試乗インプレッション
まさに“オンリーワン”の存在。スズキ「ジムニー」「ジムニーシエラ」が楽しくてしょうがない訳
いきなり大ヒットモデルに躍り出た理由を解き明かす
2018年8月7日 00:00
スズキも(多分)ビックリの販売状況
自分は今、後悔している。いきなり何のことかと思うかもしれないが、こんなに世の中にインパクトを与えるモデルなのであれば、早めにリーチ(予約)を入れておけばよかった。いやおくべきだった。そう、20年ぶりにフルモデルチェンジした新型スズキ「ジムニー」「ジムニーシエラ」、何しろその初動が凄すぎる。
新型の国内販売目標台数はジムニーが1万5000台、ジムニーシエラが1200台(いずれも年間)だが、発表直後のディーラーに数回足を運ぶと、知り合いのセールスマンが教えてくれた。「とにかく反響がすごい。過去を振り返るとハスラーが登場した時も凄かったのですが、それ以上です。うちは比較的ファミリーユースのお客さまが多いのですが、カップルでジムニーを見に来たというお客さまを見た時にはちょっとだけ驚きました(笑)。納期については正直現場も理解していますが、何よりもオンリーワンの存在ですので代わりになるクルマがありません。強いて言えばハスラーやクロスビーがありますが、やはりお客さまのお目当てはジムニーですので現在はお待ちいただくしかありません。言っていいか分かりませんが、現在はちょっとした“バブル状態”。戸惑いもありましたが、その分ジムニーの注目度の高さをひしひしと感じています」とのことだ。
数件のディーラーを回ってみても感触はほぼ同じで、納期に関してはグレードやボディカラーの組み合わせによっては1年待ちという声もある。もちろんスズキ側もそれは理解しており、旧型の生産を行なっていた磐田工場から新型はより生産能力の高い湖西工場に移管したことからも、ある程度こうなることは予想していたはず。すでに増産も視野に入れているとのことなので、ここはじっくりと様子を見るしかないのである。
デザインからして“本物志向”
何しろ20年ぶりのフルモデルチェンジである。1970年に登場した初代から考えれば、ほぼ半世紀にわたり本格4WDの性能を持つコンパクト4×4として全世界194の国と地域で販売、世界累計285万台を販売したグローバルモデルであることは今さら説明の必要もないだろう。
では、ここまで人気を呼んだ理由はどこにあるのか? まず、エクステリアデザインを見てみればその理由が分かる。曲面を多用する昨今の自動車デザインから見ればジムニーのそれは非常にスクエアだ。実車を見るととても軽自動車の企画枠に入っているとは思えないほど、堂々としている。開発陣に対して「3代目が丸みを帯びていたのに対し、新型は2代目のデザインに近いのではないか?」という問いについて、答えは“ノー”とのことだ。
確かにジムニー伝統のエクステリアデザインは継承しているが、車両の姿勢や状況を把握しやすいデザインを突き詰めた結果、ここに落ち着いているとのこと。もう少し分かりやすく言えば「道具感がありながら今の時代にあったデザイン」、つまり“本物志向”なのである。また、スクエアボディと同時にルーフをレインガーター化することで、ルーフまわりをワイドに見せながら雨天時にドアを開けた際の水の侵入を抑制するなど、いわば“機能美”とも言える仕上がりを持っている。
クルマに乗り込む際に感じたのはドアの開口部が広く、大きく開く点。具体的にはノッチ数を旧型の2段階に対し、3段階に拡大したことで乗降性も向上している。最低地上高はジムニーが205mm、ジムニーシエラが210mm、地上からシートまでのヒップポイントはメジャーで計測したレベルだが770~780mm、助手席側には乗降用のアシストグリップが全グレードに標準装備化されている。
ドライビングポジションに関しても進化を感じた。シリーズ初となるチルトステアリング機構の採用はもちろん、シートスライド量は旧型より+45mmの240mm。何よりもありがたかったのは調整ピッチを旧型の15mmから10mmに変更したことで、体格に応じてベストなポジションを得ることができるようになったことだ。また、前述したスクエアボディの採用で窓側面からの圧迫感は減少し、実際に運転席の窓側は旧型より50mm(後席は45mm)クリアランスが拡大しており、ゆったりとした空間を感じ取ることもできる。
インテリア自体もシンプルでありながらゾーニング(空間を用途に応じて配置する考え)がうまくいっており、メーターの見やすさやナビ装着スペース、さらに手袋をした状態でパワーウィンドウの操作ができるようにスイッチを大型化してインパネセンターに配置するなど、慣れるとかなり便利である。
より扱いやすくNV性能も向上
用意された試乗車はジムニーの最上位グレードであるXCの5速MT車。全体の印象は「扱いやすく、つながり感がある」ということだ。まず、クラッチペダルは旧型のケーブル式から油圧式に変更(トランスミッションオイルも低粘度化している)。シフトストロークは節度感がありカチッとしたフィーリングだ。特筆したいのは振動の少なさ。ミッションケースのほか、新規に装着された“Xメンバー”側にも組み付けることで振動を軽減しているという。操作が多いマニュアルトランスミッションだからこそ、レバーに触れた際に「ブルブル」という振動が常時伝わってくるのはあまり気持ちのいいものではない。その点でも新型のシフト構造は望ましいものだ。
ステアリングは旧型同様ボール・ナット式を継承。パワステは全グレード電動式に変更(旧型のシエラは油圧式)されたが、ロック・トゥ・ロックは約4回転と昨今のクルマからすれば操舵量は多め。しかし、ジムニーがちょっとステアリングを切ったらスッとノーズを変える、というのはそもそも性格に合っていない。オフロードなどの過酷な環境ではより正確な操舵も求められる。その点でもこのセッティングこそがジムニーに求められるものだ、ということを後のオフロード試乗でも感じ取った。
マニュアルトランスミッションが楽しい!
