試乗記

新型クラウンセダンHEVは、2.5リッターマルチステージハイブリッドシステム初採用

新型クラウンセダンのHEVは、2.5リッターマルチステージハイブリッドシステムを採用

2.5リッターマルチステージハイブリッドシステムを搭載する新型クラウン セダンHEV

 FCEVとHEVを用意する新型クラウンセダンのメインストリームはハイブリッドになるだろう。価格もFCEVの830万円に比べてHEVの730万円は欧州車主流のLクラスセダンのなかにあって割安感がある。

 HEVのシステムは2.5リッターマルチステージハイブリッド。このパワーユニット構成はFRでは初の登場となる。2.5リッターの直列4気筒A25A-FXS型エンジンは、ロングストロークによる燃焼効率の向上、高圧縮比、直噴を組み合わせてトヨタが進化させてきた低燃費エンジン。このエンジンに2つのモーターと4速の有段ギヤを組み合わせて、高速燃費と市街地での燃費向上を図ったシステムだ。

搭載される直列4気筒A25A-FXS型エンジン。ハイブリッド車だが、縦に搭載されているのが新鮮

 2つのモーターと4速ATを組み合わせた10段変速モードが可能で、これまでのTHSよりリズミカルなシフトが可能としている。レクサスLCで初めて採用したダイレクトでリズミカルなシフトが可能だ。

 ほぼ無音のFCEVとはキャラクターが異なり、HEVは内燃機の存在を押し出している。とは言っても現代のパワーユニットらしく、わずかな振動と慎ましいエンジンノイズでTHSの進化形を感じる。

 スタート直後は、FCEVにおける間髪入れずの加速に対して、HEVは一瞬の間をおく。「あ、エンジン車」と思いだすのはこの瞬間だ。音と振動がないFCEVとは異なり、加速を続けるとハイブリッドモーターとの複雑なコンビネーションで小刻みにシフトアップしているようだ。というのもモーターで走る場面も多くあり、市街地を走っていると変速感がない。

マルチステージハイブリッドのため、モーターの活躍する場面が多い

 エンジンらしさを改めて感じるのは高速道路のランプウェイだ。エンジンは軽い振動とともに回転を上げ、リズミカルにシフトしてゆく。欲を言えばもう少しエンジン回転が硬質であればと思うが、快適で伸びやかなところはこのシステムのよいところだ。

 しかも2t強のセダンがWLTC燃費で18km/Lというのも素晴らしい。ハイブリッドのシステムは燃費を追求すればもっと高い数値が得られたかもしれないが、エンジンを感じさせることでドライバーズカーとしての楽しみを大切にしている。

軽やかな加速感と、正確なハンドリングを提供する新型クラウンセダンHEV

新型クラウンセダンのホイールは、空力的な要素をもたせてある。フロントドア直前の加飾の裏にはアルミテープが貼られており、加飾とともにボディ整流を行なっている

 加速力はターボのような分厚いトルク感とは違うが、軽やかにスーと力強く加速する。多段化されたハイブリッドシステムによるワイドレンジのギヤ比で、低速で加速力と速度の伸びを実現している。ハイブリッドのラバーバンドフィールはほとんどなく、エンジン回転に伴う加速感を感があり、クルマを運転していることを感じさせる。

 ハンドリングでは、ライントレース性はFCEVと変わらず正確。あえて言えばステアリング応答性に微妙な差がありHEVは少しドッシリした感触でグイと曲がってゆく。セダンらしい安定感とスポーティな味を得られる。

 路面のアンジュレーションや凹凸でも精緻に働くサスペンションがバネ上の動きを抑制し、乗員の揺れは少ないのもFCEVで感じたとおり。FCEVとHEV、どちらを選んでも快適なクラウンセダンであることには変わりがない。

新型クラウンセダンのコクピットまわり
フロントシート
リアシート
リアシートにコントローラも用意される
ショーファー用途に配慮されており、リアのゲストの視界を広げる工夫が組み込まれている

 日進月歩のADAS系も正確に進化している。1つにはカメラの認識力が高く、走行中コーナーの形状を判断してドライバーにじゃまにならないように速度を抑制し、ステアリングも曲がりやすい方に軽くなるなど細やかな制御を行なう。

 またブラインドモニタを活用し、降車時に後方から接近する車両や自転車がある場合に警告音などで危険を知らせてくれる。

 もちろん全車速クルーズコントロールも車間距離、前車追従性など正確で車線センターの維持能力が高く、クルマへの信頼感が高まる。

 さらに縦列駐車、並列駐車機能、それに白線がなくても自車位置をメモリしておけば巧みに自動駐車してくれる。クルマの大型化に伴い駐車に苦労する場面でも積極的に活用できる。

 新型クラウンセダンにおける運転中の負担軽減はかなりのものがあり、ハード/ソフト両面からレベル2自動運転の上限に限りなく近づいていると感じさせてくれた。新型クラウンは風格、性能いずれを見てもセダンの王道を歩んでいる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