「第36回国際福祉機器展 H.C.R.2009」リポート
国内自動車8メーカー+福祉車両専門メーカーなど福祉車両が充実

乗降しやすいリフトアップシート搭載車などさまざまな福祉車両が展示される国際福祉機器展

2009年9月29日~10月1日開催
東京ビッグサイト
入場無料(事前もしくは当日登録制)



 9月29日から10月1日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)において「第36回国際福祉機器展 H.C.R.2009」が開催中だ。H.C.R.とは、Home Care&Rehabilitationの略であり、15カ国から491社が出展する国内最大級の福祉機器展示会。車イス、ベッド、浴槽、トイレ、自助具など、約2万の機器や製品が展示されている。福祉車両部門も充実しており、国内の自動車メーカー8社と福祉車両専門メーカーが出展した。Car Watchでは、福祉車両に絞って展示内容をリポートする。

オリジナリティあふれるホンダの福祉機器
 最も独自色を打ち出していたのが、「Fun for Everyone. Honda」をテーマとした本田技研工業だ。ほかのメーカーにはない運転システムとして、その機構を紹介していたのが、両腕が不自由な人でも足だけで運転できるようになる「Honda・フランツシステム」。かつては「シビック」用として長年に渡ってオーダーメイドで販売されてきたシステムで、現在は「フィット」用が用意されている。仕組みとしては、ステアリング操作は左足で自転車のペダルをこぐように「ステアリングペダル」を回して行う。シフト操作は「足用セレクトレバー」があり、右足で行なえる。ウィンカーレバーやパワーウインドー、ライトなども「足用コンビネーションスイッチ」として、ヒザで操作できるようになっている。体験コーナーにはなかったが、ドアを閉めると自動的に着用できる「自動装着式シートベルト」も備えられている。

ホンダブース外観。自動車メーカーは第2ホールの福祉車両エリアに展示Honda・フランツシステムの体験コーナー
左足でペダルをこぐとステアリングを左右に切れるシフト操作を右足でできる「足用セレクトレバー」

 今回はフィット用として、新型「Honda・テックマチックシステム Dタイプ」が初出展されていた。Honda・テックマチックシステムは、障害の状態にあわせて選択できる各種運転補助装置シリーズで、Dタイプは両下肢が不自由な人が両腕だけで操作を行なえる手動運転補助装置だ。開発にあたり、ユーザーと共同で徹底的な改善を重ねたということで、従来モデルよりも使いやすさが改善され、疲労度が軽減していると言う。

 具体的には、まずゆるやかな加速やブレーキの効き始めの手応えが分かりやすいように改良。レバー部とペダル部の機構をコンパクトにして運転操作スペースを拡大したとのことだ。

 そのほか、テックマチックの各タイプは、「インサイト」「ライフ」「フリード」に装備されて展示されていたほか、体験コーナーでの解説も行われていた。また、電動カート「モンパル」の体験コーナーも用意されていた。

フィット用のテックマチックシステム Dタイプを初出展。左手でアクセルとブレーキをコントロールできるフィット。ほかにインサイトやライフ、フリード、モンパルなども展示していた
ステアリング左側に取り付けられた「ハンドル旋回ノブ」がテックマチックシステム Aタイプ。ウインカーレバーから左に伸びる黒いコントロールバーが「左手用ウィンカーレバー」のLタイプブレーキペダルの左に取り付けられた「左足用アクセルペダル」がテックマチック Bタイプ

 特にひっきりなしに来場者が訪れていたのが、昨年4月にプロトタイプが発表された「リズム歩行アシスト」の体験コーナー(参考出展)。二足歩行型ロボット「ASIMO」の研究開発の過程で得られた協調制御技術を採用しており、健常者でも歩くのが楽になることを体験できるアシスト機器だ。

リズム歩行アシスト来場者は実際に装備して、その機能を実感できる

車イスの収納・展開をほぼ自動にした「プリウス」
 福祉機器の種類で勝負といった趣だったのが、トヨタ自動車だ。展示車両は、自動車メーカー中で最大の7台に及んだ。内訳は、「車いす仕様車」が3台、「リフトアップシート車」が3台、そして「フレンドマチック取付用専用車」が1台となっている。目玉は、プリウスの「フレンドマチック取付専用車 タイプIV」。ルーフ上に車いすを収納する新開発のウェルキャリーを搭載し、車いすの積み降ろしはリモコンひとつで自動的に行なえるというシステムだ。車いすの利用者が1人でクルマに移乗し、自分で運転して目的地でまた車いすを降ろして移乗する、ということを楽にこなせる。ウェルキャリーはプリウス専用だ。

