試乗インプレッション
21年ぶりのFMC! 日本のショーファーカー、トヨタ「センチュリー」は後席だけでなく運転もゆったり
日本の匠の技を詰め込み、V12エンジンからV8+ハイブリッドシステムに変更
2018年8月10日 00:00
ショーファードリブンを前提とした正統派リムジン「センチュリー」がデビューしたのは1967年。トヨタ自動車の創業者、豊田佐吉氏の生誕100周年を記念してデビューした。以来、2回だけフルモデルチェンジを行なったが、その2回目が今年、2018年である。クルマの性格上、1モデルのライフサイクルは息が長い。匠の技術の粋を集めて作りこまれたセンチュリーは、エクゼクティブに愛用されてきた。今回、21年振りのフルモデルチェンジとなったセンチュリーは、デザインこそ歴代センチュリーのモチーフを継承しているが、日本のリムジンらしく迫力の中にも清楚な佇まいがある。
骨格となるプラットフォームから、そしてパワートレーンまで変え、これからの時代を見つめた大きなモデルチェンジとなっている。
車体は全長が5270mm→5335mmに、全幅は1890mm→1930mmに拡大されている。また、全高も1475mm→1505mmになった堂々たるサイズ感だが、全幅などに日本の道への配慮が感じられる。
プラットフォームは前モデルのレクサス「LS」用を新型センチュリー向けにアレンジして使用している。ホイールベースは3025mmから65mm伸びた3090mmだが、この寸法は前モデルのLS ロングと共通している。
エンジンはこれまでのセンチュリー専用だったV12からV8に載せ替えられた。V12は無類の静粛性と片バンクでも走れる信頼性を持っていたが、コスト面ばかりでなく、排出ガス規制や燃費などの時代の要請に応えることが難しくなり、V8エンジンに置き換わった。
搭載するエンジンは5.0リッターV8の「2UR-FSE」型。これにハイブリッドシステムを組み合わせた旧「LS600h」からのコンバートである。ただし、LS600hの出力特性はモーターを積極的にパワーに振り分けるパワー志向のチューニングだったが、センチュリーでは静粛性と燃費、そして穏やかな出力特性に力が注がれた独自のチューニングになっている。エンジン出力は280kW/510Nm。これにハイブリット用の165kW/300Nmのモーターが加わる。エンジン出力はLS600hに比べるとセンチュリーに搭載の2UR-FSE型は10kW/10Nm少なくなっているが、出力よりもその特性や燃費に振った結果である。
サスペンションもダブルウィッシュボーンから前後マルチリンクのエアサスペンションになっているが、これらのシャシーの構成要素も前モデルのLSから引き継いでいる。ただし、トヨタ最高のリムジンとするためにエアサスの制御はもちろん、サスペンションアーム、ブッシュ、マウントなども専用設計され、センチュリーに相応しい乗り味になっている。
まずは後席の乗り心地をチェック!
