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新拠点「マツダR&Dセンター東京」公開 麻布台ヒルズへの開設、その狙いとは?
2025年7月11日 09:00
- 2025年7月9日 発表
有能なキャリア人材確保のため首都圏機能を強化
マツダは7月9日、首都圏機能強化の一環として東京都港区にある麻布台ヒルズ森JPタワーに、新たなR&D(研究開発)オフィス「マツダR&Dセンター東京(MRT)」の開設と東京本社の移転を発表。新本社にて執行役員(コミュニケーション・広報・渉外・サステナビリティ・東京首都圏担当)の滝村典之氏が、その狙いを語った。
滝村氏によると、現在マツダは、開発・生産・マーケティング機能などを本社のある広島周辺に集約し、効率的なものづくりやオペレーションを強みとして事業を展開しているが、昨今の自動車開発はハードウェアからソフトウェアへと競争軸が移行し、また価値観の多様化も進んでいることから「今だけでなく未来のユーザーに対しても、常に新たな価値を感じてもらえるクルマ作りとサービス提供をし続けなければならい」と言及。
続けて、「広島一極集中にとらわれることなく、仕事のやり方、場所を含めて柔軟に変化すると同時に、時代に合わせてマーケティングやコミュニケーションの在り方にも変革が必要であると考え、R&D、販売マーケティング、人材採用の3つ領域で首都圏機能の強化を進めている」と滝村氏。
特に電動化やSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)への対応が急務となるR&D領域にて、ソフトウェア開発の人材採用が喫緊の課題となっているが、マツダは広島と横浜の2拠点勤務では応募数が限られ、人材確保が厳しいと判断。
また首都圏には、高度な技術力や革新的なアイデアを持つベンチャー企業、多種多様なベンダー、未来につながる大学も多いなど、産学官や他企業との連携にも地理的なアドバンテージが豊富にあることから、マツダは首都圏に魅力的な働く場を設けることが不可欠と考え、ソフトウェア領域を中心とした開発機能を担う新たな拠点マツダR&Dセンター東京を開設したという。
また、販売マーケティング領域では、多様な価値観のユーザーに対応するために、首都圏のマーケティングやコミュニケーション機能の強化が図られる。特に2050年には都市圏の人口比率が60%を超えると推測されていて、マツダは自動車事業も都市部に集中する傾向が強まると予想されることから販売網の再構築、新世代店舗への投資を加速させている。
人材採用については、「人への投資、人こそが最大の資本」と定義し、首都圏は多種多様な業種、年代の人が集まることから、ソフトウェア開発だけでなく、そのほかの領域に関しても採用を進めるという。すでに広島工場で働く従業員寮の建て替えなどを予定していて、滝村氏は「従業員の満足度向上や、今後の人材確保につなげたい」と話す。また、人材採用の拠点については、今後広島から首都圏に機能を集約することも検討しているという。
同時に人材活躍の最大化を目指し、人材採用だけにとどまらず、働く環境や組織風土の改革も強化。トップダウンになりがちな企業風土を、ユーザーと接する現場の従業員を主役として、経営陣がサポートして成果を生み出す企業風土に変えていく、全従業員を対象とした組織風土変革活動「ブループリント」も工場の操業を停止して実施するなど、従業員のプレゼンスと定着率向上を図っている。
新拠点MRTは、社員1人ひとりが通いたくなると感じる場と空間を目指し、設計段階から議論と工夫を重ねてきたという。R&Dエリアは広島本社やMRYと連携したアジャイル開発がスムーズに進められるよう開放的で機能的な空間を整えている。東京本社エリアは、来客対応や多様な働き方に対応する柔軟性を備えたという。また、自由に使える共有スペースも用意し、「部門を越えたコミュニケーションが図られ、触れ合うことで新たな価値が生み出される場となる」と滝村氏は期待を述べた。
ソフトウェア開発におけるMRTの位置づけと狙い
