試乗記

新型クラウンスポーツHEVは、新しい感覚のスポーツSUVだった

新型クラウンスポーツ。まずはHEVから登場

新型クラウンスポーツを公道試乗

 2022年の夏、新型クラウンがクロスオーバーへ変身したのは驚いた。さらにこれから多くのクラウンが登場することが示唆されていた。FRで登場した新型クラウンセダンはクラウンらしい進化を遂げていたが、今回公道でドライブしたもう1つのモデルは新型クラウンスポーツだ。

 搭載システムはクロスオーバーと同じシリーズパラレルと名称を変えたTHSシステムで2.5リッターの直列4気筒自然吸気エンジンと組み合わされる。スポーツは、すべてリアにeアクスルを持つ4WDのみの設定で、近い将来PHEVも予定されている。

新型クラウンスポーツHEVを試乗してみました

 すでに使い慣れたハイブリッドシステムだが、クロスオーバーで確認したようにリアモーターの出力を上げ、スタンバイ方式とは違って積極的に後輪を使うことで運動性能を上げた本格的な4WDになる。

 また、スポーツのネーミングどおりクロスオーバーよりホイールベースを80mm短くした2770mmとしてフットークを重要視している。

 新型クラウンスポーツのリアをスパッと断ち切ったようなデザインは、スポ―ツハッチを連想させ、全長もクロスオーバーより210mm短い4720mmとなっている。リアゲートを開けるとスクエアなラゲッジルームがあり、クロスオーバーより奥行きは短くなったものの、荷室の高さでかさばるものも積める。気になるリアシートはレッグルームが少し短くなったが、着座位置が少し高くなったのと前席への足入れ性が高いので、実用性ではそれほど変わっていない。

 今回試乗したモデルのタイヤは、ミシュランのeプライマシーで235/45R21という大径タイヤを履く。ネーミングどおり重くなる電動車に向けて開発された転がり抵抗の小さい高剛性大径タイヤだ。

 新型クラウンスポーツを実際に試乗すると、軽快なフットワークでスポーツに相応しい新しい形のSUVだった。セダンより高い位置に座るドライビングポジションは大きなSUVを感じさせるが、走り出すとクルマ側からドライバーに合わせるような意外性のある動きなのだ。

 ステアリングフィールは路面からのコンタクトを正確に伝えるとともに、操舵力も適度に重い。しかしセンターから切り始めの壁感はなく電動パワーステアリングに余裕を感じさせる。

 コーナーではクロスオーバーよりもさらにドライバーの感覚を先読みするように曲がっていくし、ドライブモードを変えるとさらに変わる。クラウンスポーツにはクロスオーバー同様にDRS(後輪操舵)が使われており、それを積極的に旋回力に使う。

 60km/h以下では逆相に入れて曲がりやすくしており、70km/h付近では姿勢を安定させる同相と曲がりやすくさせる逆相を使いながら旋回し、それ以上では同相で姿勢を安定させる。この作動はクロスオーバーと同じだが、低速域はさらに強く逆相にいれ、高速域では同相を弱めとしている。この結果、最小回転半径は小型車並みの5.4mに抑えられ、中速域から軽快なハンドリングを実現している。

デザインも特徴的な新型クラウンスポーツ。街でも思い切り目を引く

 さらにドライブモードをスポーツにすると低速域の逆相は強めにしてクイックな旋回性を手に入れ、70km/h付近の中速域ではDRSを作動させず挙動を読みやすくし、高速域での同相は弱く入れるにとどまる。

 DRSの存在は大きく、新型クラウン スポーツの性格を決定付けている。市街地では全幅1810mmのサイズを感じさせない小回り性で走ることができ、中高速では大径タイヤのメリットを活かし、ステアリングレスポンスのよさとグリップの高さで滑らかなドライブフィールを持つ。

 また後輪モーターの高い出力は、ドライ路面でもDRSとともに優れたライントレース性に貢献しており、前後駆動力配分は最大で60:40になる。クロスオーバーと同様に滑りやすい雪道でも走りやすいに違いない。

新型クラウン スポーツのコクピット。水平基調でデザインされながら、パーソナル感のあるものとなっている
スポーツ感覚を得られるステアリング。力強さもある
セレクトレバーまわり。セダンと比べると力感のある立体的な造形
さまざまに変更可能なメーターパネル
フロントシート
リアシート
235/45R21の大径タイヤ、ミシュランのeプライマシーを装着していた

 重心高の高さはロールを感じやすいはずだが、スポーツにはそれがなく、不思議なドライブフィールだった。感覚のズレは慣れるまで少しの時間が必要だが、確かにこれは新しい感覚のスポーツSUVだ。

 一方、エンジンにパンチ力はそれほどないが出力自体はあり、電動モーターのサポートもあって過不足ないトルクを出している。ただエンジンが奏でる音質は高効率エンジンのためか少し騒がしい感がある。クラウンに相応しいエンジンサウンドになればさらに高揚感が増すに違いない。

 ハイブリッドシステムは、速度とエンジンノートとのずれが小さくなっており、少なくとも市街地ではずれを感じる場面はほとんどない。

セダン、スポーツ、クロスオーバーと3車種で性格分けされた新型クラウン

セダンを乗った後だったので、乗り心地はクラウンとしては硬めのスポーツ志向

 さて、乗り心地だがクラウンとしては硬めだ。トレッドのしっかりしたタイヤもあって、路面の凹凸はドライバーに伝わってくる。フリクションの小さいサスペンションは大きな凹凸ではショックを吸収して乗員には伝えない。クイックな操舵性を実現するための設定だと思う。

 新型クラウンスポーツの価格はZの1グレードで590万円。WLTCの燃費は驚異の21km/L。狭い日本の道にも合わせたサイズと風格である。

 セダン、スポーツ、クロスオーバーと3車種で性格分けが明確。さらに日本ではすっかり姿を消していたエステートも控えている。冒頭に記したように新型クラウンの横展開は予定されていた。しかし実際に乗って、触ってみると改めてトヨタの実力に脱帽するばかりだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