【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー シーズンオフインタビュー【ブリヂストン編】 「8戦7勝でもタイトルに届かないなら、2012年は全勝を目指す」 |
日本のトップカテゴリーとして定着したSUPER GTだが、十数年以上におよぶその歴史の中で、2011年はエポックメイキングな年として記憶されるのは間違いないだろう。というのも、SUPER GTの歴史が始まって以来、上位カテゴリーであるGT500クラスのチャンピオンカーのタイヤは例外なくブリヂストンだったのだが、2011年は初めてその座をミシュランに奪われることになったからだ。
ブリヂストンは日本最大かつ、世界でもトップ3の座をミシュラン、グッドイヤーと争うタイヤメーカーで、地元の日本におけるレースでチャンピオンの座を奪われたことがニュースになってしまう。それほどこれまでのブリヂストンが、GT500で圧倒的な存在だったということだろう。
だが、ブリヂストンが内容で負けていたのかと言えば、実はそのようなことはない。というのも、GT500の8戦のうち、実に7戦でブリヂストンユーザーが勝っているからだ。さらに、第7戦オートポリス、第8戦ツインリンクもてぎのウエイトハンデがなくなる終盤の2戦では、ブリヂストンユーザーのMOTUL AUTECH GT-Rが連勝するなど、互角以上の勝負をしていたのも事実だ。
そんなブリヂストンのSUPER GT活動について、ブリヂストン MSタイヤ開発部長 生方透氏にうかがった。
ブリヂストン MSタイヤ開発部長 生方透氏 | 多くのGT500チームにタイヤを提供する(写真はMOTUL AUTECH GT-R) | GT300は、ARTA Garaiyaのみにタイヤ供給 |
■現在のテスト規制は、チームを多く抱えるタイヤメーカーに不利に働いている
──2011年のSUPER GT、特にGT500を振り返ってみていかがですか?
生方氏:率直に言って、ブリヂストンにとって苦しい年でした。2011年を総括してみると、変化の年だったというのが私の結論です。競合他社が台頭してきた中で、我々もやらなければいけないことが明確になり、それに向けて我々のやり方とか取り組み方も見つめ直して少し変えてきた年になりました。それなのに、結果が伴わなかったのは残念なことですし、苦しいと表現した部分なんですが、我々にとって少し痛みを伴った年でしたね。
──2011年の自己評価では100点満点中で何点をつけますか?
生方氏:正直にいってあまりお答えしたくないご質問なんですが(苦笑)。やはりチャンピオンを獲れなかったという意味では、20点ぐらいですね。
──確かにチャンピオンは落としたものの、8戦して7勝というのはかなりのハイレベルで、見方を変えれば圧勝とも言えます。台数が多い分、勝ちが分散してしまい、それがチャンピオンを失った要因と言えるのではないでしょうか? また、SUPER GTのテスト規定により、多数のチームを抱えているタイヤメーカーは毎回テストに参加できるチーム、車両が異なるというのも不利に働いたのではないでしょうか?
生方氏:結果に関してはまったくそのとおりで、そう言っていただけると非常にありがたいんですが(笑)。テストの件ですが、確かに我々というより、我々のユーザーチームにとって不利な条件になっていることは否めないです。競合他社の場合、1年間を通じてほぼ同じ車両で、さまざまなサーキットでテストをすることができます。当然セッティングも進みますし、タイヤの開発と車両の開発のマッチングも進んでいきます。これに対して我々の場合は、毎回違う車両であったりしますので、その作業ができませんでした。レースでは、タイヤと車両、さらにドライバーのマッチングが進んでいけばいくほど有利になりますので、やはり距離を稼いだほうが有利だというのが現状です。
──台数が多いほうが不利だという現在のテスト規定には問題を内包しているのは事実だと思います。そのあたりGTAに働きかけは行っているのでしょうか?
生方氏:こうした意見は、我々だけでなく、我々のユーザーチームさんからもそういう声が上がっています。この規定は、タイヤメーカーという枠組み、カーメーカーという枠組みの中で、決めたという経緯があります。しかし、本来のSUPER GTはチーム、すなわちエントラント主体のレースであるというところからスタートしていることを忘れてはいけないと思うのです。常に参加できるチームと、そうでないチームがあるという現状は、チームにとっては不公平な状況だと思うのです。やはり機会は均等にすべきなのではないかと私は考えています。この件は、我々の要望というよりはチームさんからの要望としてあると認識しているので、SUPER GTを統括するGTアソシエイションでも議題にのぼるのではないかと考えています。
■7勝1敗でもタイトルを獲れないなら、2012年は全勝を目指して開発を進める
──先ほど、「2011年は変化の年だった」とお話がありましたが、具体的にはどの辺りが変わっていったのでしょうか?
