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第5世代THS採用で燃費低減と出力向上を両立したトヨタの新型「クラウン クロスオーバー」 一部改良のポイントを開発者 多和田貴徳氏らに聞く

一部改良された16代目の新型「クラウン クロスオーバー」。リアまわりには印象的な変更が施されているが、中身も第5世代トヨタハイブリッドシステム変更など大幅なアップデートが行なわれている

 9月3日に一部改良が発表され、同日発売も開始されたトヨタ自動車の新型「クラウン クロスオーバー」。今後は、スポーツ、セダン、エステートについても一部改良が行なわれ、順次発売されていく。

 この新型クラウンの一部改良で注目されているのは、クロスオーバーのリアまわりのデザイン変更に加え、「第5世代ハイブリッドシステム導入」がクロスオーバーのHEV(ハイブリッド車)と、スポーツのHEVで明記されていること。しかも、システム最高出力を172kW(234PS)から176kW(239PS)へ引き上げつつ、燃費を22.4km/Lから23.1km/L(WLTCモード、クロスオーバーG)21.3km/Lから22.4km/L(WLTCモード、スポーツG)へと改善していることだ。クロスオーバーでは0.7km/Lよくなり、スポーツでは1.1km/Lもよくなっている。

THE CROWN 愛知高辻ゼネラルマネージャー 矢花慶氏(中央)、新型クラウン開発者 多和田貴徳氏(右)、新型クラウン プロジェクトチーフデザイナー 宮﨑満則氏(左)に話をうかがった

 普通に考えると出力向上を図った場合、燃費はトレードオフとして悪化傾向となり、よくて同等というのが常識的なところだろう。出力向上だけであるならともかく、これほどの燃費改善との両立は第5世代ハイブリッドシステム導入だけで実現できるものとはとても考えられない。

 トヨタのWebサイトによる告知によると、走りの面での変更は下記のようなものだと記されている。

クラウン(クロスオーバー)

▽フラッグシップモデルに相応しい、ゆとりある力強い走りを追求
──第5世代ハイブリッドシステム導入によるシステム出力、燃費向上 (CROSSOVER Z、CROSSOVER G)
・システム最高出力(172kW/234PS→176kW/239PS)
・燃料消費率(22.4km/L→23.1km/L)(WLTCモード・CROSSOVER G)

──走りを意識した専用装備
・パドルシフト(標準装備)
・ブレーキカラードキャリパー(レッド[フロント・リア])(CROSSOVER RS標準装備)
・ディンプル加工シフトノブ・ディンプル加工本革巻きステアリング(CROSSOVER RS標準装備)

 これを読んでも、燃費が向上したことと出力が向上したことの両立がどのように図られているかの詳細は分からない。しかも、第5世代ハイブリッドシステムがTHS(トヨタハイブリッドシステム)であるかどうかも明確に記載されていない。

 分からないものは聞いてみようということで、クラウンの専門店である「THE CROWN 愛知高辻」で行なわれた「THE CROWN Lifestyle Session」イベントを訪ね、新型クラウン開発者 多和田貴徳氏らに確認することができた。

トヨタ第5世代ハイブリッドは、THS(トヨタハイブリッドシステム)

 まず、今回の一部改良された新型クラウン クロスオーバーに採用された第5世代ハイブリッドシステムとは、THS II(Toyota Hybrid Sytem II)であることが分かった。

 トヨタのハイブリッドシステムが初めて世の中に登場したのが1997年に登場した初代「プリウス」であるのは多くの方がご存じのとおりだろう。エンジンと2つのモーター(MG1とMG2)を動力分割機構である遊星歯車で接続した、この高効率なハイブリッドシステムはTHS(Toyota Hybrid Sytem)と名付けられ、世界初の量産ハイブリッドシステムとして電動化時代を切り開いた。

 2003年登場の2代目「プリウス」では、EV走行も可能なTHS IIに進化し、これが第2世代のトヨタハイブリッドシステムになる。ここまでは比較的分かりやすい表記だったのだが、2009年に登場した3代目「プリウス」では「リダクションギヤ付きTHS II」となり、世代と表記のずれがやや発生。確かに技術的にはTHS IIなのではあるが、トランスミッションも作り直してあり3世代目に突入している。

 そして、2015年の4代目「プリウス」では、エンジンの熱効率を40%に向上。ハイブリッドトランスミッションのリダクションギヤも遊星歯車から平行軸の複軸配置となり、全長を47mm短縮するとともに約20%の機械損失を低減。表記は「リダクションギヤ付きTHS II」ではあるものの、ギヤの形が異なるほか効率も向上しており、第4世代のトヨタハイブリッドシステムとなった。

 16代目の新型「クラウン クロスオーバー」が搭載していたハイブリッドシステムはこの第4世代ハイブリッドシステムで、カタログ表記はTHS II。ただ、4代目プリウスと異なり、2代目「アクア」から市場投入されたバイポーラタイプのニッケル水素電池が組み合わされていた。

