試乗記

時代の変化に沿って装備・性能を進化させたスズキ「スペーシア」「スペーシア カスタム」に試乗

スズキ「スペーシア」

デザインは少し大人っぽく。使い勝手は抜群に向上

 キーワードはワクワク。これは2013年に発売された初代から変わらず、スペーシアが最も届けたいものとして大切にされてきた。乗る人みんなが快適に楽しく使えるワクワク感のために、快適性、使い勝手、安全性、乗り心地のよさを磨き上げて進化し、先代から約6年ぶりのフルモデルチェンジでスペーシアは3代目となった。

 初代スペーシアを取材した当時、日本中で売っているボックスティッシュを買い集め、机に山積みになっていたという開発者のエピソードが忘れられない。収納スペースにそれらを入れて、全てのタイプでスムーズにティッシュが取り出せるかどうか、地道な検証をしたというから頭が下がる。そうした誠意ある開発姿勢だからこそ、激戦区となっているスーパーハイトワゴンの中でスペーシアは着々と販売台数を伸ばし、2023年10月までの国内累計販売台数は130万台にもなるという。

 コロナ禍を経て人々の価値観やライフスタイルが変化した今、いったい新型はどんなワクワクを感じさせてくれるのか、楽しみに試乗へと向かった。

まるも亜希子がスペーシアとスペーシア カスタムに試乗

 標準とカスタムの2タイプが用意されたデザインは、どちらも大人っぽく上質な雰囲気が強まっていると感じた。これは軽ハイトワゴン購入層として、子育て終了層が最も多い割合となっていることも、無関係ではないかもしれない。

 コンテナをモチーフにしたという標準デザインは、箱のような立体感を出しながら、サイドのビード形状が頼もしさと個性を演出するポイントとなってる。ホワイトルーフとの組み合わせと相まって、遊び心が注入されつつ毎日乗っても飽きがこないようなナチュラル感が好印象。フロントマスクが少しキリリと大人っぽくなったことで、幅広い世代に好かれそうだ。

 一方でカスタムはどっしりとした存在感と華やかさが印象的。意志のある眼差しを感じるヘッドライトをはじめ、内部をブラック化したシーケンシャルターンライトなどを採用し、プレミアム感のあるデザイン。こちらはブラックルーフで男女ともに好まれそうな、モダンな仕上がりとなっている。

スペーシア カスタム

 インテリアは、最も進化を感じる部分だった。先代のユーザーなどからヒアリングしたところ、広い空間をうまく使いこなせていない人が多いことが分かり、新型はそこが大きな改良ポイントとなったという。

 まず目がいくのは、スッキリとしつつ高い機能性を予感させるインパネ。ダッシュボードはほぼ水平基調としながら、立体感のあるドアインナーパネルを合わせることで、無機質ではない温もりを感じる空間となっている。標準モデルはブラウンを基調にカフェラテ色を使い、家や行き慣れたカフェなどにいるような雰囲気。カスタムは、ゴージャスで上質なのにリラックスできるホテルのラウンジ的な空間と、ガラリと違う仕上がりだ。

 収納スペースは助手席の前にビッグオープントレイがあり、ドライブに欠かせないボックスティッシュとスマホが並べて置けるほどの広さとなっている。停車中にモグモグタイムをするときにも、ちょっとしたお菓子などが置けて便利だろう。運転席の前にもトレーがあり、小さなお財布や手帳などが置けそうだ。また、リップクリームや飴などのこまごました物が迷子にならない、フロントドアのアッパーポケットはアイディアもの。もちろんスズキならではの助手席シートアンダーボックスもあり、子供の靴などを収納するのにも有効だ。そしてシートバックのアッパーポケットにも、エコバッグなどたくさんの物が収納できるようになっている。USBが前席にも後席にも備わり、折りたたみテーブルは後席左右にあるので、家族みんなで車内空間を有効活用できそうだ。

 折りたたみテーブルは形状が変更され、500mLの紙パック、細いマイボトル、幼児用マグまでしっかり収まり、ストッパーがついてタブレットを立てかけておくこともできるようになった。ラゲッジも床面幅が30mmアップ、高さは5mmアップで、後席格納時の床面角度は0度。先端の高さは40mm下げており、従来から好評のタイヤを滑らせるガイド溝も継承されたことで、27インチ自転車がもっと積みやすくなったという。

