試乗記

目を奪われるデザインの「DS 4 Esprit de Voyage E-TENSE」に試乗 滑らかな走りに心も奪われた

DS 4 Esprit de Voyage E-TENSE

 広い駐車場の中で、いきなりバチッと視線が吸い寄せられた。まるで、たくさんのクルマに混ざったアート作品。そんな言葉が頭に浮かぶのが、DSオートモビルの「DS 4 Esprit de Voyage E-TENSE」だ。ただでさえスタイリッシュなDSのモデルたちだが、このEsprit de Voyageはまた格別。

 というのは、ファッションの聖地でもあるフランスらしく、一流メゾンがオートクチュールを発表するように仕立て上げた特別なモデル、「DS COLLECTION」が2023年7月に新設され、その第1弾として登場したのがEsprit de Voyageとなっている。その数は、DS 4のガソリンとディーゼルが50台ずつ、E-TENSEがわずかに40台。DS COLLECTIONは年に一度の発表で、その年によってテーマが変わるため、もう二度と世に出ることはない希少モデルだ。

 Esprit de Voyageとは、日本語でいうと“粋で豊かな旅情”といったイメージとなるだろうか。そうした視点でエクステリアを眺めていると、フロントマスクには夜空に瞬く幾千もの星(のようなフロントグリル)と、ひときわ大きく輝くダイヤモンドのような一等星(のようなLEDヘッドライト)、悠々と翼を広げる飛行体(のようなシャイニーブラックのDSダブルウィング)などなど、妄想が広がってくるような気がする。

DS 4 Esprit de Voyage E-TENSEのボディサイズは4415×1830×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mmで、車両重量は1760kg。価格は669万6000円。ボディカラーはクリスタル・パールのみの設定
夜空に瞬く幾千もの星のようなフロントグリルの上部にはひときわ大きく輝くダイヤモンドのような一等星のLEDヘッドライト、フロントグリル下部には夜空を悠々と翼を広げて飛ぶ鳥のようなシャイニーブラックのDSダブルウィングを装備。ヘッドライトから続くLEDデイタイムランニングライトは、こぼれ落ちた流れ星といったところでしょうか
ダイヤモンドカットの3D LEDテールランプはまさに宝石のよう
パリから広がる旅路がレーザー加工された専用ドアミラーデザイン
19インチアロイホイール“CANNES”もDS 4 Esprit de Voyageの専用装備

 足下を引き締めるアルミホイールは、ダイヤモンドカット加工とアンスラサイトグレーのマット色のコントラストが独創的な、CANNES(カンヌ)というEsprit de Voyageの特別装備。ルーフラインは低く滑らかで、SUVの中でも限りなくクーペに近いスタイリングだ。フロントマスクでグッと視線をつかまれ、通り過ぎるサイドビューに見とれていると、最後に精緻な紋様が美しいテールライトが現れて、心にいつまでも灯るように残るという、ドラマティックなデザインがとてもDSらしい。

 今回はそんなDS 4 Esprit de Voyage E-TENSEで旅に出る……とまではいかなかったが、少し郊外まで200kmほど距離を伸ばしてみることにした。E-TENSEとはDSの電動化モデルを表しており、こちらは1.6リッターターボエンジン+モーターのPHEV。全長4415mmのボディは市街地でも扱いやすいが、ステランティスの多くのモデルに共通で用いられるEMP2プラットフォームはDS 9まで使われており、ロングドライブにも不足のない素性を持つ。ルートには上り坂が多く、ややきついRを描く高速ワインディングもあるから、どんな味付けになっているのか楽しみだ。

 発進は予想以上に力強く、かつシルクに触れているように上質な滑らかさが合わさった独特な加速フィールで、いきなり心をわしづかみにされた。1.6リッターエンジンだけでも最高出力が180PSあるところに、容量12.4kWhのバッテリによって110PSが加わるのだから、余裕はたっぷり。最大トルクにいたってはエンジンだけでも250Nm、モーターで320Nmもあるのだから、高速域までひとっ飛びに加速していく爽快感がたまらない。モーターで発進し、のちにエンジンが始動し始めるのは一般的なPHEVと変わらないが、とにかくすべすべとした感覚がどこまでも続き、エンジンがかかったとしてもそれが邪魔されないところにも感心。長い上り坂もなんのその、追い越し加速の瞬発力も気持ちよく、何度でも味わいたくなるほどだった。

最高出力132kW(180PS)/6000rpm、最大トルク250Nm/1750rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジンを搭載し、最高出力81kW(110PS)/2500rpm、最大トルク320Nm/500-2500rpmを発生するモーターを組み合わせる。バッテリ容量は12.4kW。WLTCモードハイブリッド燃費は16.4km/L、EV走行距離は56km
E-TENSEの充電は200V普通充電に対応。満充電までは3kWで約5時間、6kWで約2.5時間

 そして、もう1つの美点がコーナリングのしやすさと、乗り心地のよさ。このDS 4シリーズには新型308と同じ、最新バージョンのEMP2プラットフォームが採用されている。その恩恵もあるはずだが、19インチタイヤを見たときにあまり乗り心地は期待できないかも、と感じた予想を見事に裏切り、見た目は古い路面なのに、舗装をし直した直後のようなフラットさを感じるシーンがたびたび。高速コーナーでは、吸い付くように路面を捉えて無駄のない動きで駆け抜ける。ほれぼれするような走りを見せてくれたのだった。

 また、流れゆく景色とともに目に映るインテリアが、美術館にいるように1つ1つ、感性を刺激してくるデザインなのもDSならでは。ふっくらとしたレザーシートにあしらわれた大きなものから、スイッチ部の微細なものまで、ダイヤモンドをかたどったようなパリらしいモチーフがちりばめられ、ダッシュボードとフロントドアのステップには、特別なエンボス加工が美しい。これは、DSデザインスタジオがあるパリから、あらゆる方角に出発する旅路を表現したものだそう。Esprit de Voyage専用となるペブルグレーのインテリアカラーも、明るく上質で旅立ちのポジティブな気持ちを盛り立ててくれそうだ。

 スイッチなど操作系パーツのモチーフもほかにない独創的なもので、ブラインドタッチで触れると面白い感触だったりする。指で文字を描いて操作するパネルなど、正直なところ乗り始めて数時間では使い慣れなかったり、使いこなせる気がしない部分もあるにはある。でもそれもまた、じっくりと愛車との時間を熟成させていけるオーナーにとっては、味となるものではないかと思わせてくれた。

DS 4 Esprit de Voyageのインテリア。専用エンボス加工入りグラナイトグレーナッパレザーダッシュボードや専用フロントドアステップガードなどを特別装備。10インチタッチスクリーン、DS IRISシステム、DSスマートタッチ(5インチ操作パネル)などはDS 4からの標準装備
シートは専用のペブルグレーレザーシート
ラゲッジスペース。リアシートは分割可倒式。トランクスルー機構も備える

 充電は普通充電対応で、カタログによれば満充電まで約2.5時間。EVでの走行距離は最大56km(WLTCモード)と、ご近所への買い物や送り迎えくらいなら十分にEVとして使えるモデルとなっている。使い方次第で、エネルギーを賢く配分できるところも、気持ちを前向きにしてくれる要素。DS 4 Esprit de Voyage E-TENSEは、旅するように日常をも粋に豊かにしてくれる1台だった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:安田 剛