試乗記

ミシュランの二輪用新スポーツタイヤ「POWER 6」「POWER GP2」に試乗

2024年発売予定

 日本ミシュランタイヤは、2024年に二輪用スポーツタイヤ「MICHELIN POWER 6」(以下、POWER 6)およびハイパースポーツタイヤ「MICHELIN POWER GP2」(以下、POWER GP2)を発売する。

 2020年に発売された旧モデル「POWER 5」「POWER GP」に対し、コンパウンドやトレッドパターンなどの変更を施すことでグリップ力およびハンドリング性能が向上したとしている。ここではそれら2製品の概要を紹介するとともに、製品説明と合わせて開催された試乗会におけるインプレッションをお届けしたい。

250ccクラスにも対応する「POWER 6」、ウェットグリップ15%アップの「POWER GP2」

 ミシュランのオンロードタイヤのラインナップにおいて、「POWER 6」は主に公道でのスポーツライディングをより楽しむためのタイヤとして、「POWER GP2」はサーキットと公道の両方におけるパフォーマンスを追求するタイヤとして、それぞれ位置付けられる。ツーリング向けの「ROAD 6」と、サーキットパフォーマンスをさらに高めた「POWER CUP2」との間のボリュームゾーンをカバーする製品だ。

新発売となるPOWER 6とPOWER GP2のポジショニング
新旧モデルのトレッドパターンの比較

 POWER 6は、小排気量車から大排気量車まで対応する幅広い適合範囲がポイントの1つ。フロントは110および120の2サイズ、リアは140/150/160/180/190/200に加えて、Ducati Diavelなどで採用されている240も含め計8サイズをラインアップしている。近年人気が高まっている250ccスポーツバイクなどにも装着できるようになり、旧モデルのPOWER 5から一段と懐が深くなった。

POWER 6
POWER 6のフロント
POWER 6のリア

 テクニカル面での一番の変更点はトレッドパターンだ。タイヤ全体における溝面積を意味するボイドレシオはPOWER 5と同等の11%を維持しながらも、同社製品で統一されていた細かな溝を多数設けた左右対称デザインから脱却し、センター付近の溝を長めにとる左右非対称デザインに変わった。これによってタイヤ剛性が最適化され、ショルダー部の(溝のない)スリックゾーンが拡大、見た目にもスポーティさを増したとする。

ボイドレシオは維持しつつ、センター付近の溝は長めに
よりスポーティなルックスに

 POWER 5ではリアのみだった「ミシュラン・2CT+ テクノロジー」は、POWER 6ではフロントとリアの両方に採用した。ショルダー部にハードコンパウンドとソフトコンパウンドを重ねる形で配置した構造により、コーナリングの安定性が高まっているとのこと。結果的にPOWER 6は旧モデルと比べてドライ・ウェットグリップ性能で10%、ウォームアップ時の温まりやすさで10%、ハンドリング性能で5%向上し、耐摩耗性能はキープしたとしている。

フロントとリアの両方に「ミシュラン・2CT+ テクノロジー」を採用
グリップ、ハンドリング、温まりの早さといったほとんどの項目で前モデルを上回る

 トレッド面のゴルフボールデザインとスクエアーデザインの飾り溝も継続。微細加工を施す「ベルベットテクノロジー」は質感の表現力がさらに高まり、サイドウォールに微妙なコントラスト違いによるチェッカーフラッグ柄が配置されている。これらはタイヤ性能には直結しないが、高級感のある外観が目を引くだろう。

ショルダー部に設けられたゴルフボールデザインなどの飾り溝は継承
サイドウォールにはチェッカーフラッグ柄

「POWER 6」サイズラインアップ

フロント
110/70 ZR 17 M/C(54W)
120/70 ZR 17 M/C(58W)
リア
140/70 ZR 17 M/C(66W)
150/60 ZR 17 M/C(66W)
160/60 ZR 17 M/C(69W)
180/55 ZR 17 M/C(73W)
190/50 ZR 17 M/C(73W)
190/55 ZR 17 M/C(75W)
200/55 ZR 17 M/C(78W)
240/45 ZR 17 M/C(82W)

 一方のPOWER GP2も、進化の方向性としてはPOWER 6と似た形だ。ボイドレシオは旧モデルのPOWER GPと同じ6.5%とし、センター付近の溝は長く、さらに左右非対称デザインとして、ショルダー部のスリックゾーンも旧モデルより拡大させた。コンパウンドは旧モデルと変わらず、フロントに「ミシュラン・2CT テクノロジー」を、リアに「ミシュラン・2CT+ テクノロジー」を採用しており、フロントについてはロングライフと安全性を両立させ、リアについてはコーナリングの安定性を高めた設計としている。

 結果、ドライグリップは10%、ウェットグリップは15%、ハンドリングは10%、ライフは5%、それぞれ向上したという。サイドウォールのチェッカーフラッグ柄はPOWER 6と共通だ。サイズラインアップはフロントが120の1サイズのみ、リアが160/180/190(プロファイル違い2種)/200の5サイズとなる。

POWER GP2
POWER GP2のフロント
POWER GP2のリア
ボイドレシオは6.5%、スリックゾーンが拡大された
フロントが「ミシュラン・2CT」、リアが「ミシュラン・2CT+」となる
グリップ、ハンドリング、ライフの項目で性能が向上

