試乗記

日産の新型「フェアレディZ NISMO」初試乗 ATのみの設定、その仕上がりは?

「フェアレディZ NISMO」に初試乗

タウンスピードとワインディングでの印象

 昨日アップされた日産自動車 商品企画本部 ブランド・アンバサダーの田村宏志氏のインタビューをご覧いただくと一目瞭然なのだが、新たに登場となった「フェアレディZ NISMO」の内容は基準車とは一線を画す仕上がりになっているようだ。果たしてその乗り味はどんなものなのか? 基準車との比較をしながら見ていくことにする。

 Z NISMOに乗り込もうとインテリアを見渡せば、赤いラインがところどころに与えられ、走りを意識したことが伝わってくる。乗る前にすでに気分を高めてくれる演出はなかなかだ。だが、ドライバーズシートに腰掛けると、先ほど目に入った赤いラインが影をひそめる。ドライビングに集中しろと言わんばかりの硬派な仕上がりだ。ステアリングはいかにも滑りにくそうな本革とアルカンターラを組み合わせた専用品に改められている。NISMO専用となるレカロ製シートは、基準車の電動パワーシートではなくマニュアル。シートヒーターだってついていない。太ももあたりのサポートが高くなり、高い減速Gが発生した際にも身体が滑りにくいように対処されている。そのため、基準車に比べれば若干ではあるが着座位置が高い感覚だ。

今回試乗したのは「フェアレディZ」2024年モデルで追加された「フェアレディZ NISMO」。9速ATモデルのみの設定で、価格は920万400円。ボディサイズは4410×1870×1315mm(全長×全幅×全高)で、基準車と比べ30mm長く、25mm広いサイズとなる。また、車両重量は基準車のVersion ST(ATモデル)と比べ60kg重い1680kgとした
「フェアレディZ NISMO」の販売方法については、当面の間「フェアレディZ」を注文して長期間待っているユーザーの中で、Z NISMOへの振替を希望する人にのみ販売される。生産台数に限りがあるため振替希望者が多数となった場合は抽選。納期長期化の解消目途が立ち次第、新規の注文受付を検討していくとのこと
エクステリアではフロントグリル、フロント&リアバンパー、フェンダーモール、サイドシルプロテクター、リアスポイラー、リヤLEDフォグランプをNISMO専用パーツとして開発。低重心かつ長く伸びやかなスピード感を演出し、ダウンフォースを強化するとともに、空力性能を向上させた。フロントグリルのメッシュはGT-R 2024年モデルでも採用した、通風抵抗の少ないハニカムデザインとし、風をすくい取る形状のエアガイドスロープとの相乗効果により冷却効率を最大化している
新たに設定した19インチの全面グロスブラック塗装となるレイズ製鍛造アルミホイールは、剛性と軽量化を両立した9本のラジアルスポークデザインで、リム幅を広げながらも軽量化に成功。タイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX GT600」(フロント:255/40R19、リア:285/35R19)をセット。さらにブレーキにはNISMO専用ブレーキシステム(フロント4ピストン、リア2ピストン)を採用する
インテリアではスポーツ走行を盛り上げるカラーと素材を組み合わせ、NISMO専用チューニングのRECARO製スポーツシートはブラックのパーフォレーション付きアルカンターラとレザー素材を組み合わせ、ノンスリップ機能と高い質感を両立。ドライブモードにはNISMO専用のSPORT+モードを含む、3種類のドライブモードを設定した

 走り出すとタウンスピードから硬質な感覚が伝わってくる。専用チューニングとなる電動パワーステアリングは確実に手応えを増しながら、路面の荒れた状況をダイレクトに反映。足まわりやブッシュ、そしてラックインシュレーターなどの硬度が高まり、横剛性を+12.2%引き上げたことも効いているのだろう。ボディ剛性もバーを前から後ろまで3点も加え、さらにバネダンパーやスタビライザーも変更したことで、一体感溢れる走りを常に展開していく。基準車と比べれば明らかに硬い方向であることは紛れもない事実だ。