 この駆動用バッテリはトヨタが世界で初めて搭載したもので、豊田自動織機とトヨタ自動車が共同開発。バイポーラ(双極)と名付けられているように、従来のニッケル水素電池のようにセル間をコネクタなどで接続するのではなく、セル同士を直接接続していく。そのため、コネクタによる電流・電圧の絞り込みなどをする必要がなく、大電力をセルモジュール内に一気に流せるという特性をもっており、電気の出し入れが多いハイブリッドシステムに向いている。個人的に新型「クラウン クロスオーバー」のTHSを4.5世代と呼んでいたが、同様な呼び名はトヨタ社内でも使われていたようだ。

 そして、一部改良に搭載された新型クラウン クロスオーバーに搭載された第5世代ハイブリッドシステムは、多和田氏に確認したところ第5世代のTHSで間違いないとのこと。この第5世代THSは、頭出しがプリウスから行なわれず、競争の厳しくなっていたミニバンの「ノア」「ヴォクシー」から市場投入されている。

 その特徴はPCU(Power Control Unit)のパワー半導体にRC-IGBT(Reverse Conductive-Insulated Gate Bipolar Transistor)を採用し、よりコンパクトにしたほか、ユニットの低損失技術を細かく積み上げている。さらに駆動モーターもなるべく大きいものとし、動力性能を向上。電動化車両であるハイブリッドならではの走りを楽しめるものにしようとしている。つまり、燃費性能と動力性能をさらに引き上げようという意図のもとに進化している。

一部改良された新型クラウン クロスオーバー ハイブリッドに搭載された第5世代THS。エンジンの左(向かって右)にあるPCUユニットが第4世代とは大きく異なっている
第4世代THSよりもコンパクトになったPCU。パワー半導体にRC-IGBTを採用するなど回路設計を見直している
一部改良前の第4世代THSのエンジンルーム。せめてエンジンカバーにTHS4とか書いてあれば分かりやすいが、普通に見るとどこが違うかよく分からない
第4世代THSのPCU。オレンジの高電圧ケーブルの取り回しの違いで判別がつく。PCUの体格を注意深く見ると、第5世代との違いが分かってくる

 ただ、なぜかトヨタはこの第5世代ハイブリッドシステムから、THS(トヨタハイブリッドシステム)という呼び名を封印。技術的には正しいのだが、シリーズパラレルハイブリッドという表記に変更されてしまった。燃費がよく、走りについても改善を重ねていることが知られていたTHSという表記が消えたことについて、「ノア」「ヴォクシー」の発表時にいろいろ確認したのを覚えているが、総じて関係者の言葉をまとめると、トヨタ以外でも採用されてほしいとの思いがあったためのようだ。

 他社がTHSを採用する際に、トヨタの名前が入っていると採用しづらいのではという意識が働いたようで、第5世代ハイブリッドシステムからシリーズパラレルハイブリッドに変わっていた。

 ただ、その他社の採用例としてスバル フォレスターが登場する前に、スバルとしてはTHSが燃費と出力に優れるハイブリッドシステムとして市民権を得ていたと判断し、環境技術発表のときには「トヨタハイブリッドシステム(THS)の技術を取り入れたストロングハイブリッド車を2020年代中盤には発売したい」と宣言。THSはトヨタの技術ではあるが、高効率なハイブリッドを象徴するブランドとしてTHSが確立していることを、スバルが証明した形になっていた。

 ただ、トヨタも6代目となる新型RAV4の発表会(2026年5月)の際にはTHSの呼び名を復活。新型RAV4ハイブリッドでは第5世代THS、プラグインハイブリッドでは第6世代THSを採用したと発表している。

カタログを読んだだけでは分からない、一部改良した新型「クラウン クロスオーバー」の進化点

 では、この第5世代THSの採用が、一部改良した新型「クラウン クロスオーバー」の燃費低減と出力向上につながったのだろうか? 答えは半分イエスで、半分ノーになる。多和田氏は、一部改良した新型クラウンではフロントのモーター出力を向上。3NM型の88kW(119.6PS)/202Nm(20.6kgf・m)から1VM型の100kW(136PS)/208Nm(21.2kgf・m)へと、馬力・トルクとも向上。特に馬力は13%以上も向上している。これがエンジン出力と合わせたシステム最高出力向上(172kW/234PS→176kW/239PS)の原資になっている。

 エンジンは一部改良前と同じA25型直列4気筒DOHCエンジン。高効率で知られるダイナミックフォースエンジンで、変更はないとのこと。このA25型エンジンと第5世代THSユニット組み合わせた一部改良後のエンジンルームの風景は明らかにコンパクトになっており、このコンパクトさから来る軽量化が大きな燃費低減の理由かなとも思う。

 しかしながら、車重を比べるとクロスオーバーG同士で1760kgと同じ。大出力のモーターを採用した場合、一般的に燃費が悪化する傾向にあるほか、エンジンルーム内は明らかにコンパクトになっているのに軽くなっていなかったりと、22.4km/L→23.1km/Lへと燃費がよくなる要素がすぐには分かりにくい。

