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「三菱自動車が追求する走り」「Super All Wheel Control(S-AWC)」「電動化と知能化による進化」について、開発フェローの澤瀬薫氏が解説
2026年5月20日 10:49
- 人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMA:2026年5月27日~29日 開催
- 人とくるまのテクノロジー展 2026 NAGOYA:2026年6月17日~19日 開催
三菱自動車工業は、5月27日~29日にパシフィコ横浜で開催される自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMA」、6月17日~19日に愛知県国際展示場にて開催される「人とくるまのテクノロジー展 2026 NAGOYA」に出展する。
三菱自動車ブース(パシフィコ横浜 ノースN02)では、デリカD:5(2026年1月発売モデル)を分解展示するほか、同社の4輪制御技術である車両運動統合制御システム「Super-All Wheel Control(S-AWC)」を分かりやすく説明するパネルを展示。さらに、1953年の三菱ジープから続く四駆モデルの歴史を伝えるパネル展示や、三菱自動車の知能化技術への取り組みを紹介するパネル資料も用意される。
また、ブース内の特設ステージでは、技術プレゼンテーションとしてS-AWCの開発フェローと、デリカD:5の4輪制御技術を担当するエンジニアによる講演が行なわれる。講演の開催時間は「人とくるまのテクノロジー展」の公式サイトで発表されるので、そちらを確認してほしい。
追求する走りは「どんな路面・天候でも、誰もが安全・安心・快適に自信を持って愉しく走れる」こと
人とくるまのテクノロジー展を1週間後に控えた5月19日、三菱自動車は報道陣向けに「四輪制御技術(S-AWC)説明会」を開催した。解説したのは、開発フェロー博士(工学)の澤瀬薫氏。テーマは「三菱自動車が追求する走り」「Super All Wheel Control」「電動化と知能化による進化」という3つに分けられていたので、順番に紹介していく。
澤瀬氏は、三菱自動車がユーザーに提供したいクルマのイメージについて、「イメージとしては冒険心ですが、本当の冒険ではなくて、三菱のクルマに乗ることで普段より一歩踏み出す勇気が湧いたり、新しいことにチャレンジしてみようというような気持ちになれるクルマを提供したいと思っています。そして、そうした行動を促すうえで大事なのは、土台となる走りの特性です」と切り出した。
さて、三菱自動車が追求する走りについてだが、これは「どんな路面・天候でも、誰もが安全・安心・快適に自信を持って愉しく走れる」ことを目指したものだ。それはベテランドライバーだけでなく、免許を取り立ての初心者ドライバーまで含めた、幅広い層を対象としている。そのために磨きたい性能として挙げられたのが、走破性・直進安定性・操縦性なのだが、これを従来のメカニカルな技術だけで実現しようとすると、一部でトレードオフになる部分が出てくるという。例えば安定性を追求するとハンドリングの軽快感が失われる、といった具合である。
そこで走破性、直進安定性、操縦性を人の感覚に寄り添わせ、違和感のない制御でシームレスにつなぐことを目指して開発したのが、車両運動統合制御システムの「Super-All Wheel Control(以下S-AWC)」だ。
S-AWC制御の基本的な考え方として、入力情報はハンドル操作、アクセル操作、ブレーキ操作となる。それに対して、車両に装着されたさまざまなセンサーがクルマの動きを検出し、ドライバーの操作に応じてクルマの運動をシームレスかつ連続的に制御するよう作り込まれている。
ただ、こうしたドライバーの操作を補助する制御はほかにもあるが、S-AWCは「常に緻密な制御を行なっているけれど、ドライバーにその制御が介入していることを感じさせないようにチューニングしている」ところが大きな特徴となる。そして、そのためのやり方の一例がスライドで紹介されたものである。
これはカーブの走行をイメージしたものだが、カーブでは進入時に車速をコントロールするためのブレーキ操作を行ない、それからカーブに合わせたステアリング操作を行なう。そしてカーブの出口に差し掛かると、加速のためのアクセル操作を行なう。
これを一般的な制御で行なうと、「減速」「旋回」「加速」と、それぞれの条件になったときに制御が切り替わるものとなる。もちろんクルマの動きそのものは連続しているのだが、道路を走るときの条件はさまざまである。それだけに「切り替わり」の設定(しきい値)を設けてしまうと、条件によってはそのタイミングが狙ったものと合わないことも出てきてしまい、それが違和感となってドライバーに伝わるのだ。とはいえ、そうした作り方をするほうが「ピークの性能は出すことができる」ので、それをよしとする考え方もある。