続いて、マツダ 執行役員 統合制御システム開発担当の今田道宏氏は、自身が所属する統合制御システム開発本部について、「ものづくり革新2.0が始動した2015年に発足した部署で、ドライバー、クルマ、交通環境を理解したうえで最適な制御システムを開発する使命を持っている同時に、MBD(モデルベース開発)の推進なども担っている。もちろん、ここMRTにも統合制御システム開発本部の一部がMRTに入ることになると思います」と説明。
また、より具体的な仕事内容としては、車両運動制御システムやADAS(先進安全)、車両と外界をつなぐ車両情報機器(インフォテインメント)、さらにそれらを支える電気電子アーキテクチャなどがソフトウェア開発の中核となり、“人とクルマの絆”を大切にするマツダらしいクルマ作りをサポートしているという。
続けて今田氏はMRTを開設した背景について、「マツダは2030年に向けて掲げている、“走る歓び”で移動体験の感動を量産するクルマ好きの会社になるという経営ビジョンや、2040年を目途に自動車技術で対策が可能なものについては、自社の新車が原因となる死亡事故ゼロを目指していますが、昨今の生成AIの急速に進化や高度化もありますが、クルマの電動化や知能化への変化にも対応しつつ、安全・安心はきちんと担保して、ユーザーにいきいきする体験を提供するには、従来のハードウェア開発はもちろんのこと、ソフトウェアの開発がより重要になってきます」と説明。
具体的にMRTに設置する部署については、コネクテッド技術を活用した、長くマツダ車に乗り続けたくなるようなGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)アプリケーションの開発、より直感的で使いやすいHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を作り込むためのリアルタイム3Dグラフィックスの開発、世代ごとに約10倍規模で拡大しているソフトウェアプラットフォームの開発など、主にコクピット領域を進化させる「コネクテッドソフトウェア開発グループ」が1つ。
さらに、2022年に「CX-60」に実装した「ドライバー異常時対応システム(DEA:Driver Emergency Assist)」のベースとなっている、ドライバーの状態を検知して車両を安全に停止させるマツダ・コ・パイロット・コンセプトの進化。また、これまではルールベースで制御アルゴリズムを進化させていたが、これからは膨大な走行データや動画を使ってトレーニングさせたAI技術の加速によって制御アルゴリズムを進化させ、より事故を低減させたり、運転支援技術を進化させていくための開発を担う「先進安全技術開発グループ」の2部署からスタートすると今田氏。
もちろん、これらの開発を迅速に進めるためには採用、共創、連携といった部分でまだまだ課題があり、今田氏は「ソフトウェア開発者は、自動車業界だけでなく他業種でも多く求められている状況だが、首都圏には多くのIT企業や人材が集中していることからも、このMRTの開設は人材獲得・採用に大きな利点がある」と説明。
ちなみに、先述したコネクテッドソフトウェア開発グループの8割はキャリア採用人材を予定しているとのことで、「きめ細やかな管理体制を敷くことで、新しく入ってくる従業員が安心して開発に没頭できるようなチームビルディングを行なっていく」という。また、「国際色も豊かな麻布台ヒルズなので、さまざまなベンダーや省庁、大学といった外部パートナーなどとの共創の起点になるような場所を目指す」と今田氏は抱負を語った。
今回開設したMRTは、独立した組織や体制ではなく、広島本社やマツダR&Dセンター横浜(MRY)とも地続きの1つの組織としての位置づけで、運営していくことにこだわるいう。広島では車両の開発、MRYでは車両を使ったソフトウェア開発や実装確認、MRTでは地の利を生かしたソフトウェア開発と共創の起点と、それぞれが得意な分野に注力しながら連携する体制を構築。今回新たにMRTとMRYの開発を統括する副本部長を新設したという。
実際にキャリア採用で新たに仲間に加わった2人がコメント
