インプレッション

トヨタ新ブランド「GRシリーズ(ハリアー/プリウスα/ヴィッツ)」イッキ乗り(岡本幸一郎)

 トヨタ自動車は9月19日、モータースポーツ活動に主軸を置く「GAZOO Racing」の新ブランド「GR」シリーズを発表した。

 これまでもGAZOO Racingは高速道路やワインディング、街乗りで走りを楽しもうというエントリー層をターゲットにした「G SPORTS(G's)」、サーキット走行までカバーすることを念頭に置いた「GRMN」を展開していた。

 その2ブランド展開から、エンジンや足まわり、デザイン変更が行なわれる台数限定のコンプリートモデル「GRMN」を頂点とするのはそのままに、これまでのG'sの代わりに「GR」「GR SPORT」を新たに設定した。「GR」は量産型のスポーツモデルをベースに、ドライブトレーン、シャシー、デザインの変更を行なうとともに、将来的にはスポーツエンジンの搭載も視野に入れたシリーズ。また、「GR SPORT」は拡販スポーツモデルに位置付けられ、主にシャシーとデザインの変更を行なうシリーズというのが各モデルの基本的な考え方になる。

 その「GR」シリーズの試乗会が袖ヶ浦フォレストレースウェイで行なわれた。この試乗会では「ハリアー」「プリウスα」「プリウス PHV」「アクア」「ヴィッツ」「ヴォクシー/ノア」「86」「マークX」、さらにトヨタのスポーツカーの礎になった「トヨタ スポーツ800」という9台が用意された。

 本稿では、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏による「ハリアー GR SPORT」「プリウスα GR SPORT(プロトタイプ)」「ヴィッツ GRMN(プロトタイプ)」「ヴィッツ GR」「ヴィッツ GR SPORT」の試乗レポートを紹介する。


 新たに「GR」シリーズとして展開されることになったトヨタのコンバージョンモデル。袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された試乗会で、筆者はGR SPORTのハリアーとプリウスα、そして9月の発表時点でGR SPORT、GR、GRMNの3タイプが唯一すべて揃っているヴィッツを担当した。

ターボに合わせて専用チューンを施したハリアー GR SPORT

ハリアー GR SPORT

 マイナーチェンジして間もないハリアーだが、これまでのG'sにはハイブリッドの設定がなく、ガソリンの2.0リッター自然吸気のみだったところ、件のマイナーチェンジで2.0リッターの直噴ターボエンジン搭載車が追加されたのはご存知のとおり。

 もともとターボにはちょっとスポーティな性格が与えられており、GR SPORTを手がけるにあたり、GR開発統括部としても、その延長上でターボに合わせて機能系のパーツの多くを新たに専用に起こしたのだという。

 見た目はけっこうアグレッシブな雰囲気になっていて、パッと見ではハリアーとは思えないほど。高級感あるインテリアも印象的なハリアーだが、そのイメージを損なうことなく、黒基調の精悍な雰囲気に仕立てられている。

 むろんこのターボが“スポーティ”といっても、スポーツカーのような乗り味ではなく、あくまでSUVとしてのスポーティさであって、その延長上で開発されたGR SPORTも、そこにほどよくスポーティさを加えた、というニュアンスである。また、価格がやや高めであることも念頭に、それに見合う上質な乗り味を心がけたとも開発関係者は述べていた。

ハリアー GR SPORT(持ち込み登録)は「ELEGANCE“GR SPORT”」の1グレード展開だが、自然吸気の2.0リッターエンジン搭載モデルに2WD(339万8760円)と4WD(359万3160円)を設定するとともに、4WDの2.0リッター直噴ターボエンジン搭載モデル(399万6000円)の計3モデルをラインアップ
ハリアー GR SPORTでは専用チューニングサスペンション、専用マフラーを装備するとともに、スポット打点追加、ブレース追加といった補強が行なわれる
インテリアではGRシリーズ各モデル共通で専用のスポーティシート(GRロゴ入り)、スタートスイッチ(ハイブリッド車はパワースイッチ)を標準装備。さらにGRロゴ付きの専用メーター、小径ステアリングホイールなどを採用し、ドアスイッチベースなどにはカーボン調加飾が与えられる

 この日は同じ条件で乗り比べるとどう違うかを確認できるよう、標準車も用意されていて、いたって素直でなんら気になるところのない快適なその走りを改めて確認しつつ、GR SPORTに乗り換え。すると印象がけっこう違う。ステアリングの操舵フィールにしっかりとした手応えがあり、動きがシャープになって、全体的に運動神経がよくなったように感じる。

