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ソーラーカーの最新技術と未来を語る「ブリヂストン ソーラーカー サミット 2023」 東海大学の新型ソーラーカーも試走

2023年8月29日 開催

東京都小平市にある「ブリヂストン イノベーション パーク」内のテストコースを試走する新型「Tokai challenger」

 ブリヂストンは8月29日、太陽光を動力源とする“最もサステナブルなEV”であるソーラーカーの最新技術と未来を解説するイベント「Bridgestone Solar Car Summit(ブリヂストン ソーラーカー サミット)2023」を開催した。

 オーストラリアで10月22日~29日の期間に開催されるソーラーカーレース「BWSC(Bridgestone World Solar Challenge)2023」に先立って行なわれたこのイベントでは、第1部でBWSCに参戦している東海大学、ブリヂストン、東レ・カーボンマジックの担当者による講演やクロストークセッションが行なわれ、第2部では東海大学のBWSC参戦体制や新型ソーラーカー「Tokai challenger」について発表。さらに新型ソーラーカーの試走シーンが公開された。

2023年のBWSCに参戦する新型Tokai challengerと東海大学のチームメンバー
試走終了後の新型Tokai challenger
【東海大学】テストコースを試走する新型ソーラーカー「Tokai challenger」(6秒)

第1部 開会のあいさつ

株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長 堀尾直孝氏

 イベントの第1部では最初に、ブリヂストン モータースポーツ部門長 堀尾直孝氏があいさつに立ち、ブリヂストンがBWSCに取り組む意義やBWSCの開催概要などについて紹介した。

 堀尾氏は、ブリヂストンではBWSCを「極限への挑戦を通じて未来のモビリティ人材を育て、次世代の革新技術を生み出すオープンプラットフォーム」と位置付け、2013年からタイトルスポンサーを務めていると説明。走行中にCO2を排出することなく、太陽光があればいつまでも走り続けることが可能なソーラーカーは高い潜在能力を持ち、「最もサステナブルなEVとして、持続可能なモビリティの可能性を広げる重要な存在になる」との考えを示した。

BWSCは「極限への挑戦を通じて未来のモビリティ人材を育て、次世代の革新技術を生み出すオープンプラットフォーム」
ソーラーカーは走行中にCO2を排出することなく、太陽光があればいつまでも走り続けることが可能な「最もサステナブルなEV」

 BWSCはそんなソーラーカーの持つポテンシャルをさらに広げ、価値と高めていく場になると述べ、レースで競うことによって高いエネルギー効率と安全性が求められ、世界最高峰のソーラーカー技術が集結して持続可能なモビリティの革新的な次世代技術の競争が繰り広げられているとした。また、世界各国から参加する40以上のチームは大学や企業による“産学共創”となっており、多彩なエンジニアが切磋琢磨することがオープンプラットフォームにつながっていくとアピールした。

 ブリヂストンがBWSCを支援する理由としては、ブリヂストンではサステナブルなモータースポーツを推進しており、BWSCを通じて技術の極限に挑戦していると解説。環境性能と運動性能を高次元で両立する次世代の革新技術開発を進め、持続可能なモビリティ社会の実現を支えていき、この挑戦によって未来に向けて多くの人に走るワクワクを提供してモータースポーツ文化を発展させ、持続可能なモビリティの実現に貢献していくことを目指していると説明した。

BWSCはソーラーカーの革新技術が競技によって生み出され、大学や企業による“産学共創”も大きなポイント
BWSCによって「モータースポーツ文化の発展」と「持続可能なモビリティの実現」を目指す

 また、堀尾氏は今年度のBWSCについても説明。例年どおり、オーストラリアの北部にあるダーウィンからスタートし、大陸を縦断する約3000kmを走って南部の都市であるアデレードのゴールを目指すレースとなり、今年は20以上の国と地域から約40チームが参加して10月22日~29日に開催。日本からは東海大学、工学院大学、和歌山大学、名古屋工業大学、呉港高等学校の5チームが参戦を予定している。

