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日野自動車、サティアカーム・アーリャ新CEOが会見 「金継ぎ」になぞらえ、さらに美しい日野へ

2026年7月9日 実施
日野自動車株式会社 代表取締役社長 CEO サティヤカーム・アーリャ氏

 日野自動車は7月9日、2026年4月1日付で同社初の外国籍CEOに就任したサティアカーム・アーリャ氏による報道関係者向けラウンドテーブルを東京都日野市の本社で開催した。就任から約100日が経過したタイミングで行なわれたこの会見で、アーリャ氏はこれまでの経験や日野の現状分析、そして未来に向けたロードマップを示した。

 なかでも、日本の伝統的な修復技法である「金継ぎ」を引き合いに出し、過去の不祥事を隠すのではなく、それを糧として以前よりもさらに強く美しい姿の会社になりたいという決意を語った。

日系企業にも17年間在籍したサティアカーム・アーリャ氏

 アーリャ氏は自身の経歴について、自動車業界で30年間、そのうち商用車業界で17年間のキャリアがあることを紹介した。30年のキャリアのうち、マルチ・スズキ・インディアをはじめとする日系企業には計17年間在籍しており、日本には2014年から2年間勤務した経験もあるため、日本の文化に対して深い敬意を抱いていると述べた。

 直近の7年間はダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズのCEOを務め、赤字に苦しんでいた組織の企業文化を改革し、黒字化と市場シェア拡大を成功させた実績を持つ。また、私生活では毎朝1時間のヨガと瞑想を欠かさず、これが複雑な意思決定におけるバランス感覚を維持する源泉になっていると明かした。

サティアカーム・アーリャ氏による日野自動車の印象

 就任後の100日間で、アーリャ氏は国内外のディーラーや顧客、2000名以上の社員と対話を重ねたという。その中で得た日野に対する印象として、90年以上の歴史に裏打ちされた職人技と、技術的な知識に誇りを持つ社員の存在を第一に挙げた。

 次に、不祥事の間も製品を待ち続けてくれた顧客の極めて高いロイヤリティと、サプライヤーやディーラーとの強固なエコシステムの存在を指摘した。組織の特徴については、物事を多角的に深く分析してから実行に移す着実なプロセスがあること、そして将来の成功を信じて献身的に働くチームの力があることを高く評価した。

「HINOウェイ」を次のレベルへ、信頼再構築へのロードマップ

 これまでと今後の戦略について、アーリャ氏は日野の歩みを4つのフェーズに分けて説明。2016年から2021年までの「全方位での拡大路線」が過去の課題をもたらしたとの認識を示した上で、そこから「信頼の再構築」とビジネスの統合に注力する第2フェーズに入ったとした。

日野自動車の4つのフェーズ

 この再生の過程において、日野は2022年から「HINOウェイ」と呼ばれる文化変革に取り組んできた。アーリャ氏はこのHINOウェイによって培われた変革の土台を高く評価しており、これをさらに高いレベルへと引き上げることが将来の意思決定において重要であるとした。今後は「収益性の高い成長」「信頼回復」「持続可能な未来」を3本柱とする第3フェーズへと進み、持続的成長に向けた事業構造を実現する計画だ。

 特に、日野と三菱ふそうが経営統合した持ち株会社のアーチオン内で取り組むカーボンニュートラルの実現と、健全なガバナンスとコンプライアンスを基盤とした変革を最優先事項として掲げている。

いかに実現するか

 製品については、トラックは「楽しみのために買うのではなく、ビジネスの道具である」という点を強調し、故障しても短時間で修理し、顧客のビジネスを止めない「トータルサポート」の体制を、日野の絶対的な強みとして磨き上げることも目指している。

 アーリャ氏は、オフィスでの意思決定にとどまらず、現場に足を運ぶ「現調(ゲンバ)」の姿勢を重視し、社員が自由に意見を言える開かれた職場環境を構築することで、日野を再び魅力ある組織へと進化させる意欲を示した。

