HySUT、FCV試乗&水素ステーション見学会を開催
2015年のFCV普及に向けて続ける取り組みを紹介

トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業のFCVが集合したFCV試乗&水素ステーション見学会

2012年8月5日開催



短い時間ながらFCVを自分で運転できる貴重な体験ができた

 水素供給・利用技術研究組合(HySUT)は8月5日、報道陣向けにFCV(燃料電池自動車)試乗会と東京・杉並水素ステーションの見学会を開催した。

 HySUTは、水素供給事業とFCVの普及を目指している自動車メーカーやエネルギー企業、産業機器メーカー、関連団体などによって2009年7月に設立された組織で、FCVとインフラ運用の実証研究などを行っている。

 この日に行われた試乗・見学会は、参加している自動車メーカーから出された「FCVの車両展示はモーターショーなどの会場で定期的に行っているが、FCVの一般ユーザーに対する普及開始にはFCVだけでなく、水素を供給する水素ステーションも並行して充実することが不可欠であり、FCVと水素ステーションを同時にアピールする場を設ける必要がある」との意見を受けて実施されたもの。

 当日は、参加受付や概要説明が行われた日通自動車学校の教習コースを利用して、トヨタ「FCHV-adv」、日産「X-TRAIL FCV」、ホンダ「FCX クラリティ」の3台に試乗することができた。日ごろはステアリングを握れる機会がほとんどないモデルだけに希望者も多く、当日は各車5分程度の時間で1周約350mのコース外周を2周できた。運転中に助手席に座る各メーカーの担当者から車両の説明を受けることができ、各モデルが現在も性能向上に向けた改良を受けていることなどが聞けた。

トヨタFCHV-adv
70MPaの高圧水素タンクを採用し、1充填で830kmの航続距離を誇るトヨタFCHV-adv発電後に発生するのが水だけというクリーンさがFCVに共通するメリット
X-TRAIL FCV
2002年のデビュー以来、大小さまざまな改良を重ね、2003年モデル、2005年モデル、2008年モデルと続き、現在は4代目になっているSUVらしさ感じられる、ゆったりとソフトな乗り心地を体感できた
FCX クラリティ
3台のFCVの中で、唯一セダンタイプの専用ボディーが与えられたFCX クラリティ。加減速やコーナリングでも姿勢変化が少なく扱いやすい。ただ、回生発電量を重視したというブレーキは踏み始めから制動力が強めに立ち上がり、好みが分かれそうな印象を受けた

HySUTの北中正宣技術本部長

 また、試乗前にはHySUTの北中正宣技術本部長からHySUTの活動内容や、行政側が主導するNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)との役割分担、2015年にFCVが一般ユーザーに普及開始するために進められている各事業や規制改革などの解説を実施。

 この中で北中本部長は、先行して普及が始まったEV(電気自動車)と比べ、FCVはガソリン車並の航続距離や短時間での燃料補給といったメリットを持ち、将来的にはシティコミューターとして日常を支えるEV、都市間移動や公共交通で活躍するFCVといった形で両立していくという未来図を語った。

 場所を移しての水素ステーション見学では、外部から水素を運んできて車両に充填を行う「オフサイト型」と呼ばれる東京・杉並水素ステーションが公開された。

一見、見慣れたガソリンスタンドのような雰囲気だが、高圧の水素をFCVに供給する水素ステーション。2015年までに合計100カ所ほどの整備を目指していると言う工場で製造した水素をステーションに輸送する「オフサイト型」の杉並水素ステーション。LPGや都市ガスなどの燃料をステーション内で改質し、水素を作り出して車両に充填する場合は「オンサイト型」となる

 見学の順番は水素ステーション運用の手順を再現する形で、水素の搬入、貯蔵、圧縮、蓄圧、充填とそれぞれの設備を解説し、最後にFCVへの水素充填デモンストレーションが実施された。

 施設の解説は、ステーションを実際に運用しているJX日鉱日石エネルギー・水素事業化グループの竹村哲治マネージャーから行われたが、各所で繰り返し強調されたのは安全性確保に向けたさまざまな取り組み。水素は酸素と反応させて発電したあとは水になるクリーンさが大きな特徴だが、クルマを走らせるだけのパワーを生み出す燃料だけに、扱い方を間違えるとガソリンなどの化石燃料と同様に危険を招くことになる。

 そのため杉並水素ステーションでは、搬入時や車両への供給などで水素を受け渡すバルブ類の周囲に水素漏洩検知器を合計12個、目に見えない水素の炎をチェックする火炎検知器を合計4個設置。さらに万が一の爆発時に被害を周囲に与えないよう、外周部分や蓄圧器周辺には6mm厚鋼板による障壁を設けている。

 このほか、気温上昇によって圧縮した水素の内圧が想定以上に高まらないよう冷却する散水ポンプを用意し、水素を運ぶ配管類は地面より低い位置に配して、漏れ出た場合でも上昇する間に大気中に拡散するよう設計するなど、二重三重の配慮を行っていることが説明された。

ハンドマイクを手に解説を行う竹村マネージャー高圧タンクを備え付けた水素トレーラーから水素を受け入れるヘッダーボックス右側から伸びたアームの先に設置されたボックスが水素漏洩検知器、左側の作業用ライトの下にあるのが火炎検知器。どちらかが異常を感知した場合はアラームが鳴って水素供給が自動的にストップする
赤いタンクを組み合わせて結合した物体は水素カードル。水素トレーラーが出払っている際の水素運搬に利用されている。このカードル室内にも水素漏洩検知器と火炎検知器を設置する
1度に3つの水素カードルから供給を受けられる体制となっている設置している水素圧縮機では3.5MPaから40MPaまでの昇圧が可能
圧縮された水素を車両に供給するまで保管する蓄圧器。縦の4本が1セットになり、連続して3台のFCVに水素を供給できる。常用圧力は40MPa
高圧の水素を保管する蓄圧器だけに、6mm厚鋼板の障壁とぶ厚いコンクリート基礎を採用。震度7の地震にも耐える設計となっている
FCXクラリティに水素を充填するデモ杉並水素ステーションの水素ディスペンサーバルブの先端はこのような形状になっている
タンクが空の状態から35MPaで10分間ほど必要
ディスペンサーの上に水素漏洩検知器と火炎検知器が設置されるとともに、ディスペンサーノズルの先にも水素漏洩検知器を備えているが、実証試験中ということで充填作業員が携帯型の検知器で水素の漏れがないか確認している
蓄圧器とFCVのタンクの圧力の差を利用して水素を充填する「差圧充填方式」を採用。水素圧縮機から車両に水素を充填する場合は「直充填方式」と呼ばれる充填量はデジタル表示。車両側のタンク容量はL表記だが、ディスペンサー側はg表記となっていた

(佐久間 秀)
2012年 8月 6日