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ポルシェ×東大独自の教育プログラム「ラーン ウィズ ポルシェ」同窓会開催 歴代参加者から学びの内容が語られる

6時間鈍行列車に揺られる、1時間以上かけてカラマツの木を切る。そこで得られたものとは?

2026年3月23日 開催
2021年からスタートした東京大学先端科学技術研究センターとポルシェジャパンが共同で行なっている「LEARN with Porsche」。このプログラムを経験した歴代の子どもたちが東京大学 駒場キャンパスに集まり、同窓会が開かれた

「LEARN with Porsche」とは?

 東京大学先端科学技術研究センターとポルシェジャパンが共同で行なっている、子どもたちのこれからの学びに必要な心構えと夢をプレゼントする「LEARN with Porsche」。「LEARN with Porsche」では、スマホなどの情報機器を使わず、経験や体験、人との関わりを通して、自ら答えを導き出すようなカリキュラムが組まれており、目的地を知らされず全国各地へと渡ってさまざまな経験をするサマープログラムと、ものづくりが好きな子どもたちに向けたプログラムがある。サマープログラムは2021年から5回、ものづくりプログラムは2023年から3回実施されており、「LEARN witn Porsche」を経験した子どもたちも、すでに80名を数えるまでになった。

 そんな中、参加したメンバーの同窓会である「LEARN with Porsche Alumni Reunion」が、3月23日に東京大学先端科学技術研究センターで開催された。これまでプログラムを経験した子どもたちが22名(7名はオンライン)参加し、久しぶりの再会を楽しんだ。

 メインプログラムが始まる前には、LEARNにも参加しているロボットクリエイターであり東京大学 先端科学技術研究センター上級客員研究員の高橋智隆氏や、生物多様性や気候変動などを研究している森章教授、「ファスナーの船」や透明彫刻「空気の人」などを生み出したアーティストであり、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員の鈴木康広氏の研究室を自由見学できるということで、それぞれ興味のある研究室を見学する参加者も多くいた。また、同窓会後も森章教授の講演を聞くことができるなど、さらに自分の学びを深掘りできるプログラムも用意されていた。

「LEARN with Porsche」を主導する、東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー 中邑賢龍先生(左)とポルシェジャパン株式会社 広報部 部長 黒岩真治氏(右)
東京大学先端科学技術研究センター上級客員研究員でありロボットクリエイターの高橋智隆氏
東京大学 先端科学技術研究センターの森章教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員でありアーティストの鈴木康広氏
東京大学 先端科学技術研究センターの飯田誠特任准教授

 同窓会は150名以上入るような大きなホールで行なわれたが、席は自由。同じ旅や経験を共にした“同期”と一緒に座る人もいれば、それぞれ自分の意思で座りたい場所へ座る人もいた。最初は後ろの方に座っている参加者も多かったので、「LEARN」の生みの親であり、現在も自ら「LEARN」プログラムに入り込んで、自らの言葉や態度で厳しく指導している中邑賢龍先生が「そんな後ろにいないで前に来なよ?」と声をかける一幕も。ステージ上には椅子が用意されていたが、中邑先生はそれもお構いなしに会場をウロウロしながら話を始めた。中邑先生が話すだけではなく、それぞれと会話しながら、子どもたちの口から「LEARN with Porsche」での経験や学びを語ってもらおうというスタイルだ。

 今回の同窓会での大きなテーマは「30年後、君たちはどこで何をしているだろう?」ということ。中邑先生が「これからその話を少ししていくんだけど、君たちはこれからの世の中に対してどう思っていますか? 夢が満ち溢れているのか、ちょっと不安だなという気持ちがあるのか聞いてみたいですね」と質問すると、「不安だ」と思っているという人が多く、「自分なら問題なく生き抜ける」という人は数名だった。

同窓会の大きなテーマは「30年後、君たちはどこで何をしているだろう?」

 中邑先生は、「今の世の中を見ていると、30年間生きるということに不安を感じる人は多いかもしれないですね。その中でも『全然大丈夫、自分は生きていける』と考えている人がいるのはいいねぇ。これからみんなが生きていけるような社会にしていく必要もあるし、僕たちはそういったマインドを持っていく必要もあるんじゃないかな。それで、『30年後どうなっているんだろう』と考える前に、『30年前は何していたんだろう?』ということをちょっと振り返って見たいと思う」と言うと、30年前に何が起こっていたかを書き出したスライドを映し出した。

