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ホンダの4WDシステム乗り比べ(鷹栖コース雪上試乗)
(2016/3/17 00:00)
北海道・鷹栖にある本田技研工業のテストコースでは、ホンダが現在ラインアップしている4種類の4WDシステムの違いを体感することができた。軽自動車からフィットクラスが採用する「ビスカスカップリング式4WD」、ヴェゼルを中心に中核モデルが採用する「リアルタイム式4WD」、北米市場向けモデルに採用されている「VTM-4(Variable Torque Management 4WD)」、そして国内ではレジェンドに採用されている「SH-AWD(スーパーハンドリング・オールホイールドライブ)」の4種類。
シャトル・ハイブリッドの「ビスカスカップリング式4WD」
まずは「ビスカスカップリング式4WD」のシステムを搭載している「シャトル・ハイブリッド」だ。パワーユニットは「フィット・ハイブリッド」と同じ、1.5リッターエンジンにi-DCD(Intelligent Dual-Clutch Drive)の組み合わせ。後輪へはトランスミッションであるi-DCDに接続されたコンパクトトランスファーからプロペラシャフトを経由して駆動力が伝えられる。後輪の軸上にはビスカスカップリング式リアデファレンシャルがあり、ここから左右輪へと駆動力が伝えられる仕組みだ。
ちなみに、このビスカスカップリング式のリアデファレンシャルは、カップリング内にあるプレートの金属接触による過剰な駆動トルクを発生させないハンプレス構造とすることで、後輪のトルクを最適に制御する逸品で、ホンダが従来採用していた同システムからフィットやシャトルでは、ケースの前後長を約80mm短縮するとともに、約7kgの軽量化を行なうなど小型・軽量化が施されている。
このシャトル・ハイブリッドは発進時から頼もしい。前輪が空転するとすぐさま後輪に駆動力が伝わり車体全体が後押しされるといった印象だ。試乗途中、10%程度の登り勾配路での坂道発進を行なったが、VSA協調制御によってアクセルワークに気を遣わずに発進させることができた。
このVSA協調制御とは、車両挙動安定装置(横滑り抑制装置)の一部機能を使ったもので、滑りやすい路面での坂道発進時にスロットル開度をアクセルの踏み込み量よりも低減させ、主駆動輪である前輪のトルクを抑制して空転を防ぎ、後輪との回転差を最適に制御するというもの。これに坂道発進時はブレーキペダルから足を離しても2秒ほどはブレーキ圧を保持してくれるヒルスタートアシスト機能も加わるため、路面状況によらず高い発進性能をもっていることが確認できた。ちなみに後輪へは、前輪が完全に空転した際に最大で50%程度の駆動力が配分される。ベーシックなシステムながら、生活4WD以上の性能だ。
ヴェゼル・ハイブリッドの「リアルタイム式4WD」
次に試乗したのが、「リアルタイム式4WD」のシステムを搭載した「ヴェゼル・ハイブリッド」。パワートレーンの要素技術はフィット/シャトルのハイブリッドと同じだが、ヴェゼル・ハイブリッドのエンジンは前出2台が搭載する1.5リッターアトキンソンサイクルi-VTEC(110PS/13.7kgm)から、1.5リッター直噴DOHC i-VTEC(132PS/15.9kgm)へと換装されており、SUV化による車両重量増(最大で80kg)に対応している。トランスミッションはi-DCDで、こちらは前進7段/後退1段のギヤ比はともにフィット系と同一。しかし、ファイナルギヤは前輪のみ約15%ローギヤード化され加速方向へと振られている点が違う。
「ビスカスカップリング式4WD」と「リアルタイム式4WD」の違いは滑りやすい路面になればなるほど顕著だ。「ビスカスカップリング式4WD」では前輪が空転してからビスカスカップリングを通じて後輪に駆動力が伝わっていたが、「リアルタイム式4WD」では前輪が空転しそうになるとすぐさま後輪へと駆動力を伝えてくれる。具体的には、前輪の空転傾向を車両が検知すると、「リアルタイム4WD」のシステムを構成する小型モーターが稼働し、ポンプを回すことで電子制御クラッチ内の油圧を高めてクラッチを締結させ後輪へと駆動力を発生させる。この時、油圧が高まりクラッチを締結させるに十分な圧力となった場合は、モーターは回転を止め油圧経路にあるバルブを閉じて圧力を保持する。つまり、ポンプで高めた圧力を経路内に留めることでクラッチの締結力を生み出しているわけだ。
反対に後輪への駆動力が必要ないと判断された際には、バルブを開いて油圧を下げることで素早く前輪駆動に戻る。これは封入式油圧制御と呼ばれるもので、油圧を保持することで駆動力を伝達する機構であり、ホンダが世界で初めて量産化に成功したシステムだ。電子制御クラッチを使っているのだが、一般的なソレノイド式ではなく、軽量でコンパクトな設計にこだわった末に、油圧式を採用している点がいかにもホンダらしい。