「POWER GP2」サイズラインアップ

フロント
120/70 ZR 17 M/C(58W)
リア
160/60 ZR 17 M/C(69W)
180/55 ZR 17 M/C(73W)
190/50 ZR 17 M/C(73W)
190/55 ZR 17 M/C(75W)
200/55 ZR 17 M/C(78W)

POWER 6は軽量な車体もしなやかに受け止め、グリップ力を発揮する

POWER 6の試乗

 試乗会ではPOWER 6とPOWER 5、およびPOWER GP2とPOWER GPの同一車種による新旧比較もできるようになっていた。

 同一車種でも車両状態に差があったことから、タイヤの違いによるものなのか、車両の個性によるものなのか判断しにくいところもあったが、POWER 6については、POWER 5にあった素直な特性がそのまま受け継がれているように感じられた。高速走行時のレーンチェンジを想定した場面でも、あるいは低中速でバンクしていくときでも、左右への倒し込み・切り返しは極めてスムーズだ。

POWER 5にあった素直な特性はそのまま

 250ccクラスのスポーツバイクにおけるグリップ性能は、持て余し気味になるのではないかと思えるほど。スチールワイヤーを使わないミシュランならではの設計のおかげか、比較的軽量な車体の荷重もしなやかに受け止めて、路面を点ではなく面で捉えているような感覚が得られる。

軽量な車体でもバンク時の安定感は高い

 また、トレッドに長い溝が設けられ排水性能が高まったことにより、ウェット路面でのスラロームにおける安心感も着実にアップしている。POWER 5でも特に不安のなかったスラロームにおける細かな切り返しと加速だが、POWER 6ではより大胆にハンドルをこじっても、アクセルをオンオフしても、しっかり路面に食いついてくれる。

ウェット路面のスラローム
路面に食いついてくれる感覚がある

 当日のドライ路面の温度が約24℃とやや高めだったこともあるかもしれないが、ドライかウェットかによって乗り方(慎重さ)を変える必要は全くなかった。天候や路面状況が刻一刻と変わる可能性がある公道走行においては、過剰に気を使わなくても安心して乗れるというのは大きなメリットではないだろうか。

POWER GP2は旋回性能、ウェットグリップの向上を実感

POWER GP2の試乗

 POWER GP2は、旧モデルのPOWER GP装着車両も用意されていたSUZUKI GSX-S750での比較試乗とした。走り出して最初に感じられたのは、先ほどのPOWER 6より多くのインフォメーションを得られることだ。POWER GPもそうだが、POWER GP2になってその情報量は格段に上がった。

路面から得られる情報は多い

 ここはパターンデザインの変更でタイヤ(トレッド)剛性が向上したことによる影響とも考えられ、特にコーナリング中には路面のちょっとした凹凸がバタつきのような感触として伝わってくる。ともするとネガティブに受け止められかねない部分だが、走り込んで慣れていくに従い、そのバタつきのようなものはバイクを速く走らせるために必要な情報だと理解していける。

 エッジグリップの高さは車体の限界性能を引き上げるだけでなく旋回力にもつながっている。たとえばコーナーでバンクしているときには、アクセルとリアブレーキの操作による修正やクイックな向き変えにも応えてくれる。そして、コーナー脱出時の加速していく段階では、リアが潰れてしっかり路面を捉えてくれていることがわかる。それによって適切なトラクションが得られるアクセル開度も感覚的に把握できるのだ。

エッジグリップの高さにより、旋回性も向上している

 ウェット路面のスラロームでも、POWER 6と同様に排水性能の向上によるグリップ力の高さを実感する。細かな切り返しと加速をしても、終始タイヤが路面に吸い付くように追従し、ある程度ラフなアクセル操作をしたところでリアが流れるような気配もない。これは従来のPOWER GPにはなかったフィーリングで、どちらかというと怖さを感じやすいウェット路面がむしろ一番楽しいシチュエーションになった。

ウェット路面の安心感はPOWER 6と同等と感じた
ドライグリップの高いスポーツタイヤだが、ウェット走行に不安はなく、むしろ楽しめる

さらなる性能の積み上げで走りの質が高まる

 旧モデルのPOWER 5やPOWER GP2も十分な性能を備えていたように思うが、新しいPOWER 6とPOWER GP2は、ある意味昨今のスポーツタイヤのトレンドに則ったパターンデザインに落ち着き、旧モデルで物足りなく感じることもあった剛性感が特にPOWER GP2において改善された。ウェットグリップの向上もはっきりと体感でき、走りの質は少なからずアップしそうだ。

 ちなみにPOWER 5/6とPOWER GP/GP2は採用しているテクノロジーは異なるものの、プロファイル(断面形状)が酷似しており、乗り味は非常によく似ている。POWER 5や6からのステップアップとしてPOWER GP2に履き替えても、もしくは今POWER GPを使っていてライフ重視でPOWER 6にしたくなったとしても、違和感なく走り出すことができるだろう。

日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターに。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。2009年より参戦したオートバイジムカーナは2年目にA級昇格、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオン獲得。

Photo:堤晋一