 今から30年前の1995年前後。阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、バブル崩壊後の長期不況、インターネットの一般普及、携帯電話の普及、「ゆとり教育」への転換議論などが起こったというが、どれも最近のことのようにも思える。しかし、参加者は誰1人としてこれらの出来事を身をもって体感していないのだ。そして、“中邑先生用”として60年前の1965年前後の出来事も映し出された。1964年東京オリンピックの開催、高度経済成長期、新幹線(東海道新幹線)の開通、三種の神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)の普及、公害問題(水俣病など)の深刻化、集団就職……これらに至っては、中邑先生以外は誰も直接見ることも感じることもできなかった出来事だった。

「誰も30年後の世界を正確に予測はできないよね。不安を抱く人もいるかもしれないけど、それよりも自分がどう生きていくかを考えていった方がいいと思うんだ。この中の何人かは結婚して子育てする人もいるだろうし、だからこそ教育が大事だと思って僕たちも取り組んでいる。ただ、教育について30年後を見通したときに、今のままでいいのだろうか? どういう風にしていけばいいんだろうということを、今日は君たちにも話してもらって、次のプログラムにも反映していきたいと思っている」。

「誰も30年後の世界を予測できず不安を感じる人もいるかもしれないが、それよりも自分がどう生きていくかを考えていってほしい」と語る中邑賢龍先生

日常では味わえない経験をして自分の糧になっていく実感

メインプログラムは中邑先生と参加者による意見交換形式で進められた

 ここからは、「LEARN」を通して興味を持ったことや、自分にとって必要だった学び、これまで受けた学びの中で改善して欲しいことなど、参加者にそれぞれの意見を話してもらうことに。

 サマープログラムを受けた参加者の1人は「『LEARN』に参加する前に、最初に面接があって中邑先生とお話させていただいたんですが、最初は先生たちが言っていることの意味が分からなくて『おかしいと思います』ってすごく反発したんです。それでもなぜか『LEARN』に行かせていただけることになって。プログラムに参加してみたら、先生たちの言っていたことが理解できた部分があって、私自身すごく誤解してたんだなって気持ちの変化があったことを覚えています。その背景には、私が『受験社会の中でどうやって生き抜けるか』っていうことを考えてばかりのタイプだったことがあって、それに対するアンチテーゼみたいな考え方に初めて体系的に関わったと思うんですね。こういう考え方もありなのかなとか、こういう考え方のところなら私もやっていけそうだぞと思えるようになりました」と語ってくれた。

 それに対し、中邑先生は「最近ちょっと反省していることがあって、君たちはすごく勉強していて色々なことを意識しているよね。それは大事なことだなって思うんだよ。勉強しているっていうことは『点』を持っているということ。だからこそ、『LEARN』に参加した後に『線』につながっていく瞬間があったし、君たちもそれを感じたんじゃないかな」と答えた。

サマープログラムの歴代参加者

 さらに参加者から、「参加したプログラムでは、僕たちが普段計画できると思っていることって、実は計画できないものも多く、そこに色々な他性があったりだとか、予期せぬ出会いがあったりするよねというメッセージが込められているのかなと思ったのですが、その演出がちょっとくどいと思った印象があります」という鋭い意見も。

 それについて「こちらがシナリオを立てるのが下手だったのかもしれないね(笑)」と中邑先生。「僕たちがプログラムを作っていく時に、ある意味恣意的な設定をして、そこで失敗しようが成功しようが感じるのは君たちの問題だっていう形で動かしてるからね。上手くいく時といかない時がある。でも、その中でも何か1つでも引っ掛かればいいのかなとは思ってる。あとは、僕自身が行けなかった場所もあって、そういうところで自分が一緒になってやって見せるべきだったなと。君らに『やれ、やれ』と言うだけで、僕らがモデルを見せなかったのはちょっと反省してるところだね」。

 サマープログラムでは、かまぼこ工場で急にかまぼこ作りを体験することになった参加者がいて、それぞれの体験談はとても興味深かった。


「自分はかまぼこはそもそも好きじゃなかったけど、そんな全く縁のないものをどうやって作られているか知ることができたのが、自分にとってすごく興味関心をもたらしてくれたというか、それが自分にとってすごく興味深い体験でした」。

