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ホンダ、協調AI「Honda CI」のコンセプト変更 自動運転の最高速を60km/hへと引き上げる方法とは?

2026年2月18日 実施
ホンダは協調人工知能「Honda CI」を活用し、自動運転(レベル4)実現を目指している

 本田技研工業の研究開発子会社である本田技術研究所(以下、ホンダ)は2月18日、独自の協調AI(人工知能)である「Honda CI(Cooperative Intelligence)」を活用した自動運転技術の実証実験取材会を実施した。

 会場は小田原市の東部にある橘地域で、“自然と人間の共生”を合い言葉に整備し、工業ゾーンには公害のない企業の集積を図りつつ、中央には憩いの場となるコミュニティゾーンを配した「西湘テクノパーク(小田原市羽根尾地区工業団地)」にある公共施設の橘タウンセンターこゆるぎ。

取材会場は公共施設の橘タウンセンターこゆるぎ。取材会の後は地元住民向けの説明会も実施され、20~30人が見学したという

 取材会の冒頭、小田原市 都市部副部長である金子明弘氏は、小田原市の公共交通ネットワークについて、「鉄道が5社6路線18駅、路線バスが4社で形成していますが、路線バスは利用者の減少などにともない減便や廃止が行なわれ、市民生活に支障が生じています。そこで市ではこれまで、バス会社単独での維持が難しい路線には、運行経費の一部補助を行ない維持してきました」と現状を紹介。

小田原市 都市部 金子明弘 副部長

 続けて、「市ではバス事業者と連携して、バスの運転体験を兼ねた就職説明会などを開催して、運転士確保に向けた取り組みも行なっていますが、近年は運転手不足を理由とする減便や廃止が行なわれていて、運行経費の補助だけでは解決できない段階になってきています。そこで運転手不足の解決策の1つとして、市では自動運転技術の活用に注目していました」と公共交通がひっ迫した状況であると説明した。

 そこでホンダと神奈川県と小田原市は、特に坂道や傾斜地の多い地域のため、高齢者が免許を返納した後の移動が制約され、交通弱者の問題が深刻化することが予想されると考え、2025年3月31日に「交通課題解決に向けた自動運転技術の実証実験に関する協定」を締結。

2025年3月31日に行なわれた締結式。左から小田原市 加藤憲一市長、株式会社本田技術研究所 代表取締役社長 大津啓司氏、神奈川県知事 黒岩祐治氏

 その後、交通課題にもとづく技術実証実験ルート設定を行ない、段階的にエリアを広げつつ、速度レンジも高めるSTEP1~STEP4を構築。2025年10月~2026年1月にかけてデータ計測を行なうサイレントテストを経て、いよいよ2月2日より人が乗車した状態での自動運転走行(レベル2+)を開始した。

実証実験に使用する車両はホンダ「CR-V」

協調する人工知能「Honda CI」とは?

 ホンダが取り組む協調AI「Honda CI」は、振る舞いや言葉を通じてコミュニケーションを図り、ユーザーや周囲の人と協調しながらユーザーを支える人工知能で、人とシステムが互いに理解し合い協調することで、複雑な交通環境などさまざまなシーンでの共存を目指すもの。ChatGPTや生成AIのように、人が語りかけた内容に回答するだけではなく、CIから人に語りかけるようなコミュニケーションも図れるというもの。

ホンダが開発している協調人工知能「Honda CI」のイメージ。人→AIの一方通行ではなく、人⇔AIの相互通行が特徴

 本田技術研究所 先進技術研究所 知能化研究領域統括 エグゼクティブチーフエンジニアの安井裕司氏によると、モビリティを使った実証実験は、2022年11月に茨城県常総市で搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」および、マイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」を使用し、地図レス協調運転技術と意図理解・コミュニケーション技術を用いた自動走行技術や、ユーザー追従・先導走行機能の検証に取り組んでいるという。

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 知能化研究領域統括 エグゼクティブチーフエンジニア 安井裕司氏

 また2024年2月より、茨城県にある「アグリサイエンスバレー常総」内の“道の駅常総”から観光農園“グランベリー大地”まで、約850mの区間を使って来場者を対象にしたサイコマの自動走行の乗車体験も提供している。

