【特別企画】タイヤメーカーの戦いに注目の集まるSUPER GT【ダンロップ編】
「人材育成という+αの効果も見込んでレースに参戦」


住友ゴム工業 モータースポーツ部長 植田敏明氏(右)、モータースポーツ部 課長 中田典克氏(左)

 SUPER GTのGT500クラスに参戦するタイヤメーカー紹介の最終回は、ダンロップ(住友ゴム工業)。ダンロップは、日本のモータースポーツに古くから参戦している老舗メーカーの1つだ。サーキットにはタイヤ型のゲートがあることが多く、なぜかダンロップのものだけが、“ダンロップブリッジ”と呼ばれることからも、参戦の歴史の古さが分かる。

 神戸に本拠地を構えるダンロップは、1995年に発生した阪神大震災の影響で一時的にモータースポーツ活動を中断せざるを得ないときもあったが、その後復活をとげ、SUPER GTなどのトップカテゴリーに継続的に参戦し続けている。

 そんなダンロップの今シーズンは、GT500クラスのEPSON HSV-010 GTと、GT300クラスのJIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458の2台にタイヤを供給。ダンロップブランドのタイヤを展開する、住友ゴム工業 モータースポーツ部長 植田敏明氏、モータースポーツ部 課長 中田典克氏のお二人に、SUPER GTへの取り組みなどについてお話を伺った。

ダンロップは、GT500では32号車 EPSON HSV-010(左)を、GT300では11号車 JIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458(右)にタイヤ供給を行っている

レースのノウハウを、若手の教育や市販タイヤの開発に活かす体制
──ダンロップがSUPER GTに参戦されている目的を教えてください。
植田氏:阪神大震災の前までは様々なカテゴリーに参戦していたのですが、震災を体験してからは手広くやるよりは選択と集中が必要ということになりました。そこで、4輪の国内トップカテゴリーであるSUPER GTと、2輪の国内トップカテゴリーであるJSBの2つにリソースを集中することにして、現在に至っています。

 SUPER GTの場合にはテスト規制などもあり、従来のようにテストでどんどん実車を走らせて開発をすることが難しくなっています。そうした制約の中で、どうしたら車を走らせないでも効率よく開発ができるのかということを考える必要があります。社内の研究開発部門でそうしたことをシステムとしてやっていくと、走らせなくてもこの特性のタイヤを作りたいという仕組みができあがっていくのです。そうすると、今度はその仕組みを市販タイヤの開発に活かすことができます。

 社内の多くの部署と、レースという開発サイクルが速い環境の中でやっていくことで、若いエンジニアを教育したり、訓練したりということにつながっていくという効果があります。

 昔のようにモータースポーツが右肩上がりで成長していた頃は、ただ結果さえ出せばそれが売り上げにつながるということもありましたが、今はもうそういう時代ではないと思うのです。そこで、人材育成という+αの効果も見込んでレースに参戦しているというのが、レース屋としての私の見方です。営業サイドは別のことを言うかもしれませんが(笑)。

──中田さんは、チームのサポートを担当されていますが、どのようなことをしているのでしょうか? また、チームからはどのような要求がありますか?

中田氏:私は走行データを解析してチームと打ち合わせてタイヤの方針を決定することを担当しています。今年は、GT500、GT300ともに1チームしかない状況ですので、かなり密接にやり取りすることができ、その有利さを活かしていきたいと考えています。

 チームからのリクエストですが、どこのチームも同じだと思いますが、「とにかくハイグリップでレースで最後まで持つタイヤを」と言われますね(笑)。それはともかく、やはりチームとしてはテストなどでの走行結果をすぐに次のタイヤに反映してほしいと言われています。その意味で、今年は台数が少ないので、チームの要求には応じやすい環境だと言えます。

GT300、GT500それぞれ1台に集中することで一歩一歩前進
──今シーズンの目標は? また、GT500、GT300それぞれの1台となった経緯やチーム体制についてどう考えているか教えてください。

植田氏:弊社の方針として、ひらめきでいきなりのジャンプアップを目指すのではなく、確実に一歩一歩前進するというものがあります。実車と研究室をしっかりリンクさせた上で、データを確実に押さえて着実に前進していくような仕組みを作っていきたいです。そうしないと、性能が上がったとしても、どうして上がったのかのメカニズムをしっかり押さえることができず、市販タイヤの開発につながらないからです。

 チーム選択なんですが、こればっかりは恋愛と一緒で、片方がいくらラブコールしても、相手側にもその気になってもらわなければ一緒にやることできません。今年サポートさせていただいている2チームは、我々のほうで出した条件に納得していただき、かつ我々と一緒にさらに上を目指せるチームになります。

