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東海大学、2011年以来となるタイトル奪還を目指す「Bridgestone World Solar Challenge 2025」参戦体制発表会 新型ソーラーカーの走行も披露

2025年6月16日 開催
参戦体制発表会後に試走を披露した東海大学 ソーラーカーチームの新型ソーラーカー「Tokai Challenger」

 東海大学は6月16日、8月にオーストラリアで開催される世界最大級のソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge 2025」(BWSC2025)の参戦体制発表会を神奈川県平塚市にある湘南キャンパスで開催した。

 東海大学のキャンパスライフサポートセンター ソーラーカーチームは、ものづくりの楽しさや素晴らしさを多くの人に伝え、未来を担う若者たちの理科離れを防ぐことを目的として、学部・学年の枠を越えて学生が集まり、企画から工程管理・組織運営まで学生主体となってソーラーカーレースに参戦。数多くの世界大会で好成績を収めてきている。また、湘南キャンパス周辺にある小学校に通う児童を対象とした「エコカー教室」を開催したり、商業施設やイベント会場に出展するといった社会活動にも積極的に取り組んでいる。

 BWSC(Bridgestone World Solar Challenge)は1987年から2年に1度のスパンで開催され、太陽光のみを動力源として利用するソーラーカーによるレース。オーストラリア北部にあるダーウィンから南部のアデレードまでの約3000kmを縦断する総走行時間で競技が行なわれる。今大会で16回目となり、東海大学 ソーラーカーチームはこれまで2度の総合優勝を果たしている。今年度は18か国から37チームが参加。8月18日の静的車検で開幕し、8月24日にレースがスタート。8月28日にアデレードでのゴールが予定され、8月31日に表彰式が実施されるスケジュールとなっている。

 当日は今年度の参戦体制について発表されたほか、参戦に向けて製作された2025年仕様の新型ソーラーカー「Tokai Challenger」が試走を行なった。

2025年のBWSC(Bridgestone World Solar Challenge)に参戦する新型Tokai challengerと東海大学のチームメンバー
2025年仕様のTokai Challenger。前回大会の2023年モデルと同じくフロント2輪、リア1輪の3輪仕様によるモノハル型を採用している
けやき並木で彩られたキャンパス内・中央通りで新型Tokai Challengerの試走が披露された
まだようやく走行できる状態になったばかりという新型Tokai Challenger。足まわりなどのセッティングもこれから煮詰めていく状況だけに、万が一のトラブルを避けるため比較的ゆっくりとしたペースで走行していた

ソーラーカーのボディサイズとソーラーパネルの搭載面積が拡大

東海大学 キャンパスライフセンター ソーラーカーチーム 総監督(工学部 機械システム工学科 准教授)佐川耕平氏

 発表会で登壇したソーラーカーチームの総監督を務める佐川耕平氏は、BWSCの開催概要やチーム体制などについて説明したほか、東海大学における参戦目的が「カーボンニュートラル社会の実現に向けて注目されている再生可能エネルギーと次世代モビリティの可能性を追求し、ソーラーカーレースで培った技術を社会に還元すること」だと説明。これに加え、協賛企業との協業による産学連携で開発した技術による、2011年以来となるBWSCのタイトル奪還も目的として掲げた。

東海大学 ソーラーカーチーム 広報班 リーダー(経営学部 経営学科 3年次生)鬼頭優菜氏

 今大会からのレギュレーション変更、2025年仕様となる新型Tokai Challengerの技術概要などについて、ソーラーカーチームの広報班 リーダーである鬼頭優菜氏が説明。

 これまでBWSCは、南半球にあるオーストラリアの初夏である10月に例年開催されてきたが、今大会から開催時期を冬期に8月にスケジュールを変更。これによって日射量も減り、平均気温も低い難しいコンディションでのレースになることが予想されている。

 車両のレギュレーションでは、車体サイズの規定がこれまでの5000×2200×1600mm(全長×全幅×全高)から、それぞれ拡大となる5800×2300×1650mm(全長×全幅×全高)に変更。これに合わせてソーラーパネルの搭載可能面積が4m 2 から1.5倍の6m 2 に増加している。一方、バッテリは従来種類ごとに許容セル総重量が定められていたが、今大会から種類を問わず最大バッテリ容量が11MJ(約3kWh)に統一。これは従来と比較してバッテリ容量が半減することを意味すると説明された。

開催時期が2か月前倒しになったことで、日射量と平均気温が低下
車体サイズの規定はこれまでより拡大
ソーラーパネルの搭載可能面積も1.5倍に増えた
最大バッテリ容量は種類を問わず11MJ(約3kWh)に統一

 このほかにも車両のレギュレーションでは、今大会から車両前後のオーバーハングをホイールベースの60%以内に収める規定が追加。この規定をクリアするため、新型Tokai Challengerはロングホイールベース化を行ない、フロントオーバーハング1200mm、ホイールベース2900mm、リアオーバーハング1680mmとしている。

