試乗記

「エクリプスクロスPHEV」と行く東北福島県、三菱自動車らしい硬派な4WD性能を改めて堪能

久しぶりに三菱自動車の「エクリプスクロスPHEV」に乗ってロングドライブに出た

ランエボのハンドリングと電子制御4WDを備えたSUVクーペ

 久しぶりに乗る三菱自動車工業の「エクリプスクロス」。「アウトランダー」よりひとまわり小さく、アウトランダーと同じシステムのPHEVもラインアップにそろえる。エクリプスクロスはSUVクーペという新しいジャンルに挑戦した三菱自動車らしいSUVで、その走りはなかなかたくましい。電子制御4WDを熟知した駆動力配分で、ハンドリングは「ランサーエボリューション」の血統を引いた硬派の4WDだ。

 氷上でのハンドリングの高さはこれがSUVかと思うほど重さを感じなかった。アウトランダーの描く正確なライントレースとも違った野趣あるものだが、力強さがあって性格分けができている。オフロードでは高速からタイトコーナーまでラリーの三菱の名に恥じないタフな性能を誇る。

エクリプスクロスPHEVのボディサイズは4545×1805×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm、最低地上高は185mm、車両重量は1920kg
試乗車はスマートフォン連携ナビゲーションなどを標準装備した上級仕様「P」グレードで価格は465万800円。そこに有料色や電動パノラマサンルーフ、サウンドシステム、本革シート+助手席パワーシートといったメーカーオプションと、ドライブレコーダー、ETC2.0、フロアマット、トノカバーなどディーラーオプションが加わる
装着タイヤはブリヂストンの「エコピアH/L422 Plus」でサイズは225/55R18
普通充電(AC200V/15A)なら約4.5時間で満充電となる。急速充電なら約25分で80%まで充電が完了する
ラゲッジスペースにはクルマのバッテリ電力を取り出せる最大1500W(100V)出力のアクセサリーコンセントを完備する

 今回はPHEVをオンロードでの長距離ドライブに連れてゆく。二本松の高村智恵子の生家を訪ね、福島の名城、霞ケ城に行く。さらに昔のラリーコースを走るというメニューだ。

 ついでながら二本松と言えば、東北サファリパークに併設されているエビスサーキットがあるが、その原型はアップダウンの激しいダートコースで東北のダートトライアルのメッカでもあった。

 ラリー/ダートトライアルタイヤのテストによく通ったコースで、下りの大ジャンプ後の右90度ターン、壁というとんでもない肝試しコースを今でも思い出す。

エクリプスクロスPHEVのインテリア。高いアイポイントで視界が広い
8インチのマルチアラウンドモニター付きスマートフォン連携ナビゲーションを全車標準装備する
運転席&助手席シートヒーターを完備
後席もシートヒーターを備えるほか、9段階のリクライニング機能を持つ
PHEVモデルは9インチのゴルフバッグなら3個積載可能で、ガソリンモデルは4個積める。また、リアシート折り畳み時の荷室長は約1540mmで、最小荷室幅は約1000mm、最大荷室幅は約1260mmとなっている。なお、ガソリンモデルの最大荷室幅は1330mmと少し広い
ラゲッジスペース下部には充電コードが収められている

福島県二本松市をエクリプスクロスPHEVで周遊

智恵子の生家・智恵子記念館(二本松市智恵子記念館)の所在地は二本松市油井字漆原町36。開館時間は9時~16時30分(入館は16時まで)。入館料は大人(高校生以上)410円/子供(小・中学生)210円。20名以上は団体割引あり

 まず高村光太郎の詩集「智恵子抄」で有名な智恵子の生家に行く。明治初期に建てられた江戸時代を連想させるを造り酒屋だ。屋号を米屋と言い、中に入ると少しカビ臭いような酒屋特有の香が残っている。智恵子の和室や天井の高い居間があり、裕福な家庭だったことが分かる。

高村智恵子は明治時代末期~大正時代にかけて活動していた女流洋画家。46歳ころから体調を崩し、病床で千数百点もの紙絵を制作した人物
明治の初期に建てられた生家は貴重な家屋だ

 米家の裏側にまわると真新しい智恵子記念館があり、智恵子が制作していた美しい紙絵が展示されている。智恵子と光太郎の純愛はよく知られておりその軌跡を辿ってみると、人生の後半、度重なる不幸に見舞われた智恵子だが美に対する限りない情熱で決して不幸せではなかったと感じホッとする。

 さてエクリプスクロスの高いアイポイントは市街地でも視界が広く乗りやすい。全長は4545mm、全幅は1805mmとスクエアなボディで狭い路でも車幅感覚をつかみやすい。大き過ぎず、小さ過ぎずないところがちょうどよい。

 ドライブモードはNORMALを選ぶ。他のドライブモードはECO、SNOW、GRVEL、TARMACがあり路面に応じて優先される駆動力配分を選択できるが、NORMALを選んでおけばオールマイティで安心だ。

