試乗記

ホンダの新型コンパクトSUV「WR-V」初乗り ガソリンエンジン&前輪駆動に割り切ったことによるメリットとは?

2024年3月22日 発売

X:209万8800円

Z:234万9600円

Z+:248万9300円

ホンダの新型コンパクトSUV「WR-V」を一般道を模したテストコースで試乗する機会を得た

2024年3月発売のWR-Vに先行試乗

 11月の先行公開に続き、いよいよ本日正式発表となり、2024年3月22日より発売が開始されるホンダのコンパクトSUVである「WR-V」は、日本・タイ・インドの共同で開発された税込250万円以下の市場を狙った1台。Honda SENSINGをはじめとする安全機能を備えながらもエントリーグレードのXで209万8800円。最上級グレードのZ+で248万9300円というお買い得な設定だ。

 とはいえ、デザインはかなり力強く、塊感あふれる造り込みが感じられる。また分厚いボディサイドとボリューム感あるフロントマスク、そして水平基調を強調したテールまわりなど、決して安っぽさを感じさせない仕上がりはさすがだ。

新型コンパクトSUV「WR-V」は塊感があり力強い印象。撮影車両は最上位グレードの「Z+」。ボディカラーは日本初採用の新色「イルミナスレッド・メタリック」
WR-Vのボディサイズは4325×1790×1650mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2650mm。ちなみに価格帯では1つ上のクラスとなる「ヴェゼル」のボディサイズは4330×1790×1580mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2610mmと、ほぼ同サイズだ
ZとZ+は17インチアルミホイールが標準。タイヤはブリヂストン「トランザ T005A」の215/55R17を履く

 さらに感心するのはパッケージだ。この価格帯のSUVの場合、どうしても空間が狭いのが実際のところだが、ゆとりある後席空間と広大なラゲッジスペースを確保している。プラットフォームとしてはBセグメントSUVとは思えぬ空間を生み出したヴェゼルと共通になるため、それも当然のことなのだが、WR-Vはあえてハイブリッドも4WDも持たなかったことで空間を豊かに使えている。

シンプルですっきりとしたインパネまわり
ボンネットの中央部分がへこんでいるので前方の視認性も高い
前席
後席

 例えばヴェゼルはハイブリッドや4WDの設定があり、ラゲッジスペースの下にはバッテリや4駆機構を積む必要があるためラゲッジの床が底上げされ、後席を倒した際にフラットになるようになっているが、WR-Vはガソリンモデルのみの2WD(FF)のみと割り切った設定にしたことで、ラゲッジスペースの深さを確保。また、ベルトラインの高さに合わせてトノカバーも高くしたことや、後席を前にして長さ方向にもラゲッジを伸ばしたことで多くの荷物を積載できるようになっている。かといってリアシートに狭さは感じない。

身長175cmでもゆったりと座れるスペースがうれしい。インドでは後席に大切なお客さまや大事な家族を乗せる習慣があるそうで、後席の乗り心地をとても重視するという
後席用のエアコン吹き出し口も完備。下にはアクセサリ電源も備わっている
後席は跳ね上げ式ではないうえ、下にバッテリも搭載していないので、しっかりとクッション性があり座り心地のいい仕上がりになっている

 身長175cmの筆者が座ってみても、膝前には拳2個分ほどの空間をしっかりと確保。ヴェゼルほどではないが、ホイールベースを40mmも伸ばしたことが豊かなラゲッジと後席空間の絶妙なバランスにつながっている。シートのクッション性の高さやリアにエアコンの吹き出し口を備えたこと、さらには乗降性もよくドア枠に頭も擦らない仕上がりはなかなかで、とても250万円以下とは思えない。

ラゲッジスペースは床が低く、屋根も高いので容量も大きい
フルフラットにはならないが後席を倒せば長い荷物もかなり積み込める
インドは装着タイヤと同サイズのスペアタイヤの搭載が義務付けられているため、ラゲッジスペースの下にも大きなスペースがあり、パンク修理キットを積む日本仕様はさらなる収納スペースとして利用可能

 パワートレーンは1.5リッターのi-VTECを採用し、そこにCVTを組み合わせている。このCVTは滑らかな走行を実現するだけでなく、アクセルを深く踏み込んだ際にはステップアップシフト&ステップダウンシフトが可能なG-Design Shift制御を備え、さらにローレシオギアを備えることで、リニアで心地よく走れるようにセットしているという。

搭載される直列4気筒1.5リッター i-VTECエンジンは、最高出力87kW(118PS)/6600rpm、最大トルク142Nm/4300rpmを発生。組み合わせられるCVTは、G(=加速度)をデザインする「G-design Shift」を内蔵し、心地よい加速感とエンジン音など細部まで凝った演出を施している

 それでもWLTCモード燃費で16.4km/Lを実現しているし、最上級グレードのZ+に乗って走り出すと、パワーやトルクが豊かというレベルではないものの、ストレスなく軽快に反応してくれる感覚がある。日常域では必要十分といったところだろうか。

 ドライバーズシートで特に感じたことはかなり開けた視界だった。最低地上高は195mmとなり、アイポイントも高さがあり、ボンネットの見切りもよく取りまわしがしやすいと感じた。おかげで狭いシーンや交差点などを難なくクリアすることが可能になっている。最小回転半径は5.2mと、Uターンもラクラクだ。ただ、電動パーキングブレーキは備えず、昔ながらのハンドサイドブレーキであるため、オートホールドは当然ないがCVTのみの設定だし、そこさえ目をつむれば十分な使い心地だ。

