インプレッション
ポルシェ「カイエン」(3代目/ワークショップ)
2017年10月17日 07:00
第3世代のカイエンがデビュー
“オンロードとオフロードのユニークなコンビネーション”をキーワードに、ポルシェの歴史に新たなページを刻むこととなった、2002年デビューの初代モデルが27万台。そんな初代の成功を踏み台に、軽量化やさらなるスポーティさを追求し、「ニュルブルクリンクで8分切り!」を謳う“超速”のバージョンまで設定した2010年登場の2代目が50万台。こうして、これまで世界で77万台以上を販売してきたというヒット作が、ポルシェ「カイエン」だ。
今では「パナメーラ」や「マカン」など、ピュアスポーツモデル以外もしっかり市民権を得て、ほとんどが「911」のみという“一本足打法”時代には考えられなかった多彩なバリエーションを用意するポルシェのラインアップ。
だが、それもこれもカイエンの成功なくしては考えられなかった事柄。その点では、ポルシェにとって「スポーツカー以上にエポックメイキングなモデル」と紹介できるのが、このモデルと言ってよいかも知れない。
そんなカイエンが誕生以来、2度目となるモデルチェンジを行なった。その内容はボディ骨格も一新、パワーパックも一新と、まさにフルチェンジと呼ぶに相応しいもの。
一方で、今回も一見の印象は見事なまでに「カイエンそのもの」。もちろん、実際にはエクステリアも一新され、こちらも偽りなくフルモデルチェンジと呼べる内容。けれども、どんなブランニューモデルでもそのDNAは911に帰属し、それを彷彿とさせる雰囲気を備えるのが“ポルシェ車のしきたり”であるもの。それだけに、一部で「変わり映えしない」という声が聞かれるのはやむを得ないのかも知れない。
そもそも、ポルシェのニューモデルのルックスに「何だか変わったカタチだな……」という印象を抱くのだとすれば、それはすべての規範となる911の姿が“超個性的”であるからこそ。すなわち、単にスタイリッシュであればOK! とはいかないところが、ポルシェデザインの難しさでもあるはずだ。
かくして、SUVでありつつも“フライライン”と呼ばれる911ならではの猫背型ルーフラインのイメージ再現に腐心し、フロントフード先端よりも高いヘッドライトの配置や、横長リアコンビネーション・ランプの間に“バラ文字”のエンブレムをレイアウトすることなどで、巧みに「最新のポルシェ車らしさ」を演出しているのが新型カイエンのルックス。
とはいえ、そんな見た目に機能的な意味を含ませるのもポルシェならでは。フランクフルト・モーターショー直後というタイミングで、本国ドイツで開催された「テクノロジー・ワークショップ」で明らかになったのは、一見では「従来型とさして変わらない」ようにも見えてしまう新型のデザインに秘められた、さまざまなエアロダイナミクス技術でもあった。
新型カイエンのハイライト
空気抵抗を抑制しつつ必要な冷却性能を得るために採用されたのが、「アクティブクーリングエアフラップ」。必要に応じて自動開閉されるラジエーター前方のフラップは、新型カイエンの全グレードに標準装備される。
一方、基本的には目に入りにくいそんな“黒子的”なアイテムとは対照的に、見た目上からもトピックとなるのが、ハイエンドの「ターボ」グレードに標準装備された「アダプティブルーフスポイラー」。これは、選択されたドライビングモードや走行速度、さらにはサンルーフの開閉状態などにより、ルーフ後端に装備されたリトラクタブル式スポイラーのアタック角を自動で調整するもの。
例えば、「160km/hを超えると6度のアタック角が付いてリアアクスルに安定した力を加え、170km/h以上でフルブレーキングを行なうとエアブレーキとして機能し、250km/h以上で制動距離を約2m短縮する」といったフレーズは、何ともポルシェのSUVならではだ。
新型カイエンの技術的ハイライトは、ボディシェル部分のみでも135kgの軽量化と報告される、主にスチールやアルミニウムを用いたハイブリッド構造の新骨格にもある。ルーフやフロアパン、ドアやフェンダー、さらにはフロントフードやテールゲートなど、アウターシェルの大半にアルミニウムを採用。また、通常の鉛式よりも「3~4倍長い耐用年数を備える」と謳われる新設定のリチウムイオンポリマー・スターターバッテリーも、従来より10kg軽量とアピールする。”セパレーテッドリンク式”と表現される、完全に刷新されたフロントのマルチリンク式サスペンションも、スチール製のサブフレームを不要とすることで大幅に軽量化した。