 なお、ブリヂストンでは同日に発表した再生資源・再生可能資源比率63%を実現する「ENLITEN(エンライトン)」技術搭載のモータースポーツ用タイヤを35チームに供給。レースで競い合うマシンを足下からサポートする。

BWSC 2023の開催概要
ブリヂストンでは参加する約40チームのうち、35チームにENLITEN技術搭載タイヤを供給
会場ではENLITEN技術搭載タイヤも展示された

持続可能なモビリティの可能性を広げる、ソーラーカーへの期待について

東海大学 工学部 機械システム工学科 教授 日本エネルギー学会 理事&フェロー 木村英樹氏

 堀尾氏によるあいさつに続き、参戦チームの監督も務めてBWSCに長年にわたり参加している東海大学 工学部 機械システム工学科 教授 木村英樹氏が、ソーラーカーのレース車両や周辺技術の進化について講演を行なった。

 BWSCについて木村氏は、モータースポーツでありながら、サステナブルな社会の実現に向けて知恵を絞って考えていく「ブレインスポーツ」だと紹介。また、新しいエンジニアを育成する場であり、先端技術のショーケースとしての役割も持っており、参加チーム同士での情報交換も行なって、堀尾氏が指摘したオープンプラットフォームとしての機能も果たしているとした。

 レースで使用されるソーラーカーの具体的な進化では、東海大学が初参戦した1993年と前回開催の2019年のマシンを比較して、四半世紀での変化を解説。最初のマシンでは8m 2 の太陽電池を搭載して45~50km/hの平均速度で走行していたが、2019年マシンでは太陽電池が4m 2 と半減しながら、90km/hでの走行を可能としている、

 この進化には太陽電池の発電性能に加え、モーターやインバーターの改良、ボディの軽量化、空気抵抗の低減、バッテリの蓄電性能の向上、タイヤの転がり抵抗係数の低減、運行戦略の高度化など、さまざまな部分での進化が要因。また、オーストラリアの公道を使ってレースを開催していることから、近年はレギュレーション調整によって参加車両が90km/h程度で巡航走行できるよう設定されているという。

1993年の初参戦から四半世紀でソーラーカーはさまざまな部分で進化を遂げた

 要素技術ごとに見ていくと、太陽電池では変換効率が16~17%程度だったところが現在では23~24%と1.5倍ほどに向上。技術的には基板が「p型」から「n型」に変わり、従来はパネルの表面にレイアウトされていた電極が裏面配置に変わって光の当たる面積が拡大。低温プロセスで結晶性を保つことでも変換効率が高まっているという。

 モーターもギヤで減速を行なうチェーンドライブ方式からダイレクトドライブ方式に変わって伝達ロスを低減。電磁石の鉄芯がケイ素鋼板コアからアモルファスコアになり、マグネットワイヤーも丸線から平角線に切り替わったことなどの進化により、変換効率は90%から98%と100%に近づいている。

太陽電池では変換効率が16~17%程度から23~24%に向上
モーターの変換効率は90%から98%まで高まっている

 また、「なにより大変だった部分」というのがタイヤ。初期のころはソーラーカー向けのタイヤは存在せず、自転車やバイクのバイアスタイヤを流用していたが、現在ではソーラーカー専用のラジアルタイヤになったことで、転がり抵抗は競技用自転車向けのタイヤと比較して半分以下になったという。この進化は劇的だったと木村氏は語り、「軽量化で車重を半分にするのと同じと言える効果がある」と評した。

 車体では、初期の金属パイプで組み上げたフレームからCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に変わり、CFRPの構造自体も大きく進化。高弾性、高強度な素材が登場して軽量化が進み、2019年マシンはバッテリ込みでも車両重量140kg程度を実現している。

 空力開発は、1990年代はスケールモデルを使った風洞試験を行なっていたが、実物であるスケールモデルを都度起こす必要があって試行錯誤の足かせになっていた。これが現在では3DモデルによるCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)解析になり、サーバーの計算能力が向上したことも受けてCd値が大きく改善。自身でも「空力的にはあり得ないこと」と半信半疑ながら、「Cd値が0.10を切るか切らないかぐらいになっていないと説明がつかない領域になっている」と現状を紹介した。