まずはオンロードでの試乗だが、新たに搭載されたR06A型エンジンはアルトやハスラーでもおなじみの、スズキにおける軽自動車のメインユニットだ。もちろんジムニー用にインタークーラーや吸気レイアウトなども変更されているが、冷却性能の向上や耐水性能など信頼性も向上している。感じたのはどの速度域でも不快な音質が少ないこと。さらに言えば、前述したトランスミッション同様に振動もうまく抑えられている。開発陣に話を聞くと、これに関してはフライホイールを新規で設計していることで、NV性能だけでなく低速域での扱いやすさも向上しているという。
悪路などでの駆動力を確保するためにもローギヤード化(特に1~3速は顕著)されており、逆に4&5速は少しハイギヤード化されている印象だ。シフトフィーリングも良好のため、とにかく走りが楽しい。ただ、低回転域は粘るとはいえ、本当に面白いのは3000rpm周辺をキープしながらシフトを操作することだ。また、伝統のラダーフレームに前述したXメンバーなどの補強がされているが、個人的にはリアに装着されたクロスメンバーの効果が大きいと感じた。オンロード旋回時に後輪側がばらつくことなく接地することで、ライントレース能力も旧型とは比較にならないくらい精度が上がっている印象を受けた。
オフロード性能はお見事!のひと言
今回専用に用意されたオフロードコースは、新搭載の「ブレーキLSDトラクションコントロール」や「ヒルディセントコントロール」などを実際体感できるように設定されている。正直に言えば、筆者はオフロード走行の経験はあっても得意でもなんでもない。普通のレベルである。しかし、新型ジムニーの各種デバイスに助けられてその操作は極めて「楽チン」だ。コースでは副変速機を4Lに入れることでESP(車両安定デバイス)がOFFになる。この状態でコースへ進入する。撮影するカメラマン氏によれば「もう片輪とか思いっきり上がっていたけど普通にガンガン進むね。運転慣れているでしょ」的なことを言われたが、そうではないのだ。ブレーキLSDの効果は極めて高く、空転した車輪にブレーキをかけ、対向する車輪に駆動力をかけることで走破性を向上させるので、アクセルコントロールだけでスムーズに走ることができた。
また、ヒルディセントコントロールに関しても同様で、エンジン出力とブレーキを制御してくれることで、4Lでは約5km/h(ハスラーは約7km/h)で急な下り坂を安定して走れる。要はクルマが凄い体勢になっていてもドライバーは安心かつステアリング操作に集中できる点がありがたいのだ。
シエラの走り、これアリでしょ
オンロードのみではあったがジムニーシエラ(4速AT)にも試乗する機会に恵まれた。正直に言うと試乗前まではあまり期待していなかったのだが、前言撤回! この選択肢は十分にアリだ。当たり前ではあるが、ジムニーと比較してもエンジンは3→4気筒、出力&トルクも向上しており静粛性も高い。ゆえに高速道路を走行してもゆとりはあるし、旧型と比較しても40mm拡大したトレッド幅により、コーナリング時の安定感も向上している。
冒頭に述べたように税金なども考慮すれば圧倒的にジムニーになるし、スズキ側もそれを考慮した販売を考えている。しかしオーバーフェンダーが装着されているシエラの立ち姿はなかなかに魅力的。高速道路を走る機会が多い、オフロードよりオンロード、オシャレ感も演出したい、と思う人にはこれ、オススメです。
どのグレードを買うべきか
トランスミッションは別として、ジムニーには3グレード、シエラには2グレードが設定される。特にジムニーのXC、シエラのJCは共に最上位グレードということもあり、アルミホイールやLEDヘッドライト、クルーズコントロールまで装着される充実ぶりである。ゆえに、いわゆる新規顧客層やダウンサイザーに対してはこのXCとJCをオススメする。
一方でこれまでのジムニーユーザーを含め、実際に悪路も走る人、このクルマのコンセプトでもある「プロユーザー」ならばXL、シエラならJLがオススメだ。XC/JC程の上級装備は付かないが、エアコンもフルオートだし、ラゲッジフロアもXC同様に防汚タイプである。これまでのジムニーオーナーなどはサードパーティの用品などの知識が豊富だ。ゆえに、グレード差で浮いた金額をパーツ類にまわし、自分好みのジムニーに仕上げるというやり方も心得ている。
予想を大きく超えるスタートダッシュを果たした新型ジムニー。街の風景をパッと変えるほどの力もあるし、素晴らしい仕上がりになっている。今後期待したいのは触れなかった先進安全装備のさらなる充実。やはりグレードによってはメーカーオプションというのは時代に合っていない。全グレード標準装備が望ましい。後は納期の問題だけである。無事にディーラーで契約した人には心からおめでとう、と同時に「羨ましい」という気持ちでいっぱいである(泣)。