説明会には、実際にキャリア人材採用で新たにマツダの仲間に加わった、情報制御モデル開発部 君嶋良太氏と先進安全車両開発部 高井野亜氏の2名も参加。自身の経歴とマツダに入った感想を述べた。
大学在学中からゲーム用アプリ、VR、メタバースなどのソフトウェア開発に携わってきたという君嶋氏。ここ10年は主にUnityというゲームエンジンを用いて、コンテンツの見せ方や触り心地の改善、パフォーマンスチューニングなど幅広く担当。2024年春にマツダがUnityと業務提携を結んだのを機に、ゲーム業界で培ってきた技術を自動車業界というフィールドで生かせることに魅力を感じ、マツダへの入社を決めたという。
君嶋氏は、「マツダの人馬一体、ヒト中心のクルマ作りの価値観は、ユーザーエクスペリエンスを重視してきた自身の経験と相性がいいと感じている。本社が移転して2週間、広島と横浜との拠点間の距離はあるものの、拠点ごとの強みがあり、それを生かして補完しあえる環境があるのはマツダの強みであると思う。現在はオンラインミーティングも活用しながらできるだけテキストベースでLogを残すことでコミュニケーションを強化・補完するようにしています。日本のゲーム産業と自動車産業はどちらも世界的に高く評価されている分野ですし、両業界で働けることを嬉しく思います。マツダのデザインやユーザーエクスペリエンスに対するこだわりは、ゲーム産業との相性がいいと感じているし、ソフトウェア技術で2つの技術を融合することで、よりよい車載ソフトウェアの価値創造に貢献できると感じています」とマツダでの手応えを語ってくれた。
新卒から6年ほど半導体メーカーで、主にプラズマを使った微細加工のシミュレーションを担当してきたという高井氏。これまでの業務経験と自分の機械学習の知識を生かす方法を考えた時、自動運転技術の開発がすごくおもしろそうだと感じたことや、需要が大きく人の生活を変えるような技術に携わりたいとの思いから自動車業界への転職を決意。
高井氏は、「自らをスモールプレイヤーと称して、クルマ好きユーザーにターゲットをしぼって戦っている姿に魅力を感じたのと、新たにMRTを立ち上げると聞き、東京に拠点を構えてさまざまな業界とコンタクトを取りながらソフトウェア開発を進めていく方針にも魅力を感じ、入社を決めました」とマツダへの入社動機を紹介。
続けて、「MRTは広くて快適なオフィスだし、チーク間のコミュニケーションもとても活発に行なえています。入社して間もないですが、自分のソフトウェア開発経験で、マツダ車らしい走る楽しさと、AIなどを使った自動運転による利便性を合わせ持った新しい価値を生み出していきたいとえ考えています」と今後の抱負も語ってくれた。
2人は、クルマに命を吹き込むおもしろさ、ヒトの感性に寄り添い走る歓びを届けるという使命、その全てがマツダで働くことの価値だと信じていて、麻布台ヒルズという新たな舞台で、これからも挑戦を続けるので、ここから生み出される新たな価値に期待してほしいと締めくくった。
MRT「マツダR&Dセンター東京」概要
MRTと東京本社が入るのは、2023年11月に開業した東京都港区麻布台にある「麻布台ヒルズ森JPタワー」で、高さ330mと現状では日本一高い超高層ビル(地上64階、地下5階)となっている。ビル内にはオフィスのほか、住宅、医療施設、商業施設などが併設され、大規模複合商業施設「麻布台ヒルズ」の中核を担う建物。
麻布台ヒルズは、区域面積約8.1ha、延床面積約86万m2。マツダが入る森JPタワーのほかに、麻布台ヒルズレジデンスA棟/B棟、麻布台ヒルズガーデンプラザA/B/C/Dも含まれるほか、約2万4000m2の緑地を有し、都心にありながら緑あふれる環境を実現している。
マツダは森JPタワーの49階に入っていて、東京本社を含めて3/4の面積を使用。総床面積は941坪(3110m2)で、MRTが393坪(1296m2)、東京本社が262坪(865m2)、共用エリアが270坪(891m2)、倉庫などが10坪(33m2)。現在は本社勤務190人、R&D勤務50人の約240名が務めている。

