自転車やバイクのバイアスタイヤ流用から専用のラジアルタイヤになったことで、転がり抵抗は半分以下になった
車体はパイプフレームからCFRP製になり、2019年マシンはバッテリ込みでも車両重量140kg程度を実現
スケールモデルを使った風洞試験からCFDになり、試行錯誤が容易になってCd値は大きく改善
新型Tokai challengerの空力解析データ。車両が通過しても空気の壁に乱れが少ないことが見て取れる

 東海大学には「情報技術センター」「宇宙情報センター」があり、参戦当初から衛星画像を使った雨雲情報などの支援を受けていたが、気象衛星「ひまわり」の代替わりに伴って画像の高精細化、カラー化などの進化で細かな雲の状態まで把握できるようになっていった。また、現在のひまわりでは観測に19バンドを使っており、この観測データを合成することで雲の光学的な厚さ、水滴や氷の粒などの大きさを推定して地表での日照量を導き出してソーラーカーの運行支援に利用している。

 このほかにもリチウムイオン電池の登場やバッテリ管理システムの進化など、多彩な要素を組み合わせてエネルギー利用の効率化を進め、前出のような大幅な進化を実現したという。

従来はモノクロの画像データで雨雲の様子をチェックしていたが、現在ではカラー化され、地表での日照量まで算出して運行支援できるようになっている
多彩な技術の進化によってより効率的なエネルギー利用を実現。ソーラーカーの走行性能を飛躍的に高めている

ブリヂストンのBWSCにおける取り組み

株式会社ブリヂストン モータースポーツ開発部門 MSタイヤ設計第1課 木林由和氏

 ブリヂストン モータースポーツ開発部門 MSタイヤ設計第1課 木林由和氏は、BWSCに向けたタイヤとして同日発表したENLITEN技術搭載タイヤの技術詳細を説明。

 まず前提として、BEV(バッテリ電気自動車)ではそれまでの乗用車で必要とされてきたタイヤ性能に加え、軽量化や転がり抵抗の大幅な低減による航続距離の延伸、資源生産性の向上や耐摩耗性、耐久性を高めて環境負荷を低減することが求められ、複雑な性能をモデルごと、ユーザーごとにカスタマイズして実現する必要がある時代になっていると解説。

 BWSCでは、「限られた電力で長距離を走り切る低電費性能」「レースを走り切れる耐久性能」がタイヤに求められ、この実現に向けて導入されることになったENLITENはBEV時代のニーズを満たすため、性能の大幅向上によってエッジを効かせる「究極のカスタマイズ」を実現しているという。

BEV(バッテリ電気自動車)では航続距離の延伸、環境負荷の低減も求められ、モデルごと、ユーザーごとのカスタマイズが必要になると木林氏は解説
BWSCでは過酷なオーストラリアで3000kmを走破するため、「低電費性能」「耐久性能」がタイヤに求められる

 ENLITENではそれまでの製品で実現していた要素ごとの性能を落とすことなく拡大することをベースとしつつ、モデルやユーザーによって異なる要求性能を大きく高めることで究極のカスタマイズを実現しており、BWSC用のタイヤでは参加チームのニーズを反映して、低転がり抵抗、耐摩耗性能、軽量化といった性能に特化することでエッジを効かせている。

 また、再生資源、再生可能資源の使用比率を前回の2019年大会で参加チームに供給したタイヤの30%から63%に向上。「再生スチール」「再生有機繊維適用補強材」「再生カーボンブラック」「再生ゴム薬品」「再生オイル」などを使っており、クルーザークラス向けタイヤではさらに「もみ殻由来シリカ」「タイヤ熱分解油由来カーボンブラック」も導入してサステナビリティへの貢献も実現している。

