試乗インプレッション

ポルシェの新型「マカン GTS」は、“SUVのスポーツカー”という名にふさわしい

次期マカンはポルシェ第2のピュアEVになる?

次期マカンはポルシェ第2のピュアEVに?

 2020年3月に発表された年次報告によれば、2019年のポルシェの世界販売台数は前年を10%上まわる28万台強。そのうち「カイエン」が9万2000台で、「マカン」はあとわずかで10万という台数。かつてはスポーツカー専業メーカーとして名を馳せたポルシェも、もはや販売台数で圧倒的な過半を占めるのはSUVカテゴリーに属する2つのモデル。それが現在の姿であるわけだ。

 ちなみに、こうした内容を知れば「次期マカンは『タイカン』に次ぐポルシェ第2のピュアEVとしてデビューする」という報道も、なるほど現実味を帯びてくる。チャージされる電力の発電形態に関わらず「CO2排出量がゼロ」とカウントされるピュアEVは、多くの台数が売れてこそ「企業平均CO2の削減」に大きな効果があるもの。となれば、このブランドの場合には、ベストセラー・モデルであるマカンがその任を担うのが最も合理的と考えられるからだ。

 一方で、そうは言ってもまだピュアEVには抵抗があるというユーザーも少なからず存在するはず、という考察から報じられるのが、「現行モデルも併売される」という憶測。かくしてこの先、マカンにはパワーユニットがまったく異なる2つのモデルが平行してラインアップされることになるのか、はたまたEV専用モデルへと変貌を遂げるのか? その回答が明らかになるのも、どうやらそう遠い時ではないようだ。

 いずれにしても、初の4ドア・ポルシェ車としてのキャラクターも踏まえながら2002年に誕生したカイエンの成功を見届けるカタチで、2013年末にその弟分としてデビューした現行マカンのモデルライフも、いよいよ終盤と考えられるポイントに差し掛かっている。

 そんなタイミングで、「最もスポーティなバージョン」というフレーズとともにラインアップに加えられたのが「GTS」のグレード。「S」と「ターボ」という2つのグレードのギャップを埋める任を与えられた、この3文字のグレード名を冠したマカンがカタログに加えられるのは、2018年に実施されたマイナーチェンジ以前のモデル以来、これが2度目ということになる。

日本では1月に受注を開始したミドルサイズSUV「マカン」のスポーティモデル「マカン GTS」(1038万8889円)。ボディサイズは4686×1926×1609mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2807mm(数値は欧州仕様)
エクステリアでは、すべてのポルシェGTSモデルに共通するブラックペイントが施されたフロントエプロンをはじめ、標準装備の「スポーツデザインパッケージ」による前後トリムとサイドスカート、ティンテッド処理が施されたLEDヘッドライトと組み合わされるPDLS(ポルシェダイナミックライトシステム)と3DリアLEDライトバーなどが特徴
インテリアではシート中央部とセンターコンソールアームレスト、ドアパネルにアルカンターラ、ドアパネルにブラッシュドブラックアルミニウムなどを採用するとともに、スムーズレザー仕上げのマルチファンクションスポーツステアリングホイールとシフトパドル、8段階調整式のGTSモデル専用スポーツシートなどを標準装備

高いスポーツ性よりも、上質な走りのテイスト

 Sグレード用に設定されたさまざまな走りのオプションを標準装備化するとともに、やはりSグレード用のユニットをベースにしながら専用チューニングが施されたエンジンを搭載。これらによって運動性能を向上させると同時に、よりスポーティな装備や精悍かつゴージャスな専用コスメティックを採用することで、内外装をドレスアップ……と、GTSでは“定番”とも言えるこうした手法は、もちろんこのモデルにも採り入れられている。

 今回、ポルトガルで開催された国際試乗会でテストドライブを行なったのは、エアサスペンションやサーフェスコーテッド・ブレーキ(PSCB)、標準比で1インチ増しとなる21インチ径のシューズや18ウェイの電動調整機能付きアダプティブ・スポーツシートなどをさらにオプション装着したGTS。

 ボディ各部に施されたブラックの挿し色や大径ホイール、そしてインテリアではさまざまな部位に用いられたアルカンターラやブラッシュドアルミニウムなどの素材が、スポーティでありながらもスパルタンにまでは至らず、むしろゴージャスで高品位というGTSグレードならではの位置付けを演じてくれることとなっていた。

 マイナーチェンジ前のモデルに対して最も大きく変わったのは、実はその心臓部だ。2基のツインスクロール式ターボユニットを含む排気系統をバンク内側にレイアウトとしたガソリンのV型6気筒直噴というスペックはベースのSグレード用と変わらないものの、ピストンストロークが89mmから86mmへと短縮され、圧縮比も11.2から10.5へと変更されたことで排気量は2995ccから2894ccへとダウン。

