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トヨタ博物館で特別企画展「TOYOTA 75」を見てきた
トヨタ自動車創立75周年を記念し、貴重な実車約50台など一挙展示
(2012/12/6 00:00)
トヨタ自動車創立75週年を記念した特別企画展「TOYOTA 75」が、トヨタ博物館(愛知県長久手市)で2013年4月14日まで開催されている。
これまで国やメーカーを問わず世界の自動車の歴史を総合的に扱うことをコンセプトとしていた同博物館が、大規模なトヨタ車の企画展示を行うのは開館以来初めてとのこと。なお10月20日~2013年4月14日までという半年にわたるロングラン企画も初めての試みだ。
ちなみにトヨタ博物館はトヨタ自動車創立50周年記念事業の一環として建設され(開館は1989年)、同館の開館10周年を記念して作られたのが新館である。
本館3階の展示フロアは大きく6つのゾーンに分けられ実車約50台、精巧なスケールモデル約50台を展示。テーマごとに分けられ展示されているのでゾーンごとに紹介していく。
ゾーン0(プロローグ)
このゾーンでは創成期のトヨタ(トヨダ)車を紹介している。
トヨタ自動車初の乗用車トヨダAA型。発売当初の価格は3350円。名古屋では土地付き一戸建て住宅が買えるほど高価だった。今回展示されている約50台の車両のうち、この1台だけがレプリカである。今から25年前トヨタ博物館開館に向けて現存するオリジナルを随分探したそうだが、結局見つけることができず、次に図面を探し、やっと見つかった図面を元に正確に復元。図面では分からないファブリックの色合いや感触は当時の開発者から話を聞き完成にこぎつけた力作だ。75年もの昔に累計1404台しか作られなかったAA型。今もどこかでひっそりと眠っているのだろうか……。
AA型は1942年まで生産されているが、1936年のものだけが「TOYODA」のロゴが使われており、それ以降は今と同じ「TOYOTA」が使われている。
なお、海外の自動車メーカーに大きく遅れをとっていた日本の自動車メーカーの多くが欧州メーカーとの技術提携を選びノックダウン生産を行っていたが、トヨタはこの時点ですでに自主開発の道を歩み始めていた。この企業風土は今のトヨタにも息づいていると筆者は感じる。
ゾーン1(トヨタのモノづくり)
このゾーンは、初代から10代目のクラウンが集められている歴代クラウンコーナー。国産車の中で一番長い歴史をもつクラウンとは、常にトヨタの新技術を投入してきた車。その歴史を眺めることによってトヨタの「モノづくり」を俯瞰できるのがこのゾーンになる。その展示は意図的な演出をせず成功作もそうでないモデルも単純に年代順に並べてあるので、来館者それぞれの見方でトヨタの歴史を感じてもらえればよいとのことだ。
実際筆者が訪れたときもすでに多くの来館者が自分にとって印象深いクラウンの前で思い出話に華を咲かせていた。その年齢によって立ち止まる場所が微妙に違い、自身がオーナーであったかどうかはともかく、クラウンという車がいかに多くの人の心に残っているかを感じた。
なお通常展示のときには初代と2代目のみの展示だったので、10代目まで一堂に集まるのは今回の企画展の会期中のみとなる。
トヨタが初めて輸出したのが初代クラウン。欧州からの数多くの車を輸入していたアメリカが輸入制限を行うであろうと懸念したトヨタは、進出を急ぎ輸出に踏み切った。しかしながらその性能はアメリカや欧州のモデルに較べ大きく劣っていて販売面で苦戦したようだ。今のアメリカでのトヨタの存在感を考えれば隔世の感があり、感慨深い。
ゾーン2(モータリゼーションの進化)
ゾーン2にはコロナ、コロナマークIIの実車とともにトヨタのデザイン部に数多くあるという1/5スケールモデルの一部を展示。このスケールモデル、昔は設計検討やマイナーチェンジの検討に活躍していたそうだが、現在は記録用として作っているとのこと。日産ブルーバードと熾烈な販売競争を繰り広げた歴代コロナの歴史や、その上級モデルとして誕生し、後にクレスタ、チェイサーとともにベストセラーとなるマークIIの前身、コロナマークIIの歴史を実車とともにスケールモデルで見ることができる。
