ブリヂストン、スポーツフラッグシップ「POTENZA RE-11A」説明&試乗会(後編)
富士スピードウェイのショートコースで試乗


 ブリヂストンのフラッグシップスポーツタイヤ「POTENZA RE-11A(ポテンザ アールイー イレブン エー)」。前編では説明会の模様をお届けしたが、この後編ではモータージャーナリスト岡本幸一郎氏による試乗記をお届けする。試乗したサーキットは、富士スピードウェイのショートコース。試乗車は、ランサーエボリューション、86/BRZ、CR-Zで、いずれもチューニングカーとなっている。

ブリヂストンの一般公道向けスポーツタイヤの頂点に立つRE-11ARE-11とRE-11Aの外観の識別点は、このロゴのみ。トレッドパターンはRE-11とRE-11Aは同一のものを使用する

 ブリヂストンの最新フラッグシップスポーツタイヤ「POTENZA RE-11A」に早速試乗するチャンスを得た。こうしたリアルスポーツラジアルのネーミングに、「R」や「S」ではなく「A」が用いられたことが少々気になったのだが、ニュアンスとしては、かつての「RE710」→「RE710kai」のような変更ではないかと理解している。

 トレッドパターンも従来のRE-11から変更されていないので、パッと見はこれまでと変わらない。しかし、性格は大きく変わっていたのだ。

 2008年に前身のRE-11が出たときも、筑波サーキットで行われた試乗会に参加し、ついにスポーツラジアルもこのような次元に達したのかと感心させられた。しかし、ライバルメーカーも次々に新型のスポーツラジアルタイヤを市場に投入。RE-11も、さらなる性能の進化、“ラップタイムの短縮”を目指して改良する必要があったのだろう。

 ラップタイムを短縮するには、グリップは高いほうがよいし、接地性が安定して高く保たれることが望ましい。もちろん、あくまでスポーツラジアルだから、ライフやウエットなどの一般路走行性能も疎かになってはいけない。見た目はRE-11と同じRE-11Aは、そのあたりをどのように作り込んできたのだろうか?

 今回の試乗会の会場は、富士スピードウェイのショートサーキット。ランサーエボリューションでのRE-11とRE-11Aの比較試乗のほか、単独でRE-11Aを装着したCR-Z、86、BRZなどをドライブすることができた。なお、車両はノーマルではなく、すべて何らか手の加えられたチューナーのデモカーである。

 まず、RE-11を履くランサーエボリューションに乗る。実は試乗の直前に運わるくパラパラと雨が降り出してしまい、筆者がコースインした際にはほとんど止んでいたものの、コースは微妙に濡れた個所ができてしまった。それでもRE-11の大まかなフィーリングを確認することはでき、RE-11も十分にレベルの高いタイヤであるとあらためて感じた。


今回の試乗は、富士スピードウェイのショートサーキットで行ったRE-11を履くランサーエボリューションから試乗開始。路面はややウエットとなる

 そして、クーリング走行ののち、同じクルマでRE-11Aに履き替えて再度コースイン。走り出してすぐに感じたのは、普通はもう少し温まるまでは滑るところ、1周目とは思えないほどグリップすることだ。そして、スキール音がRE-11とはまったく異質で、いかにもグリップの高そうな低い音がすることが印象的だった。

 富士のショートコースは、きつい上り勾配の直後にある、Rの小さなインフィールド入り口の3コーナーで、どうしてもアンダーステアが出がち。そして加速しながら曲がるインフィールドではアンダーステア、オーバーステアとも出やすく、最終コーナーもアンダーステアになりやすい。

 そんな特性のコースなのだが、RE-11Aは全体的にアンダーステア、オーバーステアが出にくく、狙ったラインに乗せやすいことが印象的だった。とにかく横力が高い。

走行後のクーリングオフ。タイヤもこの時点で、RE-11からRE-11Aに変更するRE-11Aは、狙ったラインに乗せやすいことが印象的だったタイヤのトレッド面の変化を確認中

 RE-11では外に膨らむような個所でも、RE-11Aはあまり膨らまないし、その分ターンインも速くなるので、クリッピングポイントに速くつくことができる。そして、立ち上がりでパワーをかけても、あまり横に逃げずに前に進んでいくので、アクセルを開けるタイミングも早くできる。よってコーナリング全体のスピードが速くなり、立ち上がりのスピードが速ければ、そのぶんストレートスピードの伸びもよくなる。であれば当然、タイムアップできる。

 ちなみに、GTドライバーの山野哲也選手のドライブで、同条件下で0.8秒のタイム短縮を実現したとのこと。筆者は、RE-11がセミウェット、RE-11Aがほぼドライと、同じ条件ではなかったため参考にならないが、ベストタイムで2秒近く縮まった。

 トレッドパターンはRE-11と同じだが、接地性とグリップを高めた新コンパウンドの採用や、それに伴う構造の変更により、コーナリングは新しい感覚のグリップ感を生んでいる。


 路面の凹凸に対して、しなやかに追従し、タイヤの性能として、グリップ感を表す尺度として、アドヒージョン(=粘着感)という言葉を用いることがあるが、RE-11Aは、そのアドヒージョンが少し前のSタイヤと同等という印象。また、乗り心地についても心なしかよくなったように感じられた。これは一般道での移動時の快適性にも寄与することだろう。

 FRの86やBRZでは、テールスライドさせるような走り方も少し試したが、粘りがあってコントロール性がよく、唐突な動きも出にくい。まさにイメージどおりの走りを楽しむことができた。また、このコースをFF車で走るとアンダーステアとの格闘になりがちなところだが、RE-11Aを履いたCR-Zは、スムーズな回頭性を示してくれた。

 走行後のタイヤを見ると、トレッドの荒れが小さいことも印象的だった。とくに、こうしたショートコースで限界走行を試すと、ストレートグルーブからイン側にかけて斜めに大きく溶けて削れがちなところだが、そのダメージがかなり小さい。グリップ力がとても高いため、縦や横へのズレが小さくなったおかげで、消耗が最小限ですんでいるのだろう。

 また、ウエットグリップも上がっているという点にも大いに期待したい。今回は、RE-11の試乗前に雨が降り始めたのだが、RE-11Aの試乗時には再びドライになったため(逆だったらまだよかったのだが……)、ウエット性能を試すことはできなかった。いずれ試す機会があることを楽しみにしたいと思う。

 今回は1台につき実質3周たらずの短い走行だったのだが、それでも実力の高さは十分にうかがい知ることができた。スポーツドライビングをたしなむ人や、とりわけタイムを追求する人にとって、強い味方になってくれることだろう。

(岡本幸一郎/Photo:瀬戸 学)
2012年 5月 22日