 一方で、そこにターボブースト圧のアップなどが主体と思われる専用チューニングを施したことで380PSの最高出力と520Nmの最大トルクを獲得。これは、現行Sグレード比では+26PSと40Nm、マイナーチェンジ以前のGTS比では20PSと20Nmの上乗せという関係で、改めて何とも巧みなポルシェのマーケティング戦略を感じさせられることにもなっている。

マカン GTSが搭載するV型6気筒2.9リッターターボエンジンは、最高出力280kW(380PS)/5200-6700rpm、最大トルク520Nm/1750-5000rpmを発生。トランスミッションはデュアルクラッチの7速PDKを組み合わせる

 そんな最新のマカン GTSでまずは市街地を走り始めると、最初に実感をさせられたのはそこに秘められた高いスポーツ性よりも、何とも上質な走りのテイストだった。

 そうした印象の一因となっていたのは、予想を超えた高い静粛性。今回のテスト車が、先に紹介したさまざまなアイテムに加えて断熱/防音ガラスもオプション装着していたことも、その好印象に関係していそう。いずれにしても、アクセルを深く踏む場面のない街乗りのシーンでは21インチホイールを履いているとは思えない優しいフットワークとともに、穏やかなエンジンのフィーリングがまずは上質なSUVらしさを前面に押し出すことになっていたというのが、このモデルの走りのテイストだ。

 車両重量はおよそ1.9tと、それなりの重量級。だが、実際にはスタートの瞬間から動きの鈍さを微塵も感じさせないのは、前述した排気系のバンク内配置によるターボ駆動の効率のよさや、ツインスクロール式というターボチャージャーの凝ったデザインも貢献しているはず。何しろ、520Nmという最大トルク値は、すでに1750rpmにして生み出されるのだ。組み合わされる7速PDKが、微低速時にもステップATに何ら遜色のない滑らかな変速を行なってくれることも、日常シーンでのフィーリングのよさに大いに効いていることは言うまでもないだろう。

 一方、そんな街乗りシーンでわずかに気になったのは、ブレーキの立ち上がり減速Gが弱めであること。もちろん、さらに踏力を加えればしっかりしたブレーキ力が得られるものの、恐らくこれはオプション装着されていた“PSBC”がもたらす傾向と考えられる。

 タングステンカーバイドをコーティングしたブレーキローターと専用パッドを用いることで、通常のシステムを超える耐フェード性と耐久性を備えながらダストがほとんど発生せず、かつ既存のセラミック・コンポジットブレーキ(PCCB)よりも大幅に安価というのが、このシステムで謳われる主な特長。だが、少なくとも街乗りシーンでのフィーリングのみに限れば、ノーマルのシステムに軍配が上がりそうだ。

 一方、ひとたびアクセルペダルを深く踏み加えてみれば、それまで水面下に秘めていた真のポテンシャルの一端を即座に垣間見せてくれるのが、このモデルならではのキャラクターでもある。今回設定された試乗ルートには、残念ながら強い横Gを連続的に味わいながら走れるようなセッションは含まれていなかったが、それでも幾度か体験できたアップテンポな走りの場面では、「あ、これはやっぱりサーキットに持ち込んでみたいよな」という、“GTS”の名に恥じない振る舞いの片鱗を披露してくれることになったのだ。

 前述のように、スタートの瞬間から太いトルクを提供してくれるエンジンは、回転数が高まっていってもそれが目立った落ち込みを示さないという点に、一種の“スポーツ心臓”らしさを表現する。380PSというピークパワーが発せられるのは、5200-6700rpmの範囲で、Sグレードの場合には同じくピークパワーを発生させる上限は6400rpmとやや低い。これは、先に述べたようにGTS用エンジンの方がよりショートストローク傾向にあるということとも無関係ではなさそう。スペック上はこちらの方が高回転型・高出力型と言えることになるのだ。

 4WDシステムの採用もあってトラクション能力がすこぶる高いのは当然ながら、ハンドリングの感覚は予想以上に自在で、かつ思いのほかシャープ。こちらも、思わず「サーキットを走ってみたい」と言いたくなるテイストだが、そんな印象の中にはこちらもオプション装着されていた電子制御式LSDとセットで採用されるトルクベクタリング機構「PTVプラス」の働きも含まれていそうだ。

 正直なところ、市街地中心の一般道がメインで構成された今回のテストルートは、マカン GTSのポテンシャルを存分に味わうためには少々物足りなかった印象は否めない。それでも、いくつかのシーンで姿を現したまさに“SUVのスポーツカー”という比喩こそがふさわしいと思えたこのモデルの走りのテイストは、なるほど「最もスポーティなマカン」というフレーズを自称したくなるのもうなづけるものだった。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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