 このほか、バリューチェーン全体でのサステナブル化を目指し、今大会では「低炭素なタイヤ輸送」にも取り組む。このため、DHLの「GoGreen Plusソリューション」を活用して100%カーボンニュートラルな輸送を実現する。

 最後に木林氏は、「BWSCにタイヤ供給を行なうことを通じ、世界中の学生と共に持続可能なモビリティ社会に寄与する革新技術を生み出すことにブリヂストンは挑戦していきたい」と意気込みを語った。

ENLITENでは要求性能を特化して高めることで「究極のカスタマイズ」を実現
BWSC用タイヤでは低転がり抵抗、耐摩耗性能、軽量化といった性能に特化
再生資源、再生可能資源の使用比率も63%まで高め、100%カーボンニュートラルな輸送を実現してバリューチェーン全体でのサステナブル化を目指す

東レ・カーボンマジックのBWSCにおける取り組み

東レ・カーボンマジック株式会社 代表取締役社長 奥明栄氏

 東海大学のソーラーカーであるTokai challengerの車体に使われるカーボンパーツを供給している東レ・カーボンマジックの代表取締役社長である奥明栄氏も同社のBWSCに対する取り組みについて説明。

 東レ・カーボンマジックと言えば、国内最高峰のモータースポーツレース「SUPER GT」のGT500クラスで使用される共通モノコックや、FIA-F4日本選手権の次世代車両のシャシーサプライヤーとしてモータースポーツファンにおなじみの会社だが、それ以外にも軽量・高剛性なCFRPを使った製品を市販車や産業機器、医療・福祉、建築、鉄道、航空などさまざまな産業向けに供給している。

 製品作りに加えて現在でもモータースポーツやオリンピック、民間宇宙開発など幅広い競技や取り組みに協力して技術を磨いており、東海大学のBWSC参戦にもパートナーとして支援を行なっているのもこの一環で、奥氏は1987年に開催されたWorld Solar Challengeの第1回大会から車両製作を通じて携わってきているという。

東レ・カーボンマジックはレースマシンのシャシーサプライヤー以外にも、市販車や産業機器などさまざまな分野にCFRP製品を供給している
幅広い競技や取り組みに協力することで技術を磨く

 東海大学とのパートナーシップは2011年の参戦時から続いており、BWSCは最新技術を実戦の場で試せる「現代の走る実験室」になっていると考えて活動を実施。自社の若手エンジニアが学生と協力することを通じて想像力や判断力、実行力などを磨き、世界のさまざまな国や地域から集まるエンジニアと競い合うことで新しい境地を見出すきっかけにもなると説明。

 さらにソーラーカーが使う再生可能エネルギーの力を実感してカーボンニュートラルの実現向けた取り組みを加速させ、目に見えない空気の力の大きさをレース結果によって実感できることも大きなメリットになり、直接的、間接的に製品造りに貢献するとアピールした。

 こうしたBWSCの参戦により、日本のもの作りで現在不足しているさまざまな要素技術を組み合わせ、高性能な製品をバランスよく生み出すエンジニア、コーディネーターを備えた次世代のエンジニアを育てていく機会になることを期待していると語り、このような経験が今後のモビリティ開発で必ず生きていくとした。

2011年からスタートした東海大学とのパートナーシップで6回目のBWSC参戦となる
BWSCに挑む効能・効果
BWSCの経験を今後の製品開発に生かしていく

クロストークセッション「ソーラーカーの未来と、オープンプラットフォームとしてのBWSCの価値」

第1部の最後に行なわれたクロストークセッション

 第1部の最後には、ここまでに登壇したブリヂストンの堀尾部門長、東海大学の木村教授、東レ・カーボンマジックの奥社長の3氏に加え、今年度のBWSCにも参戦する工学院大学 教授 濱根洋人氏がゲストとして参加したクロストークセッションが行なわれた。

 参戦当初との違いについて木村教授は「最初のころは8m 2 以上あった太陽電池が今は4m 2 になっているんですね。とくに今年度からは全チームが4m 2 になりますので、この状態で戦うのは大変なことです。4m 2 で先ほども示した変換効率24%で計算すると960Wで、つまり1馬力ちょっとというパワーで技術的に90km/hを出さなければならないわけです。これは原付よりもパワーがないんですね」。