言うまでもなくセンチュリーは後席のためのリムジン。まずは後席の乗降性からチェック。サイドシルとフロアの段差がわずかで、かつ全高も高くなっているので乗り降りに腰をかがめる角度が少なく乗りやすい。ヒップポイントは従来型よりも15mm上がり、開口部も8mm上げるという地道な努力で、すっきりと美しく乗り込める。
後席は、レクサス LS600hの少し硬めでしっかりとサポートするシートに比べると、センチュリーはふわりとしていて、何ともいえない感触だ。クッションストロークがあり、シート全体で体を包み込んでくれる。かといって過度に沈み込んでしまうようなものではなく、程よい感触が心地よい。シートはSバネとコイルスプリングを組み合わせたもので、ウレタンだけで作られたシートとは感触がまったく異なる。
前後席の間隔は95mm広げられたが、これもホイールベースが延長された効果で、レッグルームには大きな余裕がある。また、後席の天井は折り上げ天井様式を採用し、1段上がっているので視覚的にも広がり感があり、ヘッドクリアランスがたっぷりした室内高とともに心落ち着く。
VIP席は乗り降りのしやすい助手席の後ろだ。この席には電動オットマンが備わり、助手席を最前部にしてシートバックを倒し、その背面からオットマンが自動で出る。後席もリクライニングさせると、フラットに近く、寝てしまえるほどのスペースが出現する。運転席の後ろ側も広くて寛げるが、オットマンやマッサージ機能はVIP席のみの設定になっている。日本のリムジンらしいのはオットマンの使い方にも現れているように、Bピラーに靴ベラ差しがあるところからも感じられる。
そして、後席アームレストは簡単なテーブルになり、それをスライドさせるとオーディオやエアコンなどのコントロールパネルが表れる。これらの操作は運転席からでもコントロール可能だ。
乗り心地は徹頭徹尾、ソフトに仕上げられていた前モデルからするとシットリとしたものになった。いたって快適なのだ。うねりや段差に対してもバネ上の動きはある程度一定に保たれるのは感心する。
静粛性はさすがに日本最高のリムジンである。手作業による防音対策やアクティブノイズコントロール(ルーフに配置されたマイクからエンジン音を拾い、ドアスピーカーからエンジンノイズを打ち消す制御音を出すシステム)でエンジンノイズは皆無だ。ハイブリッド特有のバッテリーの冷却ファンノイズもまったく聞こえない。さらに225/55 R18サイズのセンチュリーのために開発されたブリヂストン製「レグノ GR001」はパターンノイズを徹底的に打ち消したタイヤで、走り出しのゴツゴツ感もミニマムだ。
日本のリムジンらしい蕩けるような快適さを満喫した。
乗り心地だけでなく、運転もゆったりスムーズ
では、シートをドライバーズシートに移してみよう。センチュリーは前後席でデザイン的に仕切られているが、前席も決して冷遇されていない。リアシートのエアコンやシート調整など、後席からのリクエストに応じて、すぐに応えることができるようにスイッチ類が配置されている。後席へのホスピタリティのためだが、同時にドライバーの負担も軽減してくれる。
ドライバーシートも後席同様ソフトだが、ある程度の反発力があって疲れにくい。ドライビングポジションは正座に近い方が運転しやすく、疲れも少ない。つまり、正しくキチンとポジションをとるほど運転しやすくできている。
加速力はLS600hに比べるとユッタリしているものの、2370kgの車両重量からすれば十分に俊敏で、それなりに迫力のある加速を見せる。しかし、センチュリーの日常でこのような加速を必要とされる場面はまずないだろう。むしろ後席のパッセンジャーにとって、分厚いトルクでジワリとした発進力が重要だ。新しいパワーユニットのV8ハイブリッドは瞬発力にも優れ、V12を搭載した旧センチュリーよりも向上している。
サスペンションはエアサスらしい滑らかな路面追従性を持っており快適で粛々と走ってくれる。
新センチュリーにはドライブモードが備わった。SPORT S+、SPORT S、NORMAL、ECOの4つのモードが選択できるが、NORMALモードでは快適ではあるが路面によってはユッタリしたピッチングを伴うことがあった。リニアソレノイド可変ダンパーとエアサスの組み合わせはSPORT S+を選択すると少しだけ硬めの乗り心地になるが、NORMALで感じられた緩いピッチングはスッキリとなくなった。パッセンジャーによってはこちらのモードを好ましく感じることもあるだろう。
ハンドリングについてはリムジンらしく至極安定感のあるものだ。フワフワしたところはなく、締めるところは締めるという感じで、ドライバーは妙な緊張感を持つことはない。ハンドルの操舵力も軽めで路地などでも負担が小さく、3mを超えるロングホイールベースだが、最小回転半径は5.9mと意外と小まわりが効く。
そして、ブレーキタッチもスムーズで、踏力に応じた減速感が得られる。かつてのハイブリッド特有の癖のあるブレーキタッチではない。
さて、日本発の日本専用リムジン、センチュリー。先代では法人の経理処理を考えて1000万円を切る価格からスタートしたが、新型では2000万を切る1960万の価格設定となった。
トヨタの匠の技を継承する手のかかった仕上げ、丁寧なつくり込み。この価格は極めて妥当だと思う。