 GT500ではNAKAJIMA RACINGのEPSON HSV-010と契約しましたが、エースドライバーである道上選手は、HSV-010 GTを開発してきたドライバーということもあり、クルマに合うタイヤをよく理解されています。このため、彼が移籍してきてから1年でタイヤの中身が大きく変わったと言ってもよいほどです。また、若手の中山選手も成長を遂げており、道上選手がしっかり教えていることもあって、ずいぶん速くなりました。中山選手も道上選手に近いコメントを出してくれるようになっているので、今は2人でテストができるようになっているので助かっています。

 GT500に関しては、テストではわるくない結果が出ており、ロングランでは結構よいタイムを出せています。ただ、予選の順位で上のほうに行けていないので、そこが課題だと思います。

──GT300はいかがでしょうか?
植田氏:正直言ってJIMGAINERは、車が開幕戦富士の直前に到着したばかりで十分にテストもできていません。しかしながら、2位に入る結果ですから健闘していると言ってよいと思います。弊社はヨーロッパにも拠点があり、そちらでもモータースポーツ活動を行っています。458イタリアベースのJIMGAINERは、向こうで走らせているフェラーリと大きな差がないという情報をもらっているので、そのデータをもとにしてタイヤの開発ベースを決定したこともあり、大きく外すことなくスペックを決定することができました。

 JIMGAINERのフェラーリは、昨年の特別戦でよい結果を出せましたが、あれは去年の後半に集中的に開発し、その結果が出たものです。そうしたデータも参考にしながら、よいタイヤができたのだと思っています。

レーシングタイヤの開発が、低燃費タイヤの開発に直結
──SUPER GTのレーシング向けタイヤと市販車のタイヤというのはどれぐらい連動しているのでしょうか?
植田氏:ハードそのものの割合で言えば、共通している技術は20~30%ぐらいですね。それよりも、レースにしろ、市販タイヤにしろ、どの技術を組み合わせるとより最適なタイヤができるのか、というノウハウは共通しています。

 今の市販タイヤでは低燃費でロングライフなタイヤが求められています。それに対してレース用タイヤでは、ライフは300kmのレースという決まった距離さえ走ることができれば、できるだけグリップを出すというものになっています。一般論でいえば、耐久性がわるいタイヤはグリップがよく、その逆でグリップがあまり出ないものは耐久性に優れています。しかし、それでは困るので、レースタイヤではその相反する2つの要素を同時に実現しようと開発している訳です。

 例えば、300kmの耐久性を備えるグリップレベル100のタイヤがあるとして、いろいろな技術を組み合わせることで耐久性を下げずにグリップレベルを120にできたとします。今度はその技術を使ってグリップレベルが3の市販タイヤを作ると、耐久性が以前よりも圧倒的に伸びるものが作れるのです。

──エコタイヤ(低燃費タイヤ)とレーシングタイヤにも関連があるのですね。
植田氏:一般論で言えば、弊社の製品に限らず低燃費タイヤで課題となっているのはウェット性能なのです。低燃費タイヤのような仕組みを実現すると、どうしてもウェットでの性能が若干犠牲にならざるを得ないのです。

 ところが、例えばレーシングタイヤでもウェットタイヤを開発していますが、レースのような究極の環境で鍛えることで、市販タイヤにウェット時の性能を移植することが可能になるのです。それにより、低燃費タイヤが苦手としているウェットの性能を引き上げることが可能になり、転がり抵抗の小ささとウェット性能を両立したタイヤを市場に投入できるようになってきているのです。


 第1戦岡山(震災により、第2戦、第1戦の順で開催)までのダンロップの成績は、GT500クラスが、15位、10位。GT300クラスは、いずれも2位。とくにGT300クラスのJIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458は、雨となった開幕戦の富士で、直後の混乱で順位を最後尾まで下げたものの、怒濤の追い上げを見せて、最終的に2位になるなど、強いレース展開を実現している。

 ここまで、ブリヂストン、横浜ゴム、ミシュラン、ダンロップと各タイヤメーカーのインタビューをお届けしてきたが、どのメーカーにも共通するのが、レースタイヤの開発が市販用のタイヤの開発、しかもスポーツタイヤはもちろん、低燃費タイヤに結びついていることだ。

 縁の下の力持ちとでもいうべきタイヤだが、レースの結果を決定的に左右することがあるなど、マシンやドライバーだけでなく、タイヤ戦争の行方にも注目してSUPER GTを見ていただきたいと思う。

 SUPER GT第3戦は、マレーシアのセパンサーキットで、6月18日、19日に開催される。

(笠原一輝/瀬戸 学/Photo:奥川浩彦)
2011年 6月 9日