走行フィールは4WDを意識させない素直な特性だ。なかでもコーナリング時の自然な後輪への駆動力配分は非常に好ましい。前輪の空転率にシンクロするように後輪の駆動力が生み出される印象で、大きなコーナーで先がだんだんきつくなるようなコーナーでは、徐々に後輪の駆動力が増していくため安心感が高かった。
北米向けパイロットの「VTM-4」
「VTM-4」システムについては、北米市場で販売している大型SUVである「パイロット」で試乗した。この4WDシステムも他のシステムと同様にプロペラシャフトによって後輪とつながっているのだが、センターデフはもたず、代わりに後輪の軸上に電子制御可変トルククラッチが配置されているのが特徴だ。こちらもVSAとの協調制御を行なっており、VTM-4専用のECUも装備する。
注目はリアデファレンシャルケース内の左右に配置した電子制御可変トルククラッチの存在だ。このトルククラッチは後輪左右それぞれに1つ割り当てられたツインクラッチ方式で、後輪の左右間で適切な駆動力を配分する。加えて、前後輪の駆動力の差を抑えるセンターLSD機能と、後輪の左右間での差を抑えるリアLSD機能の2つの機能も組み込まれた。このツインクラッチにはソレノイド方式を採用。湿式多板のクラッチ圧を無段階に制御することで、常に適切な駆動力を配分する。いわば、積極的に後輪左右間の駆動力を制御することで回頭性と駆動力の両方を確保するという「SH-AWD」が目指した究極の駆動力配分にも通ずる4WD思想といえる。
大柄なボディながら加速は力強い。また、大径タイヤ(245/60 R18 105H)を採用するだけあって、氷路面に大きな凹みとして存在しているわだちにもステアリングを取られることなく突き進む。とはいえ、車両重量は約1950kgと重量級であることからコーナリング性能には期待していなかったのだが、なかなかどうして欧州郊外路を模したコースを縦横無尽に走ることができた。これには「VTM-4」がもつインテリジェントトラクションマネージメントシステムが大きく貢献する。ノーマル/スノー/マッド/サンドの4段階から特性が選べるものでスロットル開度とも連動させており、状況に応じた最適な駆動力が生み出せる。
もっとも効果的であると感じられたのは、コース内に設けられたラウンドアバウトだ。ラウンドアバウトでは大きくステアリング切り込んだ状態でアクセル開度を保っていくわけだが、たとえばそこで路面の状況が変化し、後輪左右間での滑りやすさが違ってくるというシーンは多々ある。右側通行の国ではラウンドアバウト内は左回りのコーナーになるため、車体の内側である左側が空転しやすい傾向になるが、パイロットはそうした場面で後輪左右間での駆動力の差が大きくなると、瞬時に内側(この場合は左後輪側)の駆動力を減らし、反対に外側(この場合は右後輪側)の駆動力を増やすことでコーナリングフォースを確保する。この時、前後の回転差異も検出し電子制御可変トルククラッチによる制御が介入するためプッシュアンダーステア傾向も抑えることができる。
レジェンドの「SH-AWD」
最後に試乗したのがSH-AWDを搭載する「レジェンド」。今回のようなシビアなコンディションでもまるで装着しているタイヤの摩擦円が大きくなったかのような車両の挙動には改めて感心した。物理的な限界点を越えない限り1980kgの車両重量が半分になったかのような挙動を示すのがSH-AWDの特徴であり、それ故じつに複雑な制御を常に行なっている。
たとえば左コーナーでは後輪の2モーターが、右側で駆動力、左側で回生制御を行なうことで強い左巻きの旋回力を積極的に生み出しドライバーが狙ったラインをトレースする。また、瞬間的な反応に優れたモーターの特徴を活かすことで、駆動と回生(+方向と-方向)を頻繁に行き来させることも可能だ。これにより、コーナリングの旋回減速時には内側に強い回生力、外側に弱い回生力を発生させボディ全体に曲がる力を与えながら、旋回中期には外側に今度は強い駆動力を発生させてコーナークリップにしっかりとよれるハンドリングを達成。そして旋回加速時には内側にも弱い駆動力を発生させてニュートラルステアを保ったままコーナーをクリアする。今回の雪道でも、こうした狙い通りの走りを味わうことができた。
こうして4種類の4WDシステムを体感したわけだが、もうすぐ国内でも5番目の4WDシステムが新型「NSX」によって披露される。2015年11月のホンダ・ジャーナリストミーティングではプロトタイプを味見(速度リミッター付のプロトタイプで高速周回路を2周)することができたが、是非とも進化型SH-AWDのダイナミックな性能を試してみたいものだ。