ニュース

デンソーと東京大学、10年間にわたる産学協創協定を締結 走行中無線給電システムなど社会基盤の構築に取り組む

2026年3月30日 開催
デンソーと東京大学が10年間にわたる産学協創協定を締結(写真左は国立大学法人東京大学 総長 藤井輝夫氏、右は株式会社デンソー 代表取締役社長の林新之助氏)

 デンソーと東京大学は3月30日、2026年4月1日から10年間にわたる産学協創協定を締結すると発表。同日、東京大学 山上会館で東京大学 総長の藤井輝夫氏、デンソー 代表取締役社長の林新之助氏らが出席しての調印式が行なわれた。

 今回、産学協創協定を締結した背景として、モビリティ産業は現在、電動化や知能化の進展により大きな転換期を迎えており、電動車の普及とともに充電インフラや電力需給を含めたエネルギー全体の在り方が重要な課題となっている。また、自動運転の実現に向けた技術開発が進む中で、将来を見据えた計算資源の確保やエネルギーの活用も求められている。こうした状況のもと、移動、エネルギー、データ、都市インフラは相互に結びつき、社会全体での最適化が不可欠となっている。

モビリティの転換期

 さらに、カーボンニュートラルの実現やエネルギー制約の深刻化、少子高齢化の進展、交通事故死亡者ゼロ社会への要請など、現代社会が直面する課題は複雑に絡み合っており、個別技術の高度化だけでは十分に対応することが困難になっているという。

 こうした背景を踏まえ、今回の協創ではモビリティを単なる移動手段としてではなく、エネルギー、データ、都市インフラをつなぐ「社会システム」として再定義し、その実現に挑戦する。東京大学は数理最適化、都市設計、自動運転制御、安全保証理論、半導体設計などを横断する知を備える一方、デンソーは長年モビリティ領域で培ってきた電動化・知能化技術、車載半導体やソフトウェアなどにおいて豊富な知見と実装力を有している。

 この両者が連携することにより、モビリティ領域だけでなく半導体、AI、ソフトウェアなどの基盤技術の高度化や、それらを担う人材の育成にも協創で取り組み、研究から社会実装までを見据えた持続的な価値創出を目指す。

「走るほど、満ちる社会へ:モビリティから広がる未来の社会価値」を共通ビジョンに掲げ、具体的には①「エネルギー循環とデータ連携による社会価値の創出」、②「社会インフラと協調したモビリティの進化」、③「 持続的な価値創造を支える技術基盤の強化と深化」、④「未来社会を構想・実装する高度人材の育成」という4つの重点テーマを掲げた。これらを通じてモビリティを起点にエネルギーが循環し、データが社会全体の最適化に活用され、人々の時間や行動の可能性が広がる社会システムの実現を目指すとしている。


①エネルギー循環とデータ連携による社会価値の創出

 走行中無線給電システム(DWPT)と数理最適化を中核技術とし、都市だけでなく、高速道路を含む物流網などにおけるエネルギー供給とモビリティ利用とを一体で考え、電力網への過度な負荷を抑えた社会基盤の構築に取り組む。そして移動需要や交通流を踏まえたインフラ敷設の最適化を通じて経済成立性を高め、エネルギーと移動が調和する社会の実現を目指す。

 特にDWPTは車両が走行中に無線で電力供給を受ける技術であり、社会実装が進めば充電という行為から解放されることが期待される。モビリティはエネルギーを消費するものではなく、移動を通じて蓄積したエネルギーを社会に戻す「走る蓄電池」としてエネルギー循環を支え、分散型で開かれた新たなエネルギー利用モデルの構築につながる。

②社会インフラと協調したモビリティの進化

 交通事故や渋滞を構造的に減らすため、社会インフラとの協調に加え、安全保証やセキュリティ技術などを連携させ、安全かつ連続して状況判断がな行えるモビリティの実現に向けて取り組んでいく。走行中に必要な情報の不確かさや遅延、外部からの攻撃、機器などの故障といったさまざまなリスクを想定しながら、安全に走り続けられるモビリティを支えるために、情報の信頼度設計やエネルギーを意識したルートの最適化などにも取り組む。

