試乗記

圧倒的な静かさ!! 水素で走る新型クラウンセダンFCEV

クラウンセダンに望まれる静かさを、圧倒的なレベルで手に入れた新型クラウンセダンFCEV

水素で走る新型クラウンセダンFCEV

 ニッポン・セダンの王道を進むクラウン セダン。フルモデルチェンジに伴ってクラウン クロスオーバーとプラットフォームを異にするFRセダンとして誕生した。FCEVのMIRAI(ミライ)とほぼ共通のプラットフォームを使って、FCEVとハイブリッドの2種類のパワートレーンを搭載したラインアップを構成する。

 クラウンセダンFCEVは、ミライのと同様に3本の水素タンクを巧みに搭載したレイアウトはそのまま踏襲する。装着タイヤはダンロップ スポーツマックス245/45ZR20という大径サイズで、最低地上高は135mmと低い。ハイブリッド車は130mmと、さらに低くなった地を這うような伸びやかなデザインはホイールベース3000mmと超ロングとなっている。

新型クラウン セダンFCEVで公道を走ってみました

 ボディサイズは5m超えの5030mm、全幅1890mmと大型セダンだが、クラウンシリーズ共通の横長のグリルと1475mmの低い全高のためか、巨大さは感じさせない。

 FCEVはシステムを起動させても静かさを継続したまま、それこそ音もなく動き出す。燃料電池スタックから作り出された電気は、4Ahのリチウムイオンバッテリとともに300Nmのモーターに供給されるシステム。EVらしいレスポンスの良さと滑かな加速がクラウン史上最高の絹のような上質に動きを実現した。

 乗り心地はと言えば、路面からの突き上げはマイルドに吸収し、豊かな空間を実現している。おもしろいのはドライブモードで、ノーマルのほかにスポーツとリアコンフォートが選べ、それぞれショックアブソーバーの減衰力を変更する。

 ノーマルはオ-ルマイティでどのような場面でも対応でき、安定した乗り心地と安定感のあるハンドリングを楽しめる。スポ―ツではステアリング操舵力が重くなり応答性も向上する。クイックに動くというよりも安定性が高くなる。乗り心地もガツンとしたショックは皆無なのでクラウンらしいスポーティな設定だと思う。

 一方リアコンフォートは後席の乗り心地を重視した減衰力としており、荒れた路面を通過する際などの衝撃はさらに小さくなっている。ただ減数力はかなり低いので、路面によってはウネリでの収束が低下し、個人差はあるが乗員によってはクルマ酔いするかもしれない。

 ハンドリング面でもリアのグリップは低下する。ショーファードリブンに撤して優しい運転を心がけると快適な空間が楽しめる。

新型クラウンセダンFCEVのコクピット。ドライビングカーでもありショーファードリブンでもあるデザイン
直線基調でデザインされているセレクトレバーまわり。シンプルで分かりやすい操作系

FCEVでさらに静かになったクラウンセダン

新型クラウンセダンFCEVのボンネット内に収まる燃料電池スタック。水素から電気を生み出す

 クラウンの静謐な室内は伝統で、FCEVではさらに磨きがかかった。エンジンという音源がないこと、風切り音が徹底的に抑えられていること、ロードノイズの低減などで音の要素は少なくなった。半面、目立ってしまうのが後席の耳元に伝わるロードノイズ。いろいろな音がカットされている分、それまで気にならなかった路面からのささやきが聞こえてくる。

 後席はシートクッションが身体によくフィットし、安定感と心地よさがあり、レッグルームも広い。ルーフが絞り込まれているので閉塞感があるかと思ったが、意外なほど広くヘッドクリアランスも含めて平均的な身長ならゆったりくつろげる。

 ハンドリングはどっしりとしていながら、ライントレース性が高く、思うとおりに動いてくれる。特に路面の凹凸にもショックアブソーバーがしっかり反応して追従性が高く、バネ上がフラットに保たれるのは素晴らしい。ドライバーにとっても心地よいセダンに仕上がっている。

 燃料電池のパフォーマンスは高い。高速道路での追い越し加速も素早く快適にドライブできる。水素の消費はカタログ値で148km/kg、参考数値では航続距離820kmが可能となっている。実用的には東京~大阪間は無充填で行けるというのは安心感がある。

 水素ステーションは東名阪の都市部に集中しており、数は十分とは言えないが、これまで皆無に近かった東北にも少しずつだが増えている。営業時間が限られるなどの問題もあるが、走れば走るほど空気がきれいになると言われる環境コンシャスなFCEVは、官庁や自治体をはじめ多くの人に支持されそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