試乗インプレッション

2020年のWCOTYに輝いたキアのSUV「テルライド」とはどんなモデルなのか?

2020年のWCOTYに輝いたテルライド

 2020年のWCOTY(ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー)の栄冠に輝いたのは、韓国車である起亜自動車(KIA Motors Corp.)の中型SUV「テルライド(Telluride)」だった。WCOTYは2004年に世界各国の自動車ジャーナリストによって創設された自動車賞。世界25か国以上、86名の選考委員(自動車ジャーナリスト)のインターネット投票によって選出される。筆者・松田秀士も選考委員の1人だ。

 WCOTYには「World Luxury Car」「World Urban Car」「World Performance Car」「World Car Design of the Year」の4つの部門賞と、テルライドが受賞した大賞となる「World Car of the Year」の5つの賞で成り立っている。毎年、ニューヨークショーで発表・表彰が行なわれるのだが、今年はコロナパニックでニューヨークショーが中止となったため、4月8日にインターネットで発表された。そこで、今回は日本では乗ることのできないテルライドの試乗記をお届けしたい。

2019年末に行なわれた2020年のWCOTY選考試乗会。筆者(一番右)もその試乗会に参加してテルライドに乗った

 筆者は毎年11月~12月にかけてWCOTYによる合同試乗会に参加している。試乗会が開催されるのは米国ロサンゼルスのパサデナというちょっと高級な街。ここにあるホテルを起点に市街地を走り高速道路を抜け、エンゼルス・クレストという箱根のようなワインディングを走る。この往復が試乗コースで、3日間かけて20台前後を試乗する。

 テルライドは中型で3列シートの7人乗り(8人乗りもある)SUVだ。5000×1990×1750mm(全長×全幅×全高)と、われわれが普段日本で目にするSUVと比較してもかなり大きい。しかし、このサイズでも米国にいると普通かちょっと大きい程度にしか見えないのだ。ライバルはフォード「エクスプローラー」、トヨタ「ハイランダー」、ホンダ「パイロット」あたりだが、ほかにもキャデラック「XT6」やBMW「X7」も競合になるだろう。

 テルライドはV型6気筒 3.8リッターの自然吸気直噴エンジンを採用している。最高出力は295PS/6000rpm、最大トルクは36.2kgfm/5200rpmで、これに8速ATを採用している。車重は2018kgとスペックの割には軽量で、0-100km/h加速は7.5秒とイイ感じの加速力を持っている。

 エクステリアデザインはこのクラスの定番ともいうべきソリッドで角ばり、どっしりとした落ち着きがある。そこに前後のエアロとルーフレールがラグジュアリーな遊び心を演出している。とくにフロントグリルは横長な上下を光りモノ系のバーで主張し、下に続くエアロが落ち着きを感じさせる。ヘッドライト(LED)は縦目の4灯式。時代の先端をいくような切れ長タイプではなく、個性を主張している。ホイールは20インチのアルミを採用していてミシュラン「PRIMACY TOUR」(245/50R20)を履く。試乗車は上級版のSXグレードだったが、廉価版のLXグレードでは18インチとなる。しっかりとライドハイト(車高)が取られていて、やや隙間の空いたホイールアーチにこの20インチのブラックペイントされたアルミホイールは全体をよく引き締めている。リアにまわればルーフスポイラーとシルバーのディフューザーに角ばったマフラーカッター。リアコンビネーションランプ(LED)も縦長のフィニッシュ。エクステリアデザインは嫌味がなく、安っぽさがない。

中型SUVサイズに位置付けられるテルライド(写真手前)。ボディサイズは5000×1990×1750mm(全長×全幅×全高)。7人乗りまたは8人乗りを選択可能
テルライドのパワートレーンは最高出力295PS/6000rpm、最大トルク36.2kgfm/5200rpmを発生するV型6気筒 3.8リッター直噴エンジンで、8速ATを組み合わせる