市街地を模したコースも走行。試乗車は最上位グレードの「Z+」

 乗り味はフラットで背が高くてもグラつかない安定感はなかなか。ワインディングも軽快にこなしてくれるところが好感触。けれども乗り心地がハードなわけではなく、入力をうまくいなしてくれる。コレ、実はボディ剛性を高めるばかりにしなかったところがポイントだと後に開発者に伺った。

ワインディンを模したコースは「Z」グレードで試乗。ボディカラーは「メテオロイドグレー・メタリック」
路面からの入力をサスペンションとボディでバランスよくいなしてくれる

 入力を足まわりだけに求めず、ボディのねじれも利用して剛性バランスを取ったと言うのだ。もちろん箱を強じんにすればメリットは多いが、そうなると足まわりへの要求値がどんどん高くなる。しかし価格を徹底的に抑えたクルマ作りということもあり、足まわりに使える金額が少なく、「それならばボディとバランスさせればいい」という判断にいたったという。その絶妙なサジ加減は荒れた路面における“いなし”に確実につながっていたことが見どころだった。

ドライバーズシートからの視界はかなり開けている

 このように価格に制約がありながらも、あらゆる工夫を凝らして成立させたWR-V。これならZ世代はもちろん、子育てを終えたダウンサイジングユーザーにとってもありがたい1台になりそうな気がしてくる。欲を言えば4WDが欲しいとも感じたが、インドで生産され、現地工場には4WDを導入できるシステムがないために、今後もその登場はないだろうと伺った。

CVTはG-Design Shift制御を備え、滑らかなだけでなく、リニアで心地よく走れる

 開発者いわく「すべては割り切りで価格を狙ったんです。でもFFでも雪道をこなせるように北海道でもテストしていますのでご安心ください」とのこと。少しでも安くしようと考えた結果、“FFだけでいいじゃないか”という考えもアリと言えばアリ。たしかに最近のクルマは高いし、そんなコンセプトも今後は大切なのだろう。いずれにせよ、すべてを割り切っている割には、かなり満足度の高い1台。それがWR-Vということは紛れもない事実だ。

寝袋やクーラーボックス、テント、テーブル、ランタン、タープ、ツーバーナーなど、4人が余裕でキャンプできる装備を積めると言う
実際に後席を倒さない状態にも関わらず、4人分のキャンプ用品をトノカバーより下のスペースに搭載できたのは驚き
最上位グレードでも250万円以下だし、エントリーグレードなら軽自動車の最上位グレードよりも安い価格なのは魅力的だ

純正アクセサリーの「後退時サポート機能」も試してみた

 ホンダアクセスが手掛ける純正アクセサリーの1つ「リアカメラ de あんしんプラス4」をWR-Vで試してみた。このリアカメラ de あんしんプラス4は、ギャザズのナビオプションとして販売しているリアカメラの映像を活用した運転サポートアイテムで、現在の製品には、「後退駐車サポート」「後退出庫サポート」「後方死角サポート」「後方車両お知らせ機能」の4つの機能が備わっている。

 この日は駐車場内で試せる「後退駐車サポート」「後退出庫サポート」を試してみた。

 まず「後退駐車サポート」から。左右に駐車用の白線が引いてあるのが大前提となるが、リアカメラの映像1つで、まるで上から見ているような映像とガイド線、フロントタイヤの向きがディスプレイに表示される。ゆっくりと後退しながら画面の下に出てくる指示に従ってステアリングとアクセル・ブレーキを操作。正しいステアリング角になるとガイド線が緑色になるので分かりやすい。最後はステアリングを真っすぐにして後退し、指示通りに止まれば駐車完了。目視はもちろん必要ではあるが、駐車が苦手に人にとっては強力なサポートになるだろう。

ショッピングモールや高速道路のサービスエリアなど、左右にクルマが止まっている駐車場によく止める人にはおススメの機能だろう
ステアリング角が誤っているとガイド線がオレンジ色になる。ボディの左右にカメラを搭載していないが、リアカメラが撮影した映像をコンピュータが処理して、あたかも上から見ているような映像に変換して表示できるのが最大の特徴
ステアリング角が正しいとガイド線が緑色になる
ステアリングが真っすぐになったときは、少しだけタイヤを強調した映像にして教えてくれる

 続いて「後退出庫サポート」も試してみた。これは駐車場に頭(フロント)から止めた際、後退で出庫しなければならない状況で、目視では見えにくい左右から来ている、クルマ、自転車、人などを検知して知らせしてくれるサポート機能となる。

後退出庫時に左右の死角から飛び出してくる歩行者や自転車、子供も少なくないだけに、ぜひとも装着しておきたい機能
カメラの映像を解析して左右のどちらから接近しているかも、色と音で警告してくれる
これが「リアカメラ de あんしんプラス4」の本体ユニット。価格は3万5200円で、車種によって取り付け工賃は異なるが、約4万~5万円で安全機能をプラスできるのはありがたい
この巨大カートはWR-VのTV-CM用に製作したワンオフモノでちゃんとロックを外せば動きます。ちなみにTV-CMは12月28日から放映が始まるとのこと
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一