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豊田章男会長、「今回のニュルの活動を、原点をみんなに知ってもらいたい」とニュル24時間決勝前に語る
2025年6月22日 03:46
- 2025年6月21日~22日 決勝
6月21日16時(現地時間、日本時間21日23時)にニュルブルクリンク24時間レースの決勝が始まった。レースは開始後1時間過ぎにサーキット内の停電が発生し赤旗中断。17時30分ごろに停電となり、セキュリティカメラや燃料給油装置などピットまわりでも障害が発生したことから赤旗中断したとの説明があった。レースは19時45分に再開。快晴の状態の中、24時間レースは進んでいる。
トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏はトヨタ自動車とルーキーレーシングが組んで参戦している「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(以下、TGRR)」の代表としてあいさつ。あいさつ終了後、現地を訪れている報道陣に向け、囲み取材を実施した。
豊田章男 囲み取材
──ニュルブルクリンク24時間レースには、2007年に中古のアルテッツァで参戦開始。社長時代の2011年3月9日にトヨタニューグローバルアーキテクチャー宣言を行ない、スバルとともに86を復活させ、BMWとともにスープラを復活しました。今回はトヨタ自身が作ったGRヤリスで参戦しています。今の思いを教えてください。
豊田章男会長:この20年の間にスポーツカーが(トヨタに)1台もなかった。20年前からスバルさん、BMWさんの力を借りてスポーツカー三兄弟をやって、 三兄弟目にGRヤリスで、初めて開発からトヨタがやる気になってくれたクルマが相棒となって出られる。
当時、最初は自分が作り始めたGR、GRが大きくなるに連れモリゾウの居場所がなくなり、ルーキーレーシングというものを作り、そしてスーパー耐久を戦ってきた中で、初めてGRとルーキーレーシングとモリゾウというマスタードライバーが一緒になった強みを活かせる。社内でちょっと共感してくれる人が増えたんですよ。
それだから今回はTGRR(TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing)という形での参戦、しかもその相棒が、全部自分たちでやっているGRヤリス。それで地元からは「第2の故郷にカムバック」(地元新聞の見出し)。こんなうれしいことはない。
20年経って、こういう形は本当にうれしい。私、今回のニュルの活動を、原点をみんなに知ってもらいたい。
ずっと最初からやってきた人たちがキーとなり、新しいメンバーもたくさん入ってくる中で、ニュルの活動って、さっきもあいさつで言ったようにF1の裏でいわばアルバイト活動ですよ、アルバイト活動。決して公式な活動ではなかった。
それが今では公式になっている。それからドライバーズブリーフィングだってあんな場所(前の方に)座れませんでした、20年前にね。ところが今はちゃんと机を前にしたところに座れる。
これだけ変わってきたのはモリゾウ1人の力ではないし、モリゾウが悔しいながらもずっと継続してやってきて、それに共感した人がいたからこそこういう変化が出たんじゃないのかなと思います。
ですから、この変化は今後も続くんだ、スタートを新たにしたんだということを、多くの方に共感いただく大事なレースになると思います。
──今回こだわっている原点は具体的にどういう姿が教えてほしい。
豊田章男会長:「モータースポーツを起点としたクルマづくりと人づくり」でしょうね。
それが原点。トヨタはリーマン以降(2008年以降)なんで助かったかというと商品があったからです。商品を作る仲間までは潰されていなかった。だからできたと思う。
原点が「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と、僕が社長になってからずっと言っていたのは「もっといいクルマづくり」。これは似ているようで、出発点が違うようで、同じでしょという人もいますけど、これ違うと思うんですよ。
でもその両方ができる環境がある以上、そしてもっともっといいクルマを作る以上、その両方をちゃんとした軸として育て上げていかないと、持続的に商品が出てくる会社にはなっていかないんじゃないかな。商品が出そろった、ということで社長を降りました。
下りたんだけど、「じゃあ本当にモリゾウというマスタードライバーが存在しなくてもこういう商品が出続けますか?」って言うと、もっと自信がほしい。そこにもうちょっと自信がほしいので。
ただそれは非常に大きな期待値としては上がってきた。
──その原点を取り戻したい?