 また、オーストラリア特有の道路事情である「スピードハンプ」に対応するため、従来は最低地上高が設定されていたが、今大会から一定形状のスピードハンプ乗り越えの規定に改められた。これにより、フロア下の形状設計で自由度が高まり、競技性が向上している。

前後オーバーハングはホイールベースの60%以内とする規定が新設
スピードハンプ乗り越え規定も新設された

 このようなレギュレーション変更に対応するため、新型Tokai Challengerでは「基本形状の検討」「空力性能の向上」「エネルギーマネジメント」といった3点で対策を実施。

 ソーラーカーレースでは主にカタマラン(双胴船)型とモノハル(単胴船)型のレース車両が参戦しているが、チームによる性能比較で自分たちが有する高い発電予測技術と空力技術を活用することで、運動性能が高く安定した走行を可能とするモノハル型でも高い性能を実現できると判断して採用した。

新型Tokai Challengerで取り組んだ3つのポイント
新型Tokai Challengerはモノハル(単胴船)型を採用

 空力性能の向上では、新たなレギュレーションによる車体の大型化とロングホイールベース化で従来よりも空気抵抗が増加。また、最低地上高の規定がなくなったことでフロア下の形状がこれまで以上に空気抵抗に大きく影響を及ぼすことになった。

 チームでは従来からのアドバンテージである空力技術をさらに進化させており、協賛企業であるトヨタシステムズから提供された計算機資源の活用によって100ケース以上の形状検討を実施。機械学習も併用して効率よく高度な開発を進めることができたという。これによって独自の床面形状を実現し、このほかにも多岐に渡る工夫を採用して優れた空力性能をしているとアピールした。

レギュレーション変更に対応して競争力を高めるため、シミュレーション解析で独自の床面形状を実現

 エネルギーマネジメントでは、太陽光を受けて発電するソーラーパネルの搭載可能面積が増えた一方、電力を蓄えておくバッテリ容量は実質的に半減しており、レースではエネルギーマネジメントや天候予測が結果に大きく影響すると想定。

 天候予測では東海大学内にある「情報技術センター」からの支援を受け、気象衛星「ひまわり」を活用したリモートセンシング技術で詳細な日射量、風速分布といった気象データを入手。これによって最適なエネルギーマネジメントを実現するとした。

バッテリ容量の実質半減により、日照による発電と残量管理はより重要な要素となった
従来から続く東海大学「情報技術センター」の支援が大きなアドバンテージになる

 また、今大会の参戦でもメインスポンサーを務める東レ、東レ・カーボンマジックなど多数の企業が協賛。多種多様なサポートに対する感謝の言葉を述べ、産学連携による取り組みで2011年以来となる王者奪還を目指すと語った。

2025年度の参戦でも数多くの企業が協賛している
協賛企業と協賛内容
東海大学 ソーラーカーチーム 機械班/ドライバー(大学院 工学研究科 機械工学専攻修士 1年次生)小平苑子氏

 また、今大会では車両製作に加えてドライバーとしても参加する小平苑子氏も参戦の意気込みをコメント。初めて参加した2023年大会では5位完走を果たし、当時は満足感を得ていたが、そこからさらに2年活動を続けるなかで結果に対して悔しさを感じるようになっていき、次の大会を2か月後に控えた現時点では「今年こそは、2023年に自分たちの前を走っていたチームよりも早くアデレードに着きたい」という気持ちになっていると説明。日本でやれる作業はすべて完璧に終わらせて万全な状態でオーストラリアに向かい、現地ではメンバー全員の力を100%出し切って優勝したいと語った。

BWSCは“若者応援”と位置付けて続けている

東海大学 学長 木村英樹氏

 発表会の冒頭では東海大学 学長 木村英樹氏が開会のあいさつを実施。木村学長は長年に渡って東海大学のソーラーカーレース参戦に携わってきており、4月からは学長に就任しつつ、引き続きソーラーカーチームの監督も務めている。

 木村学長は大学の紹介とソーラーカーレース参戦の歴史などについて解説したあと、「東海大学の学長としてチャレンジする学生たちを応援したいと思っています。ぜひ皆さんにはオーストラリアで、優勝、というとプレッシャーが大きくなりすぎるかもしれませんし、私ももともとこのチームの総監督をしていたこともあって、現在でも監督という立場にありますので、優勝する難しさは重々分かっていますが、チャレンジしなければなかなか手が届くものでもありません。そういった気概を持って挑戦してもらえればいいなということで、あいさつに代えさせていただきたいと思います」とエールを贈った。

株式会社ブリヂストン グローバルモータースポーツオペレーション部門長 内田達也氏

 BWSCのタイトルスポンサーで、東海大学チームの協賛企業でもあるブリヂストン グローバルモータースポーツオペレーション部門長 内田達也氏は、大きく変更されたレギュレーションに対応する新型車両の完成を祝い、開催時期が変わってレース展開にも変化が生まれるであろう今大会で新型Tokai Challengerが活躍することに対するワクワク感が止まらないとコメント。

