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ホンダ、障がいのある人たちに寄り添って45年「ホンダ太陽」の実績と今後の展望とは? 新社長の山口潤氏が語る

ホンダ太陽株式会社 代表取締役社長 山口潤氏

 本田技研工業は、大分県速見郡にある特例子会社のホンダ太陽が、2026年9月25日に設立45周年を迎えるにあたり、メディア向けの説明見学会を実施した。

 特例子会社とは、親会社が当該子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること。親会社との人的関係が緊密であること。雇用される障がい者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障がい者に占める重度身体障がい者、知的障がい者および精神障がい者の割合が30%以上であること。障がい者の雇用管理を適正に行なうに足りる能力を有していること。障がい者の雇用の促進および安定が確実に達成されると認められることなど、厚生労働省の定めた認定基準を満たしている企業のこと。

ハンディキャップのある人を積極的に雇用するホンダの特例子会社「ホンダ太陽」が45周年を迎えた
太陽の家とホンダ太陽の関係

 ホンダ太陽の設立に大きく関わっているのが、九州大学医学部を卒業後、同大学整形外科の医師となった中村裕博士。“日本のパラスポーツの父”としても功績を残している中村博士は、「障がいのある人の本当の幸せは、残存機能を活用して生産活動に参加し、社会人として健常者とともに生きることにある」という理念を持ち、1965年10月に「世に心身障がいはあっても仕事に障がいはあり得ない」「No Charity, but s Chance!(保護より働く機会を)」を提唱し、大分県別府市に障がいのある人が働きながら暮らせる日本初の障がい者就労支援施設「太陽の家」を設立した。

 1972年には「よりよい社会を作りましょう」とオムロン(OMRON)創設者の立石一真氏が参画し、日本初の福祉工場“オムロン太陽”を設立。1978年にはソニー(SONY)が“ソニー太陽”を設立。また1978年1月にはソニーの創業者である井深大氏に誘われて、本田宗一郎氏も太陽の家を訪問し、そこで働く人たちの姿に心を打たれた本田氏は、「どうしてだ? 涙のやつが出てきてしょうがないよ。よし、やろう。ホンダもこういう仕事をしなきゃダメなんだ」と賛同。すぐに二輪部品の授産科目を発足して事業をスタートしつつ、1981年には“ホンダ太陽”を設立した。その後も、1983年に三菱商事、1984年にデンソー、1985年にオムロン京都、1995年にエフサステクノロジーズが参画している。

ホンダ太陽の歴史

 2026年4月よりホンダ太陽の8代目社長に就任した山口潤氏は、「1981年の設立の次に大きな転換期となったのが、1995年に独自工場を作ったことです。最初は亀川にある太陽の家の中の作業棟の一角からスタートしていますが、初代工場長である山下猛氏の“障がいのある人たちの就労機会をもっと拡大したい”という強い思いをもとに、大分県速見郡に独立した工場を設立しました」と説明する。

 工場では、フューエルパイプ、ホースクリップ、ライセンスランプ、ウインカーランプ、アウトドアハンドル、ウォッシャーチューブ、ケーブルリールサブ、ワイパーリンク、HVAC部品(空調部品)、リアビューミラー、ワイヤーハーネスなどといった四輪部品をはじめ、二輪用のインテークマニホールド、室外発電機用のバッテリチャージコードなどを製造しているほか、研究開発の領域にも携わっていて、設計・解析用データや3Dモデリングデータの作成など、ホンダ製品の開発の一翼を担っている。

ホンダ太陽が製造を担っている部品のサンプル

 また、生産設備や治工具にもさまざまな工夫を施すなど、1人ひとりの能力を最大限に生かせる改善を継続しつつ、さらに事務や一般購買業務、レーザー加工(記念品)、粉末焼結造形(3D造形)、アパレル制作・販売など、現在50種類ぐらいと幅広く事業を展開している。ちなみに参画している企業7社の中で、独立した工場を設立しているのはホンダのみ。

ホンダ太陽の概要

 続けて山口社長は、「2023年にはそれまで大分県のみだった事業部を、埼玉県和光市にあるホンダの和光ビルの中に開設し、主にデータ領域の業務を行なっています。また、テレワークの普及もあり、和光では70名ほど在籍していて内12名がテレワークで、北海道から九州まで在宅勤務で従事している障がい者の社員もいます。ホンダ太陽全体の従業員数は、2026年4月時点で396名、障がい者は238名(重度99名、軽度25名、知的27名、精神87名)と、障がい者雇用率は60.1%となっています。売り上げも2025年度には40億円を超えており、付加価値売り上げは25億円規模まで成長しています」と事業の堅調さも強調した。

ホンダ太陽では多様な職種がある

 続けて、「ここで働いてる皆さん1人ひとり、やはり属性の違いとか持ち味がありますので、それを生かせる仕事を考えつつも、効率のよさも目指す必要がありますので、強みをどう生かすか、しっかりその職域や作業性などもお伝えして、ふさわしい仕事かをしっかり議論して、取引先にも確認していただきつつ、最終的に現場に入っていただいて成立します」と適性などの判断も重要なポイントだと説明。