そうそう、誰かそういう人がいればね。だから原点というのはそういう人が生まれることだと思う。そうすれば絶対どんな環境になっても……。環境までは我々民間企業が作り上げることはできないんですよ。でもそこにね、どんな環境でも、そこは覚悟を持ってやるという人さえいれば大丈夫。そのためには、こういう場が必要なんですよ。
──(車種)ラインアップに、トヨタにとってスポーツカーがあるということはどういう意味を持ちますか?
豊田章男会長:前は、すべてそういうクルマだったんですよ。量が増えるにあたって最後承認だけするクルマとか、どこかに開発してもらうクルマとか、ほかの会社にお願いするとか、そういうのも当たり前となり、1000万台あるだけ当然な正義でしょという会社になりかけました。
今は台数よりもいいクルマを作れる会社になっていこうというのが多数派だと。だから、その多数派がんばれるような、全員とは言いません。全員とは言いませんけど、多数派が僕のときはもう完全少数ですからね。だけど、今はもう仲間が多いから。自分たちでやるのは当たり前で、GRヤリスは当たり前っていう会社になるようにね、がんばっていきたい。
──モリゾウさんがニュルで走るときは、豊田章男は何パーセントくらいいるんですか?
豊田章男会長:おー。あのね、最初のうちはモリゾウと豊田章男というのはどちらが何パーセントとかね……今は両方いるよね。絶えず両方いる人になったと思うんですよ。
前はモリゾウが、豊田章男ではできないことをモリゾウが発言したりね、モリゾウが行動していたのを、今はね、豊田章男としてもそれを認められる人だけども、モリゾウだからっていうのもあると思うから、お互いにお互いを助け合ってる。だから、どちらが何パーセントとかいうことではないよね。
──やはりここに来ていいものができてくるというと、豊田章男というのが出てきていると思うのですが。
豊田章男会長:トヨタ自動車の社長・会長をやってきた豊田章男に仮にモリゾウというキャラクターがなかったら、本当にね、僕、生き残ってないと思うんですよ。その生き残ってきた実績と経験が今みたいなコメントに生きているんじゃないかなと思う。
だからモリゾウに助けられたという点は、モリゾウがいなかったら、やっぱり普通の会社の普通のトップです。(モリゾウがいなかったら)本当にここまで商品出てきたかな?というのは、ちょっと疑問に思います。
──豊田章男に助けられることもあるんですか?
豊田章男会長:いやぁ、豊田章男はね、支えてあげてないと。みなさんが思っているほど明るく精神力の強い男じゃないですから。だからこの笑顔の陰に悔しさと涙あり。だから、そういうところはあると思いますよ。
モリゾウというバディがいたから、それでクルマに乗りに行けばいいやっていう環境があったから、そういう環境があったから豊田章男が生きながらえたという感じはしますよ。
──先ほど少し自信が欲しい、マスタードライバー モリゾウの役目を引き継いでくれる人がいるかどうかというのはまだ自信が持てない? しばらくはこのマスタードライバーであり、ニュルに出続けたい?
豊田章男会長:出続けたいというか、僕は去年の株主総会で会長になって「私の役割は前工程になることだ」と。これは前工程なのです。完全後工程になれば、完全なる自信になります。
ええぇ、こんなことやったんだとかね。おっ、すげえなあ自分も思いつかなかったなとかね。
今はまだ前工程なのです。
──章男さんが言わなくてもみんなが動いて、それを……。
豊田章男会長:いや違う。僕も動く、みんなも動く。だけどね、えっ、そんなことを考えるっていうのが出てきたら、自然と自分は後工程に行くんじゃないかなと。聞いてる?
──聞いてます。章男さんを驚かすようなよ……。
豊田章男会長:驚かさなくてもいいんだよ。ありがとうというような言葉が出てくるような動きが一杯出てくると、いいなと。
トヨタとか気が利きませんから、でもね気が利く人も出てきて、気が利く人は本当にありがとうっていうところが増えてきている。
──ドライバー モリゾウとしてお聞きしたいんですけど、6年ぶりの予選、今までの風景とやはり違うように見えましたか?