トヨタブース。自動車メーカーのブースでは最も大きいものだった注目の的となっていたフレンドマチック取付用専用車のプリウス。屋根に車いす格納用のウェルキャリーを搭載新開発のウェルキャリーを正面から(車いすを降ろすために展開中)

 そのほか車いす仕様車としては、ルーフサイドウインドーのあるBタイプ「ハイエース」、車いす2脚仕様のタイプI「ノア」、スロープタイプ「ラクティス」を展示。シートが電動で回転し、乗り降りしやすくなるリフトアップシート車としては、2列目の助手席側がリフトアップシートを設けたサイドリフトアップシート車(パノラマタイプ)の「アイシス」、2列目のシートがそのまま電動車いすとなる脱着タイプのサイドリフトアップシート車の「ヴェルファイア」、助手席がリフトアップシート車(Bタイプ)の「プリウス」が展示されていた。

ハイエースは、車いすを全自動スイングアームリフトで乗せる仕組み写真のラクティスと隣にあったノアは、スロープを利用するタイプ
ヴェルファイアとアイシスはサイドリフトアップシートを装備。ヴェルファイアのものは、そのまま電動車いすに助手席がリフトアップシートとなっているプリウス

日産は「バネット」ベースの新型福祉車両などを出展
 特に新しいシステムの出展はなかったが、日産自動車は福祉車両「LV」シリーズ5台を展示した。新型車両は、「NV200 バネット チェアキャブ スロープタイプ」。スロープを利用して車いすのまま乗車でき、車いす利用者2名が同時に乗車できる室内空間を実現している。

日産ブース。第2ホールに入ったところにあり、隣はホンダブーストなる福祉車両LVシリーズ新型車のNV200 バネット チェアキャブ スロープタイプ
後方にスロープを展開して車いすの乗降を行え、2脚まで収納できる後部スライドドアからから車内を見たところ

 そのほかの出展されたLVシリーズは、「キューブ チェアキャブ スロープタイプ」、「セレナ チェアキャブ リフタータイプ」、「セレナ チェアキャブ スロープタイプ」、「キャラバン チェアキャブ M仕様」となっている。キャラバンは、今回展示された福祉車両の中でも、トヨタのハイエースと並んで最大級のものとなる。

キャラバン チェアキャブ M仕様キャラバン チェアキャブ M仕様の車内。ボディーが大きいため、室内の余裕もかなりある

福祉車両3台のほか、オフロード車いすも展示したマツダ
 マツダは、軽自動車ベースの「AZ-ワゴンi」のほか、中型トールタイプミニバン「ビアンテ」をベースにした「ビアンテ セカンドリフトアップシート車」と「ビアンテ 助手席リフトアップシート車」の3台を展示した。「AZ-ワゴンi」は車いすに乗ったままでリアゲートからの乗降が可能となっている。ビアンテの2台は、電動昇降機能付きシートを2列目もしくは助手席に搭載した車両だ。

マツダブース。第2ホール入口に近い場所に位置するビアンテ セカンドリフトアップシート車
ビアンテ 助手席リフトアップシート車来場者が車いすでAZ-ワゴンiに乗り込むことができる

 また、同社が協賛する自転車および車いすのエンデューロレース「MAZDA CUP(マツダ・カップ)」で使用されているオフロード車いす(アウトドア用車いす)も展示。同時にレースの模様を写真で紹介していた。車いすでオフロードのレースを楽しむことも可能というわけだ。

オフロード車いすコーナーサスペンションも本格的に作り込まれている

レガシィとサンバーの福祉車両を展示していたスバル
 スバル(富士重工業)は、福祉車両「トランスケア」シリーズの内、「サンバー トランスケア 電動リフター」と、参考出展の「レガシィ トランスケア ウイングシート」の2台を展示した。サンバー トランスケア 電動リフターの特徴は、サイドから車いすがリフターを使って乗り込めること。車に対して後ろ向きにリフターに搭乗し、車内に持ち上げられると中で自動的に回転して正面を向くという仕組みだ。

スバルブースサンバーの福祉車両、サンバー トランスケア 電動リフター電動リフターを搭載しており、側面から車いすが乗り降りできる

 レガシィ トランスケア ウイングシートは、スポーツタイプの要素を持ったクルマでの福祉車両という点が珍しい1台だ。ボディーも大きく、後部に車いすを楽に積み込め、助手席は電動式で回転・昇降を行なうウイングシート(スバルでの名称で、他社ではリフトアップシートと呼ばれていることが多い)になっているほか、両下肢が不自由な人でも1人で運転できる「自操式装置」を装着してある。

