インプレッション

ランドローバー「ディスカバリー」(2017年フルモデルチェンジ)

「伝統」と「進化」

 レンジローバーに次ぐ中核モデルとして1989年に登場し、新しい市場を開拓することに成功した「ディスカバリー」も、これにて5代目。ランドローバーがSUV専門メーカーとしての意地をかけて開発した、27年の伝統を受け継ぐニューモデルは、これまでとはかなり異質のクルマになったことをあらかじめお伝えしておこう。

 まず、ついにディスカバリーもフレームと決別してモノコックを採用した。プラットフォームはレンジローバー系と共通性の高いものとなる。つまり、「イヴォーク」と共通性の高い「ディスカバリー スポーツ」とは、同じディスカバリーの名が付きながらも中身は別物となるわけだ。

 実車と対面してまず感じたのが、かなり大柄なことだ。全長はほぼ5mに達し、全幅は2mちょうど。車高もほぼ1.9mだから当然とはいえ、イメージしていたよりもずっと大きい。全体的なデザインテイストは新世代ランドローバーの一員らしいもので、ディスカバリー スポーツと相似形かと思うほどだが、その中でもボディ同色のCピラーや段付きルーフ、左右非対称のリアナンバープレートパネルなど、ディスカバリーの伝統的な要素を巧みに盛り込んでいる。

 Dピラーの角度が従来型よりも寝かされたものの、直立気味になっているのは3列目の居住性を確保するため。地上高はそれなりに高いが、乗降時には車高が自動的に下がってくれるうえ、サイドシルとフロアの段差がないので乗り降りしやすい。

撮影車はV型6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボエンジンに8速ATを組み合わせ、4輪を駆動する「ディスカバリー HSE LUXURY」(901万円)。ボディサイズは4970×2000×1895mm(全長×全幅×全高)。ホイールベース2925mm。従来モデルからホイールベースを40mm延長し、室内空間を拡大した。アプローチアングルは34度、ランプブレークオーバーアングルは27.5度、ディパーチャ―アングルは30度、最大渡河水深は900mm
エクステリアではディスカバリーシリーズの伝統的なデザインであるボディと同色のCピラー、ステップドルーフ、左右非対称のリア・ナンバープレート・パネルなどを継承しつつ、新たなデザイン言語を採用。シグネチャー入りのLEDヘッドライトや20インチ 10スプリットスポークデザインのアロイホイールを装着するとともに、50~80km/hの範囲で荒れた路面を走行する場合に車高を40mm上昇させ、さらに50km/h未満で過酷なオフロードを走行する際などに車高を最大115mmまで上昇させる最新のエアサスペンションシステムを装備
V型6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力190kW(258PS)/3750rpm、最大トルク600Nm/1750rpmを発生
こちらはガソリン仕様のV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャーエンジン。最高出力は250kW(340PS)/6500rpm、最大トルクは450Nm/3500rpmを発生する

 ランドローバーらしい端正で質感の高いインテリアの雰囲気は現代的に洗練され、最新モデルらしくコネクティビティの強化も図られている。USB端子は全部で9カ所に設置されたというから驚く。

 ディスカバリーといえば、多彩にアレンジできる広い荷室と7人が満足に座れる車内空間を持つこともかねてからの特徴だが、その伝統を受け継ぎつつ、さらなる進化を遂げた。まず、シートアンンジの操作をほぼすべて電動でできるようになった。手動なのは2列目シートの前後スライドくらい。従来型もアレンジの自由度は高く、3列目まで全シートの作りがガッチリとしていることが印象的だったが、動かすのにガチャンガチャンと大仰な感じがしたのは否めず。ところが新型では電動でスマートにこなせる。

 しかも、それを世界で初めてスマートフォンにより遠隔操作できるという機能まで採用したのだからビックリだ。車外からガラス越しに無人でシートを動かす様子を見せてもらったのだが、なかなかインパクトがあった。ネット経由なのでタイムラグが生じるが、遠隔操作でできることがポイントなのであって、即座にアレンジを変えたいのなら、直接自力でやればよいだけの話だ。