 インテリアはシックなデザイン。レザーシートのフィーリングも高質で座り心地もよい。ウッドパネルをダッシュとドアに使うなど、大人っぽいインテリアで全体に落ち着いたムード。ダッシュパネルにはスイッチ類がたくさん横に並ぶが、分かりやすく使いやすそうだ。このあたりはディスプレイにタッチしてから深層に入ってチョイスする最近のシステムからは逆行しているが分かりやすい。ディスプレイは10.25インチの横長モニターが採用されていて、ぱっと見BMWのダッシュパネルを想像させる。計器盤は7インチだ。2列目シートは7人乗りなのでキャプテンタイプとなり、8人乗りのベンチタイプも選べる。この大きさゆえ、スペースは十分。3列目もそれほど窮屈には感じないが米国人はどうだろう? という感じ。3列目シートを立てた状態でも、ラゲッジ容量は601Lと十分にあり、床下が隠し箱のようになっていて奥が深い。

テルライドは大人っぽいインテリアに仕上げられている
キア「テルライド」の内外装紹介動画(7分8秒)

フラットライドでサスペンションが凹凸をパーフェクトに吸収

 では走らせよう。まずパサデナのホテルを出発して市街地を走る。ドアミラーはAピラーマウントなので斜め方向の視界が気になるのでは? と心配したが、まったくそんなことはなく、前方視界もややラウンドしたダッシュボードに凹凸感が少ないので見通しがよい。

 市街地で感じるのは、室内が静かなこととエンジンの振動感が小さいこと。そこから高速道路に合流し、アクセルを全開にすると程よくシフトダウンして6500rpmまで引っ張りグングン加速する。十分以上に力強い。そして高速走行になっても室内が驚くほど静粛性を保っている。3列目と声を張り上げなくても普通に会話できるレベルだ。

 米国の高速道路は驚くほど路面が荒れている。継ぎ接ぎや路面そのもののサーフェスもコロコロ変わる。そこでの乗り心地は驚くレベル。フラットライドでサスペンションが凹凸をパーフェクトに吸収。フロントがストラット、リアがマルチリンクのサスペンションは柔らかめで、お尻を叩かれる振動も内臓を突き上げる衝撃もない。しかも直進性がバツグンでステアリングのセンターがビシッと決まっている。テルライドのような足を持ったクルマばかりになれば、日本の高速道路での集中工事など5年に一度でよくなるだろう。120km/hレベルでのコーナリングも微小舵で修正舵することなく安心して曲がれる。

 そしてワインディングのアンジェリス・クレストに入る。心地よいロール感とステアリングの操舵フィールが重さも手ごたえもちょうどいい。コーナリングレベルもかなり高く、なにより安心してコーナリングできるグリップ感が伝わってくる。実はテルライド、V6エンジンを横置きにしたFFベースのオンデマンド4WDを採用する。このセグメントでは、エンジン縦置きの前後重量バランスに優れたFRベースのモデルが多いのでそれほど期待していなかったのだが、見事に裏切られた。実はトルクベクタリングなど最新のコーナリング&4WDデバイスがほとんど採用されているのだ。気になる価格は、この最上級のSXグレードで4万1790ドル(1ドル110円計算で約459万6900円)にも驚く。

 キアは現代(ヒュンダイ)の子会社で、これまでどちらかというとヒュンダイ車の廉価版モデルをリリースするブランドという位置付けだった。それが2年前に「スティンガー」というミドルセダンのスポーツハッチバックをデビューさせてからイッキに変化した。驚くほど出来がよかったのだ。

 テルライドの姉妹車はヒュンダイ「パリセード」でこちらにも試乗したが、やはりというか面白いことにテルライドの方がラグジュアリーだったのだ。いまやトヨタにおけるレクサスの位置付けがヒュンダイでいうところのキアだろう。テルライドの大賞受賞は、日本人の筆者から見ても文句のつけようがないほどの快挙だ。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/