「あと、私が最初に出場したころは自転車用タイヤを使っていて、チューブの空気圧をパンパンにして走っていました。その状態で、キャトルグリッド(豪州で見られる牛が牧場から脱走しないよう設置した鉄製の格子段差)が108か所ほどあるのですが、毎回先まわりして板を敷いて通過できるようにしていました。今ではタイヤが進化して、それで今回から板は使えなくなりました。そんな風に楽になった部分もあるのですが、繊細なエネルギーマネジメントやチームコントロールが求められるようになっています。クルマが速くなると考える時間も短くなって、そういった部分が大変ですね」とふり返った。

東海大学の木村教授

 参戦車両の空力性能について濱根教授は「今の車両はかなり密閉度が上がっていて、空気抵抗の性能を最大限出せるようになっています。また、CFDで作り上げた3D形状がかなり複雑な形になってもCFRPで作れるようになるなど、いろいろと進化していますね」と説明している。

工学院大学の濱根教授

 車両の軽量化について問われた奥社長は「車両の進化の話が出ていましたが、そういった太陽電池やバッテリ、モーターなど、搭載されるすべての機器が洗練されて軽量化されていますので、それに見合った繊細な設計が必要になっています。私が最初の第1回大会で車両を作ったときは『マラソン競技』のようなイメージを持っていました。道路状況がわるかったこともあるのですが、重厚なサスペンションに強固なボディという組み合わせで、その当時と比べると車体の重量は5分の1ぐらいになっていると思います」。

「軽量化で、見た目に違いは分かりませんが、炭素繊維自体もいろいろな特徴を持った製品が次々と生まれてきていますし、それらを上手く使う設計技術といったあたりも格段の進化を果たしています。そのあたりはこのあとの第2部でもご紹介しますが、2021年大会はコロナ禍で中止になりましたので、4年間の進化はかなり大きいです」と回答した。

東レ・カーボンマジックの奥社長

 堀尾部門長はタイヤの進化について「私たちブリヂストンがこのソーラーカーチャレンジに参加を始めたのは2013年でしたが、当時は1チームに対するタイヤ供給でした。そこから35チームまで増えたのですが、最初はまったく何も知らないところからタイヤ製作を始めました。オーストラリアの路面では、落ちている石もかなり尖っていて、求められる性能としては、ソーラーカーなので電費を上げる転がり抵抗も当然ありますが、もう1つは対パンク性能でした、この2つは相反する性能で、タイヤを厚くすればパンクが防げるようになりますが、逆に転がり抵抗は落ちてしまう。この相反する部分を両立させていくことの挑戦が非常に大変でした」。

「当初はやはり、かなりパンクするタイヤが出てしまいました。チームからパンクしたよと連絡を受けて、われわれもゴールのアデレードに戻ってきたチームと話をして、とにかくまずはパンクしないようにする。そこに向けて開発をしていって、前回の2019年大会ではいい成績が残せるようになりました。タイヤもサイズ自体は変わっていませんが、中身はかなり進化しています。それをさらに進化させようということで、サステナブルな材料の使用に取り組んでいるところです」と解説。

 また、今年度のBWSCの見どころなどについて堀尾部門長は「レギュレーションで2つの大きな変更点があります。1つは前回大会まで使用が認められていた高額なソーラーパネル、数千万円するようなものですが、これは使えなくなってシリコン製ソーラーパネルだけに統一されて競争としてはイコールコンディションになりました。これまではお金を使えば有利になっていたところがそうではなくなって、同じラインに立ってスタートすることになります」。

「もう1つ大きく変わったのは、これまでは車両は4輪だけでしたが3輪も許されるようになりました。どうしてここにきて3輪が可能になるのかは分かりませんが、おそらく主催者はイノベーションを求めて、学生の皆さんに課題を与えているのだと思います。また、3輪ということで、前後どちらのタイヤを1輪にするのか、これも学生さんたちに考えろということで、そういったところからクルマ造りのイノベーションが出てくるのだと思います。私としては今大会でこの2つに興味を持って見ていきたいと考えています」とコメントしている。