大衆車の雄、世界のベストセラーカローラもこのゾーン2に展示されている。カローラは初代から6代目までを実車展示。一見個性が際立った存在ではなさそうなカローラではあるが、ユーザーと一緒に育ってきた車ゆえに時代時代の雰囲気を反映していて、歴代のモデルを並べてみると時代の特徴がむしろ色濃く反映されているようだ。
前身となる初代パブリカ(UP10型)のほか、初代ターセル(AL10型)、2代目カムリ(SV10型)も実車を見ることが出来る。なお今では世界中の大衆車に多く採用されている横置きエンジンのFF車のトヨタ初モデルが2代目カムリだ。
ゾーン3(あこがれのクルマ)
車の大衆化が進み多くの人がマイカーを手にした頃、その一方で上級志向や、よりスポーティなモデル、より個性的なモデルが求められた。1960年代は日本では初めて高速道路が開通し、日本グランプリが初開催された時代。そんな時代を背景に多くの人が車に夢や憧れを求め、それに応えるよう多くの個性的なモデルがデビューした。ゾーン3ではそんな車を展示している。
トヨタ博物館では5台のトヨタ2000GTを所有しているが、さまざまなイベントなどでの貸し出し依頼の申し込み件数が多く、また諸事情で展示が行われていないときの来館者のガッカリ具合もナンバーワンとのこと。そんな声に2000GTの人気をうかがい知ることができる。今回展示している前期型以外の4台も、取材時にはすべて貸出中であった。
ゾーン4(ライフスタイルと車の多様化)
1970~1980年代にはこれまで商用車と位置づけられていたトラックやバン、オフロード車がレジャーや一般用途にも使える新しいカテゴリーの車として続々と登場し、1980~1990年代にはクロスカントリータイプの4WDが大流行、その後の現代に続くミニバン人気などライフスタイルが多様化した時代に生まれた車が展示されている。
トヨタ博物館では開館以来、乗用車(セダン、ハードトップやクーペ)を中心に展開していたので、このカテゴリーの展示は珍しい。実はハイラックスサーフもこの企画のためにわざわざ用意した1台とのこと。
3代目にあたるFJ40型は、トヨタ初の北米輸出モデル初代クラウンが不振だったころ現地販売店を救った人気モデル。現在のトヨタの北米における躍進はこのランクル人気あってのものかもしれない。また、このFJ40型のイメージをモチーフとした最新のFJクルーザーはアメリカからの提案によって生まれた車。いかにアメリカに根付いた車であるかを証明するような話だ。
ゾーン5(グローバル化)
1980年代、日本の車の生産台数がアメリカを抜き世界一となる。そんな時代に呼応したトヨタ車を紹介するのがこのゾーン5。21世紀に向けて舵を切ったトヨタの取り組みがここで見られる。まだまだ街で見かける新しいモデルや、国内発売モデルに絞った展示のこの企画展では唯一となる国内未発売モデルも展示されているゾーン。
ゾーン6(エピローグ)
「日本人の頭と腕で日本に自動車工業を作ろう」という創業者・豊田喜一郎氏の志でスタートを切ったトヨタは今や世界のトヨタとなり、すてに世界各国さまざまな場所でその地域に密着した車作りを行っている。
そんなトヨタが最新のレクサスLFAの展示とともに極めてシンプルな「もっといいクルマをつくろうよ」という合言葉とともに締めくくるエピロ-グとなるゾーン6。
圧巻の車両系統図
トヨタにとって過去最大規模のトヨタ車の歴史展示に合わせ、過去に国内で発表された車を歴代のフルモデルチェンジごとに収録さた「車両系統図」が公開されている。その数実に700車種と圧巻。パネルはゾーン0に展示されている。
ガイドツアーがオススメ
毎日2回行われているガイドツアーは、欧州車フロアで貴重な実車を前に自動車誕生の歴史を聞いたのち企画展へ移動。所要時間は約1時間。トヨタ創業前の自動車の歴史に触れた上でトヨタの歴史に移るので非常にわかりやすい。企画展自体の説明は20分程で料金は無料。時間などはトヨタ博物館のWebサイト(http://www.toyota.co.jp/Museum/)で確認の上ぜひ参加してみよう。
