新型レガシィに乗ってみた。その3~ツーリングワゴン編~



 本誌編集部の谷川潔と筆者の瀬戸学が、5月20日にフルモデルチェンジした「レガシィ」シリーズに試乗した。すでにアウトバックのレビューと、B4のレビューを掲載したが、最終回となる今回はツーリングワゴンのレビューをお届けする。

レガシィらしからぬ後ろ姿
 試乗したのはツーリングワゴン「2.5i L Package」。新開発のリニアトロニックCVTを搭載する、今回のモデルチェンジで最も気になるモデルだ。しかし最初に目がいってしまうのは、そのスタイリング、斜め後ろから見た容姿だ。

 というのも、これまでクォーターガラスとリアガラスがつながったデザインであったのに対し、このモデルからはDピラーがボディーカラーになっている。そのため、後方から見た時に一瞬レガシィとは認識できないのだ。ほかにもデザイン面での大きな変更として、伝統だったサッシュレスドアからサッシュドアに変更されてもいるのだが、それ以上にこのDピラーがイメージを大きく変えている。今回のレガシィのモデルチェンジにかけた、スバルの開発陣の気合いの表れとも言えるだろう。

エンジン
 2.5iに搭載されるのは、2.5リッターのSOHCエンジン。先代ではアウトバックの2.5iに搭載されていたエンジンだが、約90%の部品を新設計しており、特にCVTとの協調を図っている。実は先代の2.5リッターエンジンもとてもよくできたエンジンで、2.0リッターの自然吸気のようなパワー不足感もなく、ズバ抜けた刺激はないものの、どの回転からでもアクセルを踏み込めばトルクがじわりと出てくるディーゼルのようなエンジンだった。ディーゼルと言うとあまり褒めているように思われないかもしれないが、長距離を移動するときには、ディーゼルのようにピリピリしすぎないくらいのほうが楽なのだ。

新開発のインテークマニホールドで、ピークパワーよりも低回転のトルクを重視したと言う2.5リッター SOHCエンジン

 では新型の2.5リッターはと言うと、やはり低回転からしっかりとトルクが出ているが、以前のようながさつさが一掃され、「ディーゼルのような」という表現は似合わなくなった。先にターボモデルを試乗していたこともあるが、それと比較すれば決して刺激的なエンジンではないし、自然吸気エンジンらしく上まで回すほど加速度的にパワーが伸びる訳でもない。むしろ低回転でも高回転でも淡々と同じ仕事をする職人のようなエンジンだ。

 この職人気質のエンジンが、CVTと組み合わせると非常に相性がよく、まるで電気自動車のように変速機の存在を意識することなく走ることができる。走りを楽しむという観点から見れば刺激がない車だが、道具として見た時、いろいろなことが気にならないというのは最大の長所と言えるだろう。

注目すべきは新開発のリニアトロニックCVT
 そんな走りのもう1人の立役者が、新開発のリニアトロニックCVTだ。実はスバルは「ジャスティ」で、量産車では世界で初めてスチールベルト式CVTを搭載したという経歴を持っている。CVTは、なんらかのクラッチ機構を必要とするが、新型レガシィではトルクコンバーターを組み合わせている(ジャスティのECVTは、電磁クラッチ+CVT)。CVTのプーリー間の接続も、一般的な金属コマを使ったスチールベルト式ではなく、チェーン式。これによりスチールベルトに比べ5%の伝達ロス低減をしていると言う。

 CVTは無段変速のため、当然変速ショックという概念がなく、エンジンの燃料消費率の低い回転域を常用的に使うことで、燃費をよくすることもできるし、最もトルクの出る回転域だけを使って走ることもできるというのがメリット。

 しかし一方で、最初にエンジン回転数だけが上がって、後から遅れて車速が伸びていくような、CVT特有の加速時の違和感というのも存在する。開発者によれば、リニアトロニックCVTでは、そういった違和感をなくすようにセッティングしていると言う。

CVT特有の違和感はうまく抑えられ、トランスミッションの存在を感じさせない自然な走りを実現する

リニアトロニックCVTの走りを検証
 実際に試乗してみると、当たり前の話だが変速ショックは皆無で、加速時には切れ目のない加速が続く。また、懸念された加速時の違和感も感じることはなく、無段変速のよさを素直に実感できた。やはりスバルはCVTに対する経験も豊富なので、そのノウハウが存分に生かされているのだろう。

 リニアトロニックCVTは、アクティブトルクスプリットAWDによりトルク配分は前100:後0~前50:後50の間でリニアに可変する。通常の配分は前後軸重と同じ60:40となり、その走行感覚は素直の一言だ。コーナーリングも進入から立ち上がりまで、4輪の接地感覚がきちんと残りつつ曲がっていく。高速道路の下りコーナーなどでは緊張するものだが、何の不安もなくステアリングを切ったら切っただけ曲がっていく。ニュートラルステアのお手本のようなコーナリングが楽しめる。ただしタイヤは16インチで、先に乗ったターボモデルと比べるとプア。試しにタイトコーナーを攻め込んでみたところ、結構すぐに音を上げてしまった。

 トルコンはスタート時やストップ時に働くのみで、車が動き出したらすぐにロックアップ(エンジンとトランスミッションを直結すること)すると言う。そのため、変速はリニアトロニックCVTならではのワイドな変速比(3.525~0.558)を使って行われる。

