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トヨタ、日産、ホンダなど国内11社が設立した水素ステーション整備の新会社「JHyM(ジェイハイム)」記者会見
「なるべく早い時期に全国ネットワーク構築を目指す」と菅原社長
2018年3月5日 18:19
- 2018年3月5日 開催
トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の自動車メーカー3社、JXTGエネルギー、出光興産、岩谷産業、東京ガス、東邦ガス、日本エア・リキードのインフラ事業者6社、豊田通商、日本政策投資銀行の金融投資家等2社の計11社は、FCV(燃料電池車)向けの水素ステーションの本格整備を目的とした新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM[ジェイハイム])」を設立。3月5日に都内で記者会見を開催した。
2月20日に設立されたジェイハイムは「FCV向け水素供給施設の整備及び運営」「FCV向け水素供給施設の普及支援」「FCV向け水素供給施設の設備の保有、管理」「FCVの普及促進」という4つの事業をおもな事業目的として、政府の方針と連動しながら“オールジャパン体制”で活動に取り組む合同会社。代表社員職務執行者(社長)には菅原英喜氏が就任し、日常業務は「業務執行社員」となるトヨタ、ホンダ、JXTG、岩谷産業、日本エア・リキード、日本政策投資銀行の6社が意思決定を行ない、重要な案件については全参画企業による「株主総会」体裁で決定される。
記者会見では冒頭に、経済産業大臣の世耕弘成氏によるビデオメッセージを紹介。この中で世耕大臣は新会社設立について祝辞を述べ、脱炭素化の社会に向けた経済産業省の取り組みや2017年12月に策定した「水素基本戦略」について紹介。2050年までのビジョンとなる水素基本戦略は実現に向けた2030年までの行動計画で、「FCVは水素利用の先駆けであり、代名詞です。FCVの普及なくしてこの基本戦略の実現はありえません。また、FCVの普及拡大は、水素ステーションの整備と両輪で進めていくことが重要であり、水素社会を支える基盤として水素ステーションが果たす役割は非常に大きいものがあります」と水素ステーションを整備していく意義を語り、経産省としても新会社による水素ステーション整備を後押しするべく、規制改革や技術開発、水素ステーションの整備支援などを強力に推進していくとコメントした。
続いて経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長の髙科淳氏が登壇。新会社のジェイハイムが取り組む水素ステーション整備に関連し、政府が進めている水素政策などについて説明した。
髙科氏は世耕大臣のビデオメッセージでも紹介された政府の水素基本戦略についてさらに詳しく説明し、水素基本戦略では水素を再生可能エネルギーと並ぶ新たなエネルギーとして定義。日本が世界で最先端を進んでいる水素技術によって「世界のカーボンフリー化を牽引する」という目標を立てていると語ったほか、コスト目標として「ガソリンやLNGと同程度のコスト」として、現状で100円/Nm3となっている水素の価格を、2030年に3分の1である30円/Nm3、ゆくゆくは20円/Nm3まで引き下げていきたいとの考えを述べた。
低価格化のためには供給側と利用側の双方での取り組みが必要だと髙科氏は語り、供給側では安価な原料の利用やサプライチェーンの確立による原価低減を推し進め、利用では大量に使うためにFCVなどのモビリティ用途からスタートし、さらに発電、産業用などに広げて、大量に作り、大量に使うことで低コスト化を図るとした。
ジェイハイムに関連するモビリティでの水素利用では「低コスト化の技術開発」「規制改革」「ステーションの戦略的整備」を三位一体で進めることが重要であると髙科氏は述べ、具体的な数値目標として2020年までに80カ所の水素ステーション整備を目指してもらいたいとコメント。政府としても技術開発を進め、低コスト化につながる運営コストの低減に資する技術開発も推進していくことで水素ステーション整備を後押ししていくと語った。
「なるべく早い時期に全国ネットワーク構築を目指す」と菅原社長
ジェイハイムの概要や事業方針については、ジェイハイムの社長に就任した菅原英喜氏が解説を担当。
