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東京都が導入した、水素で走るクラウンセダンの燃料電池タクシーに乗ってみた 「パワフルで、とても静か。懸念点は……」

都庁前でお披露目されたクラウンセダンFCEVベースの水素燃料電池タクシー

東京都で始まった水素燃料電池タクシーの導入

 9月3日、東京都は「燃料電池商用モビリティをはじめとした『水素を使う』アクションを加速させるプロジェクト」を発表し、都庁において発表会を開催した。このプロジェクトはカーボンニュートラル社会に向け、水素をエネルギーとする商用車を社会実装していこうというもの。水素の需要拡大と早期社会実装化を図ることで、エネルギーの安定供給の確保や脱炭素化に向けて取り組んでいく。

 そのための方策として、水素を燃料とする燃料電池商用車を東京都に普及させていく。2028年度で約2900台、2030年度で約5000台、2035年度で約1万台の燃料電池商用車購入について補助金を設定している。

水素燃料電池タクシーのリアドアには「燃料電池商用モビリティをはじめとした『水素を使う』アクションを加速させるプロジェクト」のシンボルとして「TOKYO H2」ロゴが描かれる。初乗りも500円から

 その中でも、多くの人が利用することになると思われるのが燃料電池タクシー。FCタクシーとも呼ばれるが、2030年度で約600台のタクシーを普及させていく。

 このFCタクシーだが、直近の予定では9月3日の発表当日から稼働が始まるものもあるようで、とりあえず2025年内に約100台、2026年度内で約200台というペースで導入されていく。

 具体的に導入される車両はトヨタ「クラウンセダンFCEV」となり、クラウンセダンFCEVをベースにトヨタや各社でタクシーとして必要な自動ドアや料金メーター、センターと直結するコネクテッドカーナビ、そしてもちろん行灯が取り付けられていく。

 発表会では燃料電池タクシーの体験会も行なわれており、実際に後席に試乗する機会を得ることができた。

「パワフルで、とても静か」という燃料電池タクシー

都庁前での試乗会の様子

 燃料電池タクシーに用いられるクラウンセダンFCEVは、タクシー業務に必要な装備は加えられているものの、クラウンセダンFCEVの開発を担当するエンジニアによると性能面での変更はないとのこと。もともとクラウンセダンFCEVはショーファー利用も考慮して開発されており、電子制御サスペンションによるリアコンフォートモード、助手席ヘッドレストの前方倒し込み機構が装備されている。

 そういった意味で、通常のクラウンセダンFCEVとタクシー仕様のクラウンセダンFCEVに大きな違いはないのだが、タクシーならではの行灯などが付くと働くクルマ感がある。また、このプロジェクトの燃料電池タクシーには「TOKYO H2」ロゴが描かれるとのことで、後席ドアに大きく「H2」と描かれていた。

実際に都庁をひと回りするルートの試乗会が行なわれた。タクシー運転手さんは「パワフルで、とても静か」と評価していた

 実際に後席に乗り込むと、ホイールベース3000mmというクラウンセダンならではの空間が広がる。東京ではジャパンタクシーが数多く走っているのだが、それとは違うセダンならではのゆったり感がある。

クラウンセダンFCEVに取り付けられていた料金メーター

 走り出しも極めて静か。電動車なので当たり前とも言えるのだが、エンジン音がすることもなく静かに走り出す。発表会にアサインされている運転手さんなので、ベテランドライバーであるとも思われるが、このような静かさやゆったり感があるなら、お客さんの送り迎えにタクシーをというときにはクラウンセダンFCEVを選んでおきたいと思うほどだ。

 運転手さんにクラウンセダンFCEVの感想を聞くと、「思っていたよりパワフルで、とても静かですね」とのこと。アクセルをぐっと踏み込めばしっかり加速してくれるし、その際の音も静か。タクシーでは長距離を走る必要もあるが、その際も疲れは少なそうだという。

 すでに高速道路での試乗も終えているようで、首都高を走る感じもよく、運転手にも人気が出るだろうとのこと。普段の生活をともにする仕事の相棒として、十分以上の性能があると語ってくれた。

 ただ、一つだけ懸念点があるとするなら、このゆったり感を生み出す元となっているサイズだという。「懸念点は、ボディサイズですね。幅が1890mmで、長さが5030mmもあります。これだけあると路地の奥までお客さんを乗せていけないかもしれない。今までのクルマ(ジャパンタクシー)だとお客さんの家の前まで送り届けることができたかもしれないところで、手前で下りてもらうことになるかもしれない。そこが心配です」とのことだった。

懸念点はボディサイズ。このサラウンドモニタが役に立ちそうだと語っていた

 東京の細街路というと世田谷区がすぐに思い浮かぶが、タクシーの運転手さんもやはりその辺りを心配しているようで、入っていけるかどうかは行ってみなければ分からないという。その心配以外はとてもよいクルマとのことで、「燃料電池車って、こんなにパワフルなんですね」と、加速感もお気に入りのようだった。

 試乗したクルマは、料金メーター、決済端末、自動ドアなどが装備されており、すぐにでも営業できそうな状態だった。運転手さんによると、タクシー営業に向けての作業としては、センターと通信可能なコネクテッドナビの装備、助手席背面に搭載する決済兼サイネージディスプレイの取り付けが残っているとのこと。このタクシーでは電動の自動ドアが取り付けてあり、それはトヨタ自動車の工場で改造を行なっているという。

リアドア内装
機械式のリアドアオープナーもあるが、これはトヨタ自動車製の電動オープナーが取り付けられているという
タクシーならではの行灯。無線アンテナも400MHz帯を使用しているためか短いものに

 この水素燃料電池タクシーだが、タクシーの配車アプリS.RIDEでは9月3日にアップデートを実施しており、限定車両の欄から「水素タクシーを選ぶ」と指定できるようになっている。とはいえ、3日に1台走っているのを見かけたくらいで、4日は1台も都内を走っていないようだ。年内には100台と言われているので、これから徐々に増えてくるだろう。タクシーを利用する際は、荷物を載せやすいジャパンタクシー、静かでゆったりセダンの水素燃料電池タクシーなど、使い分けてみるのがお勧めだ。

配車アプリS.RIDEでは水素タクシーが選択できるようになった