インプレッション
日産「ノート e-POWER」(公道試乗)
2016年12月11日 00:00
日産自動車の「ノート」はグローバル展開されるBセグメントのコンパクトカーだが、現行モデルが2012年8月に発表されて以来4年が経過。マーケットに刺激を与えるためにも、大きなマイナーチェンジが行なわれた。
ビッグマイナーのトピックは「e-POWER」の投入に尽きるだろう。ガソリンエンジンで発電し、発電された電気のみで走行するいわゆるシリーズハイブリッドで、EV(電気自動車)「リーフ」の経験を活かして、より簡易型のEVを多くのユーザーに提供しようというものだ。
シリーズハイブリッドは、以前にはトヨタ自動車のマイクロバス「コースター」の1モデルとして存在したが、多くのユーザーにとって身近な存在であるコンパクトカーで安価に提供したのは世界でも初めての試みだ。
e-POWERのシステム概要を復習しておこう。コンベンショナルモデルに使われている1.2リッター直列3気筒のガソリンエンジンを、コンベモデルと同じ位置に発電用として搭載し、フロントシート下のコンパクトなバッテリーに充電して走行用モーターに電気を供給する。
リーフはバッテリーに蓄えた電気だけでモーターを回していたので、大容量バッテリーが必要で重量も重くなっていたが、ノート e-POWERは発電用エンジンを持っているのでバッテリーを小さくでき、軽量で価格を抑えることもできた。ちなみにリーフの駆動用バッテリー容量が24~30kWh(モデルによって異なる)なのに対し、e-POWERでは1.5kWhという小さなバッテリーで済ませている。
個人的には発電するだけのエンジンなので、もっと排気量の小さなエンジンでもよいかと想像したが、実際には駆動用モーターに見合うだけのトルクを出すには1.2リッタークラスのエンジンが必要ということだった。
このエンジンは、ノートの通常モデルになるSやMEDALIST Xに搭載するHR12DE型と名前は一緒だがチューニングが異なり、圧縮比を10.2から12.0に高めて発電用に低速トルクを重視している。58kW/103Nmの出力を持つが、低速回転域で幅広くトルクを出せるようなセッティングになっている。また、e-POWER Sの燃料タンクのみ35Lに縮小(ほかは41L)された。
e-POWERはプラグインハイブリッドではないので外部充電はできず、エンジンが発電した電気のみで走行する。もともとバッテリーが小さいので自前の蓄電だけでは数kmしか走れない。
モーターとインバーターは基本的にリーフのものを流用するので、定格出力は70kW(95PS)を発生する。パワーコンポーネントを共用化することでコストを抑えることができたという。e-POWER Sの価格は200万を切る約177万円と戦略的だ。もっとも、エアコンなどを装備するのは当然と思われるので、実質的に約196万円のe-POWER Xからとなるが、それにしてもEVとしてはバーゲンセールだ。
車両重量はリーフが1430㎏(S 24kWhモデル)なのに対して1210kg(e-POWER X)と220kgも軽量化されている。コンベンショナルなノート Xは1040kgだから170kgの増加だが、航続距離を確保できる量産EVとしては軽く仕上がっている。
EVの入門編として面白く楽しめる1台
さて、実際に走らせてみると、当然ながらEVそのもの。アクセルを踏んだときの加速はEV特有の瞬発力のあるトルクを体感できる。レスポンスもシャープでガソリンエンジン車とはひと味もふた味も違う。初めてe-POWERのステアリングを握ったユーザーとって、きっと感動の瞬間に違いない。また、アクセルを強く踏んだ場合は即座に発電用エンジンが始動して、感覚的にはガソリンエンジン車に乗っているような気分になるところがフルEVのリーフと違う点だ。
静粛性に関しては、EVは基本的に静かだが、それだけにe-POWERでは急にエンジンが始動するとノイジーにも感じる。ただ、遮音に気が配られており、騒音の絶対レベルは低い。欲を言えばもっとということになるが、価格や重量とトレードオフの関係になることを考えると、十分に妥協できるレベルだ。
e-POWERにはガソリンモデルにはない「ドライブモード」がある。3モードあるうちの「S」と「ECO」では回生発電が強く働き、アクセルペダルから足を離しただけで強い減速力が発生する。つまり、通常の市街地走行で、落ち着きのあるドライブをしているときはアクセルペダルの操作だけで加速も減速もできるワンペダルドライブが可能となる。これもEV特有のドライブ感覚だ。アクセルを離したときの減速は0.08Gと言われているので、感覚的には軽くブレーキを踏んだようなイメージだ。
この2つのモードは回生力が強く、積極的に発電する。もっとも、バッテリーが小さいので大きな充電は期待できない。これに対して「NORMAL」モードでは、普通のガソリンエンジン車の感覚で減速する(回生しない)ので、通常の2ペダルモデルと同じドライブ感覚になる。
クリープ走行はe-POWERでも同様で、ブレーキで減速して停車したときはクリープが発生する。つまり、ブレーキペダルを踏んで停車したときはペダルを踏み続ける必要がある一方で、アクセルペダルの操作だけで停止線に止まったときはクリープはしない設定になっている。ただ、混同しないよう停車中は常にブレーキを踏む癖をつけた方がよさそうだ。
乗り心地やハンドリングはバッテリーなどの重量物を低い位置に搭載しているので、意外と上下ダンピングに優れている。185/65 R15(オプション)のタイヤもよく踏ん張って、ハンドリングもどっしりとしているのが印象的だ。
Sモードではシャープなアクセルレスポンスを体感できるが、ECOモードは減速時の回生力はSモードと同じなものの、アクセルレスポンスは鈍くなる。
e-POWERは市街地でのフットワークに優れており、使いやすく楽しい。まさにEVの強みを発揮できるシチュエーションだ。ただし、高速道路の連続走行で燃費が悪化するのは構造上やむを得ないところで、機会があれば実際の燃費を検証してみたい。
シフトインジケーターの視認性がわるいとか、「スマート・ルームミラー」は被写界深度を取りにくいなど、パワートレーン以外での要改善点はあるが、ノート e-POWERはEVの入門編として面白く楽しめるのは間違いない。エコカーを選ぼうとしているユーザーには俎上に載せてもよい1台だ。
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