 さらに、ライバルとの最大の違いがリアシート。新たに装備された「マルチユースフラップ」によって3つの使い方ができるようになった。1つ目は停車中にオットマンとして足を伸ばしてリラックス。センターアームレストに腕をのせ、リクライニングさせればゆったりした姿勢が取れる。2つ目はレッグサポートで、走行中に脚部を支えることで揺れに対しても姿勢変化が少なくなるという検証結果が出たとのこと。3つ目は、座面に置いた荷物の落下防止のストッパー。急ブレーキや下り坂でも、買い物袋などが転がり落ちるのを防いでくれるから安心だ。

 ちなみにマルチユースフラップは前方に4段階で引き出すことができ、角度は2段階に変えられる。真上に固定するとストッパーとして使えるようになっている。後席に人が座っているときも、荷物を置くときも、それぞれに活躍する後席というのは、ライバルにはない大きな魅力。もちろん、前席はゆとりの大きさがありつつ、もっちりとしたファブリックの自然吸気モデルと、レザーでカッチリとしたサポート性を加えたターボモデル、どちらも快適な座り心地だ。試乗日は冬とは思えない暑い日だったが、エアコンの風を素早く室内全体に循環させることができる天井のスリムサーキュレーターは、フラップ形状を見直すなどによって従来よりグッと静かになったというのもうれしいポイントだ。

滑らかな自然吸気モデル、高速域でも余裕のターボモデル

 さて、試乗はまず自然吸気エンジンモデルで走り出す。約33%も細くしたというピラーのおかげもあって、視界がすっきりと見やすく、室内天井部の形状変更などで広がったヘッドクリアランスや、少し広がった室内幅などでさらに心地よい空間になったことを感じながらのドライブ。アクセルを踏み込んでいくと、マイルドハイブリッドによる滑らかで軽快な加速フィール。環状骨格構造によってボディ剛性がアップし、先代よりも低重心感が強まっていると感じる。凹凸路での振動の収まりもよく、防振・防音材をしっかり施したこともあって、強めの加速をしてもエンジン音がうなる感じがしない、静かさにも感心した。

 また、ステアリングのモーターを小型車用に変更したということだが、なるほどドライバーの意志に忠実な動作と、直進でのすわりのよさがあり、速度を上げていっても安心して操作できる。従来のように、気負わずに運転できる軽自動車らしさは持ちつつも、より滑らかさと安心感が高まったのが自然吸気モデルだと感じた。

 ターボモデルに乗り換えると、厚みのある加速フィールが頼もしく、上質感もさらにアップしている。マイルドハイブリッドによるアシストが、以前は「今入ったかな」と分かるシーンが多かったが、新型ではよりシームレスになったのか、エネルギーチャートを見ないとほとんど分からないような自然さ。でも、アクセル操作によってはグイグイとターボらしいパンチのある加速を見せるところもあり、スポーティな走りが好みの人にもウケそうだ。

 足まわりのセッティングはほとんど変えておらず、タイヤの違いによるものだということだが、カーブでの安定感、荷重移動のじわりとした感覚はターボならでは。そして、自然吸気モデルよりも1か所だけ多く遮音材が入っているということもあり、風切り音などのノイズがさらに抑えられて後席との会話も普通にできた。高速域でも余裕があり、コントロールがしやすいのがターボモデルの魅力だ。

 最後に後席に座ってレッグサポートを使って試乗してみると、確かに身体の揺れが小さくて安定した姿勢が取りやすい。ただ、時折シートがたわむように感じるシーンがあり、前後上下に少し揺れているような感覚が気になった。これは、座面にさまざまな機能を持たせながら、従来通りのスライドや折りたたみ機構も継続するために、試行錯誤した部分だという。とはいえ、ファブリックの肌触りが心地よく、センターアームレストがちょうどよく身体を支えてくれて、リラックスして座れる後席だ。

 こうして新型スペーシアに試乗して強く感じたのは、後席の人へのおもてなしがトップクラスの空間になっているということ。ファミリーのファーストカーとしても、愛車を第二のマイルームとして使いたい人にも満足度が高いはずだ。そしてマイルドハイブリッドによる走行性能と燃費性能をしっかり磨き上げ、乗り心地や静粛性まで向上したことで、ロングドライブにも積極的に出かけたい実力を手にしている。新しいワクワクの素をプラスしながら、時代と共に変化するユーザーのライフスタイルを、着実に反映して魅力アップしたのが新型スペーシアだ。

