva(ニーバ)」、モバイル向け「Lumex(ルメックス)」、IoT向け「Orbis(オービス)」、自動車向けは「Zena(ジーナ)」が導入されることを発表していたが、今回発表された「Zena CSS」はその最初の製品となる。

 CSS(Compute Subsystems)は、SoC(1チップでコンピューターを構成できる半導体製品)を半導体メーカーなどがより簡単に設計できるようにパッケージ化されたIPデザイン群になり、あらかじめその組み合わせで動作することなどが確認されているため、半導体メーカーが設計に入ってから実際の製品として出荷するまでにかかる時間が、従来製品に比べて約12か月短縮されるとArmは説明している。

Armにとって自動車市場は成長領域で、日本は重点市場だとアーム 横山社長

Armが発表したZena CSS

 日本にあるArmの子会社アームの代表取締役社長 横山崇幸氏は「Armにとって自動車は成長領域になっている。中でも日本市場はArmにとって自動車向けで最も注力している市場だといってもいいぐらいだ」と述べ、Armにとって自動車事業は他の領域に比べても成長が著しい市場で、特に日本には大手自動車メーカー、ティアワンの部品メーカーなどが多く存在している市場であるため、非常に力を入れて営業活動などが行なわれている市場だと説明した。

 そうしたArmが今回発表したのが「Zena CSS」で、2024年にArmが発表したNeoverse V3AE、Cortex-A720AE、Cortex-A520Aなどの後継製品となる。2024年の製品では、それぞれCPUなどに名称がつけられており、プラットホーム全体の名称というのはなかったのだが、今回から「Zena CSS」というIPデザイン群全体のブランド名が冠されることになった。

Zena CSSを採用することで、開発リソースは20%、開発期間を12か月短縮できる

 横山氏は「CSSとは高い信頼性を持つプラットホームのことを意味しており、直ちに製品化に利用できる設計を提供する形になっている。半導体を設計するエンジニアリングリソースは約20%削減可能で、さらにSoCの開発期間を約12か月短縮できる効果がある」と述べ、CSSという単品ではなく、セットメニューとして提供することで、半導体メーカーの開発リソースの削減や、開発期間の短縮といった効果があると説明した。

 続けて「自動車向けの高性能SoCは年々大規模になってきており、大手半導体メーカーでも苦労して設計している状況。CSSをご利用いただくことで、短期間での設計が可能になる」と述べ、半導体専業の企業だけで、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどが自前で開発することが増えているのが自動車向けSoC市場で、そういう場合にも開発期間を短縮できるのだとメリットを説明した。

自動車はSDVからAIDVへと進化することが見込まれている
グローバルな自動車メーカーのうち94%がArmを採用している
Armを採用している自動車メーカー、部品メーカー

 横山氏は「自動車向けの半導体は、すでにSDV(Software Defined Vehicle)はあたり前になってきて、それを超えてAIによって定義される時代になってきている。その時代に向け新しい世代のSoCを開発することが重要だ」と述べ、すでに94%のグローバルの自動車メーカーがArmを採用しており、さらにEVに限れば100%のEVメーカーがArmを採用していると強調した。

Zena CSSは、16コア「Cortex-A720AE」「CMN S3AE」「Cortex-R82AE」「TrustZone」の4つの構成

Armオートモーティブ事業部門 GTM・アライアンス担当 バイスプレジデント ブルーノ・プットマン氏

 Armオートモーティブ事業部門 GTM・アライアンス担当 バイスプレジデント ブルーノ・プットマン氏は、Zena CSSが開発された背景として「今後自動車はSDVからAIDV、すなわちAI定義の自動車になっていくと考えられており、Zena CSSはそうした時代に備えたソリューションとなる」と述べ、AI時代の自動車を開発するための半導体を構築するIP群としてZena CSSを提供するのだと説明した。

Zena CSSの構成

 プットマン氏によれば、Zena CSSは、16コアの「Cortex-A720AE」と、CPUとCPUを接続するインターコネクトになる「CMN S3AE」、機能安全を実現するリアルタイムプロセッサーの「Cortex-R82AE」、さらに「Arm TrustZone」と呼ばれるセキュリティプロセッサの4つから構成されており、これらがすでに動作検証が済んでおり、半導体メーカーはその4つには手を入れる必要がなくSoCを設計できる。

 極端な話、「Cortex-A720AE」「CMN S3AE」「Cortex-R82AE」「Arm TrustZone」の4つだけでSoCを構成する場合には、ファウンダリー(受託生産半導体メーカー、TSMCなど)のプロセスノード(製造技術)に物理的に落とし込む作業だけでテープアウトと呼ばれる、半導体を製造するのに必要なマスク作成にまで短期間でこぎ着けられる。そうしたことから、約12か月開発期間を削減できるとArmでは説明しているのだ。

必要な場合にはGPUとNPUは別途用意する必要がある。

 ただし、Zena CSSは、GPUやNPUといったAIDV向けSoCを構成するのに必要なプロセッサは用意されていない。このため、実際にはArmが提供する「Mali GPU」や、他社のGPUなどのIPデザインを買ってきて統合する必要がある。NPUに関しては、現状自動車グレードのNPUはArmから提供されていないため、自社で設計する、ないしは他社のIPデザインを買ってくる必要がある。

複数のZena CSSを1つのSoCに搭載することで伸縮できる

 Armによれば、こうしたZena CSSは、SoCの中に1つだけでなく、2つ、3つと伸縮させて使うことも可能で、例えば、2つのZena CSSを利用すると、32コアのCortex-A720AEというCPU構成を実現することが可能になる。標準構成の1つの「Zena CSS」ではレベル2+のADASやIVIなどの用途が検討されているが、2つの「Zena CSS」の構成を取ると、自動運転などに向けたSoCとして活用することが想定されるとArmでは説明している。

AWSがGravitonベースで提供している仮想設計環境上で設計できる

 また、AWS(Amazon Web Services)とArmが協業して提供している、AWSのArm CPU(Graviton)を利用して提供されている、クラウド上でのバーチャル設計の仕組みを利用でき、Gravitonを利用してZena CSSの設計をクラウド上で仮想的に行ない、動作検証を行なうことが可能になる。それを正式な提供前から行なうことで、提供開始と同時に製品化を目指すなどの開発期間の短縮も可能だ。

 Zena CSSはすでに一部の先進的な顧客には提供済みで、一般向けには9月から提供開始される予定。バーチャル開発ではすでに開発できる環境が整っており、9月の提供開始に向けて開発を始めることが可能ということだった。