 このリニアトロニックCVTは、積極的にシフトチェンジを楽しみたい人のために、あえて6段変速のマニュアルモードを設けている。こちらも5速ATと同様、シームレスにマニュアルモードへの移行が可能で、下り坂でエンジンブレーキを効かせたい場合、DレンジのままシフトバドルでシフトダウンをすればOK。その変速にかかる時間はわずか0.1秒で、デュアルクラッチトランスミッションよりも速いと言う。実際に使用してみても、シフト操作から実際の変速までに、タイムラグを感じることはなく、まるでレースゲームのようだ。ただし、組み合わされるエンジンが、先に述べたとおり淡々としたエンジン特性のため、忙しく変速をしてもあまりやる気になることはなかった。CVTの無段変速もとてもよく仕上げられているので、せっかくのマニュアルモードだが、慣れてしまうとその出番は多くはないように思える。

パドル操作にあわせて何の変速ショックもタイムラグもなく変速するマニュアルモードは、物理的なトランスミッションがあることを忘れさせるほど
チェーン式CVTゆえなのか、気になる高周波音

せっかくの完成度だけに残念な異音
 全体的にとてもよくまとめられた2.5リッター+CVTだが、唯一気になったのは、CVT部分から出る特有の音だ。これも新型レガシィが、静かすぎるためなのか、エンジン回転数が高くなると、高周波音が耳につく。しかも、その音が前方からではなく、左腰の側方下部あたりからするため、よけいに違和感を感じてしまう。

 といっても、通常の走行であれば、CVTのワイドな変速比のおかげで、例えば高速道路の100km/h走行でも、エンジン回転数は2000回転を下回るほど低く抑えられている。そのためこの高周波が気になることはないのだが、例えば高速走行でありながらエンジンブレーキを効かせたい場合や、素早く加速するためにアクセルを踏み込んだ時などに「シュイーン」という独特の音が聞こえてくるのだ。これをCVTらしい音と肯定的にとらえることもできるが、新型レガシィの一貫した開発テーマが、広さや静かさである以上、もう少しコントロールしてほしかった。

レガシィのドライブをアシストするさまざまな装備
 新型レガシィには全車「ECOゲージ」という燃費状態を示すゲージが付いている。せっかくのCVTなので、プラス(低燃費)方向になるようチャレンジしようとしたのだが、このECOゲージがタコメーターの左下にあって見づらい。アクセルワークのちょっとした変化でもリニアに変わってしまう情報だけに、頻繁に確認しやすいメーター部中央やインフォメーションメーター内に表示させてほしかった。

 この試乗車は、今回試乗したレガシィシリーズの中で、唯一プレミアムサウンドシステムが装着されていたのだが、やはりマッキントッシュサウンドシステムと比較すると音質面での華やかさに欠ける。特に新型レガシィは、静粛性が大きくアップしているだけに、余計にその差を感じてしまうところ。プレミアムサウンドシステムとの差額15万円は決して高くはないだろう。

メーターの左隅にあるECOゲージ。頻繁に確認したい表示なので、もう少し見やすい位置がよかったマッキントッシュと比べるとやはり見劣りしてしまうプレミアムサウンドシステム

谷川潔の総論
 自然吸気の2.5リッターエンジンとリニアトロニックCVTを組み合わせたツーリングワゴン 2.5iは、一番新型レガシィらしさが味わえるモデルだ。静かで広い室内、変速ショックのないトランスミッション、スムーズで適度なパワー感のあるエンジン、そしてそれを総合制御するSI-DRIVEのモード変化と、すべてが1つの方向を向いて調和している。また、高剛性なボディーが確実に4輪を接地させ、その4輪すべてで駆動力を担うことにより、ドライ路面では絶大な安心感を持って、疲れの少ないドライブ、スバルがいうところの“グランドツーリング”を楽しめる。今回ウェット路面や雪道は試せていないものの、ドライ路面での安心感も向上しているだけに、より安心感のある走りを実現しているのではないだろうか。

 アウトバック、B4、そしてツーリングワゴンと、そのすべてのタイプで1クラス上のレンジへと引き上げられた新型レガシィ。エンジンやトランスミッションによって個性の違いは出ているものの、新構造のボディーやサスペンションによって広く静かな室内を提供し、振動をも抑制することで運転に対する負担低減と、同乗者への快適性向上を実現。より遠くへより楽に移動することができるだろう。グランドツーリングの思想を一段進化することに成功していると言える。

瀬戸学の場合
 個人的な趣味は別として、おそらくレガシィシリーズの中で一番台数が売れるのはこのツーリングワゴンの2.5iになるだろう。その理由はもちろんワゴンボディーならではの使い勝手にもあるが、2.5iが安いグレードだからというのが最大の理由。レガシィという車は、単にスポーティーな車としてだけでなく、道具としても評価されている車だからこそ、台数としては安いグレードが売れるわけだ。

 そして2.5iはその責を十分に担える存在に仕上がっている。ターボのように刺激的なパワーもなく、アウトバックのようなゆったりとした乗り味とも異なるが、ワゴンの積載性と広い室内を生かした道具として見た時、その作りには無駄がなく、誰の手にもなじむ洗練した道具として完成されている。

 個人的な趣味で言えば、ターボモデルが刺激的で楽しいと感じた。筆者にとって走りを楽しむということは、車との会話を楽しむということだと思っている。その点2.5iは、何かを言う前にすでに手頃なものがすべて取りそろえられているような車だ。加速をしようとアクセルを踏み込めば、無段変速のCVTがドライバーに変速を意識させることなくローギアに変わり、必要な分だけスルスルと加速していく。ステアリングを切っても、ドライバーの心を刺激するほど過敏ではないが、確実に舵角分だけ曲がっていく。気がつけばインプレすることを忘れてしまうほど、すべてが自然にまとめられた完成度の高い車と言えるだろう。

(瀬戸 学)
2009年 6月 22日