エクリプスクロスPHEVの走りは4輪でしっかりとグリップする感触がある
霞ケ城へ向かう途中は狭く曲がりくねっていた

 智恵子記念館を見学した後は霞ケ城に行く。大きな公園で平日でも観光客が多い。春は桜が美しいと言われるが残念ながら訪れた日程は季節を外れていた。城に届く路は狭く曲がりくねっている。左右にハンドルを切り返すところも少なくないがステアリングも軽く、4輪でしっかりとグリップする感触があってドライバーの期待に応えてくれる。

 4WDはモーター駆動でアクセルに応じた立ち上がりは力強く、2.4リッターエンジンによる発電はエクリプスクロスをレスポンスよく走らせる。アクセルレスポンスは決して過敏ではなく細かい操作にも順応してくれ、低速走行を強いられるオフロードで鍛えられただけのことはある。軽快というよりも重厚な走りで大人の味だ。

パワートレーンは、前後1基ずつの高出力モーター(前:最高出力60kW[82PS]、最大トルク137Nm/後:最高出力70kW[95PS]、最大トルク195Nm)、2.4リッターのMIVECエンジン(最高出力94kW[128PS]/4500rpm、最大トルク199Nm/4500rpm)、大容量駆動用バッテリなどで構成するツインモーター4WD方式のPHEVシステムを搭載。駆動用バッテリは13.8kWhの容量を持ち、EV航続距離は57.3km(WLTCモード)を誇る

 二本松城は戊辰戦争で焼失しており最近になって天守が再建された。近世の城郭のはしりとなった広大な城址は、今も重厚で歴史の重みを感じる。今は公園になっている霞が城址は素晴らしく手入れされ今も進化している。二本松市の人々の城に対する愛着を感じさせ、春は桜の名所、秋は紅葉と菊人形と人々を飽きさせない。

二本松城は戊辰戦争で焼失しており最近になって天守が再建された
二本松市の人々の城に対する愛着を感じられた

 次の目的地はエビスサーキット。選んだルートはかつてラリーコースだった県道。そういえば岳温泉という名前はラリーのルートマップによく出てきた。

 舗装のワインディングロードはよく整備されており、正確なライントレースはエクリプスクロスの素性をよく表している。ランサーエボリューションをドライビングしているような気がしてくるからだ。前輪で引っ張り、後輪は駆動力をサポートする極めて安定性の高い4WDであるが、コースが複雑になるほど本領を発揮し、高い安定性はドライバーに自信を与えてくれる。ドライブモードはNORMALのまま。TARMACにするとさらに後輪への駆動力が増える。走らせ方によってはTARMACも面白いが、やはりNORMALは万能で守備範囲が広いことに改めて驚く。

対面交通も厳しい砂利の県道も、エクリプスクロスPHEVの緻密な制御が可能なツインモーター4WDなら苦にもならない
PHEVモデルはS-AWC(Super All Wheel Control)を搭載し、4輪の駆動力・制動力を最適に制御することで優れた操縦性と高い走行安定性を実現する

 県道はだんだん狭くなりやがてダートになる。そうそう昔の山道は狭く曲がりくねっていた。走りやすさよりも目的地にたどり着くのが最優先、行き交う人やクルマはそこに合わせていた道だった。当時のクルマでは2速→3速がやっとだったと思う。狭いコース幅でエクリプスクロスも少し大きく感じられるぐらい。しかし市街地同様、車幅感覚がつかみやすく運転しやすい。しかもダートでも接地している感触が伝わってくるので安心感があり、運転が楽しい。

 いつの間にか路面はダートから舗装になり、道幅も広くなってきたと思ったらエビスサーキットに到着した。

高速道路ではマイパイロットが活躍してくれる

 ひと仕事して東北縦貫道を東京に向かう。高速道路同一車線運転支援機能「マイパイロット(MI-PILOT)」をONにして全車速クルーズコントロールで前車に追従する。道路の緩いカーブならトレースしてくれ、前車との車間維持も適度だ。またボディ剛性の高さは直進安定性につながっていることを実感する。静粛性の高い包まれた感じのコクピットが運転を飽きさせない。

コクピットは静粛性が高く包まれた感もある

 三菱自動車のPHEVは高速クルージングではエンジン駆動も使うが、加速するとモーター出力も使うのでが電気を消耗していく。モニターを見ていると頻繁に回生しているが、限界があるのでセンターコンソールの設定スイッチでバッテリセーブモードなど使って電気を残して市街地ではガソリンを使わないという選択もできる。いろいろPHEVは面白い。

 エクリプスクロスPHEVをいろいろな場面で使ってみたが、やはり三菱自動車らしい硬派な4WDであることを再確認した福島への旅だった。

 2023年12月のマイナーチェンジで、マルチアラウンドモニターとスマホ連携ナビが標準装備になった。充電は急速と普通を選択できるが、普通充電を優先してバッテリを労わると消耗が少なくなると言われる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一