③持続的な価値創造を支える技術基盤の強化と深化

 すでに取り組みを進めている、次世代の生産システム運用基盤の構築に加え、カーボンニュートラルや交通事故死亡者ゼロの実現に向けた技術基盤の強化と深化に取り組む。具体的には車載SoC設計やソフトウェア、AI・半導体などの基盤技術の高度化を進めるとともに、製造・保守を含む運用基盤までを視野に入れた仕組みを構築し、持続的に価値を生み出す技術基盤の確立を目指す。

④未来社会を構想・実装する高度人材の育成

 上記の研究・実証活動を教育の場として活用し、未来社会を構想し実装できる高度人材の育成に取り組む。学生から社会人までを対象に、研究、実証、制度設計をつなげて考え、社会実装まで担える人材を育成するとともに、産学協創の取り組みが持続する仕組みを構築する。これは産業界と学術界が連携した実践型教育であり、研究開発の現場や社会実証の場を教育に取り込み、技術と社会を結びつけて考える能力を育てていく。


共通ビジョン
4つの重点テーマ
DWPTとインフラ協調モビリティ(テーマ1&2)
技術基盤の強化と人材育成(テーマ3&4)
協創事業の概要と10年構想

デンソーの林社長「日本においては知恵と技術こそが最大の資源」

国立大学法人東京大学 総長 藤井輝夫氏

 調印式の冒頭であいさつを行なった藤井総長は、今回の協創ではモビリティそのものがエネルギーを循環させ、データを蓄積し、人々の暮らしの豊かさを高めるという、新しい社会システムの実現を目指すと宣言するとともに、「モビリティを起点としてエネルギーやデータ、都市インフラといったものを統合し、次世代の社会システムを再設計していく。そのことによって社会価値を生み出す存在に進化させていくこの構想でありますが、これは日本社会のみならず、グローバルの課題解決に貢献しうるものであります」。

「ご存知のように現在、気候変動、国際紛争、感染症、さらには地域分断や社会不安など、世界は複合的で深刻な課題に面しております。資源が豊富でない日本においてはエネルギーの新たな獲得、そして循環の仕組みを社会実装するということ自体が極めて大きな意味をもちます。その意味で『走るほど、満ちる社会へ』というビジョンは、大きな可能性と希望を感じさせるものだと確信しています。これまで負荷としてとらえられていた移動を発想の転換によってエネルギーを循環させる営みへと変え、社会システムそのものを再設計していくことがこの協創が示す大きな方向性です」と説明した。

株式会社デンソー 代表取締役社長の林新之助氏

 また、デンソーの林社長は日本では知恵と技術こそが最大の資源であり、それらを結集して新たな価値創出の仕組みを社会に実装していくことが極めて重要であると述べるとともに、「これまでエネルギー消費が移動に伴う時間的制約といった課題を抱えていた移動を、エネルギー循環とデータ蓄積を生み出す源泉へと転換し、社会システムそのものを再設計していく、そういう挑戦だと思っています。私たちデンソーはこのビジョンが持つ可能性と意義に強く共感しております」。

「では、その中でデンソーは何を担う存在なのか。わが社は創業以来、モビリティを起点に環境や安心といった社会課題に向き合ってまいりました。私たちは高度な技術を生み出し、それを社会、そしてお客さまの商品であるモビリティに実装することでさまざまな課題を解決してまいりました。そして、これからの時代は社会とモビリティがより広く、深く結びつく時代になるため、私たちは技術と実装力を世界に通用する、より上流の知とつなぎ合わせることで新たな価値を生み出し、社会にお届けしていくことこそが私たちの進むべき道であると考えています。こう考えを社会課題の解決というスケールで実践する仕組みが今回の協創であります。今回の協創は、東京大学が持つ上流の地とデンソーが培ってきた技術力・実行力を結びつけ、社会価値へと転換する挑戦です」。

「そのために、研究から技術開発、そして実証から社会実装まで確実につなげること。そしてプロセスそのものを次世代を担う人材の育成につなげていくこと。これらをしっかり進めていくことにこの協創の大きな意味があると感じております。本協定は10年という長期の枠組みですが、長期であることはゆっくり進めるという意味ではありません。むしろ成果を段階的に積み上げ、社会に、そしてお客さまに価値を届け切る責任を明確にするための期間です。本協創を通じて日本の競争力と価値を高め、その価値を通じて世界に貢献していく。その覚悟のもと藤井総長をはじめ東京大学の皆さまと緊密に連携し、持続可能で豊かな社会の実現に挑戦してまいります」と抱負を述べた。