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SUBARU BRZ GT300、鈴鹿1000kmレースでSUPER GT初勝利

LEGACY B4に続きBRZの初勝利はまたもや鈴鹿サーキット

先代のレガシイB4に続きSUBARU BRZ GT300の初優勝はまたもや鈴鹿で達成された
2013年8月18日決勝開催

鈴鹿サーキット

 開幕戦、第2戦、第4戦と立て続けにポールポジションを奪ってその速さを見せつけながら、優勝どころか1度も表彰台に上ることなく迎えた第5戦「ポッカサッポロ1000km」。舞台は炎天下の鈴鹿サーキット。SUBARU BRZ GT300が、もう定位置とも言えるポールポジションからついに初優勝を決めたのはすでにお伝えしたとおり。

 鈴鹿戦からは新しく変更されたレース規定により、JAF GTマシンの最低地上高が45mmから53mmと8mmも引き上げられることになった。今回は、そんなJAF GTマシンの1台であるSUBARU BRZ GT300の勝利の秘密を探ってみた。

異例の性能調整「車高8mmアップ」

レーシングカーにおいて車高8mmもの差はあまりに大きい

 まずは山野哲也選手のコメントから。「車高が上がった直後の富士のテストでは、まるでフラフラと水面を走るモーターボートのようだった。まるでダメで、やはり(レーシングカーの)車高は低い方がよく、高いクルマは乗りにくい」とのこと。

 佐々木孝太選手も同様の意見だったが、辰己英治監督は「実はBRZの車高は、フロント側は規定ギリギリだったのに対してリア側は余裕がありました。(フロントエンジンのBRZは)元々リアが軽くて姿勢をそれほど低くする必要はありませんでしたので、リアに重いV6エンジンを積むCR-Zと少し状況が違ったと思います」と、同じJAF GT勢でもCR-Zとは少々状況が違ったのではないかとの推測を口にする。

 しかし、フロント側のみであれ、レーシングカーにおいて8mmもの変更は大きなもの。マシンバランスやタイヤに対する荷重を考えても、2人のドライバーがその乗りにくさを指摘したように影響は極めて大きかっただろう。実際として、車高アップの対策にはスプリングやダンパーのみならず、サスペンションジオメトリーまで大きく見直さざるを得なかったのだが、結果としてはその大幅変更が正解だったと言えるようだ。

 ただし、車高の変更が行われていないFIA GT3勢まで引き離すレース展開の答えはそこにはない。辰己監督、山野・佐々木両選手が口をそろえて挙げる勝利のカギは、BRZ GT300の特性と相性のよい鈴鹿サーキットのコースレイアウトと安定した天気だった。

「型式こそ違うが、量産車と同じ小型軽量な水平対向2リッターエンジンをフロントに積むBRZに較べ、重い2.8リッターV6エンジンをリアに積むCR-Zの方がさらに車高アップの影響が大きかったのではなかろうか」と語る辰己監督

 まず、BRZ GT300の特徴をおさらいすると、最も大きな特徴はやはりEJ20ユニットだ。現行GT300マシンで最小の排気量となるエンジンであり、おそらくこの4気筒が最も軽量なエンジンでもあろう。これがよくもわるくもBRZ GT300のGTマシンとしての方向性を決定づけている。EJ20はターボ付きとはいえ、やはりほかの大排気量マシンが持つ大トルクに対抗するのは難しいのだ。対抗手段として軽量なエンジンを生かし、コーナーリングマシンとして研ぎすましていくのは自然な流れだろう。実際に今シーズンは、昨年以上に軽量化を図り、パワーよりコーナーリングスピードを重視したマシンとなっている。

 鈴鹿サーキットのように高速コーナーが連なり、右に左にと横Gがかかっている時間が長いコースは軽量なコーナーリングマシンのBRZ GT300と最も相性がよいのだ。また、今大会はレース中に路面コンディションの変化が少なかったことも大きなファクターだと3人が口をそろえる。

横Gがかかり続ける高速コーナーや左右に荷重が移動するS字などのBRZは極めて速い

 山野選手は「セパン後から改良に改良を重ねたBRZはトラクションと接地感が上がり、コーナーリングマシンとして完成度が上がった。しかし、極限まで速さを追求するその方向性はピーキーさを生み、必ずしも理想のラインを走れるわけではない決勝のバトルにおいて弱さもあった」と語る。また、縁石に乗った時の不安定さや、SUGO戦で見られた天候による路面変化にナーバスさといった部分も、今なお残るBRZの課題だ。

 しかし、今回の鈴鹿戦は天気が極めて安定していた。そんな鈴鹿のコースレイアウトと天候こそが勝利の大きな要因であり、決して車高を上げたら速くなってしまったわけではないのだ。レース展開では途中にSC(セーフティカー)が入り、前半で築いた大きなマージンを失うシーンもあった。もちろん、それは大きな痛手ではあったが、再び隊列を組んだことによって後半に予想された周回遅れと混走するリスクを大幅に下げ、常にコンスタントにレコードラインをトレースできる状況になったことは、ある意味でBRZにとってはわるくない流れとも言えよう。また、通常より大幅に長いこのレースにおいて、井口選手の加入による3人体勢とその安定した走りが、ドライバーに対する負担が大きい猛暑のレースにおいて勝利に大きく貢献したと言ってもいい。

 自ら「ポール佐々木です!」と冗談めいた自己紹介をする佐々木選手に、後半の右リアフェンダーのトラブルと緊急ピットインについて聞いてみると「あの時は正直に言って勝てないと思いました。あ~あって。でも(リアフェンダーの処理と給油に)時間がかからず、思いのほか早く出られたので、まだチャンスがある!って思いました」との返答。そう、もう1つの要因はこの迅速なピット作業にあったのだ。

 その後、一度は明け渡してしまったトップの座をBMW Z4から再び奪い取ったのはご存知のとおり。今回はすべての要素が勝利に向けて噛み合ったのだ。

今年4回目となるポールポジションスタート
一時的にZ4に譲り渡したトップを再び奪い返すBRZ

 第5戦を終えてBRZ GT300はポイントランキングで2位まで急浮上。ただし、次戦は富士。しかも、そのわずか2週間後には、GT300のポイントも付与される「アジアンルマンシリーズ」が再び富士で行われる。BRZが苦手とするロングストレートが待つ富士2連戦だ。シリーズチャンピオン争いを考えた場合、2台のメルセデス・ベンツ SLSの追撃、CR-Zのポテンシャルなどを考えて、第7戦オートポリスの勝利は必須。そして富士2連戦こそが最大の山場になることだろう。

 独特なエンジンサウンドを放ちながら戦うSUBARU BRZ GT300。今シーズンは予選こそ速さを見せつけるものの、なかなか結果が得られずチームもファンもストレスを感じることが少なくなかっただろう。しかし、残り4戦という段階でついにチャンピオンへの道筋が見えてきたようだ。チャンスがあればサーキットでその戦いぶりを観戦してみてはいかがだろう。

(高橋 学)