インプレッション
ランドローバー「ディスカバリー」(2017年フルモデルチェンジ)
2017年7月21日 15:09
「伝統」と「進化」
レンジローバーに次ぐ中核モデルとして1989年に登場し、新しい市場を開拓することに成功した「ディスカバリー」も、これにて5代目。ランドローバーがSUV専門メーカーとしての意地をかけて開発した、27年の伝統を受け継ぐニューモデルは、これまでとはかなり異質のクルマになったことをあらかじめお伝えしておこう。
まず、ついにディスカバリーもフレームと決別してモノコックを採用した。プラットフォームはレンジローバー系と共通性の高いものとなる。つまり、「イヴォーク」と共通性の高い「ディスカバリー スポーツ」とは、同じディスカバリーの名が付きながらも中身は別物となるわけだ。
実車と対面してまず感じたのが、かなり大柄なことだ。全長はほぼ5mに達し、全幅は2mちょうど。車高もほぼ1.9mだから当然とはいえ、イメージしていたよりもずっと大きい。全体的なデザインテイストは新世代ランドローバーの一員らしいもので、ディスカバリー スポーツと相似形かと思うほどだが、その中でもボディ同色のCピラーや段付きルーフ、左右非対称のリアナンバープレートパネルなど、ディスカバリーの伝統的な要素を巧みに盛り込んでいる。
Dピラーの角度が従来型よりも寝かされたものの、直立気味になっているのは3列目の居住性を確保するため。地上高はそれなりに高いが、乗降時には車高が自動的に下がってくれるうえ、サイドシルとフロアの段差がないので乗り降りしやすい。
ランドローバーらしい端正で質感の高いインテリアの雰囲気は現代的に洗練され、最新モデルらしくコネクティビティの強化も図られている。USB端子は全部で9カ所に設置されたというから驚く。
ディスカバリーといえば、多彩にアレンジできる広い荷室と7人が満足に座れる車内空間を持つこともかねてからの特徴だが、その伝統を受け継ぎつつ、さらなる進化を遂げた。まず、シートアンンジの操作をほぼすべて電動でできるようになった。手動なのは2列目シートの前後スライドくらい。従来型もアレンジの自由度は高く、3列目まで全シートの作りがガッチリとしていることが印象的だったが、動かすのにガチャンガチャンと大仰な感じがしたのは否めず。ところが新型では電動でスマートにこなせる。
しかも、それを世界で初めてスマートフォンにより遠隔操作できるという機能まで採用したのだからビックリだ。車外からガラス越しに無人でシートを動かす様子を見せてもらったのだが、なかなかインパクトがあった。ネット経由なのでタイムラグが生じるが、遠隔操作でできることがポイントなのであって、即座にアレンジを変えたいのなら、直接自力でやればよいだけの話だ。
3列目へのアクセス性は、2列目シートを前に出してもそれほど広い空間ができるわけではなく、良好とはいえないまでもまずまず。シートは相当大きく、3列目の居住性は成人男性の平均的な体格(身長172cm)である筆者が座っても、あまり窮屈に感じないほど。ヘッドクリアランスにも余裕がある。「190cmの大人が7人乗れる」とアナウンスしているのはダテではない。また、ついに3列目にまでシートヒーターが設定されたことにも驚いた。
ディーゼルを選ばない手はない?
これほど大きく変わったのだから当たり前ながら、ドライブフィールにも隔世の感がある。
5世代目の開発にあたり大いに注力したというオンロード性能の高さは、乗れば誰でも実感できるはずだ。フルモノコック化とともに、フロントはダブルウィッシュボーン式を踏襲し、リアをマルチリンク式としたクロスリンク式の電制エアサスによるシャシーも効いてか、乗り心地はしごく快適で、操縦性もいたって素直だ。大柄ながら走りに重々しさはなく、思ったよりも小回りがきく。
エンジンはガソリン、ディーゼルともV型6気筒3.0リッターとなる。いよいよ導入されたディーゼルが気になっている人も大勢いることだろうが、これがなかなかのものだ。低速から力強く大きな車体を引っ張ってくれるし、それでいて音や振動などディーゼルのネガをほとんど感じさせない。むろん、ガソリンのほうが静かで吹け上がりもスムーズではあるのだが、ディーゼルの出来があまりによかったので、さらには経済性やクルマとの相性を考えてもディーゼルを選ばない手はないと思った。おそらく販売比率はディーゼルが圧倒的となることだろう。
今回はオフロード走行を試すこともできた。といっても本格的に走破性の限界を試すような状況ではなく、現実的にいくらでもありそうな初歩的な悪路で、レンジローバーおよびレンジローバー スポーツとともに乗り比べるというもので、乗り心地や扱いやすさなどの違いを体感するというのが主旨だ。
まずはさすがはディスカバリー、「地球上に走れない場所はない」と宣言するほどだから、これぐらいの場所ならぜんぜんお手のもの。新たに設定された進化版「テレインレスポンス」や、下り坂では「ATPC(オールテレイン・プログレス・コントロール・システム)」もしくは「ヒルディセントコントロール」が心強い味方になってくれる。インパネのディスプレイには空転の度合いやサスペンションの状態などが詳細に表示されるのも分かりやすくてよい。
乗り比べた印象としては、いずれも走破性には余力を感じさせる中でも、ディスカバリーを基準にすると、レンジローバー スポーツはやや足まわりが硬め。レンジローバーはもっとも路面への当たりがソフトでかつストローク感があり、アクセル操作に対する反応のスムーズさや静粛性にも優れ、さすがは全体的に高級感がある。大まかにいうとそうした性格の違いがあることを体感できたのも今回の収穫だった。また、余談だが3台ともオフロードを走って汚れた姿が絵になることも、あらためて印象深かった。
そんな5代目ディスカバリー。世に数あるSUVの中でも、ON/OFFの両面に秀でた走りをはじめ、利便性や高級感、ブランド力など、これほど多くの要素をまんべんなく身に着けたクルマというのは他に心当たりがない。競合するドイツ勢と比べるとなおのこと、コストパフォーマンスの高さが際立ってくる。そして、このクルマのテーマである「世界一高性能で多用途性に優れたSUV」の「世界一」という言葉にも、実に納得させられる思いである。