ニュース
ポルシェとTDKがフォーミュラEに関する説明会 「レースから量産へ」という両社の哲学が重なり合って実現した提携
2026年4月2日 07:00
- 2026年4月1日 開催
TDKは4月1日、千葉県市川市にある「TDKテクニカルセンター」で記者説明会を開催し、TDK 特命役員 マイケル・ポチャッコ氏、ポルシェ モータースポーツ ファクトリー モータースポーツ フォーミュラーイー 部長 フロリアン・モドリンガー氏が登壇し、同社のフォーミュラEでの取り組みや両者の提携などに関して説明を行なった。
ちなみにフォーミュラEは、バッテリとモーターによる電動フォーミュラーカーのレースで、BEV(バッテリ電気自動車)の社会的な注目の高まりなどによって、年々注目度が上がり続けているレースシリーズだ。
2年連続チーム選手権タイトルを獲得したフォーミュラEの強豪・ポルシェとTDKが協業
TDKは、かつては一般消費者向けのカセットテープなどで知られているブランドだが、現在はその磁気技術を応用したさまざまな部材(センサーやキャパシターなど)を開発し、それを産業界などに広く提供しているB2B(法人間取引)の企業としてグローバルにビジネスを展開している企業。そうした製品は、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどが自社製品に取り入れて、自動車や部品の製造に利用している。自動車製造のエコシステムの中で重要な位置を占めているメーカーとなる。
TDKは昨シーズン(2024年~2025年シーズン、フォーミュラEでは暦年をまたいでシリーズが開催されている)はマクラーレン・レーシングのフォーミュラEと技術提携をする形でフォーミュラEに参戦していた。しかし、昨シーズンでマクラーレン・レーシングがフォーミュラEから撤退を決めたため、その関係は昨シーズンで終わってしまった。
そこで新たなパートナーに選んだのが、ドイツのポルシェだ。本誌の読者にはポルシェがどんなブランドであるか説明をする必要はないと思うが、ポルシェは歴史的にモータースポーツに熱心に取り組んでいる自動車メーカーであるのはよく知られているだろう。直近ではWEC(FIA世界耐久選⼿権)にLMDhで参戦しており、2024年にはシリーズチャンピオンを獲得している。
ポルシェは2017年にWECから一時撤退したタイミングでプロジェクトが始まり、2019年~2020年シーズンからフォーミュラEに参戦。2023年~2024年シーズンはパスカル・ウエレイン選手がドライバー選手権を、同じ2023年~2024年シーズン、そして2024年~2025年シーズンにはチーム選手権で2年連続タイトルを得るなど、現在のフォーミュラE強豪チームの1つだ。
今シーズン(2025年~2026年シーズン)も、第4戦でウエレイン選手が優勝を飾るなどしており、第6戦が終わった段階でウエレイン選手がドライバー選手権、チームとしてポルシェがチーム選手権でランキングトップになっている。
「レースから量産へ」というTDKとポルシェの哲学が一致して始まったフォーミュラE参戦
TDK 特命役員 マイケル・ポチャッコ氏は、「TDKのモータースポーツへの関わりは、単なるファイナンシャルスポンサーというものではなく、モータースポーツに参戦したことで得られる知見を量産車向けの製品へと展開する“Track to Series(レースから量産へ)”というものだ」と述べ、TDKがポルシェとパートナーシップを組んでフォーミュラEに参加するのは、電動フォーミュラ向けの開発をポルシェと協業して行なうことで、そこで得た知見を市販のEV向けに提供するコンポーネントなどにフィードバックすることが目的だと説明した。
ポチャッコ氏は「TDKにはDC-Linkキャパシター、世界初6-axisフェールセーフ検知ユニット、低遅延で高速な応答性を実現するパワーハプティックス・アクチュエーター、SiC/GaNに最適化されたキャパシター、競合するものがないようなEMC対策ソリューション、TMRアングルセンサーなどのBEVを実現するための各種ソリューションがあり、そうした製品で自動車メーカーやティアワン部品メーカーなどがBEVを構築することを助けている。ポルシェとの協業も同様で、ポルシェが優れたフォーミュラEの車両を構築するのを助けるというのがこのパートナーシップだ」と述べ、TDKがもっているBEV向けソリューションをポルシェに提供しており、それをポルシェのフォーミュラE車両のうち、パワートレーンなどのマニファクチャラーが自分で開発できる領域に採用してもらうことで、ポルシェがフォーミュラEを戦うことを助けていると説明した。
それに対してポルシェ モータースポーツ ファクトリー モータースポーツ フォーミュラーイー 部長 フロリアン・モドリンガー氏は、「フォーミュラEは車両やコストキャップに関して厳格なルールを設けているレース。このため、ちりが積もれば山となる方式の、各部の小さな差が最終的に勝敗を分ける要素になる。TDKの“細部までよりよくする”という哲学と相性がいいとわれわれは考えている。すでに現行のGen 3車両でもTDK部品が採用されているほか、次世代のGen 4ではそれが拡大する計画だ。Gen 4ではダウンフォースが増え、4WDの導入、より高い出力(600kW/ブースト時)と回生(700kW)などが導入され、性能が一段階上がる見通しで、TDKとのパートナーシップはGen 4車両の開発に必要不可欠」と述べ、TDKが持つBEV向けの知見と、特に日本企業のお家芸でもある「軽量化」などがポルシェから見ると魅力的で、パートナーシップを結ぶことになったと説明した。
実は協業前からポルシェはTDKの部品を利用していた?