 ブリヂストンではBWSCのタイトルスポンサーになることで環境問題に取り組むことに加え、将来を担っていく若者たちがレースに参戦することをサポートしたいと考えており、「最高の品質で社会に貢献」という使命を掲げて2050年までにサステイナブルなソリューションカンパニーを目指していくビジョンでさまざまな活動を実施。学生たちの人材育成は将来につながる持続可能な社会に向けた“若者応援”と位置付けて続けていると説明した。

 また、BWSCはブリヂストンタイヤのワンメイクではなく、参戦チームがタイヤを選んで装着することが可能となっており、ブリヂストンのタイヤサプライヤーとして競技に参加。2013年の参戦当初は1チームのみの装着だったが、現在では9割以上となる33チームがブリヂストンタイヤを採用しており、2015年からタイヤ供給を行なっている東海大学チームは、2019年からは開発パートナーとなっている。BWSCは公道で行なわれるレースであり、3000kmのコースを安全第一で走りつつ、それに加えて“電費”も向上させていくことが求められ、チャレンジングなレースになっていると取り組みの意義を語った。

 33チームに供給する2025年仕様のBWSC向け「ENLITEN」技術搭載タイヤは、2023年仕様から再生資源・再生可能資源比率をさらに高めたほか、新たに「タイヤからタイヤに」というコンセプトを設定。タイヤの内部で使われていたスチール材を再生スチールとしてビードワイヤーとして採用したり、カーボンブラックもタイヤの処理で発生した素材から再生カーボンブラックとして回収。BWSC向けタイヤに使用して、将来的にはこのようなサーキュラーエコノミーが一般化した社会になってほしいとの願いを込めた取り組みになっているという。

東レ株式会社 トレカ事業部門 産業材料部 部長 足立大輔氏

 東海大学チームのメインスポンサーを務める東レのトレカ事業部門 産業材料部 部長 足立大輔氏は「東レグループでは中期経営課題『プロジェクト AP-G 2025』でサステナビリティビジョンを掲げ、世界が直面している発展と持続可能性の両立を巡る地球規模の課題に対して、われわれが開発している先端材料、革新的な技術を提供することで社会に貢献していくことを目指しています」。

「新型Tokai Challengerにも使われている炭素繊維はまさしくその活動の中核を成すグリーンイノベーションの素材で、風力発電の羽や航空機、天然ガスや水素などを保管する圧力容器など、新エネルギーに関わるさまざまな分野の構造体に幅広く使われている素材です」。

「その炭素繊維でソーラーカーを作っていただき、車体の軽量化で車両全体の性能が向上して、8月のBWSCで東海大学チームが活躍することにわれわれが少しでも貢献できれば大変うれしく思います。皆さん順位を大事に考えられていると思いますが、皆さんが安全にレースを完走して、無事に日本に凱旋されることを心より祈念しております」とレースの無事を祈った。

東レ・カーボンマジック株式会社 代表取締役社長 奥明栄氏

 新型Tokai Challengerのカーボンボディ製造を手がけた東レ・カーボンマジックの代表取締役社長 奥明栄氏は「私どもは東レの炭素繊維を使っていかに軽量な構造で製品を造れるかというところを生業の柱にしております。ソーラーカーはそのような超軽量化技術の象徴的な製品であり、2011年からこれまでに、今回のTokai Challengerで7作目になりますが、毎回そのときどきの新機軸を盛り込んで軽量化を図って、チャレンジングな題材として活用させていただいております。そんな7代目ということで、かなり熟成されてきている感があります」。

「とくに前回の2023年モデルはなんとしても軽量化をということで、かなり尖った技術を投入して軽量化が実現されました。しかし、やはりソーラーカーレースは非常に過酷で予期せぬトラブルが起きたり、信頼性の面にリスクがあってはならないということで、今回は2023年モデルから投入した新技術を熟成する方向性で信頼性を向上させ、最適化した構造になっております」とカーボンボディ開発について説明した。

2025年仕様の新型Tokai Challenger

新型Tokai Challengerのボディサイズは5780×1540×1010mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2900mm。車両重量は150kg(推定値)
ボディの側面に協賛企業のロゴマークが並ぶ
タイヤは2023年仕様のBWSC向けENLITEN技術搭載タイヤを装着していた
ボディサイズの拡大と合わせてソーラーパネルの搭載可能面積が6m2に増加
LEDヘッドライトを搭載する
空力解析で最適化された複雑な形状のキャノピーを備える
試走後にはボディ上部が開放され、内部構造も披露された
新型Tokai Challengerの運転席
カーボン製のステアリングにデジタルメーターを配置
簡素な操作パネル類から軽量化の苦労が見て取れる
本来ならソーラーパネルの基盤から運転席後方のコントロールユニットにケーブル接続されているはずだが、発表会までに作業が間に合わず、試走はバッテリに充電した電力で行なわれた
取り付けたソーラーパネルを支え、走行風で変形して空力性能が変化しないようしっかりとしたカーボン材の補強が施されている
ボディ上部を支えているカーボンロッドは、実はカメラ用の三脚を分解して流用したもの。車両の前方側が回転式、後方側がレバー式のロックとなっていた