 それでいて快適性が損なわれた印象もない。走行したコースは路面がかなりきれいであることを差し引いても、これならおそらく公道を走っても、そのよい印象は変わらないことだろう。

 足まわりはスプリングやダンパーなどが全体的に強化されている。スタビライザーはターボについてはリアがノーマルと共通だが、フロントを強化。ご参考まで、自然吸気では前後とも専用となる。自然吸気とターボでそういうところも作り分けているというから、かなりこだわってチューニングされたことがうかがえる。

 また、ステアリングホイールが違うと操縦感覚も少なからず変わるため、今回から採用された小径ステアリングホイールとのマッチングにもこだわったという。さらに、ハリアーのターボの場合はドライブモードに合わせてステアリングアシストの味付けも差別化されていて、ノーマルモードは安定指向のところ、スポーツモードではもっと俊敏に切れて、より軽快に走れるように味付けされている。個人的には、そのスポーツモードの味付けが好みに合っていた。俊敏とはいえクイックすぎないので、常時これで乗っていたいと思ったほどだ。

 GR SPORTゆえ、パワートレーン本体には手が加えられていないものの、吸排気系は交換されている。低く響きつつも軽やかさ感じさせるエキゾーストサウンドも、ドライブしていて気持ちがよい。

 ノーマルのハリアーも普通に乗るにはとてもよいクルマだが、もっと走りを楽しみたいという人も少なくないはず。その点、GR SPORTは本当にほどよくスポーティさを身に着けていて、なかなか好印象だった。内容のわりに価格が控えめなところもよい。あえてハリアーのGR SPORTを選ぼうという人の期待にしっかり応える仕上がりであった。

ドライバーも家族も満足のプリウスα GR SPORT

プリウスα“GR SPORT”(プロトタイプ)

 もともとG'sの設定があったプリウスαもGR SPORTにバトンタッチし、こちらは9月ではなく、11月の発売が予定されている。“燃費のよいファミリーカー”として今でも高く支持されているそのGR SPORTに、期待している人も少なくないことだろう。

 仕様としては基本的に従来のG'sを踏襲しており、新たに行なったことといえばリアバンパーの左右にアルミテープを貼った程度だというが、フラットでしっとりとした高級感のある乗り味は、なかなか印象深かった。ターンインでのノーズの入り方も素直でよいなと思ったら、開発関係者に聞いたところではノーマルに対してサスペンションを強化しながらも、より回頭感を出せるよう、あえてフロントのスタビライザー径をノーマルよりも細くしたのだという。なるほど納得である。なお、GRシリーズのいくつかの車種では同様の手法を採っているそうだ。

11月の発売が予定されているプリウスα“GR SPORT”(プロトタイプ)
専用エアロや専用チューニングサスペンション、ブレースが奢られる。ボディサイズは4665×1775×1560mm(全長×全幅×全高)
パワートレーンは標準車と同じく直列4気筒DOHC1.8リッター+THS II
インテリアでは専用のスポーティシート(GRロゴ入り)に加え、専用タコメーター(GRロゴ付)、アルミペダル、小径ステアリングホイールなどを標準装備

 乗り心地も快適そのもの。ブレーキング時の姿勢も、つんのめる感じが小さく抑えられている。ほかの車種でも同じだが、一連のGRシリーズに装着される、適度なホールド性と快適な着座感を提供するシートの出来ばえも素晴らしい。総じてドライバーも同乗者も、家族みんなが満足できるクルマに仕上がっている。

唯一3タイプが揃ったヴィッツ

 ヴィッツは「GR SPORT」、「GR」のMTとCVT、「GRMN」の4タイプをドライブ。3段階がすべてそろうのは、ひとまずはヴィッツのみ。ヴィッツの3台を見ると、今後のGRブランドの展望が見えてくるはずだ。

ヴィッツ GR SPORT

 ヴィッツ GR SPORTはハイブリッドも設定されるのが1つのニュースで、認証を取得しており型式指定登録が可能であることも特徴となる。価格も買い求めやすい控えめな設定となっている。インターフェイスや小径のステアリングホイール、シートなどに手を入れているが、タイヤもOEMと同じ横浜ゴム「dB(デシベル)E70」で、足まわりはややスポーティに味付けされているが、車高はノーマルから変更されていない。

 走りはいたって素直で、乗り心地がよく、それでいて高速主体の欧州でも通用するような乗り味となっている。精悍な黒を基調に、カーボン柄のデコレーションが施されたインテリアも目を引く。