ブリヂストンの堀尾部門長

第2部 東海大学 BWSC参戦体制発表会

新型Tokai challenger。試走を担当したドライバーが持っているのはブリヂストン製BWSC用タイヤ

 第2部では、今年度のBWSC参戦で東海大学のソーラーカーチーム総監督を務める東海大学 工学部 機械システム工学科 講師 佐川耕平氏が新型Tokai challengerについて解説し、続いてチームの学生代表である東海大学 工学研究科 電気電子工学専攻 修士課程 2年次生 宇都一朗氏がチーム体制の説明を行なった。

東海大学 工学部 機械システム工学科 講師 佐川耕平氏

 佐川氏はまず、今大会から実施されたレギュレーション変更について説明。これまで70mmだった最低地上高が100mm以上となり、さらに車両前方側のアプローチアングル、車両後方のデパーチャーアングルをそれぞれ10度以上付けることが義務化された、さらにナンバープレートの装着位置が車両後端に限定され、従来のキャノピー内から移設されることになった。いずれも空気抵抗の増加して、車両の巡航速度や電費が悪化する要因となっている。

新たなレギュレーションでは最低地上高が100mm以上となり、10度以上のアプローチアングルとデパーチャーアングルを設けることが義務化。ナンバープレートは車両後端に設置することになり、それぞれ空気抵抗の増加要因となっている

 大きな変更点としては、クロストークセッションで堀尾部門長も見どころとして指摘した3輪仕様の選択が解禁され、新型Tokai challengerも従来の4輪から前方2輪、後方1輪の3輪スタイルに改められた。これは非常に大きなチャレンジになったと佐川氏は述べつつ、タイヤを1個減らすことによって車両重量を軽減することが可能で、後方1輪にするレイアウトでフロア後方を絞り込むこともでき、乱流を抑えて空気抵抗を低減できるのではないかとの狙いから採用を決断。今後のテストや現地でのレースで狙いどおりの結果が得られるか注目していきたいと説明した。

新型Tokai challengerはリア1輪の3輪仕様に路線変更

 新型Tokai challengerのデザインコンセプトでは「性能の限界への挑戦」「走行安定性の確保」「環境への配慮」という3点を設定。歴代Tokai challengerではボディパネルに3次元曲面を与えて空気抵抗を抑える技術を発展させて続けており、太陽電池による発電性能を確保しながら気流のコントロールで空気抵抗をいかに抑制するかがポイントになるという。

 東レ、東レ・カーボンマジックの協力で実現したより軽量なCFRPボディは、炭素繊維の構成と材料の見直しを推し進め、強度やボディ剛性を保ちながら超軽量な車両重量を実現した。

 走行安定性の面では、新たに採用した3輪仕様は横風の影響を強く受けることになるが、東海大学では2017年から横風対策にも注力。3輪化でも問題が起きないよう横風対策を詳細に検討して、安定性を高める形状を採用している。

 環境への配慮としては、これからも継続的にレース活動が続けられるような対策として、フロント&リアタイヤのインナースパッツ、コクピット内の床面のCFRP素材にリサイクル材料を使用。消費するだけの社会から持続可能な社会への転換に向けた新たなチャレンジとして取り組んだと説明。これらの技術を投入した新型Tokai challengerを使い、2011年以来となる総合優勝に向けてチーム一丸となって戦っていくと締めくくった。

ボディ形状は太陽電池による発電性能を確保しながら気流のコントロールで空気抵抗をいかに抑制するかがポイント
CFRPボディでは強度やボディ剛性を保ちながら超軽量な車両重量を実現
空力開発では抵抗の抑制に加え、横風を受けたときのスタビリティにも注力している
タイヤのインナースパッツ、コクピット内の床面にリサイクル材料を使ったCFRP素材を採用
密閉されたキャビン内の換気用に、キャノピー前方にNACAダクトを設定
デジタルメーターはステアリングに固定されている
東海大学 工学研究科 電気電子工学専攻 修士課程 2年次生 宇都一朗氏