 最後に、日野の今後の成長を改めて「金継ぎ」になぞらえ、単に修復するのではなく、以前よりも美しいものに仕上げていくと強調した。修復には時間や技術、そして強い意志が必要だが、透明性は美しさと信頼を生み出す。これまでの不祥事の後の蓄積を土台に、さらに前に進めることが自身の使命であると締めくくった。

金継ぎのように、単なる修復ではなく以前より美しく

質疑応答

 会見後半に行わなれた質疑応答の主なやりとりは以下の通り。

──水素トラックの展望と、中国メーカーなど競合との対抗策について

サティアカーム・アーリャ氏:商用車セグメントにおいて、1つのテクノロジーだけが最終的な勝者になるとは考えていない。BEVやバイオ燃料など用途に応じた使い分けが重要であり、特に1日に500kmから600kmを走行するような長距離輸送では水素が有効な解決策になる。ただし、その実現にはインフラ整備や経済性の確保が不可欠であり、現在は実証プログラムを通じて規模を拡大し、コストを下げていく段階にある。

 中国メーカー等の競合については、アーチオンによる統合プラットフォームの概念を用いることでコスト競争力を高めていく。日野が90年かけて築いてきたネットワークと、必要なタイミングでサービスを提供するトータルサポートの体制は、新参入者に対する大きな優位性となる。

──AIの活用と、将来的なロードマップについて

アーリャ氏:AIは継続的に強化すべき重要領域。すでに品質管理においてAIを導入し、不具合を排除してトップレベルの品質を維持する取り組みを行なっている。今後のロードマップとしては、まず組織全体にAIを適応させ、全社員が活用できる環境を整える「民主化」を進める。

 次のステップでは、AIをコアプロセスに組み込み、データに基づいた迅速な意思決定を可能にするとともに、カスタマーサービスの分野でもAIを駆使して効率的なサポートを実現していく。

──統合プラットフォーム戦略において、日野として維持すべき独自の技術や商品は何か

アーリャ氏:アーチオンによる共通基盤の活用による規模の効率化が最大の目的。中型、重量車、小型の各セグメントにおいてプラットフォームを共通化することで、個別に開発する場合と比べてコストを最適化し、開発スピードを上げることができる。

 現在の主力であるディーゼル技術については引き続き磨きをかけ、その共通基盤の上に電気や水素といった新技術を搭載していく。製品セグメントそのものは維持し、市場の期待に応え続ける。

──バス事業の今後と、ジェイ・バスを通じたパートナーシップや、三菱ふそうと鴻海の合弁について

アーリャ氏:バス事業の今後については、三菱ふそうが他社と提携した動きとは切り離して考える。アーチオンの設立によってこの枠組みに影響が出ることはなく、日野と三菱ふそうは個別に取り組んでいくことになるので、日野といすゞのジョイントベンチャーであるジェイ・バスを通じた取り組みも今後、継続していく。

──CEOとして「変えたいもの」と「変えたくないもの」は何か

アーリャ氏:変えたいことは、「販売台数」を追い求める姿勢から「販売とサービスの質」を重視する経営への転換。一方で絶対に変えたくないものは、お客さまとの間に長年築き上げてきた「ロイヤリティ」である。日野の品質、耐久性、信頼性に対する顧客の愛着と期待は代えがたい資産であり、これを今後も継続して維持・強化していく。

──日野の車両を強く支持する顧客がいる理由をどう分析しているか

アーリャ氏:お客さまは事業に必要だからこそ車両を購入する。日野が支持される理由は、優れた燃費性能などの経済性、簡単に使えてメンテナンスが容易なこと、長時間の運転でもドライバーが疲れない設計、そして故障時の迅速な修理による稼働時間の確保という4点に集約される。

 日野のエンジニアがこれらお客さまの求めるものを深く理解し、それにぴったり適合したものを作り続けてきたことが日野の強みで、将来においても変えたくない。

記者の質問に応えるサティアカーム・アーリャ氏