そんなこんなで、大幅に装備を充実させつつも従来型との比較では65kg。初代モデルと比べれば実に10%の軽量化を果たしたという新型は、ベースグレードで2t切りを達成。もちろん、そんな軽量化が走りのダイナミズムと環境性能をともに大きく引き上げる、重要なポイントになっていることは言うまでもないだろう。
ところで、すでにパナメーラで採用されている3チャンバー式のエアサスペンションや、カイエンには初設定となるリアのアクスルステアリングとともに、シャシー関係で大いに注目できるのが、この新型カイエンで世界初設定が謳われる新しいブレーキシステム。
ポルシェ・サーフェス・コーテッド・ブレーキ、略して“PSCB”と名付けられたこのアイテムは、タングステンカーバイドをコーティングしたディスクと専用パッドを組み合わせ、通常のブレーキに対して約30%長い耐用年数とより高い耐フェード性能を備えつつ、ダストの発生も抑制したという。
それでいながら、セラミックコンポジット・ブレーキ“PCCB”よりもコストが低いのも特長というこのアイテムは、実は我が日本の曙ブレーキ工業製。「約600kmを日常走行するとパッドがディスクを磨き上げ、あたかも“鏡面”のように光輝く」というそれは、白いキャリパーとともにポルシェ車ならではの新たなファッション・アイテムとなるかも知れない。
ベースグレード、「S」、「ターボ」と、現時点で発表されている3タイプが搭載するのは、いずれもターボ付きのV型ガソリンエンジン。パナメーラ用と同スペックの2.9リッター6気筒の「S」用と4.0リッター8気筒の「ターボ」用は、いずれもポルシェの本社工場製。ベースグレード用の3.0リッター6気筒は「アウディ製がベース」とされている。
興味深いのはそれぞれに組み合わされるトランスミッションで、弟分のマカンがポルシェでは“PDK”を称するDCTを採用するのに対して、カイエンは“ティプトロニックS”を謳うステップ式ATを採用。
これは、大型ボートなど重量級アイテムをけん引しつつ、急な上り坂を延々と上がって行くシーンなど、フルサイズSUVならではの使われ方を考慮した設定。一方で、マカンの場合はよりダイレクトで機敏な駆動力の伝達を重視したものと、同じSUVでありながらも明確なキャラクター分けを図った結果と考えられる。
変速レンジが拡大され、この先のハイブリッド化への対応も準備済みというそんな新世代のZF製8速ATを組み合わせた新型カイエンは、いずれのグレードでも「最高速をマークするのは6速ギヤ」という。
7速と8速ギヤは「コースティング機能と連動して最高の効率性と快適性を得るのが狙い」と報告される。ノーマルモードを使用中は、速度が7km/hまで落ちた時点でアイドリング・ストップメカが作動するという省エネ設計でもある。
新型カイエンでは、最新モデルであると同時にポルシェのフラグシップSUVであることから、昨今話題のドライバーアシストシステムやインフォテイメント、インターネットとのコネクティビティなどでも、最新スペックのアイテムが投入されている。ストップ&ゴー機能付きのアダプティブクルーズコントロールはもとより、歩行者&サイクリスト保護機能付きの自動ブレーキやナイトビジョンなどを設定。
ユニークなのは、専用に開発された“オフロードプレシジョンアプリ”で、走行ルートやタイム、GPSデータなどを自動的に記録し、評価プロファイルを作成して地図上に表示したり、アクションカメラで記録した映像をSNSでシェアしたりすることが可能であるという。
こうして、走りの頂点を極めるSUVとしてのカイエン元来の特徴を磨き上げると同時に、軽量化を推進することで着実な燃費性能の向上を図り、最新のコネクティビティも実現させるなど、時代の要請にも応えた新型カイエンは、実はラゲッジスペースを100Lも拡大させるなど、基本的なパッケージングの見直しにも踏み込んだ仕上がりの持ち主。
今回は自身でのテストドライブは“お預け”とされたものの、派手なドリフト走行も華麗にこなすなど、テストドライバーが駆るモデルへの横乗り体験をしただけでも、とびきりスポーティな走りのポテンシャルは確認できた。「とにかく、走りでも使い勝手でも“最高のSUV”がほしい」という人にとっては、間違いなく気になる1台であるはずだ。