 だが、この手のクルマに慣れた人であれば十分に許容できる範囲内といった感覚。入力を一瞬で収め、フラットに駆け抜ける感覚は抜群。基準車はそれに比べれば全体的に曖昧な動きではあるが、足まわりだけで入力を納めてくれる感覚があり、街乗りでのマッチングはなかなかだ。どこに照準を合わせたのか? それがハッキリと伝わってくる。

 対してペースが速いワインディングに舞台を移すとその印象が逆転する。ブレーキのサイズアップや補強、さらにはエアロパーツを盛り込んだことで、フロント40kg、リア20kgの重量アップとなったZ NISMOは、軽快さは持たないが、路面が荒れていようがハイスピードコーナーだろうが、とにかく安定してコーナーを駆け抜けていく。GT-R NISMOと同銘柄のタイヤを装着し、グリップも引き上げられたことで、ドッシリとした安定感を得たところもかなりの変化。そこには前後のリフトバランスまでこだわったエアロも効いているのだろう。基準車は軽快さはあるものの、ロールスピードが速く荒れた路面では路面をいなしきれず、バンプタッチして姿勢が乱れるようなシーンが見えた。これもまた、想定しているスピード域が完全に異なるということだろう。

Version STのMTモデルを注文中の橋本洋平、NISMOをどう見た?

 海外ではスピードリミッターを280km/hとしたZ NISMO。基準車は前後スポイラーを装着したモデルが250km/h、スポイラーレスが220km/hとしている。これはリアの安定性を考慮した日産の社内基準があって決定したことらしい。Z NISMOはかなりの自信があるということなのだろう。

 また、ブレーキやATもかなり違う。カチッとした踏み応えが初期から感じられ、奥まで踏み込んだ際にもたしかな剛性感を得られるブレーキは変えた感が満載。ATはシフトアップした際の滑りを感じず、カクンカクンと背後から蹴られるようなGが得られるところがMTよりもマニュアル的!? ダウンシフトも比べれば51.4%も素早くなり、たしかにこれならMTはいらないかもと思えるほどの仕上がりだ。

 別の機会にATモデルにも試乗したのだが、Z NISMOと比べてしまうと優しいというか、曖昧なシフトのアップダウンに感じてしまう。これはこれで、単体で乗れば十分だと感じていたのだが、Z NISMOのATを知ってしまうともうもの足りない。あくまでもスポーティさを求めればという注釈はつけなければならないだろうが、Z NISMOの仕上がりはその方面を目指す方々にとって、ありがたい環境といえるだろう。

 そして最後はやはりパワーユニットの変更である。15PS/45Nmアップで420PS/520Nmを達成した専用ユニットは、ピークパワーのアップというよりは中間トルクが増したイメージで、とにかく前に出ていく感覚に溢れており、それが高回転まで途切れずに続いていく。ベースモデルは瞬間的に中間トルクを感じるが、それを維持できていないようにも感じてしまう。水冷式インタークーラーのサブラジエターを追加することで、タービンスピードは基準車より5000rpmも高い22万7000rpmをオーバーシュートすることなく使えるようになったというZ NISMO。それが確実に功を奏していることを身体に伝えてくるのだから大したものだ。

Z NISMOが搭載するV型6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」型エンジンは最高出力309kW(420PS)/6400rpm、最大トルク520Nm(53.0kgfm)/2000-5200rpmを発生。WLTCモード燃費は9.2km/L

 ここまでやり切った感が得られるZ NISMO。これなら基準車の最上級モデルであるVersion STのATモデルに比べて254万3200円高かったとしても許せるかも。個人的な話で恐縮だが、実はいまVersion STのMTモデルを注文中で、つまりはZ NISMOを購入するための抽選に参加する権利があった。

 だが、MTがなかったためにそれに参加せずだった。いま、Z NISMOを体感すると、その判断が合っていたのか間違っていたのかと自問自答してしまう自分がいる。それはZ NISMOが搭載していたATはかなり良く、むしろMTより良い部分もあったせいだ。そんなことを思わせてくれるくらい、Z NISMOの仕上がりは魅力的だ。手にすることができる方々がうらやましい1台である。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学