「かまぼこがある程度の大きさに区切られて出てきて、それを手でスーッと取るんですけど、それがすごく難しくて。その取る時のグニャッていう手の感覚を覚えているんですけど、今それを再現しようとするのは難しいし、誰かに感じてもらうこともできない。すごい経験だったなと思います」。

「最初、工場に行った時には『あまりウェルカムな雰囲気ではないな』と感じたんです。急に学生が東京から来て『1日体験させてください』って言っても、やっぱり失礼にあたるのかなと。でも、やっぱりちゃんと理解しようとしたり、お話を聞く中で、最後には段々別れを惜しむような関係性になれたんです。人との関係性って簡単に切ることもできるけど、作ることもできるんだなと、かまぼこの体験を通して学んだと思います」。


 ものづくりのプログラムでは、「60年代の空冷ポルシェを甦らせよ」というお題目に、参加者も意気揚々と集まってきた。しかし、そのポルシェが実はスポーツカーではなくトラクターだと知らされて、参加者全員が落胆するところから始まっている。しかも単にトラクターを修理するだけではなく、自分で馬を捕まえて乗って山に入ったり、トラクターのトレーラーを廃材から作ったり、木を自らの手で切るというさまざまな試練も。

 参加者は「正直スポーツカーじゃなくてトラクターと分かった時にはイラッとしました(笑)。やることも板金とかタイヤ交換、溶接とかで思っていた作業と違っていて最後までモヤモヤしていたところはあったんですけど。でも今大学生になって、サークルでクルマを作るようになった時に溶接や塗装などは役に立つ面もあって、今になってみると後々の力にはなっていたと感じます」と話してくれたり、「自分たちで斧を使って1本の木を切るという作業をしてみて、難しさと大変さを感じましたし、現代では自分たちが持っている技術も衰えてしまっているんだろうなということを一番体感しました」という参加者もいた。

ものづくりプログラムの歴代参加者

 中邑先生も「今やネットでポチッとすれば、なんでも道具は簡単に買えてしまう。トラクターのレストアの中心になって教えてくれた池田猛さんが、なぜあんな風に自分の力でなんでもできるかと言ったら『そうしなきゃ生きていけないだろう』って言うんだよね。この言葉って、実はとても重みがあるよね」と、生きるために重要な技術や知恵に自らも感化されたようだった。

 今回、特別に参加してくださった森章教授は、「うちのラボでは、木を何種類か植えて、どういう風に変化があるかみたいな実験をしているんです。当たり前ですけど、伸びるのにはすごく時間がかかって、自分の現役中とか生きている間に良い結果は出ないかもしれないんだけど、それは次の世代、その次の世代に引き継いでもらうことを考えています。研究ってもっと効率的にやろうと思えば短時間でできるものもあると思うんですけど、非効率なことをやっているのは、その中で偶然出会うこととか学ぶことがたくさんあるから。時間がかかることもやってみるとすごく大事だなって思っているんですね。参加者の人たちにはそんなところも大切にしてもらいたいです」と自身の経験を語ってくれた。

 どの参加者も、何も分からない、何も教えられない、何を意図しているか分からない課題に直面し、最初は理不尽な思いを抱えていた時もあったようだ。しかし、振り返ってみれば、6時間も鈍行列車に揺られた時間や、かまぼこ工場にお邪魔して実際にひたすら手を動かして学んだことや、ヘトヘトになりながらカラマツの木を1時間以上かけて斧で切り倒したことも、どれも日常では味わえなかった経験として、少しずつ自分の糧になっている実感が湧いてきているようだった。また、これらのプログラムを外から見てきた筆者も、他者と自ら積極的にコミュニケーションを取り、さまざまなことを吸収することを厭わない見違えるような姿勢を身につけた参加者たちを、とても頼もしく感じた。

「LEARN with Porsche」で大人が種を蒔き、子どもたちの中でその芽は確実に伸び始めている。それがきっとまた誰かの芽を育て、そしていつか花を咲かせるのは、きっとそう遠くない未来なはずだ。

サマープログラム参加者の記念撮影
ものづくりプログラム参加者の記念撮影