レガシィ トランスケア ウイングシート。参考出展助手席がウイングシートになっている両手のみで運転できるスバル製の自操式装置が装着されていた

ワゴンRなどの福祉車両とセニアカーを展示したスズキ
 スズキは、福祉車両「ウィズ」シリーズの内、「ワゴンR 車いす移動車[電動固定・リアシート付]」と「エブリイ 車いす移動車[手すり・補助シート付]」を展示した。

スズキブースワゴンR 車いす移動車[電動固定・リアシート付]。スロープ表面は滑り止め加工がなされている

 そのほか、「セニアカー」と呼ばれる発売中の電動車両も出展。本格4輪セニアカー「ET4D」、都市型4輪セニアカー「タウンカート」、簡易型電動車いす「カインドチェア」、ニューモジュール型電動車いす「モーターチェア」などだ。セニアカーは試乗も可能で、実際に移動速度がどのようなものかを試せるようになっていた。

本格4輪セニアカーのET4DET4Dより全長、全幅共に縮小し、軽量化を実施したタウンカート。より小回りも効くようになった簡易型電動車いすのカインドチェア
モーターチェアモーターチェアにリクライニング機能などを装備したオプション装備追加車

タントなど福祉車両4台を出展したダイハツ
 ダイハツ工業は、同社の福祉車両「フレンドシップ」シリーズ4台を展示した。注目されるのは、軽自動車最大クラスの室内空間と、助手席側にセンターピラーのない大開口のミラクルオープンドアを有する「タント」をベースにした「タントウェルカムシート」(リフトアップシート装備車)と、「タントスローパー」(車いす移動車)の2台。

 そのほか、車いす移動車として「アトレーワゴン」にスロープを装備させた「アトレースローパー(リアシート付仕様)」、「ムーヴ」の助手席に電動リフトアップシートを装備した「ムーブフロントシートリフト」も出展した。

ダイハツブースタントウェルカムシート(リフトアップシート)なら、余裕を持って乗り込めるタントスローパー(車いす移動車)の車いす設置部を後席から見たところ

デリカD:5サイドムービングシート仕様車などを出展した三菱
 三菱自動車工業は、福祉車両「ハーティーラン」シリーズの内、4台を出展した。軽自動車「トッポ」ベースの「トッポ 助手席回転シート付き車いす仕様車(ニールダウン式)」は、スロープ付きの車いす移動車で、車両後部を下げることにより、スロープの登坂角度が低くなるというニールダウン機構を搭載する。

 軽商用車「ミニキャブ」ベースの「ミニキャブ 車いす仕様車(テールゲートリフト式)」は、車両後部に収納された昇降能力200kgの電動リフトを使って車いすの乗り降りを可能にする1台。リフトは折りたたみ式プラットフォームを採用しているので、走行時の後方視界が確保されているのが特徴。そのほか、ミニバン「デリカD:5」ベースの2列目助手席側シートをムービングシート(リフトアップシート)にした「デリカD:5 サイドムービングシート仕様車」や、助手席をムービングシートにした軽乗用車「eKワゴン」ベースの「eKワゴン 助手席ムービングシート仕様車」が展示された。

三菱ブーストッポ 助手席回転シート付き車いす仕様車(ニールダウン式)。スロープの角度を浅くできるのが特徴ミニキャブ 車いす仕様車(テールゲートリフト式)。200kgの電動リフトを搭載

ニッシン自動車工業は、電動車いす運転席固定車の試作車を出展
 福祉車両メーカーのニッシン自動車工業は、ウィンチや手動運転装置、座席乗降補助装置など、運転や乗降を補助する各種装置を出展した。

 新開発の1BOX車「車いす運転席固定車(ジョイスティック車対応)」の試作車が参考出展されていた。この車両は、後部の電動リフトで車いすのまま乗り込んで車内を車いすのまま移動。運転席の位置に車いすを固定して、そのまま運転ができるという仕組みである。まだ試作中ということだが、ジョイスティック運転装置も開発中で、2年後に実用化を目指していると言う。

ニッシン自動車工業のブース内は、運転や乗降を補助する各種装置が展示され、にぎわっていた試作中の車いす運転席固定車(ジョイスティック車対応)。車いすがそのまま収まっている車両後部の電動リフト。これで車内に入ってそのまま運転席へ
1BOX車を利用しており、車内を車いすで移動できる構造になっている現在開発中のジョイスティックによる運転装置

(デイビー日高)
2009年 10月 1日