試乗記
「エクリプスクロスPHEV」と行く東北福島県、三菱自動車らしい硬派な4WD性能を改めて堪能
2024年1月3日 10:30
ランエボのハンドリングと電子制御4WDを備えたSUVクーペ
久しぶりに乗る三菱自動車工業の「エクリプスクロス」。「アウトランダー」よりひとまわり小さく、アウトランダーと同じシステムのPHEVもラインアップにそろえる。エクリプスクロスはSUVクーペという新しいジャンルに挑戦した三菱自動車らしいSUVで、その走りはなかなかたくましい。電子制御4WDを熟知した駆動力配分で、ハンドリングは「ランサーエボリューション」の血統を引いた硬派の4WDだ。
氷上でのハンドリングの高さはこれがSUVかと思うほど重さを感じなかった。アウトランダーの描く正確なライントレースとも違った野趣あるものだが、力強さがあって性格分けができている。オフロードでは高速からタイトコーナーまでラリーの三菱の名に恥じないタフな性能を誇る。
今回はPHEVをオンロードでの長距離ドライブに連れてゆく。二本松の高村智恵子の生家を訪ね、福島の名城、霞ケ城に行く。さらに昔のラリーコースを走るというメニューだ。
ついでながら二本松と言えば、東北サファリパークに併設されているエビスサーキットがあるが、その原型はアップダウンの激しいダートコースで東北のダートトライアルのメッカでもあった。
ラリー/ダートトライアルタイヤのテストによく通ったコースで、下りの大ジャンプ後の右90度ターン、壁というとんでもない肝試しコースを今でも思い出す。
福島県二本松市をエクリプスクロスPHEVで周遊
まず高村光太郎の詩集「智恵子抄」で有名な智恵子の生家に行く。明治初期に建てられた江戸時代を連想させるを造り酒屋だ。屋号を米屋と言い、中に入ると少しカビ臭いような酒屋特有の香が残っている。智恵子の和室や天井の高い居間があり、裕福な家庭だったことが分かる。
米家の裏側にまわると真新しい智恵子記念館があり、智恵子が制作していた美しい紙絵が展示されている。智恵子と光太郎の純愛はよく知られておりその軌跡を辿ってみると、人生の後半、度重なる不幸に見舞われた智恵子だが美に対する限りない情熱で決して不幸せではなかったと感じホッとする。
さてエクリプスクロスの高いアイポイントは市街地でも視界が広く乗りやすい。全長は4545mm、全幅は1805mmとスクエアなボディで狭い路でも車幅感覚をつかみやすい。大き過ぎず、小さ過ぎずないところがちょうどよい。
ドライブモードはNORMALを選ぶ。他のドライブモードはECO、SNOW、GRVEL、TARMACがあり路面に応じて優先される駆動力配分を選択できるが、NORMALを選んでおけばオールマイティで安心だ。
智恵子記念館を見学した後は霞ケ城に行く。大きな公園で平日でも観光客が多い。春は桜が美しいと言われるが残念ながら訪れた日程は季節を外れていた。城に届く路は狭く曲がりくねっている。左右にハンドルを切り返すところも少なくないがステアリングも軽く、4輪でしっかりとグリップする感触があってドライバーの期待に応えてくれる。
4WDはモーター駆動でアクセルに応じた立ち上がりは力強く、2.4リッターエンジンによる発電はエクリプスクロスをレスポンスよく走らせる。アクセルレスポンスは決して過敏ではなく細かい操作にも順応してくれ、低速走行を強いられるオフロードで鍛えられただけのことはある。軽快というよりも重厚な走りで大人の味だ。
二本松城は戊辰戦争で焼失しており最近になって天守が再建された。近世の城郭のはしりとなった広大な城址は、今も重厚で歴史の重みを感じる。今は公園になっている霞が城址は素晴らしく手入れされ今も進化している。二本松市の人々の城に対する愛着を感じさせ、春は桜の名所、秋は紅葉と菊人形と人々を飽きさせない。
次の目的地はエビスサーキット。選んだルートはかつてラリーコースだった県道。そういえば岳温泉という名前はラリーのルートマップによく出てきた。
舗装のワインディングロードはよく整備されており、正確なライントレースはエクリプスクロスの素性をよく表している。ランサーエボリューションをドライビングしているような気がしてくるからだ。前輪で引っ張り、後輪は駆動力をサポートする極めて安定性の高い4WDであるが、コースが複雑になるほど本領を発揮し、高い安定性はドライバーに自信を与えてくれる。ドライブモードはNORMALのまま。TARMACにするとさらに後輪への駆動力が増える。走らせ方によってはTARMACも面白いが、やはりNORMALは万能で守備範囲が広いことに改めて驚く。
県道はだんだん狭くなりやがてダートになる。そうそう昔の山道は狭く曲がりくねっていた。走りやすさよりも目的地にたどり着くのが最優先、行き交う人やクルマはそこに合わせていた道だった。当時のクルマでは2速→3速がやっとだったと思う。狭いコース幅でエクリプスクロスも少し大きく感じられるぐらい。しかし市街地同様、車幅感覚がつかみやすく運転しやすい。しかもダートでも接地している感触が伝わってくるので安心感があり、運転が楽しい。
いつの間にか路面はダートから舗装になり、道幅も広くなってきたと思ったらエビスサーキットに到着した。
ひと仕事して東北縦貫道を東京に向かう。高速道路同一車線運転支援機能「マイパイロット(MI-PILOT)」をONにして全車速クルーズコントロールで前車に追従する。道路の緩いカーブならトレースしてくれ、前車との車間維持も適度だ。またボディ剛性の高さは直進安定性につながっていることを実感する。静粛性の高い包まれた感じのコクピットが運転を飽きさせない。
三菱自動車のPHEVは高速クルージングではエンジン駆動も使うが、加速するとモーター出力も使うのでが電気を消耗していく。モニターを見ていると頻繁に回生しているが、限界があるのでセンターコンソールの設定スイッチでバッテリセーブモードなど使って電気を残して市街地ではガソリンを使わないという選択もできる。いろいろPHEVは面白い。
エクリプスクロスPHEVをいろいろな場面で使ってみたが、やはり三菱自動車らしい硬派な4WDであることを再確認した福島への旅だった。
2023年12月のマイナーチェンジで、マルチアラウンドモニターとスマホ連携ナビが標準装備になった。充電は急速と普通を選択できるが、普通充電を優先してバッテリを労わると消耗が少なくなると言われる。