インテリアは大人7人が快適に座れるようレッグルームは2列目シートで954mm、3列目シートで851mmを確保。コネクティビティ機能も強化され、10.2インチのタッチスクリーン式インフォテインメントシステム「InControl Touch Pro」を標準装備。オプションでロードサイドアシスタンスが必要になった場合や乗員の急病時に、車内上部のボタンを押すことでオペレーターと会話ができたり、専用アプリを介して車両位置情報やトリップデータ、ドアやウィンドウの開閉状況の確認が行なえる通信機能を搭載することも可能
HSE LUXURYは電動パノラミックルーフを標準装備
オプション設定のリアシートエンターテインメントシステム

 3列目へのアクセス性は、2列目シートを前に出してもそれほど広い空間ができるわけではなく、良好とはいえないまでもまずまず。シートは相当大きく、3列目の居住性は成人男性の平均的な体格(身長172cm)である筆者が座っても、あまり窮屈に感じないほど。ヘッドクリアランスにも余裕がある。「190cmの大人が7人乗れる」とアナウンスしているのはダテではない。また、ついに3列目にまでシートヒーターが設定されたことにも驚いた。

3列シートレイアウトを採用
シートアレンジ次第でラゲッジスペースは最大2406Lまで拡大できる

ディーゼルを選ばない手はない?

 これほど大きく変わったのだから当たり前ながら、ドライブフィールにも隔世の感がある。

 5世代目の開発にあたり大いに注力したというオンロード性能の高さは、乗れば誰でも実感できるはずだ。フルモノコック化とともに、フロントはダブルウィッシュボーン式を踏襲し、リアをマルチリンク式としたクロスリンク式の電制エアサスによるシャシーも効いてか、乗り心地はしごく快適で、操縦性もいたって素直だ。大柄ながら走りに重々しさはなく、思ったよりも小回りがきく。

 エンジンはガソリン、ディーゼルともV型6気筒3.0リッターとなる。いよいよ導入されたディーゼルが気になっている人も大勢いることだろうが、これがなかなかのものだ。低速から力強く大きな車体を引っ張ってくれるし、それでいて音や振動などディーゼルのネガをほとんど感じさせない。むろん、ガソリンのほうが静かで吹け上がりもスムーズではあるのだが、ディーゼルの出来があまりによかったので、さらには経済性やクルマとの相性を考えてもディーゼルを選ばない手はないと思った。おそらく販売比率はディーゼルが圧倒的となることだろう。

 今回はオフロード走行を試すこともできた。といっても本格的に走破性の限界を試すような状況ではなく、現実的にいくらでもありそうな初歩的な悪路で、レンジローバーおよびレンジローバー スポーツとともに乗り比べるというもので、乗り心地や扱いやすさなどの違いを体感するというのが主旨だ。

オフロードコースでディスカバリー(左)、レンジローバー(中)、レンジローバー スポーツ(右)の乗り比べができた

 まずはさすがはディスカバリー、「地球上に走れない場所はない」と宣言するほどだから、これぐらいの場所ならぜんぜんお手のもの。新たに設定された進化版「テレインレスポンス」や、下り坂では「ATPC(オールテレイン・プログレス・コントロール・システム)」もしくは「ヒルディセントコントロール」が心強い味方になってくれる。インパネのディスプレイには空転の度合いやサスペンションの状態などが詳細に表示されるのも分かりやすくてよい。

センターディスプレイで空転の度合いやサスペンションの状態などの確認が行なえる

 乗り比べた印象としては、いずれも走破性には余力を感じさせる中でも、ディスカバリーを基準にすると、レンジローバー スポーツはやや足まわりが硬め。レンジローバーはもっとも路面への当たりがソフトでかつストローク感があり、アクセル操作に対する反応のスムーズさや静粛性にも優れ、さすがは全体的に高級感がある。大まかにいうとそうした性格の違いがあることを体感できたのも今回の収穫だった。また、余談だが3台ともオフロードを走って汚れた姿が絵になることも、あらためて印象深かった。

 そんな5代目ディスカバリー。世に数あるSUVの中でも、ON/OFFの両面に秀でた走りをはじめ、利便性や高級感、ブランド力など、これほど多くの要素をまんべんなく身に着けたクルマというのは他に心当たりがない。競合するドイツ勢と比べるとなおのこと、コストパフォーマンスの高さが際立ってくる。そして、このクルマのテーマである「世界一高性能で多用途性に優れたSUV」の「世界一」という言葉にも、実に納得させられる思いである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