試乗インプレッション

トヨタ「ヤリス」&ホンダ「フィット」、日本を代表するコンパクトカー2台を乗り比べ

同じハイブリッドモデルでも異なる個性

同時期に販売開始となった2台のコンパクトカーに乗った

 2月のほぼ同時期に販売開始となったトヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」。本来であれば2019年後半にはフィットが投入されるはずだったのだが、電子制御パーキングブレーキに不具合が見つかったことで発売が延期されることになり、たまたまヤリスと同時期の発売となったのだ。当初、リアブレーキはドラムとされる予定だったが、ディスクブレーキに改まり、その上で電子制御パーキングブレーキを完全成立できたのだから、新型フィットユーザーにとっては嬉しい誤算かもしれない。いずれにせよ、クラスも鮮度も変わらず、トヨタvsホンダの対決が見られるのは、なかなか興味深い。

 日本自動車販売協会連合会の販売台数データによれば、ヤリスは2月に3491台、3月に1万3164台、トータル1万6655台を記録。フィットは2月に8221台、3月に1万4845台、トータル2万3066台とフィットが勝利。だが、受注台数に関してはヤリスの方が1万台ほど多いという話もある。共に短期間の話であり、受注を開始した時期などが異なるため、結果は長期的に見てみないとまだまだ分からない。販売網などを考えればフィットはかなり善戦しているようにも感じられる。

モータージャーナリストの橋本洋平氏が最旬コンパクトモデル「ヤリス」「フィット」を乗り比べした

 では、実際のクルマにはどのような差があるのか? そこを1日じっくり乗り比べてみることにした。連れ出したのは売れ線となりそうなハイブリッドモデル。ヤリスは「HYBRID Z」の2WD(FF)、フィットは「e:HEV NESS」の2WD(FF)だ。装備の違いなどもあり、単純比較はできないが、価格的には似たようなところにいるこの2台。だが、静止状態で比較すると、成り立ちがずいぶんと異なることが伝わってくる。

 運転席に座ればヤリスはスポーツカー的とでも言えばいいだろうか? ややタイトな感覚があり、Aピラーもゴツイ印象が伝わってくる。一方のフィットは、強度を受け持つのはAピラーの後ろのA’ピラーとなっているため、視界はかなり広がっている。その開けた感覚はこれまでにないものだ。後席を比較してみても、やはり印象は変わらず、ヤリスは狭くてフィットは広い。ホイールベースはヤリスが20mm長いにも関わらずこんな感覚を持つのは、全長が55mmも短く、リアまわりが切り詰められている感覚があるからだろう。

 切り詰めたといえば、車両重量についても同様のことが言える。車検証上の数値で比較すれば、ヤリス1100kgに対し、フィットは1200kg。オプションの有無なども関係するので、共にこのグレードですべてがそうではないが、いずれにしても約100kgもヤリスは軽量だ。クルマをコンパクトに仕立てた上で、エンジンは4気筒を選択せず、あえて3気筒としたことでフロントまわりを軽く仕立てたことが相当に効いているようだ。

ヤリス「HYBRID Z」(229万5000円)とフィット「e:HEV NESS」(222万7500円)の3面図。ヤリス HYBRID Zのボディサイズは3940×1695×1500mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2550mm。フィット e:HEV NESSのボディサイズは3995×1695×1540mm。ホイールベースは2530mm
ヤリス HYBRID Zはオプションの16インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:185/55R16)
フィット e:HEV NESSは16インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:185/55R16)
ヤリス HYBRID Zは直列3気筒1.5リッター「M15A-FXE」型エンジン(最高出力67kW[91PS]/5500rpm、最大トルク120Nm[12.2kgfm]/3800-4800rpm)にモーターの組み合わせ
フィット e:HEV NESSが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター「LEB」型エンジンは最高出力72kW(98PS)/5600-6400rpm、最大トルク127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpmを発生。新開発モーターの「H5」型を組み合わせる
ヤリス HYBRID Zのインテリア
フィット e:HEV NESSのインテリア
それぞれ後席に座ってみた。ヤリス(上)は狭く、フィット(下)は広い印象