新館にも連動企画があるのでお見逃しなく
企画展開催期間中、新館3階のギャラリーにて歴代トヨタ車のカタログの中から選ばれた90車種のカタログが展示されている。懐かしいカタログ、貴重なカタログは見ていても実に楽しい。時代を反映するグラフィックスデザインの違いが興味深い。
また、企画展との連動企画ではないが同じ3階のライブラリーでは貴重なカタログを手にとって閲覧できる。自分の買った車、欲しくても買えなかった車、憧れの車、そんな車のカタログをパラパラと眺めるのも楽しいものだ。ぜひ覗いてみよう。
お土産も要チェック
ミュージアムショップで新発売されたトマトカレーは、初代カローラのパッケージ。また企画展を記念した特別仕様のミニカーは、初代クラウンとトヨタスポーツ800の2台。どちらも100台限定。11月末にはトヨタ2000GTが200台限定で発売予定。
インタビュー
最後に、トヨタ博物館学芸グループ 主幹の浜田真司氏に今回の企画展についてうかがってみた。
──今までトヨタ色の強い展示を行ってこなかったトヨタ博物館が、なぜ今回こういう企画を行ったのか教えてください。
浜田氏:我々(トヨタ博物館)としても自分の会社の歴史を語る必要があると感じていました。また自社の歴史を語ることができない会社が未来を語る資格はあるのかという思いから、私自身ぜひやってみたいとの考えていました。もっとも最初は通常の(今までやってきた)企画展と同規模の展示を考えていたのですが、どうしてもそのスペースでは75年の歴史を語ることが難しく、今回の展示となりました。また会社が75年を迎え社史を編さんしているタイミングというのも影響しています。
ちなみに今回の展示準備のため(国産車を扱う)3階部分を3週間ほど閉鎖したら入場者数が激減しました。(貴重な欧州車のラインアップには自信を持っているが)いかに国産車を見たい人が多いかを痛感しました。
また、かつてある経済誌でトヨタの盤石の構えの中で唯一の弱点はデザインだと書かれたことがありましたが、今回こうやって並べてみると「全然つまらなくないじゃないか」と思いました(ちなみに浜田氏は、かつてデザイン部に在籍し、一時CALTY[トヨタがアメリカに設立したデザインスタジオ]にも在籍していたデザイン畑の方)。
──最新型の展示があまりありませんが?
浜田氏:あまり新しいモデルを並べるとディーラーみたいになりますので、新しいモデルはぜひ街中で見てください(笑)
──来館者にはどのようなところを見てほしいですか?
浜田氏:「これは企画のコンセプトなんですが、75年の間時代に合わせて車は変わって来ましたが、自分達の手でよい車を作りたいという姿勢、思いは一貫して変わっていません。そういう変化の中の普遍的なものを見ていただきたい。と、思いますが、まずは難しいことは考えずにトヨタの車を見てください。(まだ開催して僅かな時間ではありますが)この企画展をご覧になったお客さまがみんな笑顔になっているのを感じます。私達スタッフが説明しなくてもそれぞれの思いがあって、今回の企画においては説明する側のスタッフが思い出話の聞き役になっていることが多いのです(笑)。
まとめ
高価で貴重な車種を数多く所有する日本有数の自動車博物館である「トヨタ博物館」。今回の企画展は非常に身近な車とそのルーツとなる車の展示が中心であったが、一人ひとりの思い出を掘り起こす非常に興味深い企画展だと感じるとともに、車が我々の生活の中にいかに根付いているかを再認識させられた。
筆者の車歴のなかでトヨタ車と過ごした時間はほんのわずか。しかし子供の頃の街の記憶、昔見た日本映画の中、テレビで見る古いドキュメンタリー映像の中の街の風景に必ずといってよい程登場するのがトヨタ車だと気付かされた企画展でもあった。近隣の方はもちろん、遠方の方も少し足を延ばして、のんびりと往年のトヨタ車とゆったりとしたときを過ごすのもよいのではなかろうか。