 さらに、“何より人間、夢、希望、笑顔。この世に障がいという人種はいない。また、同じ人は1人もいない。人にはそれぞれ、ほかにはない固有の素晴らしい“持ち味”がある。その違いを互いに認め合う。障がい者として閉じこもるのではなく、1人の人間として社会に役立ち、普通に生きてゆく。夢を持てる、希望が生まれ努力できる。そして実現して笑顔になれる”というホンダ太陽の基本理念について山口社長は、「これはホンダの人間尊重の理念に基づくものでもあり、部品の製造だけでなく、パラスポーツ、芸術、子供たちにものづくりの楽しさや喜びを伝えるイベントやお祭りなど、地域住民との交流も図りながら、今後も職域を広げて事業を拡大させていき、どんな時代になってもしっかりとブレずに経営していきたい」と代表者としての思いを語った。

ホンダ太陽ではさまざまな記念品も作っている
レーザープリンターを使った記念品の製造も請け負っている

 またホンダ太陽では、パラアスリートへの支援も積極的に行なっていて、社内の基準をクリアした従業員は、就業時間の一部を練習に使用できる制度をとっている。日々練習に打ち込みながら、多くの大会に出場するほか、ビーチクリーン活動など、仕事や競技に加えて社会貢献活動も含めて、幅広い活動を行なっている。また、車いすレーサーの販売もしている。

パラスポーツの取り組み
ホンダが開発・製造・販売している「車いすレーサー」
社屋の中にはトレーニングルームも備えている

 今後について山口社長は、「設立当時は、障がいのある人が働く環境としてはとても厳しい時代でしたが、社会も変わってきていて、今は多くの障がいのある人が働ける時代になってきたと思います。ただし、日本全体で障がいのある人は現在1100万人を超えていて、その中で就労できてる人は民間企業では70万人規模なので、まだまだ働けない人が多く、社会課題の1つだと思います」

ホンダでは聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポートするシステム「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム(CAシステム)」を開発し、2020年9月から運用している

「未来へのプランも描いているものはありますが、まだ具体的に事業としてどれぐらいの数字にできるかというのは決めていないです。ただ、これまで仕事をいただいて、作業改善や道具の制作など効率を高めるためのノウハウは、自分たちの社内に蓄えているだけではもったいないし、障がいのある方だけでなく、これからは高齢の方々の仕事にも活用できることもあると思います。また、まだ具体的な形になっていないですが、障がいがあるからこそできる商品作りもあると思っていますし、今後も考えていきます」と、事業の持つ可能性も教えてくれた。

改善の一例として、ガソリンホースの先端から5mmほどの場所にクリップを付ける作業を見せてくれた。従来は1つずつ手作業で行なっていた
構造が安全かつシンプルで、コストが掛からず、全自動化ではなくあくまで省力化に重点を置いて開発した機械
中にクリップを入れてホースを差し込むと……
先端から5mmの位置に瞬時にクリップを取り付けてくれる。作業時間が大幅に短縮できたという

 続けて山口社長は、「2022年の従業員数は250人で、その中で障がいのある人は約50%ほどでしたが、現在は約400人で、障がいのある人は約60%と4年間で1.6倍まで増えています。おそらく創業当時には想定してなかった規模になっているのと思いますのでいろいろな改修も必要となってきます。ちょうど現在、従業員の利便性向上と、より働きやすい職場環境の構築を目指して“厚生棟”の立て替え工事を行なっています(2027年夏完成予定)。ほかにも今後いくつか課題は出てくるとは思いますが、作る製品の品質の担保も重要ですし、マネジメントや指導、サポート体制をしっかり構築していきたいと思います」と決意を述べた。

2026年4月に就任したばかりのホンダ太陽株式会社 代表取締役社長 山口潤氏

 最後に、「ホンダグループとしては、これからも障がいのある人の雇用機会と職域の拡大、そして質ややりがいの向上をしっかり実現していきますし、社会全体がもっと早いスピードで、共生社会の実現に向けて、法定雇用率も含めて高い目標に向けて動いていく時代になると思います。誰もが安全安心にしっかりと品質を担保して働ける環境や、障がいの特性をしっかり理解して、働きやすい職場環境作りのノウハウを蓄積してきたので、ホンダグループだけでなく共生社会の実現に向けて、いろいろと提供して社会的支援にも貢献したいと思います」と思いを語ってくれた。

工場内は整理整頓されているのはもちろんだが、車いすが通りやすいように通路は広めに設計している
作業台は車いすでも作業しやすい高さにしてある。製造過程はより働きやすくするために従業員たちで意見を出しあい日々改善しているという
トラブルなどがあれば手元のリモコンのボタンを押して知らせる。耳の不自由な従業員もいるので、音だけでなく光でも知らせるようになっている
あらゆる場所で、できる限り少ない動きで完了できる工夫や、次の工程へ運ぶための最善策が講じられていた
ホンダグループの購買を担当している部署。自動車部品はもちろん文房具などさまざまな商品の仕入れを行なっている
資料のデータ化を行なう作業。スキャニングの際に光の映り込みがないよう、蛍光灯にはカバーがしてある
この日はHonda FCのサッカー選手たちも来訪、昼食後にはスポーツ交流を行ない一緒に汗を流していた
ホンダのレーシングドライバー佐藤琢磨選手や、車いすテニスのレジェンド国枝慎吾さん、ビーチクリーンの隊長にもなっているさかなクンなど、著名人も多数訪問している
ホンダ太陽の会議室に飾られている本田宗一郎氏直筆の書