 チーム体制について説明した宇都氏は、チームの参戦目的を「太陽光発電をはじめとする創エネ・省エネ技術の発展を加速させ、大学と企業が共同開発したソーラーカーで世界に挑戦し、BWSC 2023でタイトル獲得を目指すこと」と述べ、今年度のBWSCについて改めて紹介。ライバルチームとして同じく日本から参戦する工学院大学など6チームを挙げた。

東海大学チームの今年度参戦目的
ライバルチームは同じく日本から参戦する工学院大学など6チーム

 遠征メンバーは自身を含む学生16人と総監督・監督3人、サポート企業から派遣される特別アドバイザー8人の計29人で構成。学生メンバーの内訳は機械班メンバー8人(内ドライバー2人)、電気班メンバー6人、広報班メンバー2人となる。

遠征メンバーの内訳
遠征日程
今年度のスポンサー企業

東レ製のリサイクルCFRPパーツも使用

東レ株式会社 トレカ事業部門 産業材料部 部長 加々尾信郎氏

 スポンサー企業としてさまざまなCFRP素材を提供する東レでは、トレカ事業部門 産業材料部 部長 加々尾信郎氏があいさつを実施。

 加々尾氏は、Tokai challengerにも使用されている同社のCFRP樹脂のトレカは風力発電の羽根、天然ガスや水素などを貯蔵する圧力容器タンク、クルマの構造材などに幅広く利用されており、LCA(ライフサイクルアセスメント)による評価では、クルマの車体構造にCFRPを使って30%の軽量化を実現すると炭素繊維1tあたり50t、航空機では機体構造の20%を軽量化した場合に1500tのCO2削減効果を10年間で得られると紹介。

 また、新しいTokai challengerではリサイクル原料を使ったCFRPパーツが使われており、カーボンニュートラル社会に向けて需要が高まっていくと想定されるリサイクル原料を使った製品がBWSCで戦うマシンに使用されたことは非常に光栄なことだと述べた。

CFRPにリサイクルでは、CFRPパーツの製造時にカットされた炭素繊維シートを分解してフェルト状に再構成して使用。繊維の長さが短くなるため強度は若干落ちるが、素材を有効利用する新たな手法として生み出された
新型Tokai challengerで採用した複合材料について解説する奥氏

 また、再び登壇した奥氏は、新型Tokai challengerで採用した複合材料について解説。新しい車両では2019年以降に創出された新技術を最大限投入しており、さらにこれまで重視されてきた軽量化や空気抵抗低減に加え、新しい思想として盛り上がってきたカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった考え方も採り入れた開発が行なわれているという。

 新技術では、3D形状で剛性確保が難しいアッパーボディに米島フエルト産業から供給される発泡体「コアフレーク」をコア材として使うサンドイッチ構造のCFRPパネルを導入。コアフレークをハニカム形状にカットして組み合わせることで複雑な形状にも対応しつつ、これまでの半分以下の重量で同等の強度を実現。さらに軽量で形状の自由度が高いこのCFRP素材はホイールとしても利用されているという。

 また、加々尾氏のあいさつでも取り上げられたリサイクル原料を使ったCFRP、キャビンを保護するため強度が重視される部位に使われる高強度CFRPなど、用途に合わせたさまざまなCFRPパーツを組み合わせて車体のコア部分を構成。CFRPで組み上げられた車体は2019年仕様から重量を約50%低減した24.6kgになっている。

新型Tokai challengerは用途の異なるさまざまなCFRPを使い分けて軽量化を追求
発泡体のロハセルをハニカム形状にして3D形状に対応。薄くスライスする技術も米島フエルト産業ならではのもの
ホイールもCFRP製となっている
イベントの締めくくりに実施された新型Tokai challengerの試走