菅原氏は世耕大臣と髙科氏のパートでも紹介されたジェイハイム設立の背景について、世界的に喫緊の課題となっているCO2の削減、自給率が低い日本のエネルギー事情などからエネルギーの多様化が必要であると説明。化石燃料から再生可能エネルギーに転換する必要があり、作った電力を水素に変換して蓄えて効率的にエネルギーを使うことで「電気グリッドと水素グリッドが併存する社会がこれから到来する」との考えを示した。
また、政府が示している目標として、2020年に水素ステーション160カ所、FCV4万台、2025年に水素ステーション320カ所、FCV20万台、2030年に水素ステーション900カ所、FCV80万台という数値が掲げられており、現状ではトヨタとホンダからそれぞれFCVが市販化。水素ステーションは2018年1月現在で全国に101カ所(建設中・計画中を含む)が4大都市圏、札幌や仙台といった政令指定都市などで整備が進んでいると紹介した。
新会社のジェイハイムについて、菅原氏は「ひと言で表現するなら、水素ステーション整備に向けてインフラ事業者、自動車会社、金融投資家が心を1つにして連携する世界初の取り組みということになります」とコメント。
具体的な事業内容は「水素ステーションの戦略的な整備」「水素ステーションの効率的な運営への貢献」と説明。「水素ステーションの戦略的な整備」では、すでに普及している水素ステーションを「点から線」「線から面」に広がるよう全国展開。これによって全国の幅広いユーザーがFCVを利用できる環境を整備し、需要の最大化を図っていく。数値目標は4年間で80カ所としたほか、地理的に「なるべく早い時期に全国ネットワークの構築を目指していく」と菅原氏は述べた。
「水素ステーションの効率的な運営への貢献」では、現在はインフラ事業者が個社で水素ステーションを運営しているが、今後は新たなスキームとして新規水素ステーションはジェイハイムが所有。ステーション事業者からの情報がジェイハイムで一元化され、関連する機関と連携して規制の見直しや機器の標準化によるコストダウンを図って水素ステーションの自立化を目指していくという。また、FCVユーザーの利便性を高めるため、営業日や時間帯の拡大も呼びかけていく。
ジェイハイムの基幹業務については、ジェイハイムが水素ステーションの整備方針について立案し、これに賛同するインフラ事業者は個別の水素ステーション整備計画を立案してジェイハイムに提案。ジェイハイムとインフラ事業者は共同で補助金などの申請を行なって実際に水素ステーションを整備。完成した水素ステーションはインフラ事業者からジェイハイムに資産譲渡され、運営はインフラ事業者がジェイハイムからの委託事業として行なうことになる。
インフラ事業者はジェイハイムと共同で取り組むことで、水素ステーション建設の初期費用(約4~5億円)に国や地方自治体などからの補助金に加え、ジェイハイムに出資される金融投資家の資金を活用できるようになり、初期投資を従来よりも軽減可能。また、運営面ではジェイハイムが窓口となって自動車会社から「FCV需要最大化に関する業務委託」を受け、これをジェイハイムからインフラ事業者に「新規ステーションの維持・管理、情報提供等」として業務委託。委託契約は複数年としており、インフラ事業者は長期的に安定した事業環境が整えられ、事業の自立化に向けて腰を据えて取り組めるようになると菅原氏は説明した。
記者会見の終盤に行なわれた質疑応答では、20年後、30年後に向けたFCVやEV(電気自動車)の普及期に、どのような形で社会に受け入れられていくイメージなのかについて問われ、これについてはトヨタ自動車 取締役副社長の寺師茂樹氏が回答。
寺師氏は「例えばEVやFCVといったゼロエミッションのクルマは、世界的に見て全体のひと桁以下のかなり低いところでしか普及していません。これが今後どのように増えていくかは、最終的にはお客さまが決めるべきところで、それに向けてどんなことを提供できるかというのがわれわれの課題かなと思います。EVはEVのいいところと弱点、FCVはFCVのいいところと弱点というのがございます」。
「これが価格的にリーズナブルなクルマになって、インフラが一定量整備されて、となったときに、一般のお客様が『買いたい』と思うのはどういったポイントで買いたくなるのだろうか。そんなことを考えると、ただ単にガソリン車を電気に置き換えたというだけでは、まだまだ時間軸的なスピードが上がらないのではないだろうかと思います。それを踏まえると、われわれがそのクルマを提供するにあたり、従来のクルマよりもこんないいところがあるからぜひ買ってみたいという思いを、どれだけ付加価値として付けられるか。環境性能だけではない、お客さまにとって買ってみたくなるなにかをセットでお客さまに理解していたくことが必要になると思います」と寺師氏は語り、FCVの将来的なビジョンを解説した。