キビキビと爽快な走りを求めるならヤリス、ユッタリとノンビリ快適に走るならフィット

 その甲斐あってヤリスの走りはかなり爽快だ。街中では静かにスムーズに走り出す一方で、高速道路の合流加速などで深くアクセルを踏み込めば、かなり強烈なダッシュをキメてくれる。トヨタのBセグメントとしては初のリチウムイオンバッテリーを採用し、充電能力を2倍に引き上げたことで、常に59kW/141Nmのモーター出力を得られるところは好感触。3気筒ならではのギュイーンとした回転フィールは慣れるまでチープに感じる部分もあるが、それほど回さない状況なら気にならない。

 ガソリンモデルと比べると100kgほど重くGT的に感じる部分もあるが、ワインディングでは一体感溢れる走りが得られていた。特にフロントまわりが軽く、荒れた路面でも収束が早くバウンスが最小限に抑えられていたことは嬉しい。軽さと程よく引き締められた足まわり、そして高剛性ボディと無駄なイナーシャがないところが心地よい走り味に繋がっているのだと感じる。軽く仕立てながらもきちんとインフォメーションを伝えてくるステアリングもマルだ。

 フィットは同じワインディングシーンでは若干苦手なところがある。それは重量に起因する部分だ。荒れた路面では特にフロントの収まりがわるい。重さがあることに加え、乗り心地重視に仕立てられている足まわりということもあり、バウンスが収まりにくい傾向で、ワインディングロードでスポーティという感覚は薄い。2モータードライブのe:HEVはかなり力強く、ステップ変速で爽快に吹け上がるだけに惜しい。スポーツモデルを追加してもよさそうだ。だが、いま狙うはそれよりも街中や高速道路での快適性に振ったということだろう。

 4気筒で滑らかな回転フィールがあり、静粛性や振動に対してもヤリスに比べて有利に感じる部分も多い。心地よさにこだわったというのは、この辺りに表れているのかもしれない。ヤリスは燃費を重視したせいか、高速巡行ではやたらと低回転を使いたがり、フロアなどに振動が伝わるところが気になった。

 細かなところでいえば、フィットのTFT液晶メーターは周囲からの映り込みがなく、かなり見やすいと感じた。ヤリスは両側の丸形メーターに自分の顔が映り込む状況が続いたところが厄介だ。イケメンで自分大好きなら嬉しいだろうが、間もなくアラフィフのオッサン顔を見せつけられてもね(笑)。

 加えて、ヤリスにも電子制御パーキングブレーキがほしいと思えてくる。信号待ちの度にハンドブレーキを引くのは、フィットのホールド機構に慣れ切った身体には正直応える。対するフィットはステアリングが若干重く感じられるところが気になる。ドッシリとしていて頼りがいのあるようにも感じなくはないが、女性だったらもっと軽いものを求めるかもしれない。レーンキープアシストの正確性はヤリスよりも遥かに上だった。このように、一長一短あるヤリスとフィット。キビキビと爽快な走りを求めるならヤリス、ユッタリとノンビリ快適に走るならフィットといったところか!?

 最後に箱根からの帰路で燃費計測を行なってみたが、ヤリスは32.6km/L、フィットは25.7km/L。ちなみにヤリスのガソリンモデルは26.5km/Lを記録していた。ヤリスの好燃費に驚かされるばかり。フィットはもう数値で競うつもりがないのかもしれない。それよりも、やはり走りの心地よさなのだろう。

 試乗を終えた後にヤリスの開発陣とお話する機会があったのだが、そこでフィットをどう見ているかを問うと、「直接のライバルではない」との答えが返ってきた。かなり含みを持った言い方だったが、想像するにおそらくそれは次期「アクア」がフィットを迎え撃つということなのだろう。次の策があるからこそ、燃費や走りに目一杯振ることができた、それがいまのヤリスなのかもしれない。似て非なるもの、それがヤリスとフィットだということを身に染みて感じた1日だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学