生方氏:いくつかあるのですが、開発のやり方、チームさんとのやりとり、そうした部分に変えなければいけない部分があり、それらを少しずつ変えながら、1年間進んできました。例えば、開発面で我々が取り組んだのは、もう少し広いレンジの温度域に使え、さまざまなサーキットに使えるタイヤの開発でした。これまで、GT500ではブリヂストンの独壇場という世界の中で進化してきていたので、さまざまな点がピンポイントになってしまいがちな部分がありました。それをブリヂストンタイヤの本来あるべき姿に戻し、多様な要素に対してワイドレンジでマッチするという取り組みを行ってきました。
──ワイドレンジのタイヤを作るというのは簡単ではない作業に思います。ワイドレンジになれば、耐久性に問題が出るなど相反する要素に問題も出てくるように思いますが?
生方氏:非常に深い部分に入ってしまうので、説明は難しいのですが、中途半端な領域をどうやって作っていくかが課題なのです。ドライとウエットがあれば、ドライはドライ、ウエットはウエットときっちり別れるのではなく、オーバーラップするような形のスペックを持つような形で開発を進めていきます。
──それはコンストラクション(構造)とコンパウンドのどちらを対応させていくのですか?
生方氏:基本的には両方です。ただ、シーズン中に開発を行いやすいのはコンパウンドのほうです。コンパウンドは載せ替えればよいのですが、コンストラクションは開発に時間もかかりますし、車両とのマッチングもやり直しになってしまいますのでシーズン中には難しいですね。SUPER GTのタイヤ開発というのは、やはり車両とのマッチングにつきます。現在のタイヤがGT500のそれぞれの車両に対して最適なのかと言えば、その答えはないわけです。このため、開発というのは今の時点での最適を常に探していくという作業なのです。車両のほうも常に進化しているので、車両だけ、タイヤだけが進化すると言うのではなく、一緒に階段を登っていくことが何よりも大事なのです。
──2011年のハイライトはどこでしたか?
生方氏:第6戦の富士ですね。このレースではSC430が非常に速くて、ミシュランのSCと我々のSCが激しく争ったレースでした。予選では負けてしまいましたが、決勝では最後に逆転することができました。そのレースまでに開発を続けてきた新しいスペックのタイヤが、上手くはまったレースという意味で、我々にとってのハイライトでした。その後第7戦、第8戦とMOTUL AUTECH GT-Rが連勝してくれて、さらに我々の取り組みが正しかったことが証明されたことも嬉しかったです。
──2011年はGT300にも参戦を開始しましたが、いかがでしたか?
生方氏:GT300への参戦は我々にとって新しい取り組みだったんですが、タイヤ開発という意味では順調だったと思います。我々のタイヤ開発の幹になっている部分は安定して走るという部分なんです。一発の速さだけじゃなく、安定した速さというのを追い求めていますので、JAF GPの第1レースで追い上げて表彰台を獲得したのは、その証明になっていると思っています。
──GT500、GT300、それぞれ2012年以降の計画は?
生方氏:現時点では決まっていませんが、基本的には2011年の延長線上にある体制でということになると思います。我々としてはチームと共に歩んでいきたいと考えていますので、ユーザーを減らしてということは特に考えていません。また、GT300に関しても継続して開発していく意向ですが、現時点では詳細は決まっておりません。
──GT500でブリヂストンが初めてタイトルを失ったということがニュースになるぐらいですから、当然逆襲があるのだと我々は期待しています。2012年以降、タイヤ戦争はより激しくなるのでしょうか?
生方氏:当然そうだと思いますよ。我々もタイトル奪還に向け、開発の効率を上げ、かつスピードを上げていかなければなりません。2011年は7勝1敗でタイトルが獲れなかったので、2012年は全勝を狙っていくしかないというつもりで取り組んでいきます。
(笠原一輝)
2012年 1月 19日