左がマイクロモビリティロボット「ワポチ」、右が搭乗型マイクロモビリティ「サイコマ」
アグリサイエンスバレー常総内で実施しているサイコマの乗車体験では、専用携帯デバイスでサイコマを呼び、目的地まで移動するのはもちろん、走行中に停止場所を指定すれば任意の場所に立ち寄ることも可能

 これらのマイクロモビリティの基本的な利用シーンは、自宅から最寄りのバス停や商業施設といった約5km以内で、最高速は20km/h。しかし、小田原市のようにバス路線がなくなってしまうと、遠方の駅などへの移動に制約が発生してしまう。そこでホンダは、これまでのHonda CIを使った自動運転のコンセプトを、もっと速い最高速60km/hに、さらにもっと長い距離を走れる新たなコンセプトへ変更するとともに、いずれは自動運転バスを導入することで運転手不足の解決にもつながるとしている。

Honda CI自動運転のコンセプト変更イメージ

 速度制限を今の20km/hから60km/hへ上げる障壁となっているのが坂道の“勾配”で、安井氏は「これまでは360度のサラウンドカメラと2眼のステレオカメラで周辺環境を把握していましたが、ステレオカメラは近距離の環境把握には適しているのですが、遠近といった距離感を把握することが苦手なため、20km/h以下であれば問題ないのですが、60km/hの速度域ではこれまで以上に早く環境を把握する必要があるため、LiDARを使用することにしました」とコンセプト変更とともにシステムの変更も行なったという。

Honda CIではステレオカメラからLiDARへと変更を行なった

地図データ不要の自動運転システムとは?

 ホンダの目指す自動運転の最大の特徴について安井氏は、「事前に整備された高精度地図を必要とせず、車両が自らが周辺環境を認識して自動走行できる“地図レス協調運転技術”にあります」と説明。せっかく既存の地図データがあるなら活用した方が開発もよりスピーディに進められると思ってしまうが、安井氏によると「地図データの更新は手間もコストもかかりますが、Honda CIの自動運転システムはそれが不要です」という。確かに区画整理などで道路は変わるし、地図レス方式であれば日本以外の国でもすぐに導入できるメリットもある。

Honda CI自動運転のロードマップ

 また安井氏は、「一般的な高精度地図ベースの自動運転システムは、レーザー光を対象物に照射し、その反射光を観測することで対象物までの距離や性質を計測する高価なレーザーセンサー“LiDAR(Light Detection and Ranging)”で360度環境を把握しつつ、カメラでも360度監視していますが、Honda CIの自動運転システムでは、360度カメラの情報をベースとしていて、LiDARは路面の勾配補正として活用しています。そのため車両へ装着する機器のコストも抑えられます」と教えてくれた。

Honda CIの自動運転システムと一般的な自動運転システムの違い

CR-Vで実証実験をスタート、いずれはN-VAN e:へ移行

 この日は取材会場となった橘タウンセンターこゆるぎの前を、スタッフが搭乗した状態での自動運転レベル2+を披露した。車両はこれまでHonda CIの開発に使用していたという「CR-V」を使用。すでに最高速を30km/hに引き上げた仕様で実証実験を行なっているという。

LiDARは市販品を使用しているとのこと
過去に使用していた2眼のステレオカメラも残っている
サイドミラーには3つのカメラが取り付けられている
ルーフの上にも追加のセンサーを搭載していた
後方にもカメラを完備
ボディサイドには自動運転の技術実証実験中とシールで表示
リアゲートには低速車両であることを周囲に伝えるためのシールが貼ってある
運転席には緊急停止用のボタンが備えられている

 走行コースは、比較的交通量の少ない西湘テクノパーク内からスタートして、速度を段階的に引き上げていくという。また エリアも県道709号を使い橘団地へ、その後は国道1号線で国府津駅までを予定しているとのこと。

 また、西湘テクノパーク内は企業へ出入りするトラックが多いため、搭乗者のほかに監視者も交差点に数人配備して、トラックが近づいてきた際はスムーズに道を譲れるよう周辺交通に低速走行による迷惑がかからないよう配慮しているという。

実証実験に使用するコース
取材会場の橘タウンセンターこゆるぎの前はかなりの勾配があり、テストコースに最適だったという
運転席と後席に合計3人のスタッフが搭乗し、監視しながら自動運転の実証実験を行なっている
今後はさらに環境への配慮を踏まえ、テスト車両は排ガスを出さないBEV(バッテリ電気自動車)の「N-VAN e:」へと移行される予定