しかし、それに対してS-AWCは「減速」「旋回」「加速」のそれぞれの制御を連続的にミックスさせた「連続制御」とした。これは開発時のチューニングが大変なものではあったそうだが、こうすることで、さまざまな条件下にあっても走行状況に応じた自然な制御が行なえるものとなっている。
このことから、S-AWCを搭載した車両の走りは、自然な動きとして感じられるものになったということだ。
もう1つの特徴が「どんな場面でも誰もが自信を持って走れるための制御」であること。そのために制御系として「ドライバーの操作に対するクルマの動きのレスポンスとリニアリティを向上させる制御」を行なっている。ここでいうレスポンスとは、ドライバーの操作に対して、クルマの動きが遅れることなくついてくる状態を指す。一般的に、クルマが大きく重くなるとレスポンスはわるくなる傾向もあるが、そういう場合であっても極力、ドライバーの操作に対して素直に動くようにしている。
さらにもう1つ。操作に対するクルマの反応が素早いだけでなく、ドライバーの「操作した」という感覚に対する反応が自然であることも重要なポイントになる。
例えば、ハンドルをゆっくりスーッと切るとか、アクセルをジワッと踏んだときは、その操作に応じた動きをしてほしいが、このときの操作感と実際のクルマの反応に違和感があると、ドライバーは操作しにくいと感じるものである。特に運転初心者は、それによって余計に運転へ不安を感じてしまうこともある。そこで、そうした部分についても、さまざまな条件の中で極力違和感のない反応をさせる制御とした。
これらの挙動を実現するうえで基本となるのが、4輪のタイヤが持つ摩擦力をうまく使うことだ。タイヤが発生できる摩擦力は、路面との摩擦係数が一定であれば、タイヤにかかる垂直荷重に応じて大きくなる。しかし、クルマは加速したり減速したり、あるいはカーブを曲がったりするので、4輪の垂直荷重は常に変化する。それにともない、それぞれのタイヤが使える最大摩擦力もタイヤごとに異なってくる。
その中で、摩擦力をうまく使うために着目したのが駆動力や制動力に関わる前後方向の力である。これら前後方向の力を適切に制御することで、タイヤが横方向に使える余力も整え、結果としてタイヤの最大摩擦力を有効に引き出せるようにする考え方が、S-AWCの制御の根底にある。
このような制御を組み込む対象として選んだ3種類のサブシステムを順番に紹介する。1つは4WDでこれは前後輪間のトルク配分を行なうものとなる。それに三菱自動車には、AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)という、左右輪間のトルク移動によってクルマに曲がる力を与える技術があり、これを用いることで「曲がる」という部分の制御も行なえるものとなっている。
このことに続く2つ目がABS、3つ目がASC(アクティブスタビリティコントロール)と安全確保の観点からの要素を加えて、これらを統合的に制御するものがS-AWCであるとのことだ。
S-AWCはアウトランダーPHEV、デリカD:5、トライトンに搭載されているが、実は4WDの部分は、それぞれの車種が狙いとする走行環境に合わせたものとなっている。
具体的には、アウトランダーPHEVでは例えばサーキットを走っても問題なく、そこからちょっとしたラフロードまでカバーするためのツインモーター4WDを採用。デリカD:5は、オンロードからそれなりのラフロードまでしっかり走るための電子制御4WDとしている。そしてトライトンの場合は、ハードな悪路までカバーできるようにスーパーセレクト4WD-IIを搭載している。
このように、制御システムとしての考え方は踏襲しながら、4WDシステムはそれぞれの車種が狙う走行シーンに合わせて設定されているのだった。
電動化と知能化による進化
続いての話は、三菱自動車における電動化と知能化によって、走りの技術がどう進化していくかという展望について。澤瀬氏は、「現在のトレンドとしては、クルマは環境対応として電動化がどんどん広がってまいります。そして近年、すごい進化が見える知能化、つまりAIを搭載するというものもどんどん進んでいくでしょう。そして、これがS-AWCに対してどうなっていくかということについては、電動化と知能化は大きな武器になると考えています」と語った。
その理由として、まず電動化については電動モーターの応答性が内燃機関と比べて非常に優れており、さらに精度よくコントロールできること、あるいは高い自由度を持っていることが挙げられる。そして、これを生かすことで、運転操作や路面状況の変化に対して、現在よりもさらに瞬時に対応していくことが可能となるのだ。これは、前述した「レスポンスのよさ」や「リニアリティの高さ」をさらに高める可能性を秘めるものだという。
また知能化については、知能化が進むと天候や路面状態を含む走行環境や車両状態、そしてドライバーのセンシングが行なえることから、それらがS-AWCに組み込まれることで現在よりも安全で快適な移動ができるようになるという視点から現在も研究が進められているそうだ。














