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モリゾウ選手、ニュル24時間で総合優勝を狙う新しいクルマに言及「正式発表がいつだか分からないけど」 開発中のトヨタGT3車両なのか
2025年7月6日 05:48
ニュル24時間を完走したGRヤリスと、15周走ったモリゾウ選手
6月21日から22日の24時間にわたってニュルブルクリンク24時間レースが開催された。トヨタ自動車とルーキーレーシングは「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(以下、TGRR)」として、このニュル24時間に参戦。8速ATを搭載したGRヤリスは市販車と同じパワートレーンのまま挑戦し、見事24時間を113周で完走。総合52位でSP2Tクラス優勝という結果を出し、GRヤリスのボディやG16E-GTS型エンジン、8速AT GR-DATの優秀性を示した。
ドライバーにおいても69歳でチャレンジしたモリゾウ選手こと豊田章男会長が2日間にわたる2スティントで15周を走行。これまでモリゾウ選手はニュル24時間レースに何度も挑戦してきているが、自己記録としては4周から5周とのことで、その自己記録も大きく更新した。当時のモリゾウ選手の走行は、車内カメラで世界に中継されており、グランツーリスモなどで1周25378mのニュルブルクリンク北コースをよく知る人たちにも衝撃を与えていた。
記者はモリゾウ選手のニュル挑戦を前回の2019年の際にも取材しているが、6年ぶりの参戦となった2025年も取材。前回はGRスープラから下りるとやや疲れ切った表情をしていたモリゾウ選手が、今回は余裕を持ってドライバー交代をしているのが印象的だった。モリゾウ選手に聞くとスーパー耐久への参戦が自分自身のドライビングの向上につながったといい、2ペダルATのGRヤリス DATと相まって、安心してニュルに挑戦できているように見えていた。
そのモリゾウ選手で注目されたのが、2スティント目を終えた直後のトヨタイムズスポーツ出演時のコメント。2スティント目は9周(4周目に無線機トラブルで一度ピットイン、その後5周走行)走行しており、その走行直後の出演にも驚かされたが、後半の発言内容にも驚かされた。
モリゾウ選手は走行の振り返りを冷静に行ない、トータルで15周というのが自分の目標であったことを明かす。この15周というのは一人のドライバーに課せられた周回義務であったものの、当日のニュル24時間は停電が発生して赤旗中断。その際に義務は解除されており、この義務を達成しなくてもよくなっていたのだが、モリゾウ選手自身まだまだいけると思えたところから一つの目標にしていたことを語っていた。
モリゾウ選手の出演は約20分におよんでいたが、後半では脇阪寿一氏や森田京之介氏との話が盛り上がり、ニュル24時間の総合優勝という夢についての話題へと移っていった。
モリゾウ選手はニュル24時間の総合優勝について「いつかはここにトヨタで、TGRRで行きたいなと思っていますね」と発言。ニュル24時間の総合優勝と言えば、SP9クラスのGT3車両、BMW M4 GT3 EVO、Porsche 911 GT3 R(992)、Ford Mustang GT3、Audi R8 LMS GT3 evo II、Aston Martin Vantage AMR GT3などツーリングカーの最高峰とも言えるクルマが活躍しているカテゴリになる。
モリゾウ選手はさらに「今までLFAとか86で出てきているけど、全部クラス優勝でしょ」「いつかはやっぱりやりたいですよね」「今までは完全に夢物語でしょ」と語りつつ「正式発表がいつだか分からないけど、分からないけど」と、将来発表があることについて言及し始めた。
ここに至ってトヨタのオウンドメディアであるトヨタイムズは「ちょっとマイクを置いておきましょうか」と話題を方向転換。それ以上の詳細が語られることはなかった。
次のトヨタの軸となる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」
トヨタはTOYOTA GAZOO Racingから「GR GT3 Concept」というGT3車両のコンセプトモデルを東京オートサロン2022に展示。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を具現化するものとして訴求した。
さらにモリゾウ選手は、豊田章男会長としてニュル24時間前に記者向けに囲み取材を実施。その際に、「トヨタはリーマン以降(2008年以降)なんで助かったかというと商品があったからです。商品を作る仲間までは潰されていなかった。だからできたと思う。原点が『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』と、僕が社長になってからずっと言っていたのは『もっといいクルマづくり』。これは似ているようで、出発点が違うようで、同じでしょという人もいますけど、これ違うと思うんですよ。でもその両方ができる環境がある以上、そしてもっともっといいクルマを作る以上、その両方をちゃんとした軸として育て上げていかないと、持続的に商品が出てくる会社にはなっていかないんじゃないかな。商品が出そろった、ということで社長を降りました」と語っており、ハイブリッド車など現在のトヨタ成長の原点となった「もっといいクルマづくり」と、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」は違うものであると明言していた。
豊田章男会長が「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」に強く言及したのは、2021年12月の2022年モータースポーツ新体制発表会の日。豊田会長(当時社長)は、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の「日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争うことに改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである。単なる興味本位のレースではなく、日本の自動車製造業の発達に、必要欠くべからずものである」という言葉を紹介。それがトヨタのオリジンでもあることを説明していた。
流れとしては、モータースポーツが危機にさらされていたコロナ禍の時代である2021年12月に「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」に言及。翌月の東京オートサロン2022で「GR GT3 Concept」をお披露目していることになる。
そして、2025年にTGRRとしてニュル24時間レースに復帰。レース前のあいさつでは「これは次の20年のスタートの大事な2025年になる」と語っており、GRヤリスだけでなく、遠く大きな目標を見すえた復帰になることを示唆していた。
トヨタイムズスポーツでのモリゾウ選手の発言は、スティントを走りきって思わず漏れた情報なのか、それとも9周も走ってなお計算ずくでなされたものなのか? 記者自身は、世界トップクラスの企業を率いてきたリーダーである豊田章男氏が、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」という強い思いを具現化するために、あえて走行直後の極限状態で行なった発言であると考える。
TGRRがニュル24時間の総合優勝に向けて動き始めていることは間違いない。その具体的な発表は「もしかしたら近いのかもしれないな」と思えた、モリゾウ選手のトヨタイムズスポーツ出演だった。