 これだけ燃費がよくなる点を開発者の多和田氏に聞いたところ、なんと「実はバッテリ容量を、一部改良前より増やしてあります」とのこと。前述したように新型クラウンのハイブリッドモデルでは2代目アクアから導入されたバイポーラ型ニッケル水素バッテリを搭載しているのだが、その容量が増えているとのこと。

 トヨタは、バッテリEVモデルやプラグインハイブリッドモデルではバッテリ容量をカタログなどに記載するが、新型クラウンのクロスオーバーでは容量の欄にはどちらも「5Ah」と記してあるのみ。セル数などの記載はなく、「h」が入っているとはいえ、容量というより流量と表現すべきものになっている。

第5世代THSを搭載したクロスオーバーのバッテリ容量は、セル数168セルから192セルへ約14%増加

豊田自動織機製のバイポーラ型ニッケル水素バッテリ。一つのブレードが一つのモジュールとなり、24セルで構成されている。モジュール同士の接点が大面積で、大容量の入出力に対応するためハイブリッド車に向いている

 では、そのバッテリ容量はどのくらい増えたのだろう。たまたま愛知高辻の「THE CROWN Lifestyle Session」イベントを訪れていた新型クラウン開発者 本間裕二氏(本間氏に限らず、このイベントには一般客として多くのクラウン開発陣を見かけることができた)に聞いたところ、168セルから192セルへ約14%増加させているという。

 このバイポーラ型ニッケル水素バッテリは豊田自動織機が生産しており、168セル仕様で201.6V(1セル1.2V)/5.0Ah。1モジュール辺りのセル数は24セルで製造され、7モジュール構成となっていた。一部改良した新型クラウンでは、ここに1モジュールを追加。192セルで8モジュール、230.4V/5.0Ah(つまり、1.152kW)のバッテリ容量に増量していた。

豊田自動織機製のバイポーラ型ニッケル水素バッテリを別の角度から。7モジュール構成であることから、一部改良前の新型クラウン、もしくは2代目アクア用であると推測できる

 一般にバッテリ容量というと航続距離の数値とも思われがちだが、航続容量だけでなく出力の支えにもなる。これが一部改良した新型クラウンで燃費の改善と出力向上の両立を図れた要因の一つでもあったわけだ。

 一般に、バッテリEVでは50kWhや70kWh、プラグインハイブリッドでは18kWhなどの数字を見かけることが多いが、ハイブリッド車はわずか1kWh程度であれほどの燃費をたたき出している。いかに賢くバッテリという貴重な資源を使っているか分かる部分でもある。

 そしてこの値はクルマの価値に直結する部分でもあり、セル数はともかくWh単位での表記はハイブリッド車においても標準的に記載していくべきでないだろうか。正直、今回の一部改良の新型クラウンにおいては重要部品となっているにもかかわらず、ここの変更をカタログや主要諸元から読み取ることはできなかった。

 なお、この192セルで8モジュールという仕様は新型RAV4のハイブリッドモデルと同じで、そういった意味でもトヨタは価値あるクルマをうまく作り上げていることになる。

 また、第5世代THSにおいてはトヨタハイブリッドシステムという表記が消えたと書いたが、一部改良した新型クラウン クロスオーバーのカタログ(2026年9月発行)においては「TOYOTA HYBRID SYSTEM II」という形で復活。バイポーラ型ニッケル水素バッテリと組み合わされた第5世代と考えれば、第5.5世代といえるべきものになっており、世界トップレベルにある高効率なハイブリッドシステムを搭載したクルマになる。

 開発者の多和田氏も言っていたが、一部改良した新型クラウン クロスオーバーではパドルシフトも装備。このパドルがあることで回生量を積極的にコントロールできるようになり、下り坂や雪道での走りの安心感も格段に上がる。

 外観からはリアまわりのデザイン変更と一見地味な一部改良ではあるが、中身は大幅にアップデート。特に燃費改善と出力向上という二律背反を、モーターの出力向上とバッテリ容量の増加で実現。さらに高効率で体格の小さな第5世代THSを用いることで、車重は同じにそろえてある。トヨタらしい、改善に改善を積み重ねた一部改良であるのは間違いないだろう。ただ、あえて残念なのは、その一部改良の全貌をリリースやWebサイトから読み取ることができないこと。もしかしたら、これ以外にもいろいろあるかもしれない。

日曜日にもかかわらず愛知高辻のイベントをプライベートで訪れていた新型クラウン開発者。ほかにも開発者がたくさん訪れており、新型クラウンの疑問点を解消することができた

 気になる方は、「THE CROWN Lifestyle Session」が2か月にわたって行なわれていくため、その際に開発者を捕まえるなどして確認してみてほしい。9月12日の東京虎ノ門のイベントでは、クラウン製品企画主査 本間裕二氏、チーフデザイナー 宮﨑満則氏、タレント/ファッションモデル 久保田裕之氏が登壇予定となっている。

「THE CROWN Lifestyle Session」今後の開催スケジュール

9月12日:THE CROWN 東京虎ノ門
9月27日:THE CROWN 横浜都筑
10月4日:THE CROWN 福岡天神
11月8日:THE CROWN 千葉中央