両者のプレゼンテーションが行なわれた後、記者からの質問に答える質疑応答が開かれた。
──今回両社がパートナーになった理由を教えてほしい。
TDK ポチャッコ氏:TDKは常にモータースポーツの世界にいた訳ではない。しかし、数年前にフォーミュラEへの参入を決めたが、昨シーズンでマクラーレンが撤退を決めたため、社長から「代わりのチームを探してほしい」という指示を受けて、候補となるチームとの評価や対話などを進めた。その中でポルシェ モータースポーツとの対話で“レースから市販車へ”という彼らの考え方に共通点を感じた。もちろんポルシェはすばらしいブランド価値をもっているのは皆さんがご存じの通りだが、それに加えて彼らのエンジニアたちが高いモチベーションをもってサポートしていきたいと思える人たちかどうか、そうした点が重要な判断基準だった。
社内の反応も非常にポジティブで、エンジニアも非常に盛り上がっていた。TDKはエレクトロニクス分野で、ポルシェは自動車の分野でそれぞれアイコニックな存在だが、その両者が組むことは技術的にもブランド的にもとても自然な選択だった。今シーズンから本格的に取り組みを進めているが、長年やってきたかのようにやりとりは非常にスムーズだ。
ポルシェ モドリンガー氏:ポチャッコ氏の言っている通り、すでにわれわれの車両99X Electricには多くのTDK製部品が使われている。そして「全ての詳細で他より少しでもよくしよう」というマインドセットも両者共通だ。
──レースカーは過酷な環境化で高品質かつ高信頼性のコンポーネントを必要とする。そうした環境から得た学びを商用車向けのコンポーネントにフィードバックするということがこの提携の目的と理解していいか?
TDK ポチャッコ氏:その通りだ。それに加えて重要なことは、顧客であるポルシェの視点を深く理解することだ。というのも、コンポーネントだけを見て開発をしていると、間違った方向の製品を作ってしまう可能性があるからだ。
そこで、パートナーであるポルシェから「こういうソリューションが必要」「ここが大事」という声を直接聞くことで、自分たちが正しい方向性に向かっていることを確認できる。これはラボにこもっていては分からないことだ。レースカーが第一ステップで、第二ステップが市販車になる。われわれのエンジニアが市販車のエンジニアと会話するときにも、レースでの経験や知見を持っていることが財産になる。
──レースカーのメーカーが通常の自動車メーカーやティアワンの部品メーカーよりもさらに厳しい条件を求めてくる具体的な例を教えてほしい。
ポルシェ モドリンガー氏:レースでは常に競争がある。フォーミュラEでは共通部品が多く、チーム間の差は非常に僅差だ。またレースは過酷な環境で走っている。縁石に乗り上げ、片側の車輪をコース外に落として走るので、クルマが受ける衝撃は市販車の比ではない。他にも、ほとんどの時間をフルパワーまたはフル回生で走っており、システムの温度などは市販車よりも過酷だ。しかも、レースは開催日が決まっており、開発サイクルの中で「この日までにこの開発を終える」という明確な締め切りがあるのだ。
TDK ポチャッコ氏:加えるなら重量も重要。それこそ100gの違いであってもラップタイムに大きな影響がある。実際、ポルシェと最初にミーティングをした時にモドリンガー氏が言ったのは「たとえ技術的にすばらしいソリューションであっても、信頼性が高く、最高性能で、コストも抑えられており、同時にラップタイムの改善につながることを示してほしい」ということだった。非常に明快なKPI(到達目標)だと感じた。
──BEVの成長はやや鈍化しているという論調も出てきているが、BEV市場の将来性に関してどう考えているか教えてほしい。
TDK ポチャッコ氏:われわれはBEVは依然として2桁%の成長を続けていると見ている。持続可能な社会を実現するクルマを求めている動きがある。BEVの問題はコストだったが、現在その状況は変わりつつあり、手ごろな価格のBEVが増えてきている。われわれとしては電動化はこれからも続いていくと考えている。今回のポルシェとの協業を通じて、デバイスをより小さく、よりよく、より低価格にしていくことで、将来のさらなる成長に貢献できると信じている。
ポルシェ モドリンガー氏:事実と私見という2つの観点で説明したい。私はよくF1との比較をすることが多い。F1は数字をきちんと公開してくれているので比較しやすいからだ。
例えば、フォーミュラEはモナコでF1と同じコースを走っている。F1の方がまだ速く、昨年の予選タイムで比較するとF1の方が約18%速い。しかしここからが興味深く、われわれのバッテリで使えるエネルギーは38.5kWhで、このエネルギー量ならモナコでの52分のレースを完走できる。この38.5kWhをガソリンに換算すると約4Lだ。F1に4Lの燃料しか入れられなければ数周しか走れず、すぐに止まってしまうだろう。これがトータルの効率という観点で見たときに、BEVが大きな優勢を持っていると示していると考えている。
私はこの優位性が広く認識され、世界中でBEVへの理解と採用が進むと確信している。これが私見だ。
──先ほどポルシェの車両にTDKのコンポーネントが採用されているという話があったが、そのデバイスはGen 3の車両の初期から採用されていたのか?
TDK ポチャッコ氏:Gen 3車両の開発段階では、TDKはポルシェと能動的な共同設計を行なっていたわけではない。だが、ポルシェのエンジニアはこの提携が始まる前からTDKの部品を採用していたのだ。ポルシェの設計者にとってそれが最適だったからだ。
この提携が始まってからは能動的に性能向上をサポートしている。標準部品の枠を超えてカスタムソリューションなどに関してより深い技術協業を行なおうとしている。
