豊田章男会長:まずねクルマが安心だね。それと何年かのS耐(エスタイイ)参戦によって、成瀬さんは「後ろをついてこい」ということだったのですけど、あれだけプロのドライバーにデータを介して、ずいぶんとモリゾウの技(わざ)も上がったと思いますね。
そういう意味でクルマの会話のレベルは本当に変わったのだから、昨日も予選を2台のクルマで2周・2周やりましたけど一番安心したのは4周目。というのは1周目はね、このハンドルどこがどのスイッチかなとかね。道を見てるというよりは、クルマの操作系で落ち着いた。
それでクールスーツ着けたらどうかな、オフにしたらどうかなとかね。そういうので1周終わり。最初の2周のときの汗のかき方で、後半の汗のかき方ができますから。今回も最低で15周走りなさいというのがあります。
富士の24時間は6人でやってます。(ニュルは)4人ですからね。結構厳しいんですよ。私自身の安全確保のために石浦ドライバーはダブルスタイル(もう1台のGRヤリス)で先導しますから。そういう意味も含めて安心感は増すだろうし、成瀬さんのテールライトを追っていたのと、石浦の後を今追ってるモリゾウは確実に別の人物。それはこの20年間、この20年間継続してやってきたからだと思いますね。
──昨日コースを1周歩くドマガラツアー、どうでした?
豊田章男会長:あれは昔から私が好きなんです。あれは唯一の抵抗勢力は成瀬さんでしたから。「レース前にお前ら何やってんだ」と。ですけど私はあれ好きだった。
だから昨日あれだけ私も楽しんでやってる姿を成瀬さんなんて言ってるかなという気になりますけどね。久しぶりにただ回るだけじゃなくてキャンプ地なんか入りますでしょ、そうすると、なんとモリゾウを待ってくれている人がたくさんいた。これはね、やっぱりね、勇気づけられます。
2012年からのGazooのウェアを着てくれていた。本当になんていうか、15年間ずっと応援して来ているわけでしょう。本当にありがたいなと。
──続けてきたからこそ、ファンも。
豊田章男会長:そうそう、そういう仲間たちは変わらずいてくれたな、というのを改めて実感しました。
──だから、お帰りなさいっていう。
豊田章男会長:そう、だから「お帰りなさい第二の故郷」とかね、ああいうところをその場面を見ていない(現地の)新聞が書いてくれたことはうれしいですね。
──1つよろしいですか? 今日は何を信じてどんな走りをしますか?
豊田章男会長:クルマを信じ、仲間を信じ、モリゾウだけ不安になりながら運転したいと思います。
──109号車に成瀬さんの名前が入っています。どのような思いで一緒に?
豊田章男会長:本当に正しいのは、成瀬さんが乗ったのは110。110号車です。僕は今109。だから成田さんの名前は110のクルマにあると本当だなと思います。やっぱりみんな気を遣って、MNじゃないと、モリゾウ、ナルセの名前を両方あってこそのいるということのニュルだと私は勝手に解釈しました。
──さくら見てきました。
豊田章男会長:見てきた。ちゃんと手を合わせました?
──(はい)。
──16時から決勝レースが始まりますが、GRヤリスを購入した人など(6年ぶりのトヨタ参戦のため)初めて決勝レースを見る人がいるかもしれません。ニュルのどのようなところを見てほしいですか
豊田章男会長:まず、GRヤリスというクルマで言えば、20年前のIP(インダストリアルプール、メーカー占有走行時間)のときに、各メーカーはこれから2~3年後に出すクルマをやっているときに、トヨタは生産中止になったスープラでやっていだんですよ。そのときに各メーカーは、IPのときはほかのメーカーを見ちゃだめよというのがルールなんですけど、無言の「トヨタさんにはできないでしょ」という声が聞こえた。
最近は、見ちゃいけないでしょというルールなのに、我々のGRヤリスの前にクルマを止めて、じーっと見てましたからね。
こんなうれしいことはないです。やはりそういうクルマを「出せなかったでしょ」と言われていた会社が、「えっ、こんなクルマを作ったんだ」という形に変わっているので、なんとしてでもGRヤリスの走る勇姿を今回は多くの人に、20年以上前からトヨタを思ってれている人たちには、「あートヨタって本当にこれだけ会社が変わったんですね」というのを見せられるいいチャンスだと思うので、それをぜひ見てほしいと思っています。