ヴィッツ GR SPORT(型式指定)は、ガソリン仕様の5速MT車/CVT車(ともに208万7640円)、ハイブリッド仕様(232万9560円)をラインアップ。専用チューニングサスペンションの装着に加え、スポット打点追加も行なわれる
ヴィッツ GR SPORTのインテリア

 一方、GRのタイヤ銘柄はブリヂストン「RE050A」となり、GRMNほど過激ではないがザックス製のローダウン仕様のダンパーや、カラード対向キャリパーを備えたブレーキが与えられる。

ヴィッツ GR

 引き締まったグリップレベルの高い足まわりにより、ハンドリングはGR SPORTとは別物で、リア荷重を抜くと適度にリアがスライドする味付けで、アクセルワークだけで曲がり具合を意のままにコントロールできて、それがまた面白い。GR SPORTに比べ、より本格的なスポーツドライビングを楽しませてくれた。

 エンジンは1.5リッターの自然吸気で、MT、CVTともに選べるが、CVTに導入されたスポーツCVT制御もなかなか興味深いデバイスだ。これは全日本ラリーにもすでに実戦投入されているもので、スイッチを押すとコーナリング時に自動的に高回転を維持するよう制御してくれるというもの。これにより、ドライバーはよりステアリング操作に集中できるようになる。こうしたサーキットで試しても、ちょうどシフトダウンしたいと思ったときに心を読んだるかのようにシフトダウンしてくれて、たしかに走りやすかった。実に分かりやすい。マニュアルモードにすると10速のシーケンシャルシフトとなる。

ヴィッツ GR SPORTをベースモデルとする「ヴィッツ GR SPORT“GR”」(持ち込み登録)は、5速MT仕様、CVT仕様ともに230万3640円。ヴィッツ GR SPORTの改良点に加えてブレースの追加などが行なわれ、CVT車は10速スポーツシーケンシャルシフトマチック仕様になる
ヴィッツ GR SPORT“GR”のインテリア。GRはアルミペダルや小径ステアリングホイールなどが与えられる

 ヴィッツでは第2弾となるGRMNの今回の目玉は、イートン製スーパーチャージャーを組み合わせた1.8リッターの2ZRエンジンに違いない。そのパワーをしっかり路面に伝えるべく、トルクバイアス比を高めに設定したトルセンLSDを搭載。サスペンションにはレーシングテクノロジーを駆使した、特殊なバルブ構造を持つパフォーマンスと呼ぶザックス製ダンパーを装着。BBS製の鍛造超軽量ホイールを履く。ボディもブレースやタワーバーによりガッチリ硬めている。ブレーキはコンチネンタルのシステムにアドヴィックスのキャリパーを組み合わせている。

2018年春ごろの発売を予定するヴィッツ GRMN(プロトタイプ)

 身体を強力にホールドする専用開発のレカロ製シートに収まり、コースインしてアクセルを開けると、“速っ!”。思ったよりもずっと力強く、みるみる加速していく。小さな車体からは想像できない強力な加速フィールだ。パワーウエイトレシオ5.4kg/PSは伊達ではない。そのギャップもまた痛快極まりない。

 LSDも効いて、コーナー立ち上がりではグイグイ前に進んでいく。ただし、強力なLSDが付いているので、しっかりステアリングを持っていないとあらぬ方向にもっていかれそうになり、それを抑えながら走るのも、このクルマの楽しみのうちだ。いかにも抜けのよさそうなマフラーが放つ、はじけるようなエキゾーストサウンドも痛快そのものだ。シフトレバーの短い6速MTも、小気味のよいクイックなシフトワークを楽しませてくれる。

ヴィッツ GRMN(プロトタイプ)は各種専用エアロに加え、BBS製軽量鍛造アルミホイール、トルセンLSD、ザックス製ショックアブソーバーなどを装備。ブレースで剛性アップも行なわれている
1.8リッターエンジンにイートン製スーパーチャージャーを組み合わせ、最高出力は210PS以上、最大トルクは250Nmを発生するという。車両重量は1140kgとのこと
ヴィッツ GRMN(プロトタイプ)のインテリア。専用メーター(GRロゴ付)や小径ステアリングホイールなどを装備

 3モデルを乗り比べて、この分け方が現状ではベストなのだろうと思えた。入口のGR SPORTはできるだけ幅広く手軽にするとともに、十分な特別感を与える。その上のGRはできるだけ本格的にし、そのさらに上のGRMNは存在を際立たせると。そこには、あくまでメーカーだからこそできることと、モータースポーツ直系の知見が活かされていることもうかがいしれた。むろんGRブランドでは今後のプランもあれこれ進んでいるはず。大いに楽しみにしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