インプレッション

ホンダ「ヴェゼル」(一部改良モデル 雪上試乗)

 登場から2年連続、国内SUV市場でナンバー1の販売台数を誇る「ヴェゼル」が一部改良を行なった。今回のポイントは2点。1つは新グレード「RS」の追加。そしてもう1つがホンダの先進安全装備である「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を一部グレードに設定したことだ。

写真手前がヴェゼル「RS Honda SENSING」のガソリンエンジンモデル

 新グレード「RS」は直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴のガソリンエンジンモデル、直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴+スポーツハイブリッドi-DCDのハイブリッドモデルの両方に用意された。なお両モデルともFF専用グレードだ。

「RS」の狙いはSUVの常識を超えた走りの楽しさを演出することにある。前パンパーは形状こそ同じだが専用の格子状デザインをあしらったグリルに換装され、クリスタルブラック塗装のボディロアガーニッシュ&ドアミラーや、足下ではヴェゼル初の18インチのアルミホイールを装備。加えて、機能パーツとして足まわりにはパフォーマンスダンパーを採用しつつ、可変ステアリングギヤレシオを組み合わせ、低速域から高速域にいたるまで、ステアリング操作に対してボディの動きがより一体となるようセッティングされた。

「RS」のガソリンエンジンはパドルシフト付のCVTになるが、このCVTの制御にはホンダの上級グレードに採用されている「G-Design Shift」が織り込まれた。これは主に加速度を細かく制御するもので、アクセルの踏み込み具合に応じた加速度をより生み出しやすくする機構だ。「G-Design Shift」は加速度の変化を大きくする機構であるため、1.5リッターエンジンの絶対的な動力性能が向上するものではないが、標準モデルと比較するとエンジン回転数を高めに保ちやすく、結果としてアクセルのツキが大幅に向上していることが確認できた。

ヴェゼル「ハイブリッド Z Honda SENSING」の4WDモデル

「ホンダ センシング」は、この「RS」のほかに、ガソリンモデルの「X」、ハイブリッドモデルの「ハイブリッド X」「ハイブリッド Z」に搭載されたが、ここでは「歩行者事故低減ステアリング」が、ホンダの上級モデルである「レジェンド」や「オデッセイ ハイブリッド」に続いて採用されたことが大きなトピックだ。ADASにおける歩行者対応では、2016年度の「予防安全アセスメント」で「対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ」がアセスメントの対象に加わるが、それだけの対応に留まらず実際の道路環境で有効に働くADASを、カテゴリートップの販売台数を誇るヴェゼルに搭載したホンダの先進安全技術に対する想いは大いに評価したい。

ホンダの鷹栖テストコースで雪上試乗

 さて、今回は北海道にあるホンダの鷹栖テストコースに来ている。こうした雪のテストコースのなかでも車両が開発されていることをメディアに対して披露する場として用意された、いわばスペシャルステージだ。本来であればドライ路面でのロードインプレッションを中心にお届けするのだが、今回は番外編としてスノードライブでのロードインプレッションをお届けしたい。

 テストコースで試乗したのは新グレードである「RS」のガソリンモデルと、「ハイブリッド Z」の4WDモデルの2台だ。ただ、最初にお断りしておかなければならないのは、この2台の試乗時はまだ発売前ということでメディアからも大変な人気を博しており、結果、全長3kmほどの欧州郊外を模した雪のテストコースを各1周のみという制限があったことだ。故に、ドライ路面での評価やハンドリング性能の限界特性などは伺い知ることができなかった。こちらについては後日のレポートになろう。

ヴェゼル「RS Honda SENSING」のガソリンエンジンモデル

 最初にステアリングを握ったのは「RS」。外気温はこの時期としては暖かく-3度。ホンダの関係者によれば、この冬は暖冬で積雪量も少なくコースを万全な状態に保っていくためには相当に気を遣うという。実際にコースインしてみるとそのとおりで、雪道といっても2月の北海道の雪質ではなく、ザラメ状で時折大きなくぼみもある厳しい状況。さしずめ春スキーに向かう道中のような路面コンディションだった。

 しかし「RS」は外乱に強く、ザラメ状の雪が作り出す轍に対する直進安定性が強く、40km/h以上に速度をのせてしまえば細かなステアリング修正を必要としない。また、路面には大小のくぼみがあったのだが、乗り越える際に身体へと伝わる振動周期にしても、誰もがカタいと感じる10Hz程度の周期をさけ、それ以下におさまるようにしっかりといなしていることが分かった。ヴェゼル初の18インチ化に伴いダンパーの減衰特性はさらに引き締められているため、単純に考えれば、こうしたくぼみではガツンという衝撃があってもおかしくない。

 しかし“柔よく剛を制す”を目指して開発されたパフォーマンスダンパー(ヤマハ製でホンダ初採用!)との相乗効果によって、ガッツンがバシッという(擬音にするとむずかしいが……)短時間で収束する振動周期が変化し、身体に伝わる衝撃値も大きく下がっている。これは以前、筆者の愛車であった「インプレッサ S203」で経験しているのでよく分かるのだが、パフォーマンスダンパーが装着された「S204」との乗り味に違いに愕然としたことを思い出した。

 残念ながら「G-Design Shift」を採用したことによる加速度の違いは、今回の雪道では感じ取ることができなかった。FFモデルということもあり、アクセルの踏み込みが駆動輪のスリップにつながるシーンが多かったからだ。これはドライ路面でしっかりと堪能したい。

ヴェゼル「ハイブリッド Z Honda SENSING」の4WDモデル

 続いて試乗した「ハイブリッド Z」の4WDモデルだが、こちらは後輪の突き上げが大幅に減っている。ヴェゼルのデビュー当初、4WDモデルは後輪のカタさが弱点であると感じていたが、今回の一部改良型では、これまでFFモデルに採用されていた「振幅感応型ダンパー」を4WDの後輪にも採用して上質な乗り味を狙った。その効果は大きく、大小のくぼみを通過した際のキャビンの揺れは明らかに減少。また、後席でも試乗してみたが、突き上げは大幅に減っており、これなら広いキャビンをさらに有効に使えるであろう。

 なお、違いはダンパーであるからして、既ユーザーへのレトロフィットができないものかと開発担当者に伺ってみたが、「一部改良モデルでは他にも調整箇所がありますので、後輪ダンパーだけの交換でこの乗り味の再現はむずかしいかもしれません」とのこと。ちょっと残念ではあるが、それもこれも、2年連続カテゴリー販売台数ナンバー1だからこそ、こうした開発費用が捻出できたと考えれば、納得もいくかな……。

 重ねての発言で恐縮だが、新グレード「RS」、これはぜひともドライ路面で試乗したい。開発担当者いわく、「ワインディングで超絶楽しいSUVに仕上がりました!」とのこと。機会があればレポートしたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員