スペーシア概要

スペーシア HYBRID X 2WD、価格は170万5000円。ボディカラーは「使い込んだ革製品のような深みのある色を表現した」というトーニーブラウンメタリックと、ソフトベージュの2トーンルーフ仕様。ボディサイズは3395×1475×1785mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2460mm
大容量のコンテナをモチーフに、ボディサイドのビード形状や工業製品に用いられる角を面取りしたようなデザインとすることで、頑丈でたくさんの荷物を詰め込める印象を付与。日常生活まで楽しくなるようなワクワク感と、使い勝手のよさを表現した
Dピラーとボディを同色にしてコンテナのような大きさと丈夫さを表現。2トーンルーフ仕様車は、Dピラーのルーフとボディカラーをつなぐ部分にシルバーのアクセントカラーを入れて遊び心を演出
親しみやすく優しい印象のヘッドライトは、一見するとハロゲンのように見えるデザインだが、LEDが採用されている
リアコンビネーションランプは、Dピラーから飛び出したアウターレンズ面や外形を多角形の立体で強調
2トーンルーフ仕様車は14インチフルホイールキャップがシルバー×ベージュの2トーンになる
スズキの予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」では、これまでのステレオカメラの2.6倍の認識画角を持つ単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた新しい予防安全システムをスズキの軽自動車で初採用し、新しい衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートII」を搭載
自然吸気モデルに搭載される直列3気筒「R06D」型エンジンは最高出力36kW(49PS)/6500rpm、最大トルク58Nm(5.9kgfm)/5000rpmを発生。スペーシア カスタムには最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgfm)/3000rpmを発生する直列3気筒「R06A」型ターボエンジンが搭載される
全車マイルドハイブリッド仕様で、自然吸気モデルには最高出力1.9kW(2.6PS)/1500rpm、最大トルク40Nm(4.1kgfm)/100rpmを発生するWA04Cモーターを、ターボモデルには最高出力2.3kW(3.1PS)/1000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgfm)/100rpmを発生するWA05Aモーターを搭載。助手席下にバッテリが置かれる
ブラウンを基調に、マットな質感のカフェラテ色をアクセントカラーとして配色したナチュラルイメージのインテリア
ステアリング形状は新デザインに。なお、スペーシア カスタムのHYBRID XS、HYBRID XSターボにはステアリングヒーターをスズキの軽自動車として初採用している
シフトの左側にエアコン関連のスイッチを配置。運転席と助手席のシートヒーターは標準装備
スイッチ1つで簡単に操作できる電動パーキングブレーキをスズキの軽自動車として初搭載。停車中にブレーキペダルから足を離しても停車状態をキープするブレーキホールド機能も採用されている
キャンバス地のような質感のビッグオープントレーは、コンビニでふらっと買った飲み物や軽食をポンッと気軽に置ける形状。USB電源ソケットも用意され、充電しているスマートフォンの置き場所にもなる
シート表皮は家具のような印象のカラーメランジを用いて、車内の心地よさを演出。後席にはスズキ初のギミック「マルチユースフラップ」が採用され、足を投げ出してリラックスできる「オットマンモード」、走行中の姿勢をサポートする「レッグサポートモード」、荷物の落下防止をサポートする「荷物ストッパーモード」の3つの機能を備える。スペーシアは子供の塾の送り迎えで利用されることもあるというアンケート結果から、車内で子供の帰りを待つ親が、後席でくつろぎながら自分時間を過ごせるようにと、マルチユースフラップが開発されたという
パーソナルテーブルは、タブレットやスマートフォンを立てかけやすいようにストッパーを設置。さらに、テーブルとして使用できるスペースが拡大されるとともに、500mLの紙パックにも対応するドリンクホルダーは、細い紙パックが落ちないような構造にもなっている
スリムサーキュレーターは、フラップの形状を変更し、先代スペーシアと同等の風速感を確保しながら静粛性が高められた
後席格納時の床面がさらにフラットになり、荷室高が拡大したことで、自転車がさらに積みやすくなったラゲッジ
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:安田 剛